3章 王城編 9話 3人と獣人
・・・・誰かに呼ばれているような感じがする・・気のせいかな?
・・・・目が覚めたから目を開けると、真っ白な空間の中にいる。上も下もわからない。
・・・・体を起こそうとしても動かない。意識だけが自由だ・・。
・・・・なんだかフアフア浮いているような感覚に包まれている気がして気持ちがいい・・。
・・・・あっまた俺を呼ぶような声が遠くで聞こえる。誰なんだろうな。
・・・・こんな場所で知り合いなんかいないし、もうちょっとだけ寝ようかな・・。
・・・・突然、頭の中に声が響く。
「・・ハル・・ハル・・・おきて」
・・・・誰だろう、俺を呼ぶのは・・この声を聞いていると、だんだん意識が遠くなっていき目を閉じる。
意識だけ覚醒し、暗闇の中で全身を大きく揺らされている感じがしばらく続いていると、遠くの方に小さな光が見えて近づいてくると、だんだん大きくなってくる。
そして、真っ白な光に包まれた俺は、眩しさの余り両手で目を覆い隠しても眩し過ぎる光に包まれたと思っていたらスッと光が収まっていくのがわかり、ゆっくりと目を開けた。
・・目の前にリサとカラが目を腫らし、泣き顔で覗き込んでいる。
「・・あれ?・・俺も死んだのかな?」
「「バカ!!無茶しないでよ」」
リサとカラが同時に抱きついて泣いている。
あぁ、2人とも良い香りだ・・このままずっと包まれていたい気分に浸る。
「どうやったら、こんな事になるんだい・・」
抱きついているリサとカラの背後から若い女性の声がした。
「ん?・・ルーシー?」
「そうだよ!わたしだよ、なんか肌が若返ってるんだけど・・ハルの仕業かい?」
そんなルーシーを見ると、半分ぐらいの年齢分ほど若返ったようで、20歳代前半の女性が腕組みをして俺を見ている。
「たぶんね・・」
「そろそろ部屋を出ないかい?血生臭くてたまらないよ」
「そうだな・・リサ、カラ立つの手伝ってくれる?」
2人は頷いて、両脇から俺を支えて立たせてくれた。まだ全身に倦怠感が残ってはいるが歩けない程ではない。
そのままゆっくりと部屋を出て、1階の店舗スペースに移動し椅子に座って落ち着いた頃に思い出したかのようにアイテムボックスから体力回復ポーションと魔力回復ポーションをガブ飲みした。
「うぷっ・・飲みすぎた・・」
「「もう、ハルったら」」
両隣に座っているリサとカラが寄り添ってくる。
「それで・・なんで騎士に狙われたんだ?」
「「「・・・・・・」」」
3人が俯き黙ってしまう。少しして、ルーシーが口を開く。
「・・突然、王国騎士が入ってきて、急に騎士団長の勅命により・・そのあとの記憶は一切無いんだよ・・」
「そうなんだ・・2人も?」
リサとカラは頷く。
「そうか・・そうだ、冬支度のために冬用の装備を買いに来たんだった」
「だったら好きなの全部持っていきな。金はいらないよ」
「えっ?金は払うよ」
「いいよ、もうこの店は閉めるから・・ハルの側に居た方が安全だ」
ルーシーが、サラッと爆弾発言をしている。見た目は、リサやカラよりちょっと年上のお姉さんに見えるから気にしないでいよう。
「わかったよ。とりあえず店の物を全部預かるから」
陳列されている商品を手当たり次第アイテムボックスに収納したけど、まだまだ余裕で入る気がする。これじゃ。冒険者を引退して行商人で生きていけるな。
「あんた、どんだけ入るのよ?」
ルーシーが後ろで驚愕の顔をしている。
「ん?まだまだ入るよ!裏の在庫品も収納するから」
俺は、そのまま裏の倉庫へ移動し全ての在庫品をアイテムボックスに収納し店舗に戻る。
「ルーシー?もう商品は無いかな?」
ルーシーに聞いてみるが反応がない。
「おーい?」
ルーシーは、リサとカラに揺さぶられ意識を取り戻しこれ以上の品物は無いと教えてくれた。
「じつは、今晩依頼があるんだ。それで、一緒に拠点に来てくれないかな?」
3人が頷き了承してくれた。必要な物は途中の商店で買うことにしてルーシーの店を出て大通りを歩き貴族街へ向かう。
途中の商店で買ったフード付きの服を羽織らせて、イノストール公爵の屋敷に近づく。この時間帯の守衛は、きっとあのおっさんだ。
屋敷の門の前に着くと、詰所にいるあのおっちゃんと目が合った俺は、金貨1枚を投げ渡すと、ニヤついた顔で門を開けてその場から少しいなくなる。
その時間に俺は、リサ達を屋敷の中へ迎え入れ裏庭へ続いている屋敷横の道を通り裏庭へ抜けて、そのままテントへ近づく。
「ただいま〜」
テントの外から声を掛けると、リルとクウコが勢いよく飛び出し俺に飛び込んで来る。2人は見た目は美少女だがステータスの差があり過ぎて、受け入れる俺は今回も後方へ飛ばされる。
うわっと・・。
「「おかえりー!!お腹すいたー!!」」
「わかった、わかった・・今から支度するから待っててな」
リルとクウコは、俺がいなかったから昼飯を食べてない。
「その前にリル、クウコ。新しく一緒に生活する3人の、リサとカラとルーシーだ」
「「「よろしくね」」」
「「は〜い!」」
簡単な紹介を済ませたところで、俺は立ち上がりテント前に人数分のイスを置き夕食を作り始める。
