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3章 王城編 8話 リサとカラ


 ふと意識が覚醒していくと全身が動かない。両手ならいつものことだ・・・。なぜだ?思いつく理由が浮かばない。ゆっくりと目を開けると黒い物が視界を覆っている。


「な・・なんだこれ?」


 左右にはいつものようにリルとクウコが小さな寝息を立てて寝ている。俺の体に乗っているのが誰かわからない。体を左右に動かしてみると、黒い物体がモゾモゾと回転しながら動き始めた。


 すると、テントの外から足音が近付いてくる。その気配に気付いたのか、黒い物体が起き上がると視線が重なった。


「んにゃ?」


「ミ・・ミリナ?なんで俺の上に?」


「えへへ・・1人じゃ寒くて。温もりを求めたていたら、ハルさんの上が気持ち良くてそのまま寝ちゃいました」


「そ・・そうなんだ。やっぱ下着なのね君も」


「んふ。だって服着て寝ると気持ち悪いですもん。そういえば、誰か来てましたね」


 俺は頷き、毛布から出てテントの外へ出るといつものようにメイド長が待っていた。


「おはようございます。当主様がお呼びです。支度をしてください」


「・・わかりました」


 一度テントに戻り、リルとクウコを起こし無理やり着替えさせて、顔を吹いて支度を整える。ミリナは、自分でサッと済ませたようだ。


 4人でテントを出てメイド長の後ろをついて行き屋敷に入り、またあの部屋に入るが誰もいない。


「こちらに座ってお待ちください」


 ソファに座り、リルとクウコの髪をポニーテールやツインテールにしたりして時間を潰して、イノストール公爵が来るのを待つ。


 一通り2人の髪をイジって楽しんだ辺りで、ドアが開きイノストール公爵が入ってきた。


「ハル殿、なんだか久し振りだな。それで・・騎士団副団長に派手にやられたと聞いたが」


 イノストール公爵は、笑いながら話してくる。


「そ・・そうですね。副団長様には不意を突かれまして・・」


「王国随一の女騎士だから、ベテラン冒険者でも手強い相手みたいだな」


 1人納得するようなイノストール公爵に俺は苦笑いし用件を聞いた。


「あの、今日私を呼んだ理由は何でしょうか?」


「そうだったな。呼んだのは、また一つ依頼を頼みたい。その前に、こないだの報酬だ。受け取れ」


 テーブルに金貨2枚が置かれると、それをクウコが手に取る。


「お嬢ちゃん、金貨の価値がわかるのかい?」


 クウコは、2枚の金貨を嬉しそうに眺めている。


「・・キラキラ光るのが好きなの。クウコの髪みたい」


 そう言って満足したのか、俺に金貨を渡してくれた。


「それで・・依頼とは?」


「とある獣人族を処分してほしい」


「じゅ・・獣人族をですか?」


 イノストール公爵は無言で頷く。


「この屋敷の地下で飼っていたんだが、役に立たなくてな」


「それならば、貴族であるゆえ、奴隷商にでも売り払えば済むのでは?」


 獣人を処分しろと平然と言ってくるこの男をブン殴りたい感情を押さえつけて、話を続ける。


「普段はそうしている。だが、今回の奴隷は特殊だ。深くは聞かないでくれ」


 イノストール公爵は、ソファに背中を預けて溜息をつく。


「そうですか・・それで私にどうしろと?」


「夜明け前にここから連れ出して、早朝に王都から出して森で処分してくれ」



 奴隷を森で処分・・・・。死んでいるなら森で放置。生きているなら、人目のつかない森で殺し魔物・・。


「その役目を私にやれ・・と?」


 イノストール公爵は、ニヤつきながら頷く。


「・・・・わかりました。その依頼を引き受けましょう」


「そうか。それでは今夜にでも頼む。それまではゆっくりと過ごしてくれ」


 イノストール公爵が立ち上がり、部屋を出ると入れ替わりにメイド長が入ってきた。


「それでは、地下への入り口までを案内します。ついてきてください」


 メイド長の案内で部屋を出て、地下へつながる入り口まで移動する。1階ホールの階段脇にある隠し扉を入ると地下へ降りて行ける階段が存在するらしい。


 隠し扉の前で止まり、今は地下まで案内してくれないらしい。メイドは、くれぐれも地下では、備え付けられた魔法ランプ以外の灯りをともさぬようにと念を押してくる。


「それでは、夜明け前にお迎えにあがります」


 メイド長と一緒じゃないと屋敷に入れないのが不便だ。クウコの幻惑スキルを利用して試みようとしたが、屋敷内で1日働く人数が決まっていることを他のメイドから聞いたため諦めた。


 テントに戻った俺たちは、とりあえず朝食をとることにした。そして、今日の予定は夜明けまで空白だったが、とりあえずギルドに入って以来の更新手続きをしようと思いついた。


