3章 王城編 7話 衝突③
勇者に回し蹴りをキレイに決められ倒れ込んだ俺に、トドメを刺そうと剣を突き刺してくる。
「死ねやーー!」
殺意をむき出しに俺の喉元を狙う切っ先が、この体勢では躱せない間合いに入られてしまった。
とっさに左腕を犠牲にして首を守るため腕を巻き込む。
ガキィーン!
うわっ・・ズザザザァァァ・・。
黒い影が左から割り込んできて勇者の剣を軽々と弾き飛ばす者が現れた・・1人?いや、違う。何人かいるようだ。
「クソ!・・お前らなんで邪魔をするんだ!もう少しだったんだぞ!」
勇者が割り込んできた者に罵声を浴びせているようだが、だんだん意識が朦朧としてくる。
「「ハル!!」」
こ・・この声は・・リルとクウコだったかな?
「・・・・」
沈みゆく意識の中、返事ができない俺を誰かが抱き締めてくれている感覚がわずかながらある。
そして、遠くでアイナと勇者の声が聞こえる・・。
「勇者オキタ様!・・これ以上、ハルへの攻撃は許しません!」
「どうして、アイナ副団長が止めるんだ!」
「この場は、命を奪う場所ではありません。ましてや、ハルを殺そうとは・・」
勇者とアイナが言い争っている間に治癒魔法を俺にかけてくれる人がいる。
・・俺以外に、治癒魔法が使える人がいたかな?
「にぃに・・死なないで。お願い」
「おにぃ、寝ちゃダメ!・・起きて、目を開けてよ」
上半身が急に締め付けられるような感覚になる。
「あぅ・・」
たしか、にぃにと俺を呼ぶのは・・黒髪少女の美音で、おにぃって呼ぶのは琴音だったかな。
そう思いながらボーっとしていると、引き摺られながら訓練場の隅へと運ばれて行く。
目を開くと、治癒魔法ヒールを何度もかけてくれる美音の姿があった。
彼女は、魔力欠乏症の症状が出ていて呼吸が浅く早くなり顔面蒼白で冷や汗をかいていることに気付いていない。
「美音・・美音、もう大丈夫だから。ありがとう」
「にぃに・・・・」
黒髪少女の美音が両目一杯に涙を溜めながら左手を握ってくる。
「おにぃ、大丈夫なの?」
琴音が胸の傷跡に触れて聞いてくる。
「なんとか・・ね・・リルとクウコは?」
コトネに聞き彼女が指を差す方向を見ると、アイナの横にリルとクウコが黒髪勇者達と対峙している。
何か会話をしているが、この距離では聞こえない。
すると、リルがゆっくりと右手を上げ黒髪勇者達の方へ向けるのが見えた。
アレは、ダグラスを消した時に使ったやつだ。
「リル・・クウコ・・」
当の本人達には聞こえないはずの声量で名前を呼ぶと、2人のケモ耳がピクッと反応したと同時に振り向き、俺を見て笑顔で走り戻ってくる。
「「ハル」」
走ってきた勢いを殺さずに突っ込んでくる2人を抱きとめ、頭を撫でてやると俺の存在を確かめるように顔をグリグリと押し付け、満足したのか少し離れる。
「「ゴメン、心配かけさせたな」」
2人は、笑顔で俺を見つめている。よく見ると、泣いた跡があった。
「ハル・・・・」
アイナが心配そうな顔で遅れてやって来て側でしゃがみ込む。
「アイナ・・ありがとな。助かったよ」
「いいんだ。もう、間に合わないかと思った。すまない木剣なんかを持たせて。これも騎士団長命令なんだ」
「そうか、まぁ騎士団は組織だし上の命令は絶対だし・・ん?アイナ、珍しい装身具を身につけているんだね」
俺の前でしゃがんでいるアイナの胸元に、黒色チェーンに赤黒い宝石を一粒付けたネックレスがたまたま目に入った。
「・・装身具?こ・・これは、団長が毎日身に付けておくようにと言われたからなんだ」
「そうなんだ、よかったな団長に認められて・・」
「待て・・ちがうから。他意はないぞ!他意は・・」
アイナは否定するが、それを俺は茶化した。
「そういえば、新人騎士護衛依頼の時の俺を起こしに来た時は身に付けてなかったから最近か?」
少し難しい顔をして考え込む素振りをするアイナを見ていると、何か思い出したようだ。
「・・そうだ。アレから戻って、ハルの・・ハルのそのだな・・功績を報告していた辺りに団長がコレを身に着けるように・・まってくれ、ぐっ・・」
アイナが急に頭を抱えはじめ、次第に額から冷や汗をかいているような状態になっていく。
「おい、どうした?」
苦しむアイナの表情に嫌な予感がした頃、あいつがやって来た。
「そこで何をしている!アイナ副団長、直ちに持ち場へ戻りたまえ!」
ハイド騎士団長が、アイナに俺の側から離れるように急かしている。
