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3章 王城編 5話 衝突①


 ゴトゴトゴト・・・・。


 今、俺達はイノストール公爵家の馬車で王城へ向かっている。


 目の前には、あのメイド長が座っている。屋敷の中と態度が正反対だ。


 なんて言えばいいのだろう。いい表現が浮かばない。ただただ、コワイんです。


「・・・・なんなん?・・何か言いたいわけ?」


 不覚にもメイド長と視線が重なると、すかさず俺に暴言を吐いてくる。


 リルとクウコが寝てしまってから、メイド長はこの状況だ。


 しばらくして馬車の速度が遅くなり、ふと窓越しに外を見ると、どうやら王城に近づいたようだ。


 門前で止められたが、公爵家の馬車のためなのか特に点検もなく中へ入っていく。


「さすが公爵の爵位の馬車は違うんだな・・・・」


「・・ふん・・・・」


 あぁ、相変わらずご機嫌が悪いメイド長サマだ・・。


 王城の中庭のような所を抜けて、とある場所で馬車が止まる。


 御者が扉を開けるとメイド長が降りて、俺もリルとクウコを起こし寝ぼけ眼の2人を連れて馬車を降りた。


「冒険者様、この先が王城の訓練場があります。中に入ると騎士がいるはずなので、この手紙をお渡しください」


「・・・・はい。ありがとうございます」


 なんて変わりようなメイド長だ。ちょっと前の彼女の姿が想像できないほどだ。


 俺が手紙を受け取ると、メイド長は馬車に乗り込み馬車が帰る姿を見送った。


「リル、クウコ起こしてゴメンな・・。さぁ、行こうか」


「「んひ・・だっこぉ〜」」


 やはりこうなるか・・。寝起きの移動は間違いなく抱っこになってしまう。


 まだ体はそんなに大きくないから2人同時に抱き抱えることはできるからいいけど、この先が不安だ。


 久しぶりに2人のケモ耳をワシャワシャしてやると、腰をクネクネして踠いている。


 欲をいえば尻尾も触りたいが、俺の主観で服の中に隠すように教えている。


「よっと・・」


 2人を抱き抱えると、リルとクウコは、それぞれ好みの姿勢になるようにモゾモゾ動き落ち着いたところで大人しくなる。


 器用なことで、必ず俺と同じ高さの位置に顔がくるので、不意に横を向くと頬にキスをしてしまうことが、しばしば起きる。


「さぁ、中に入るぞ」


 抱っこの姿勢に満足した2人と訓練場の中へと入り扉を開けると、近くに騎士がいるのが見えた。


「あのーすいません・・コレを」


 俺は、最初に見つけた騎士を呼び寄せ、メイド長から預かった手紙を渡す。


「なんだ・・あぁ、そうかそうか・・アレの代わりか。まぁ、中に入って待っていてくれ」


 騎士がなぜか同情する顔を見ながら、訓練場に入り適当な場所で指示を待つ間は、黒髪少年達が連携を確かめながら1人の人物に攻撃をしている風景を眺めることにした。


「ハル・・あれ、獣人の子・・女の子見たい」


 リルがただ防御だけで反撃する素振りもみせず、フードで顔を隠した人物に指を指しながら言ってくる。


「ん?冒険者じゃないのか?」


「違うよ・・奴隷だと思う」


「そうか・・獣人族をモノのように王族は扱うんだな・・」


 俺は、昔からこの国の獣人族に対する偏見が嫌いだった。

 言葉を通じるのに何が気にくわないんだろう。そう考えていると、黒髪少年達の連携攻撃が全て決まりフードを被った子は力なく地面に倒れこんで動く様子はない。


「よっしゃー!最後に決まったなー!」


 黒髪少年達は連携攻撃が思い通り決まって満足したのか、倒れこんでいるフードの子を放置して、訓練場の隅へ移動し水筒片手に盛り上がっている。


「おい、あの使い物にならなくなったアレを邪魔だから隅に移動させてこい」


