3章 王城編 6話 衝突②
「・・・・・・」
俺を見つめたままのアイナは、黙ったままだ・・だんだん彼女の目に涙が溜まっていき溢れそうになっている。
「・・ア・・アイナ?・・そういえば、アイナあの時の足蹴り・・なかなか良い蹴りだったよ・・」
俺の言葉を聞いて全身がビクッと震えた後、アイナがゆっくりと口を開く。
「・・くっ・・ハ、ハル・・ハルゥ、すま・・ない・・」
綺麗に手入れされている長い金髪の色と同じ瞳から大きな粒の涙を流し俯いき謝る姿を、ただ見守る事しかできない。
あの件の前であったら、きっと抱きしめていただろうけど。
「・・・・」
くしゃくしゃになった顔を、ゆっくり上げたアイナと再び目が合う。
「ハル、あの・・あれは、あれは・・・・その・・じつは・・えっと・・その・・・・」
アイナが何かを言い切る前に、そっと彼女に近づき耳元で優しい口調で告げる。
「・・アイナ、その言葉はまだ聞きたくないんだ・・ゴメン・・」
そう告げた俺は、彼女の手に愛用のハンカチを手に持たせ肩を軽くポンポンっと叩き、リル達の元へ立ち去る。
「リル、クウコただいま」
「「おかえり、胸のキズは大丈夫??」」
リルとクウコが心配そうに、胸の傷跡を撫でるように触れてくる。
「大丈夫だよ。すぐにヒールかけたしね」
リル達と話しをしていると、背後から女性から声をかけられ振り向くとコトネ様とミオ様が笑顔で近づいて来る。
「おに・・コホン。ハルさん、またお会いしましたね」
「お久し振りです。コトネ様、ミオ様」
2人は年下だろうが、異世界からの召喚者様のため扱いは貴族と同等だ。
あの少年達はどうでも良いが。失礼の無いよう、片膝をつき敬意を払う。
「ハ・・ハルさん、そんな事しなくて良いです・・しないでください」
「しかし、召喚者様に対し不敬に値しますので」
「良いんですよ。立ってください」
コトネ様に言われるがまま、俺は立ち上がる。
「お二人共、お元気そうですね」
コトネ様とミオ様は、やけに笑顔で話しかけてくる。良いことでもあったのだろうか。
「ハルさん、実はお願いがありまして・・」
「お願いですか・・何でしょうか?」
急にモジモジしはじめる2人の考えがよくわからない。
「ハルさん・・私達のこと・・呼び捨てで呼んで下さい。私達の方が年下ですから」
そう言ってくる2人の距離が近いように感じる。
「しかし、召喚者様を平民の私が呼び捨てだなんて」
「「お願いします!!」」
俺は丁重に断り続けるが彼女達は断固として、呼び捨てで呼んで欲しいと懇願してくる。このままだと埒が明かないため、根気負けした俺は呼び捨てで呼ぶ事を受け入れた。
「そ・・それでは、よろしいですか?」
「「はい!!」」
一呼吸置いて、彼女達の名前を呼ぶ。
「では・・俺の名前は、ハル。よろしくな・・コトネ、ミオ」
名前を呼ばれた2人は、満面の笑みで俺に抱きついてくる。
「おにぃ。わたしは、コトネ。よろしくね」
「にぃに。わたしは、ミオ。よろしくね」
「え?おにぃ?・・にぃに?」
混乱している俺に、2人は赤くなった顔を隠すように顔を俺の胸に埋めてくる。
「ど・・どうしたんですか?お二人共・・」
スンスン・・スンスン
「あ〜やっぱり、にぃにの匂いがする〜」
「でしょ〜?そう思ってたんだぁ〜。思ってた通り、おにぃの匂いがする〜」
そう言った2人は、真っ赤な顔を上げて俺を見つめて何かを欲しがっているようだ。
俺の脳内は絶賛混乱中なのに両手が勝手にコトネ様とミオ様の頭を撫でてしまう。
「んふふ〜この感じ、すごく懐かしい〜」
「懐かしいね〜おねぇちゃん」