まだ頭が痛そうにしているアイナに声をかける。
「アイナ、調子悪そうだから戻って休んだ方がいいよ」
そう言った直後にハイド騎士団長が声を荒げた。
「アイナ副団長!!」
アイナは、ハイド騎士団長の声に全身をビクっと震わせた瞬間スッと立ち上がる。
「・・アイナ?」
彼女の名前を呼んだ瞬間、アイナの右足で喉元を蹴飛ばされ後頭部を地面に激しく打ち付けたと同時に意識を手放す。
この蹴飛ばされる瞬間、アイナの胸元にあったネックレスの宝石が怪しく光っていたように見えたような。
・・ハッと目が覚めた瞬間に喉元に強い痛みを感じ、浅くゆっくりと呼吸し落ち着かせていると、見覚えのある天井が目に入った。
「・・ここは、テントか・・」
もう陽が沈んでいるためテントの中は暗い。なんとか屋敷から漏れる灯りでなんとなく見える程度の暗さだ。ふと隣を見ると誰かが寝ている。
「リル?クウコ?」
「・・・・」
側に誰かがいるがハッキリとはわからない。手探りで側にいる子に触れてみると、指先がどうやら髪に触れたようだ。
ワシャワシャ・・ワシャワシャ
頭らしき形を撫でていると、最近撫でた感触と違うのに、妙に懐かしさを感じる感触でもある。
暗くてよく見えないため、もっと近付いてから触ることにした。
指先がいっさい絡むことのない髪を撫でていると、少し硬いものに指先が触れる。
その正体を確かめるため、ゆっくりと指先でさすったりつまんだりしていく。
「ふにゃ〜〜ん」
突然の甘い声と、ビクビクっとカラダを痙攣させた後、俺は右腕を掴まれ指先を甘噛み&ペロペロの逆襲にあってしまい右手がベトベトになってしまったことより、側にいる子がリルやクウコじゃないことに驚いてしまった。
「ちょっと・・離して・・」
「ハァ、ハァ・・・」
抱き寄せられてしまい、熱い吐息が、俺の胸元で感じ思わず相手のお尻辺りにあるだろう尻尾を全力で撫で回してやる。
「ん・・・・ん〜〜っ」
絡められていた足が外れ、ピン!っと伸びきって硬直している。
そのあと、謎の相手は失神したようで小さく寝息を立てている。
俺はゆっくり顔を近づかせ覗き込むと、猫人族のミリナだった。
「なんで、ミリナがここに?」
失神した彼女からは当然返答はない。困り果てた俺は、立ち上がりテントから出た直後にリルとクウコと鉢合わせになる。
「うおっと・・・・」
フラついた俺は、リルとクウコに支えられる。
「もう今日は寝てなきゃだよ」
クウコが珍しく俺を注意する。
「ゴメンな。2人が見当たらなくてさ・・」
俺は素直に2人に謝る。
「気にしないで・・私達は必ずハルの側にいるから。今日・・守れなかったのは私達のせいなの」
2人は昼の出来事を自分のせいだと思っているようだ。
「リルとクウコのせいじゃないよ。俺の力が足りなかったからさ」
テントの前で立ち話も疲れると思い、ルーシーの店で買っていた2人用のイスを置いて座るとリルとクウコは、いつものように俺の膝の上に座る。
「こうやって3人で座るのも久し振りだな」
2人の髪を撫でながら話すと、クウコが見上げてくる。
「クウコは、このゆっくりとした時間が大好きなんだよ」
「リルも大好き。ハルのこといっぱい感じれるから」
静まった夜に3人で夜空を見上げながら。ゆっくりと時間の流れを感じるなんて、いつ以来だろう。
胸元で全力で甘えている2人を適当にあしらっていると視界が2人の顔で覆い尽くされた。
「どうかしたか?」
「「・・ハル」」
呟くようにリルとクウコに名前を呼ばれると、スッと2人同時に口付けされた・・。
「ん・・・・リル?・・クウコ?」
2人は真剣な面持ちで、ジッと俺を見つめる。
「リルのチカラをあげる」
「クウコのチカラをあげる」
「「だから・・・・」」
もう一度、2人から口付けをされると、口から伝わって体内に何かが染み込んでくる。
まるで、赤子が母親に包まれているような安心感のような感覚に。
「ん・・これは、この感じはいったい・・」
「これで、もう大丈夫だよ」
リルが笑顔で言う。
「ありがとう。リル、クウコ」
何かが俺のカラダに入って来たが、正直よくわからない。
そのまま2人を抱き抱えてテントの中に入るとテントの隅で猫人族のミリナが寝ているためいつもの場所で3人で毛布に入る。
3人の体温で毛布の中が暖かくなると、2人が服を器用に脱ぎ始めいつものように裸になるが気にならなくなった俺は、そのまま2人の体温を感じながら眠りについた。