 隣にやって来た騎士が俺に指示してくる。


「・・あぁ。わかった」


 リルとクウコを降ろし、倒れこんだままの獣人の子の元へ向かう。


「おい・・大丈夫か?」


 俺の問いかけに一瞬ビクついた獣人の子はそのまま反応はないため、そっと抱き上げて隅の日陰へと移動させた。


 よく見ると服はボロボロで、腕や足は生傷が絶えないのがわかり胸が痛む。

「ヒール」


 獣人の子に治癒魔法ヒールをいかけて傷を治してやると、リルとクウコが俺の頭をヨシヨシしてきた。嬉しいけどなんか複雑な気持ちになる。


 すると、クウコが獣人の子のフードを躊躇いなくめくり上げると、猫人族の少女だった・・。


「な・・なんで?」


 そこには目を瞑った、猫人族の少女がいた。


「・・ん」


 猫人族の少女は、意識を取り戻したようでゆっくりと起き上がる。


「アイタタタ・・って、あれ?痛みがない・・」


 ペチペチと全身を触りキズを確認しているようだが、先に治癒魔法をかけたからキレイさっぱり治っている。そんな彼女に声をかける。


「おーい、他に痛いところないか?」


「え?」


 彼女と視線が重なり、見つめ合ってしまう。ミオのオッドアイとは違い、両方とも綺麗な茶色の目をしている。


「君が倒れこんでいたから、ここまで運び込んだんだよ」


「そ・・そうですか。ありがとうございます・・それであなたは?」


 彼女は、なぜ俺達がここにいる理由がわかっていないようだ。


「俺は、冒険者のハル。よろしくね。実は、君の交代としてここにきたんだよ」


 自分の交代と聞いた彼女は俯き、力無く答える。


「そうですか・・もう、私は用済みなのですね・・」


「用済み?それはどう言うことかな?」


 彼女の言う用済みとは、一体なんだろう。


「もう、私の価値は無いってことです」


「どうしてそうなるの?」


「戦闘奴隷の私は、召喚者様達の的役として雇われていたので、反撃禁止の契約を結んで奴隷の身分を凍結されていました」


「それじゃ・・・・」


「はい。このまま私は奴隷落ちです・・あ、遅れてすいません。私は猫人族のミリナです。もうお別れですが・・」


 こんな少女が使い捨てで雇われているなんて、こんな体を張って貢献してきたのに。


「こんなこと、会ったばかりに言うことじゃ無いけど、よかったら俺が身元引き受け人になるよ」


 ミリナは目を見開き驚いている。


「でも、獣人の私なんか・・・・」


「大丈夫。俺は平民育ちの冒険者だし。後ろを見て」


 ミリナが振り向くと、リルとクウコが私達も獣人族だとアピールするかのように笑顔でケモ耳をピコピコ動かしている。


「そのケモ耳って意識的に動くんだ・・・・」


 そう言う俺に対し、勝ち誇った顔でピコピコとケモミミを動かしながら近づいてくる。


「わ・・わかった・・わかったから」


 俺の周囲をぐるぐる回りながら、ケモ耳をしつこくアピールしてくる2人を捕まえて、無慈悲にケモミミをワシャワシャ撫でまわしてやる。


「「ふわぁわわわわ・・んぁぁぁ・・くすぐったい・・」


 無慈悲にケモ耳を蹂躙されたリルとクウコは、腰砕けになりその場に倒れ込んで涙目で俺を睨んでいるが気にしない。


「あ・・わたしもされたいなぁ・・・・」


 なんかミリナがボソっと言っていたことが耳に入ったけど、聞こえなかったことにしよう。


 恥じらいと快感の世界から戻ってきたリルとクウコが復活した頃に騎士が近づいてきた。


「おい!そろそろ訓練再開だ。冒険者の貴様は、この木剣を持って中央まで来い」


 騎士から木剣を受け取り、中央へ移動する前にリル達の方を向くと、ミリナを挟むように座っている。