「そういえば、ミリナは?」
バサッとタイミング良くテントからミリナが顔を出してくる。
「あ〜初めましてですね」
「ミリナ、紹介するよ。リサとカラとルーシーだ」
ミリナはテントから出てきて、一礼する。
「猫人族のミリナです」
「「「よろしくね」」」
全員の自己紹介が終わり、皆がイスに座る。今晩の夕食は、ちょっと豪華に作る事にして、リルとクウコとミリナには肉串を使った肉料理をメインに。リサ達には、肉料理プラス野菜料理を付け加えてやる。
総勢7人での夕食となり、食材の量もそれなりだ。相変わらずリルとクウコは口の周りを汚しながら食べるため、世話をする俺は食事どころじゃない。その分、リサたちは静かに食べてくれている。
それぞれが食べ終わると、テントへ戻って行くがリサとカラが後片付けを手伝ってくれたおかげで早く終わり、そのままの勢いで、もう一つのテントを設営しテント同士を繋げた。
2つ分のテントを一つにしたから、中はとても広い。6割ぐらいは寝床にして残りのスペースに簡易テーブルとイスを置いた。
その頃には、空も暗くなり依頼の時間も不規則なためまだ起きて騒いでるみんなより早く寝床に入り眠りについた。
「ハル・・起きて。あのメイドが来る頃だよ」
「・・ん・・ありがと、リル」
あっと言う間に起きる時間に待ったようで、リルが気を利かせて起こしてくれた。だが、裸のリルが俺に跨っている。ゆっくりと上半身を起こし、ソッとリルの頬にキスをしてから立ち上がると入れ違うようにリルが俺の毛布の中に潜り込んで行く。
俺は、音をなるべく出さないように支度を済ませて、テントから出ると・・。
「お待ちしておりました。こちらです」
相変わらず、必要最小限の会話しかしないメイド長だ。夜の屋敷は最低限の明るさしか確保していないため、むやみに走れない。
そのまま、メイド長の後ろを歩き階段脇の隠し扉の位置へと案内された。
「この先から私は、同行いたしません」
「・・わかったよ。ありがとう」
メイド長が開けた扉から中に入り、地下へと続く階段をゆっくり下りて行く・・・・。
地下へと続く階段を下りて下に行くほど、ヒンヤリとした空気を頬で感じながらゆっくり歩いていると奥からすすり泣く声が微かに聞こえてくる。
俺は微光を放つ魔法ランプを4つ通り過ぎたところで、頑丈な鉄格子が視界に入った。鉄格子の近くまで寄ると鼻を突く腐敗臭に襲われてしまい顔を背ける。
不快な臭いに耐えながら、鉄格子の奥を目を凝らして見ると奥に背中を向けて座っている獣人がいた。俺は、事前に預かっていたカギで鉄格子の扉の鍵の解除をして小さな扉を開けた瞬間・・。
バチン!!
ドサッ!
何かが弾けるような音が響き渡ったと同時に、目の前の獣人が倒れる。
「・・あれ?・・もしかして死んじゃった?」
倒れて動かない獣人の側に寄ると、頭からスッポリと麻袋を被せられ、両腕を縛られている。とりあえず臭いがキツイため生活魔法クリーンで臭いを消してやる。
「さてと・・あんたに恨みは無いけど、貴族様の依頼だから森で処分させてもらうよ。ごめんな」
俺は、倒れて動かない獣人の腰を持ち一気に担ぎ上げる。
「うわっ!・・めっちゃ軽いじゃんコイツ!」
獣人を担いだ俺は、来た道を戻り階段を上がり屋敷のホールまで出る。
「お疲れ様です。隠密に計画通りにお願いします」
「・・わかりました。森の適当な場所で処理します」
メイド長は、一言会話を交わしたのち、足早に去って行く。俺は裏口から裏庭へ出て抱えた獣人をテント横まで運び横にさせて、暴れられないよう両足をロープで縛っていると背後から声をかけられた。
「ハル・・その人どうしたの?」
テント横で獣人の足を縛っていたら、ミリナがテントから顔を出していた。
「ミリナ、起きてたのか?この人は・・ちょっとな」
猫人族のミリナに、流石に獣人を処分しに森へ行くとは言えないため誤魔化す。
「・・そうなんだね。どこかへ連れて行っちゃうの?」
テントから顔だけ出していたミリナが、俺の側まで寄り添ってきて俺を見上げている。
「あぁ、ちょっと遠いところまで送るんだ」
ミリナがジッと俺を見つめる瞳が胸を締め付ける。このままだと、依頼が達成できなくなると思い口を開いた。
「ミリナ・・もう行かないと・・・・」
耐えきれなくなった俺は、獣人を担ごうとしゃがんだ時にミリナが体を隙間に入れ込んで制止する。
「ちょっと待って、ハル。お願い」
「ミリナ・・ちょっとだけだよ」
「ありがと・・ハル」
ミリナが俺の頬に頬ずりして、離れ哀しそうな笑顔の表情を俺に見せて横たわる獣人に向くと両手を地面についてお尻を少し上げ、麻袋の匂いを嗅いでいる。ミリナの茶色の長い尻尾が俺の頬に優しく触れてくる。
横たわる獣人の麻袋を嗅ぐ仕草をやめたミリナは、獣人の頭辺りの部分に鼻を軽くこするような仕草をして、小さく短い声を発した。
「・・にゃっ」
スッと立ち上がったミリナは、横たわる獣人に一礼して振り返ることなくテントへ戻って行く姿を、俺はただ見守ることしかできないでいる。
「さて・・気が進まないけど行くかな」




