3章 王城編 10話 南の森
獣人を担ぎ日の出とともに王都南門が開門されるタイミングに合わせ、公爵家の敷地を出た。
もちろん、周囲にバレないよう隠密スキルを発動させて。
誰もいない貴族街を抜けて平民街の大通りを足早に移動し南門を目指す。
俺たち平民街の朝が早いため、ちらほらと人がいる。
スキルの影響で周囲から俺は視認されないため、全て自ら回避しないと衝突する危険がつきまとうけど。
「・・戦闘時は便利なスキルだけど、こういう時に使うと不便だな」
順調に大通りを歩く人達の流れを予期し回避しながら南門に辿り着き、門兵の隙をついて外の出て南の森へ疾走する。
リルとクウコを長く抱き抱え歩いていた成果なのか、獣人1人を担いで走っても苦にならない。
早朝の南の森へと続く道には、冒険者の姿は数パーティーほどだったため気兼ねなく進むことができ、問題なく南の森に入ることができた。
冒険者達が魔物討伐でこの森に来る前に手早く処理を済ませたかった俺は、気配探知スキルを発動し魔物を探す。
「・・おぇ・・なかなか慣れないな、この感覚は」
頭の中に入ってくる情報が多すぎて思考が追いつかない俺は、探知した生物を正確に認識するまで時間を要してしまう。
不要な範囲を排除し、南の森に存在する魔物だけに絞り把握していくと近場に10頭のウォーウルフの群れを見つけた。
どうやら子連れの群れのようで、餌に食いつくと思いウォーウルフの群れに決めた。
「森の処理屋と呼ばれているし、ウォーウルフに決定だな」
ウォーウルフの群れまで風下から近付き視認できる場所で立ち止まる俺は、ゆっくりと獣人を地面に寝かすと胸の辺りがゆっくりと上下しているため生きていたようだ。
「君には恨みは無いんだけど、ゴメンな・・」
獣人を置いて離れ様子を見る。隠密スキルのおかげで茂みに隠れる必要はない。
俺は、アイテムボックスから肉串を4本出して誘き寄せる準備をする。
「リル・・クウコごめん。また買ってやるからな」
2人の大好物である肉串を使わせてもらうことにした、1本目を投げようとしたら群れから少し離れた子供のウォーフルフ1頭が茂みから見え隠れしたため、その近くに投げ込む。
その手前に2本目・・3本目・・4本目を獣人族とウォーウルフの間に置くと、思惑通り子供ウォーウルフが近づいてくる。
ガゥ!!
子供ウォーウルフが横たわる獣人を見つけ勢いよく近付き飛びかかり、獣人の頭に被せている麻袋に噛み付いてグリグリ振り回したり引っ張ったりしている。
グルルルル!!
俺が数歩だけ離れた位置で見ていることに一切気づかない子供ウォーウルフは、必死に麻袋を咥え振り回し獣人をぐるぐる周り引き摺っていると、スポッっと麻袋が獣人の頭から抜けてしまい後ろに転がってしまう。
その時、金属が引きちぎれる音が一瞬聞こえ、朝日にキラッと反射したところが見えた。
ゴンッ!!