 それと、だんだん夜が冷えてくるようになってきたし、防寒着とかの寒さ用の装備を揃えたいと考えギルドの後にルーシーの店に寄ることにした。


「リル、クウコ、ミリナ〜。これからギルドとルーシーの店に行くけど一緒に行くか?」


「お昼までに帰ってくる?」


 リルが帰ってくる時間を聞いてくる。


「そうだね。3人がいるなら昼飯のことがあるから帰ってくるよ」


「それなら、今日はここにいるよ〜」


「いるよ〜」


 珍しく2人は留守番をするようだ。


「ミリナは?」


「リルとクウコがいるなら私もここにいるよ〜」


「オッケー!3人で仲良く留守番頼むな」


 久し振りの1人も悪くないな。3人に手を振ると、手を振り返し、3人はテントの中へ入っていくのを見送り、そのままイノストール公爵の敷地を出て冒険者ギルドへと向かった。


 早朝に比べて今のギルドにいる冒険者は疎らだ。受付も空いていて、今ならアメリアと雑談ができそうな雰囲気だ。


「アメリア・・ちょっといいかな?」


「ハル・・おはよ。1人なんて珍しいね」


「・・まあね」


 俺の側には必ずリルとクウコがいるから、1人でギルドに来るのが珍しいようだ。


「あの子たちは、今日は留守番なんだ。それでね、イノストール公爵が追加依頼を言ってきたから、依頼内容の更新に来たんだ」


「そうなんだ・・でも追加依頼は基本的に禁止なんだけど、公爵家相手だと通用しないわね」


 アメリアは、貴族の傲慢さが気にいらないような態度になっている。


「まぁ、依頼報酬さえ貰えれば文句は言わないよ」


「・・だけど」


 不服そうな顔をするアメリアを宥めて、また依頼完了したら来ると伝えてギルドを出た俺は、大通りを歩き通い慣れたルーシーの店に向かった。


 ルーシーの店に近付いたころ、異様な状況が起きていた。ルーシーの店の前で見慣れない男冒険者達に囲まれていた。


「カラ!・・どうしたの?」


「・・ハル!」


 少し離れた場所から声をかけると、カラが俺に気付き駆け寄ろうとした瞬間、1人冒険者に腕を掴まれて身動きが取れなくなってしまった。


「いたい!・・はなしてください・・ハル、助けて」


「おい!どこに行く気だ?まだ話は終わっちゃいない」


「嫌です!・・あなた達について行く理由はありません」


 揉め事のようで、カラが危ない状況だったから急いで彼女の元へ向かう。


「カラ、いったいどうしたの?」


「ガキには関係ない!」


 カラの腕を掴んでいる男が吠えてくる。


「とりあえず、彼女の腕をはなしてくれませんか?彼女痛がってますから」


「ガキのくせに、俺に指図すんじゃねー!」


 男が興奮し、カラの腕を持ち上げてしまい、片足立ち状態になってしまったカラが苦悶の表情になる。


「放せ!」


 男の間合いに入り、カラの腕を掴んでいる男の腕に打撃し。男が放した隙にカラを抱き抱えて距離を取る。


「ちっ・・クソガキがぁ!」


 冒険者達が腰に帯刀していた剣を抜刀し構えてくる。それに応じて、アイテムボックスから愛用の武器を取り出し構える。


「な・・アイテムボックス持ちか・・」


「・・だからどうした?」


 カラを庇うため、俺の背中に隠す。念の為、気配探知スキルを発動した瞬間、計り知れない範囲の種族と位置の情報が一気に脳内に飛び込んでくる。


「うぇ・・なんだコレ。性別や敵意までもか・・この感覚は、リルとクウコだ」


 このままだと、情報の整理が追い付かないため目の前の男達に集中できないと判断し気配探知スキルを解除した。


「ハル・・ゴメンね・・」


 背中から、カラが抱き着き謝ってくる。


「任せて・・大丈夫だよ。それよりも、ここに寄って正解だったよ」


 男達と対峙する中、野次馬がだんだん集まってくる。


「クソ!!・・お前ら帰るぞ!」


 男達は、集まり過ぎた野次馬のおかげで立ち去って行く姿が見えなくなるまで警戒する。


「・・カラ、もう大丈夫だよ。店に入ろう」


 カラと店に入ると、店内にリサ達が見当たらない。


「あれ?リサとルーシーは?」


「今日は、お昼からお店を開ける予定だったから奥にいると思うの」


「そうなんだ・・カラ、あの冒険者達は何者なの?」


 カラは俯き黙ってしまったが、すぐに顔を上げて教えてくれた。


「ギルドで働いていた頃に、いつも声を掛けてきた冒険者なの。私にはハルがいるからって断っていたんだけど、昨日偶然大通りで会って、少し話した程度で別れたんだけど、突然お店に来たのよ」


「ギルドを辞めたら、強引になった感じだね」


「うん。職員の時は、ギルドマスターの存在があったから直接手を出してくることはなかったの」


 不安そうな表情を浮かべるカラを見て心配になる。ちょっと空気を変えよう。



「おーい!ルーシーいつまで寝てんだー!大事な客が来てやったぞー!」


 俺の呼びかけに、カラがクスっと笑う。


「・・・・・・」


 店の奥からは反応が無い。まだ寝ているのか?