「それじゃ、行ってくるね」


 3人は頷き手を振って見送ってくれる。俺も手を軽く振ってから中央へと歩き出し、訓練場の中央で木剣を片手に俯き相手を待つ。


 しばらく待っていると、複数人の歩く音が近付いて来るのが聞こえ顔を上げる。


「なんだ・・次は男かよ・・つまんねぇな」


「でもさ、男だから遠慮なく思いっきりできていいじゃん」


 黒髪少年達は、俺を囲み笑いながら話している。


「どうぞ、お手柔らかにお願いします」


「知るか!」


 正面に立っている両手剣を持った少年が、挨拶もなく間合いを詰めて来る。


 手合わせをする前の礼儀も知らないなんて・・上段構えから攻撃してくるのを俺は摺り足で躱す。


 ガン!!


 次の手を考えてないのか、少年の両手剣が地面に突き刺さった。


「イッテ・・てめぇ避けるんじゃねえよ!」


 俺は無言のまま少年に正対するが、手に持つ木剣は下に垂らしたままだ。


「ふざけるな!」


 残りの4人が息を合わせて波状攻撃をしてくるが、速さはなく素直過ぎる攻撃だから最小限の捌きで回避していく。


 この波状攻撃を3回繰り返しただけで、少年達は肩を揺らすほど呼吸を乱している。


「もう、終わりでしょうか?召喚者様方?」


 完全に動きが止まってしまった少年達から距離をとって眺めていると、訓練場の扉が開く音がした後、少年の声が聞こえた。


「おーい!もうバテてるのかー?しかも的役が変わっているじゃねーか!俺にもヤラしてくれよ」


 俺は振り返り少年の声がする方を向くと、あの黒髪勇者と視線が重なる。


「てめぇは、あの時の!」


 抜刀し、速攻で詰め寄る黒髪少年の背後には手を伸ばすアイナ副団長が視界に入った。


 この黒髪勇者もフェイントのカケラもない素直な上段構えから振り下ろしてくる。


 黒髪少年達の攻撃は単調だな・・そう思いながら剣筋を見極めていると、俺の首元を狙っているようだ。


 皮1枚分のわずかな間隔で躱し、隙だらけの打撃を与えようとしたら身体強化スキルを使っていたのかそのまま剣を振り上げて軌道を変えて、俺の胸を斬り裂こうとしている。


 木剣を上段から振り下ろし、振り上げてくる勇者の剣を受け止めるが、勇者の剣に抵抗無く俺の木剣が両断されそまま胸を切り裂く。


「クソ!!真剣か・・治れ」


 すかさずヒールで出血を止めて、背後に飛び間合いを取る。


「チクショウ!せっかくのチャンスだったのに」


「君は真剣で、俺は木剣なのかい?」


「当たり前だ。お前らは、俺達が成長するための使い捨ての消耗品だからな」


 半笑いをする勇者は、深追いをせず、間合いを保ったまま睨み合いを続ける。


「勇者様・・俺の木剣は半分失われているのですよ?・・来ないのですか?」


「・・うるさい!」


 すると、女性の声が訓練場に響き渡る。


「両者!そこまでです。勇者様、勝手な行動は慎んでください」


 俺と勇者の間にアイナ副団長が割り込んで来て、勇者と正対している。


 背中を見せるアイナ副団長を見て、無意識に彼女の名を呟いていた。


「・・・・アイナ」


「勇者様、今はコトネ様達がいる場所までお戻りください」


 

 そして、勇者は舌打ちをして踵を返し黒髮少女達がいる場所へ戻って行った。


 勇者の背中を見送った、アイナが振り向き俺と視線を重ねる。


「「・・・・・・」」


 俺とアイナは、無言のまま見つめ合う。耐え切れなくなった俺が、最初に口を開く。



「・・・・元気そうだね、アイナ」



「・・・・・・」



 アイナは黙ったままで、俺を見つめているだけだった・・・・。





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