麻袋が抜けた拍子に獣人の後頭部が地面に強く叩きつけられ、その素顔が顕になり俺は絶句した。
「・・・・・・」
獣人は虚ろな目のまま、俺を見ている。
「・・・・・・」
「クソッタレが・・!」
頭より体が先に反応し、風魔法ウィンドカッターを瞬時に放つ。
ズシャッ・・ボト・・
目の前で転んでいた、子供ウォーウルフの首に叩き込み瞬殺する。
今・・俺の目の前で横たわっているのは・・・・。
オッドアイの猫人族の少女・・・・。
黒髪で右目が緑色、左目が碧色の・・・・。
「ミ・・ミオ・・ミオ!」
俺はすぐさま彼女を抱き抱え、ヒールをかける。
「ぁ・・ぁぅ・・あぅ・・あう・・あうぅ」
この森で出会い別れ、西の都市で再開し共に暮らし突如奪われた黒髪の猫人族の少女。
そして、影も形も消えた俺の家の前で会った君にそっくりな猫人族の少女は、俺の事を一切憶えてない君だった。
衰弱しきっているため、意識が混濁している様子のためゆっくりと抱き抱え立ち上がる。
周囲にいたウォーウルフの群れは、いなくなった子供を探しているようだが、隠密スキルを発動し俺に抱かれているミオには気付かない。
この場から離れようとしたとき、足元に何かが落ちていた。
しゃがんで確かめると、破断したチェーンのようで拾い上げると先端に赤黒い宝石が一粒ついたネックレスだった。
「コレ・・アイナも似たようなの身につけてたよな・・・・」
とりあえず、見つけたネックレスをアイテムボックスに収納し、この場から離れ森を抜け街道へ出たところで隠密スキルを解除し、抱き抱えていたミオを背中に背負い南の森から離れて行く。
「ここまで離れれば、襲撃の心配もないかな」
街道を歩いていた俺は街道を外れて人目のつきにくい場所を見つけ、猫人族のミオをおろし寝かせ、アイテムボックスから出した毛布をかけてやる。
「ぅぅ・・・・」
辛そうな顔をする猫人族のミオのそばで様子を見ていた俺は、呼び掛けて起こそうと試みる。
「ミオ・・俺だよ、ハルだよ!わかるかな?」
「ぅ゛ぅ゛・・・・」
何度か呼んでみたが目覚める気配は無い。ヒールをかけたから体力は回復しているハズだ・・ならばコレしかない。
俺は、獣人の本能に問い掛けるしか確かめる手段は無い・・リル、クウコすまない。
「・・ミオ。コレ好きだったろ?」
アイテムボックスから肉串を取り出し鼻先に近づけて待つ・・。
パクッ・・・・
モグモグモグ・・パクッ!
「はやっ!」
目は瞑っているのに肉串を器用に食らいつく様子に、この子の強い生命力を感じる俺がいる。
「やっぱ、この食べ方はミオだな・・リルとクウコとは違う」
肉串を1本食べ終わると、パチッ!と目が開き俺を凝視する。
「・・・・」
「おきた?のかい・・ミ・・」
「ご主人さま!!」
突然抱きついて、首回りに腕を回すミオに対応が遅れ地面に押し倒されてしまって、そのまま顔中に頬ずりをかまされた俺の顔は、肉串のタレでベタベタにされてしまった。
「お・・おい!おちついて、おちついてくれ」
俺の体に自信の匂いをマーキングするがごとく密着して擦り付けてくる。
今のミオは痩せ細っているため、あの頃と違い骨が当たって痛い。
「ご主人さま、ご主人さま!」
離れ離れになっていた期間を一気に取り戻すかのように甘えてくるミオを、あやすことしかできなかった。
しばらくして、ミオは安心したのか俺に抱きついたまま寝てしまった。
陽の高さを見てきっと昼を過ぎた頃だろうと思い起きるまで寝かせることにした。
することがない俺は、何も考えず空を眺めていたら、一つ気になっていた事を思い出した。
「そーいえば、あのネックレス・・」
アイテムボックスから、ミオの体から落ちてきたネックレスを取り出し眺める。
「やっぱ、アイナが身につけていたやつに似ているよな〜。久しぶりに鑑定スキル使ってみるか」
ネックレスに対して鑑定スキルを発動すると、情報が浮かび上がってくる。
鑑定結果
催眠のネックレス・・術者の意思で着用者の記憶を消したり記憶させたりできるとともに、行動を命令でき洗脳が可能である。また、着用者の自らの意思で外す行為や第三者が外そうとすると無意識に着用者自らがこれを阻止する。しかし、外された場合は、直ちに効果は切れ消された記憶は戻る。
「なんてアブナイ代物なんだ。これじゃ、もう洗脳じゃん」
