4章 西の都市編 1話 鐘の知らせ
西の都市ニシバルに無事たどり着いた俺達・・・・。
「・・とりあえず、宿の確保が先だな」
馬車を都市指定の専用預け組合所に預けてから、宿屋リメインへと向かうことにした。
宿屋リメインに入ると受付のモーナが座り下を向いて何か作業をしているところだった。
「あの〜今日、8人泊まれますか?」
受付の近くに寄るとモーナは帳簿に何かを書いているようで、下を向いたまま対応する。
「いらっしゃい。ちょっと手が離せなくてごめんなさいな。8人ならパーティー用の部屋でいいなら空いてるよ」
「それじゃーお願いします」
「金貨5枚するけど、いいのかい?・・ってあんた、ハルじゃない!」
「そうだよ。久しぶりだね・・ミオ!こっちにおいで」
宿屋の外で待っていたミオが、中に入ってきて俺の横に並び立つ。
「あら、ミオちゃんじゃない・・髪も伸びて綺麗になっちゃって。でも、8人の宿泊だったわよね?」
みんなを呼ぶと、リルを先頭にみんなが入ってきた。モーラは、俺以外が女性だと知るとニヤついた顔になり、夜は静かにねっと言ってくる始末だ。
俺は部屋のカギをリサに渡し、みんなを先に部屋へ行ってもらった後に、モーナに長く泊まれるか聞くと問題ないようなので、30日分の宿泊料金をまとめて支払い部屋に向かう。
2階に上がり廊下の奥にパーティー用の部屋があった。ドアをノックして俺だと告げると、ミオがドアを開けてくれた。
部屋に入ると、8人がいても十分な広さでベッドも人数分配置されていた。
そして驚いたことに、湯浴み用の小部屋が設置されたいた・・これは料金が高いわけだ。
先に部屋に入っているみんなは、思い思いのことをしている。
リルとクウコは部屋を走り回り、ベッドからベッドへジャンプして遊んでいる。
ドアを開けてくれたミオは、窓際でミリナと外を眺め尻尾を振っている。
安定のリサ達は、ソファで談笑をしてくつろいでいるようだ。
「今日は、長旅で疲れているから宿でゆっくりしよう。俺は、冒険者ギルドに行ってくるよ」
みんなは了承し、それぞれがやりたいことをやっている。
俺は部屋を出て下に降りるとモーナとすれ違い、冒険者ギルドに行くと伝えて宿屋を出て行く。
さっきまでは、冒険者ギルドへ直行のはずだったが、目的を変更し赤髪男の店に行くことにした。
「あの・・肉串をください」
「いらっしゃい。1本銅貨3枚だ・・ってハルじゃないかよ」
どうやら、赤髪のグリスは俺のことを覚えていてくれてたようだ。
「お久しぶりです。グリスさん!今日、ニシバルに着いたんですよ・・もちろん宿屋リメインに泊まりますよ」
「そうか!そうか!モーナは、俺に感謝しないとな・・」
グリスは笑顔になり、俺の肩をバシバシ叩いてくる。
「それで、相談がありまして・・・・」
「な・・なんだよ急に?」
「あの・・肉串をありったけ売って欲しいんですよ!うちに、グリスさんの肉串が大好物な子が4人いまして・・」
グリスは口を開けたまま驚いている。
「別にいいが、日持ちしないぞ?」
確かに肉串は日持ちしない。だが俺にはコレがあるから無限に保存でき、いつでも出来たてが食べれる。
「心配は要りませんよ、空間魔法がありますから」
「そーいや、そうだったな!わっはっはっはっはっ」
豪快に笑うグリスにつられて俺も笑ってしまった。
「とりあえず、いま作れる肉串を全部ください」
「・・・・本気か?」
俺は頷き金貨3枚を渡すと、手持ちの釣り銭が足りないと慌て出したため、また引き取りに来ると伝えた。
グリスは、汗だくになりながら肉串を焼いてくれている。その隣で野外イスに座り出来上がった肉串をアイテムボックスに収納していく。
今日の在庫分を一気に焼いたグリスは、火を止めるとその場で倒れこんでしまった。
「グリスさん、ありがとう。残りはまたお願いしますね」
「・・こ、悪魔め・・また来いよ、もう腕があがんねぇ・・」
倒れこんだままのグリスと握手を交わし、別れた後は裏道を通って冒険者ギルドへと向かっていると奴隷商の前で立ち止まり、奴隷商の看板を見ながらミオと再会した時のことを思い出してしまった。
キィィ
奴隷商のドアが開き、白髪の老人が出てきて目が合う。
「・・これは、ハル様ではありませんか。お久しぶりでございます」
「モンスさん、お久しぶりです」
モンスは相変わらず、身だしなみが整っている老人だ。
「あれから、あの子はお役に立てていますか?」
俺は頭を掻きながら、ミオとあれからの出来事を話してしまうと、モンスの顔が険しくなる。
「ハル様・・それは少々よろしくない状況です」
「どういう意味ですか?」
「端的に申しますと、隷属が強制的に解除され貴族の奴隷となりその貴族が死亡した場合、その奴隷は王国に属することになります。
「不法に俺から奪っても?」
「はい・・基本的に王国の法は王族や貴族の都合の良いように制定されてますので。まずは、本人のステータスにある隷属を確認してください」
モンスが不意に周囲を確認して、小声で告げてきた。
「明日にでも彼女をここに連れて来てください。こちらで、できるだけ処置をしましょう」
そう聞いて、俺は用事を早く済ませるためモンスと別れて冒険者ギルドへ向かいギルドに入ると、それなりに賑わっている印象を受けた。
依頼掲示板を眺めると、北の地下ダンジョンへの臨時パーティー編成依頼やドロップアイテムの買取りとかの依頼票が多かった。
もちろん、王都のギルドにあるような依頼も掲示されている。
とりあえず、暇そうな受付嬢の窓口に行き情報収集することに決めた。
「あの・・北の地下ダンジョンについて教えて欲しいのですが?」
「・・・・」
「あの、地下ダンジョ・・」
バン!