2人は呟きながら気持ち良さそうに目を細めている。
しばらく訳のわからないまま、2人の頭を撫で続ける状況を続けていると黒髪勇者が不満な顔で近づいてくるのが見えた。
「おい!勝手に俺の女に近づくな!・・てめぇ、離れろ!」
撫でていた手を止めて、抱きついている2人をゆっくりと離すと名残惜しそうな表情をする。
「コトネ様、ミオ様は、勇者様の彼女様だったのですか?」
コトネとミオは、全力で否定するように首を振る。
「勇者様、2人は違うと否定していますが・・」
「2人は、この異世界にきて混乱しているだけだ!お前には関係ない。さっさとそいつから離れて、みんなの所へ帰るぞ」
感情をあらわにしている勇者が、俯くコトネ様の右肩を掴もうと伸ばしてくる手から守るように、俺は2人を抱き寄せて背中の後ろに寄せ庇う。
「な・・ただの的役の冒険者ごときが変な真似をするんじゃねーよ!」
「しかし、2人が嫌がる素振りをしましたので・・」
俺と勇者が揉めているとアイナが仲裁にやって来る。
「勇者様・・落ち着いてください」
「アイナ副団長!コイツは、国王が与えてくれた女を横取りにしただけじゃ飽き足らず、俺の女も奪おうとしているんですよ!」
この勇者、自己中心的な思考にも程があるぞ・・。早急に対処しないと、後々面倒なことになりそうだ。
「・・アイナ副団長様、そろそろ訓練再開をしませんか?」
他人行儀に話す俺に、一瞬戸惑いを見せたアイナは頷いて訓練再開を了承し、準備のためコトネとミオは名残惜しそうに俺から離れ向こう側で待っている黒髪少年少女達の元へ帰って行く。
その2人の背中を見送っていると、背中にいつもの2人が抱きついてくる。
「どうした?リル、クウコ?」
「ハルは、私達の・・」
リルが少し不満げな口調で言うが、コトネとミオを嫌ってはないようだ。
「ん〜スリスリ・・スリスリ」
クウコが甘えられなかった時間を取り戻すかのように、顔を俺の背中に擦り付けている。
「ごめんな・・リル、クウコ」
抱きついてきた2人をあやしていると、アイナが俺に中央まで移動するように指示してきたため、リルとクウコを離し指示された場所まで移動する。
「ハル・・これを」
「アイナ、俺はまた木剣で彼らは真剣なのか?」
「・・・・すまない」
アイナは視線をズラし、ただその一言だけ告げて俺から立ち去る。
アイナと入れ違うように黒髪勇者と他の黒髪少年が俺を囲んでくる。
「おい!冒険者・・お前の役割は、俺たちの攻撃を無抵抗で受けるだけだからな」
「しかし、敵の反撃を躱すのも必要では?」
「いちいち口答えしてんじゃねーよ。いくぞ、みんな!」
「「おう!!」」
勇者の合図で、右に立っていた少年が両手剣を上段構えから振り下ろしてくるのを後方に下がり躱すと、左から素早く接近し片手剣を突き出し切っ先を見切り、体を捻り寸前で躱す。
すると、背後から背中に足蹴りをくらい前方へフラついて体勢を崩した隙を勇者がニヤつきながら両手剣を振り下ろしてきていた。
勇者の振り下ろす両手剣の腹を木剣で叩き軌道を強制的に変えさせて、何を逃れると勇者の背後で隠れていた1人が火魔法ファイヤーアローを2発同時に放つ。
至近距離で放たれたファイヤーアローを避ける間がない俺は、たまらず水魔法アクアウォールで対抗し消滅させてから、彼らの連携攻撃の正確さに驚きを隠せなかった。
「クソ・・なんで俺達の攻撃が当たらないんだ!」
勇者達は、俺に攻撃を当てれないことに苛立っていて冷静さが欠けている。
そこへ、アイナが彼らに落ち着いて攻撃するようにと助言する。
「勇者様・・落ち着いて彼の動きを見極めてください」