「全然反応が無いね?」


 カラと顔を見合い不思議に思う。


「・・もう起きているはずなんだけどなー。ちょっと見て来るから、のんびり待ってて」


 急ぎ足で店の奥に消えていくカラの背を見送り、カウンター前に置いてある回転椅子に座り3人を待つことにした。


 座っている場所から店内に陳列されている商品を見渡すと、昔に比べて商品に埃が積もっていない。きっとカラのおかげだろうと思いながら時間を潰す。




 しばらく待っても3人がやって来ない。


「なにしてんだろう〜遅いな〜」


 待ちくたびれた俺は、椅子から立ち上がり店の奥へと移動する。


 接客用の部屋に人の気配はない。残りは2階の自宅だ。俺は、静かすぎる家の中の廊下を歩き階段を登りきると、2階廊下に騎士が2人立っていた。



「・・・・な、なんでここに王国騎士がいるんだ?」


 階段を上ってきた俺を見た騎士が無言で抜刀し行く手を阻む。すかさず隠密スキルを発動し気配を消して騎士2人に飛び込み頭を蹴り飛ばし意識を刈り取り、部屋のドアを蹴破る。


「みんな無事・・・・か?」


 部屋に飛び込んだ俺の視界に理解出来ない光景が広がっている。



「・・う・・うそ・・だろ?・・うそだよな・・」




 飛び込んだ部屋には変わり果てた3人が横たわっている。


 ベッドの脇には、真っ赤に染めた鎧を纏う騎士2人がこっちに振り向くが兜を被っているため素顔はわからない。


「・・リサ・・カラ・・ルーシー・・」


 寄り添いあうようにベッドで横になっている3人をいくら呼んでも返事が無い。ベッドの脇に立っていた騎士が俺の脇を抜けて部屋を出る際に嘲笑うかのように言い放つ。



「終始、素晴らしい鳴き声だった。存分に楽しませて貰ったぞ」


 もう騎士が達がどう立ち去ったなんてどうでも良い。今は、3人の元へ力無く駆け寄る。




「どうして・・どうして、どうしてこうなるんだ・・」




 霞む視界の中、震える手でルーシーの肩に触れ、優しく動かす。かなり抵抗していたのだろう、両腕や顔は傷だらけだ。



「ルーシー。2人を守ろうとしてくれたんだな・・・・ありがとう、本当にありがとう」



 ゆっくりとルーシーを抱き抱えて、隣のベッドに寝かせる。目を瞑っても溢れる涙を止めることができない俺は、3人の血で染まった自分の手で目をこする。


 こんな惨状を認めたくない俺は、せめて綺麗な姿に戻してやろうと治癒魔法ヒールを何度も重ねがけし、傷付けられたルーシーの体を生前の状態まで回復させてやる。


 見た目は、ただ眠っているようだ。思わず頬に触れるとヒンヤリとした感触が右手に伝わり、現実を突きつけられる。



「ルーシー。リサとカラを綺麗にしてくるよ・・」



 リサとカラの姿を見ると呼吸がうまく出来ない。直視し続けるのが辛すぎる。だけど、2人をこのままにできないため、真っ赤な手で涙を拭いて手前にいるカラの体を少し手前にズラしてやる。


 1人置いてけぼりにならないよう、リサも一緒に優しく動かしてあげる。俺の涙が・・涙が2人の頬に伝わる。


 愛した2人をやっとこの手に取り戻し、これから幸せな生活が始まるハズの生活が・・。


 また前触れも無く奪われてしまった。同じような奴らに・・。


 俺は、守れなかった2人の命に最大の謝罪を・・愛情を込めて治癒魔法マキシマムヒールを凝縮し、俺の持ち得る全ての魔力を込め、一瞬で尽きるように発動準備を済ませ2人に最期の言葉を伝えた。





「リサ、カラ・・いつまでも、ずっと・・ずっと愛しています。もし、生まれ変わって同じ時代に生まれたら・・また幼馴染になれたら良いな。そして、また2人を愛します・・・・こんな俺のことを愛してくれてありがとう」



 2人の胸の上にそっと手を置いて目を瞑り・・一度深呼吸をして目を見開き覚悟を決める。




「・・マキシマムヒール!!」


 


2人の身体が淡い光に包まれていくのを見守る。少しずつ少しずつ傷口が塞がり綺麗に治っていく。そして、全身の傷が綺麗に治った頃に突然真っ白な光に包まれ、部屋中に光が広がった瞬間に俺は意識を手放したようだった。



 


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