俺はネックレスをアイテムボックスにしまい取り出さないように決め、なかなか起きないミオのネコ耳を指先でツンツン触る度にピコッピコッと反応し動くのが可愛く楽しくなって続けていると、ガブッ!と噛まれてしまう。
最初の一瞬は強めに噛まれたが、すぐに甘噛みに変わりペロペロ舐め、ゆっくりと目が開き俺を見上げてくる。
「ご主人さま・・」
「ミオ・・・・」
名前を互いに呼び抱き締めあって、お互いの存在を確認した・・。
「そうだ、ミオ念のためコレ飲んで」
「はい・・あの、リサさんとカラさんとは違う匂いがします」
体力回復ポーションの瓶を受け取るミオは、俺の胸元をクンクン嗅いでくる。
「あぁ、仲間・・というか、妹のような子が2人ともう1人いるんだよ。ミオからしたら妹だな」
「いもうと?わたしにですか?」
いまいち理解できてないようなため、王都に帰ってから紹介すると話し立ち上がる。
「そろそろ王都に戻ろう」
「はい、ご主人さま」
このままだと、イノストール公爵の関係者に見つかると思いアイテムボックスからフード付きの平民服に着替えさせてから出発した。
歩きながらミオにギルドカードを持っているか聞くと、いつの間にか失くしてしまったと答えたため王都に入ったら冒険者ギルドに寄ることにした。
「今の冒険者ギルドマスターは変わっているから大丈夫だよ」
ミオの頭をポンポンと軽く叩き安心させる。しばらく歩き南門が遠くに見えてきた場所からは、隠密スキルを発動し門兵に見つかることなく王都に入ることができた。
そのまま大通りを進み、冒険者ギルドの近くの裏道で隠密スキルを解除しギルドに入り受付にいるアメリアの元へ向かう。
「アメリア・・ちょっといいか?」
「ハル、おかえりって・・その子は?」
俺の背後にフードで顔を見えにくくさせているミオを怪しげな視線で見ているアメリアだった。
「彼女は、猫人族のミオっていうんだ。ギルドカードの再発行を頼みたい」
「え?再発行を?ちょっと待ってて・・」
アメリアは事務所の奥に入り、しばらくして魔法具を持ってきた。
「アメリア・・それは?」
受付窓口のテーブルに置いた魔法具が何か聞いてみる。
「これが、ここのギルドの再発行用の魔法具よ」
再発行手数料に金貨1枚をアメリアに支払う。
「手順は登録と同じだからここに手を置いて魔力を流してね」
ミオがソッと右手を置くと魔法具が輝き出したあと、ゆっくりと元の状態に戻っていく。
「はい・・新たなギルドカードよ。確認してちょうだい」
魔法具の下からギルドカードを取り出したアメリアがミオに手渡し、ミオが内容を確認し大事そうに胸元にしまう。
「アメリア、ありがとうな」
「いいよ。これが仕事だからね」
アメリアに手を振ってギルドを出る。南の森から帰ってきてから時間が経ってしまったため、もう空は暗くなってきている。
「今夜はどうするのですか?」
「・・とりあえず、今の生活拠点へ戻ろう。また隠密スキルで行くよ」
「はい・・ご主人さま」
ミオの手を取り歩き出し、大通りの裏道に入ってから隠密スキルを発動し貴族街へ向かう。
イノストール公爵の警備は普段通りで、守衛が門から出て巡回に行くタイミングで敷地に侵入する。
屋敷に侵入した俺とミオは、屋敷横の狭い道を通り裏庭へ出たところで抱き止められた。
「うぉっと」
「「おかえり!!」」
俺を抱きとめたのは、リルとクウコだった。
「た・・ただいま。リル、クウコ」
隠密スキルを解除し、しゃがんで2人を抱き締める。
2人に視線はいつもの俺ではなく、後ろにいるミオを見ていたのだった。
「この子が、ミオ?」
ジッと見上げ、リルが聞いてくる。
「そうだよ。猫人族のミオだよ」
リルとクウコが俺から離れ、ミオの体をクンクン匂っているとクウコが口を開く。
「・・あっ!ハルが使っている毛布から感じる匂いとおんなじ匂い!」
クウコが以前、毛布に染み付いていたミオの匂いを憶えていて欲しいと伝えた事を思い出したようだ。
「え?・・えっ?」
ミオは少し混乱しているようで、リルとクウコのペースについていけず戸惑っている。
「とりあえず、みんながいるテントの中で話そう」
そういって俺たちは、リサ達が待つテントへ向かっていくことにした。
王城編も前半から後半へ。次回から新たにハル達が動き出します。そして、召喚者達や王国騎士とどうなっていくのか。まだまだ魔王討伐の冒険は先になりそうです。王国に不穏な情報が入ってなさそうですし。そして、運命に抗うハルには、出会いと別れは必然です。