窓口のカウンターに紙切れが乱暴に置かれた。
「ふん・・」
受付嬢が不満な顔で俺をみて、カウンターに置かれた紙に指を指している。
「・・・・どうも」
俺は紙を取って窓口から離れて近くの椅子に座り紙に書かれたのを読む。
どうやら、1回の利用に人数関わらず1枚必要らしい。そして、ダンジョン内で死んでも知らないと。
でも、魔物からのドロップ品は高値で取引きされるようだ。そして、地下10層まで探索したと報告があったみたいだ。
「これは、行くしかないな・・」
俺はギルドを出て、来た道を戻り宿屋リメインに帰った。そして、部屋のドアを開け中に入ると静まり返っていて、みんなはベッドで昼寝中だった。
「ただい・・ま。みんな寝てるのかな?」
音を立てないようにソファに座り、みんなが起きるのを待つことにした。
すると、ミオが上半身を起こし俺と目が合うとピコピコっとネコ耳が動き、ベッドから降りて来て隣に座ってくる。
「ご主人さま、おかえりなさい」
「ただいま、ミオ。あのさ、ステータス見せてくれない?」
「ステータスですか?」
突然のことにミオが不思議そうな顔をして俺を見てから口を開く。
「良いですよ。わたしはご主人さまの奴隷ですから・・ステータス」
ミオはステータスを表示し、俺に見えやすいようにしてくれたため、一気に一番下の欄を見るとそこには予想外のことが書いてあった。
隷属・・イノストール(略奪強制奴隷)
「こ・・これは、やはりそうか・・」
「ご主人さま・・」
ミオの表情が一気に苦しそうな顔になり、呼吸が速くなっていくのがわかる。
「ミオ・・・・」
すると、ミオは深呼吸をして俺を見つめる。
「・・あの日、あのギルドマスターからご主人さまを見つけたと聞かされて、嬉しさのあまり何も疑わずついて行ったのです」
「そしたら、あの屋敷に?」
「・・はい。誰の屋敷とも知らず、中に入ると突然拘束されて意識を失ってしまったのです」
俺は、涙目になるミオをただ見つめていることしかできなくなってしまう。
「そ・・それで、目が覚めた時には、あの男達が目の前で立っていたのです」
ミオの大きな瞳から涙が溢れてくる。きっと、その時の辛い思いを思い出しているのだろう。
「手足を拘束され、抵抗できないわたしは・・・・」
「ミオ、もう言わなくて良いよ・・」
ミオが俺に抱きついて来てでも静かに泣いている。部屋で寝ている皆に気を使っているのだろう。
「ご主人さま・・申し訳ございません。あのとき・・あの男が・・ご主人さまの、大好きなご主人さまの温もりじゃなかったのです・・」
ミオの両手が力一杯俺の肩を握り震えている。こんな状況にミオを陥れたのは、こんなに弱い俺の責任だ。
「俺は、ミオを愛してる。今も、そしてこの先もずっと・・」
ミオの手から力が抜けて、顔を上げて見つめて口を開いた。
「ミオも・・ご主人さまを愛しています。あの夜に・・初めてをご主人さまに捧げられていて幸せです。これからは、ご主人さまの色に染めてください」
ギュッとミオを抱きしめて、互いの存在を確かめう。しばらくして落ち着いたのか、ソファでミオは寝てしまった。
寝てしまったミオを見て、ゆっくりと立ち上がり窓から外を眺めていると、リルとクウコが起きてきた。
「ハル・・」
「リル、おはよ。起きちゃったんだね」
「うん。ハルの心が不安定になったから」
リルは窓際に座り、俺を見上げている。
「そうかな?」
「そうだよ、かなり怒ってた」
クウコが後ろから抱きつき、左側から顔を出して見上げている。
「・・・・また気づかれちゃったね」
クンクン・・クンクン
「なんか良い匂いがする〜」
クウコが、俺のお腹周りの匂いを嗅いでいる。肉串がバレたかな?
クンクン・・クンクン・・
今度は、リルが俺の胸元に顔を埋めて匂いを嗅いでくる。
「ハル、この匂いは・・?」
「ん〜知りたい?」
「「知りたい!!」」
仕方なく、アイテムボックスからグリスの店で買った肉串を2本出して、2人に渡すと勢いよく食べて、一瞬で完食した。
「どうだった?」
2人は満面の笑みで頷き、串を噛んで吸っている。どうやら気に入ってくれたようだ。
そうこうしているうちに、みんなが起きてきた頃には陽が沈みはじめていた。
「さて、みんなが起きたことだし夕飯食べに食堂へ行こうか」
俺は、部屋のドアを開けて1階に行こうとしたときだった・・。
カーン!カーン!・・カーン!カーン!カーン!・・カーン!カーン!
街の外で力強く叩く鐘の音が、一定のリズムで繰り返し鳴り響く・・・・。
「なんだ?この鐘の音は?」
初めて聞く鐘の音の意味がわからない・・。すると、リサとカラが青い顔をして俺に走り寄って来た。
「どうしたんだ?リサ・・カラ?」
リサが不安な顔を上げ、震える口で告げる・・
「この鐘は、緊急事態の知らせよ・・ギルド職員の時に先輩から聞いたことがあるわ・・」
「リサ、緊急事態って?」
俺の側にいるカラも、不安そうな顔で教えてくれた。
「この鐘は、都市の防衛戦力を超えるほどの数の魔物が押し寄せている知らせなの・・・・」