「・・そうか。ありがとうアイナ。また、あなたに助けられたよ」
勇者がアイナを見て微笑んでいる。それをアイナは微笑み返し頷いていた。
「そうか・・そう言うことか。なら、やることは決まっている」
俺は、誰にも聞こえない声で呟き隠密スキルと気配探知スキルを発動し一気に反撃の狼煙を上げた。
「な・・奴が消えたぞ!」
「どこだ・・」
彼らが驚いている隙に、アイナの横へ立つ。
「アイナ・・召喚勇者様とそう言う関係になっていたんだな・・おめでとう」
「ちがっ・・」
アイナの返事を聞くことなく地を蹴って勇者以外の少年達に狙いを定め、一気に彼らの首元に打撃を与えて意識を刈り取って行く。
黒髪少年5人の意識を刈り取った後は、2つのスキルを解除し勇者と対峙する。
「勇者様・・残るは貴方だけです。愛しのアイナ副団長に良いところを見せたければ、貴方様の全力で来てください」
「・・勇者もナメられたもんだ。あったりめーだ!望み通り俺の本気で、冒険者ごときなんか瞬殺してやる。アイナ副団長、俺の本気の姿を見ていてくれ!」
アイナをチラ見下が、今回は反応しないようだ。勇者に視線を戻し動きを見定めると、今までと違いコンパクトに構え纏っているオーラの雰囲気が変わる。
・・ザッ
勇者が地を蹴る音が聞こえた直後、一瞬姿を見失うが、すぐに捉え目で追い切れない速さではなかったが斬撃の隙を与えてしまい、勇者の両手剣の切っ先が目前まで迫っていた。
寸前のところで躱し、ガラ空きの勇者の背中に打撃を与えようとしたら勇者が振り抜いた勢いを殺さず、体を捻り回し蹴りを俺の左脇腹に当ててきた。
・・ぐはっ
斬撃の勢いを殺さずに回し蹴りを受けた強い衝撃で、体が右側に吹き飛ばされ地面を数回転がり止まった。
「イテテテテ・・・・」
左脇腹を押さえながら立ち上がろうとすると、勇者が二撃三撃と連続攻撃をどんどん繰り出してくる。
打撃をまともに受けると一瞬で両断されるため、軌道を変える程度の剣を合わせることができない。
そのため、勢いに負けて劣勢になっていく俺の姿を目覚めた黒髪少年達が、殺せ殺せと叫び乗り上がり俺の腕も生傷が増えていく。
もう、アイナからもらった木剣がそろそろ限界を迎えそうな程の変わり果てた姿になり、思うように躱せなくなってきた状況に焦りを感じはじめた。
勇者も何かのスキルを発動しているのだろう、今までと動きが格段に違う。剣術と体術をうまく使いながら攻めてくるため、もう木剣で受け続けるのは限界だ。
反撃してこない俺の様子に興奮しているのか、自信たっぷりの顔付きに変わっていく。勇者が仲間の少年に何か喋っているが、聞いたことのない言語のため理解出来なかった。
すると四方からファイヤーボールが絶妙なタイミングで放たれてくる。それをアクアウォールで対抗し、なんとか対処できたが、この時勇者から目を長く話していたことに俺は気付いていなかった。
「死ね!」
正面に居たはずの勇者が背後から迫っていたことに気付くのが遅れ対処が間に合わない距離まで詰められてしまっていた。
「やばっ・・」
反射的に木剣で勇者の剣を力ずくで受けてしまい、木剣が紙のようね抵抗なく切られ切っ先が右肩から左脇腹を切り裂き赤い血が視界を覆い右目に血が入り本能的に目を瞑り倒れ込んだ。
ぐがぁ・・・・はっ・・。
倒れ込んだ勢いで、土煙が左目に入り瞑ってしまい視界を奪われてしまう。
さすがに焦った俺は、無理やり右目を開くと赤く染まった視界にニヤついた顔で喉元を狙い刺してくる勇者が迫っているのが見える。
「・・・・」
「死ねやーーー!」




