3章 王城編 4話 貴族の依頼
「アメリア・・今回はコレにするよ!」
アメリアに依頼票を渡すと、彼女は心配そうな顔をして聞いてくる。
「ハル・・貴族の依頼を受けるの?」
「あぁ、この貴族様の依頼は俺が受けなきゃいけないんだ・・」
アメリアの顔をじっと見つめる。
「・・でも」
「大丈夫さ。今はこの2人が一緒だからな」
リルとクウコの頭を撫でながら言う俺の姿は、周りから見れば少女頼りの冒険者にしか見えないだろう・・。
「・・・・」
アメリアはそれ以上何も言わなかった。貴族の依頼は、たとえギルド経由の依頼でも平民相手の冒険者には、報酬を踏み倒す事はよくある事だ。不満を漏らし報酬を要求すると、不敬罪で捕らわれた冒険者がいたと聞いたこともあるぐらいだ。
だから、誰も貴族の依頼を自ら受けるものはいない。もちろん俺もだ。でも、この依頼は事情が違う。なんてったて依頼主がイノストール公爵だからだ。
アメリアに手続きを済ませてもらい、ギルドからの報告を待つだけだ。これでやっと、堂々とイノストール公爵の屋敷へ入ることができる。
手続き完了の日から4日後に、アメリアが俺が泊まっている宿屋に来た。どうやら、今日の昼に屋敷へに来いとのことだ。
俺たちは、宿屋を出てルーシーの店に向かう事にした。店に入ると、リサとカラは買い物に行っているとルーシーが言う。
「そうか・・2人はいないんだ。ルーシー、昼から3日ほどイノストール公爵の屋敷警備依頼を受けたから、しばらく戻って来れないと伝えてくれ」
「あんたまさか・・・・ちゃんと帰って来るんだよ」
ルーシーはビックリしているようだが、俺の気持ちをわかったようだ。それから、必要な日用品と消耗品を買い込んで店を後にした。
王都に住んでいるが、貴族街区域に入るのは初めてだ。平民街と比べて道も綺麗だが、空気が悪過ぎて住めたもんじゃない。一人一人が身嗜みに隙がないか睨み合っている。
しばらく歩き続けると、一際大きな屋敷が見える。きっとあれだろう。俺は、その屋敷の門にいる守衛にギルド依頼票を提示し待っていると屋敷から執事がやって来る。
「本日は、当主の依頼受理ありがとうございます。どうぞ、こちらへ」
老人執事が来ると思っていたが、青年執事だった事に驚く。きっと俺より少し年上ぐらいだろう
執事の青年に案内されて屋敷の庭を通り、正面玄関脇の通用口から中に入り1階ホールの階段を上がらず、使用人用の階段を上がり2階に行く。廊下を歩き案内された部屋に入り、3人掛けのソファに座りイノストール公爵を待つ。
執事の青年が部屋を出て、しばらくすると初老の男が部屋に入って来たため、ソファから立ち上がる。きっと依頼主の男だ。
「ようこそ、冒険者殿。私は、依頼主のイノストール公爵だ」
「はじめまして、イノストール公爵様。私は、Eランク冒険者ハルです。この子達は、リルとクウコと言います」
リルとクウコは、俺が紹介した後にゆっくり会釈する。
「おぉ!なかなかの美人だ。獣人族でここまでの美しい姿の女性は見た事がない。どうだ?金貨300枚で?」
この貴族、いきなりリルとクウコを金で買うと言ってきた。欲しい物は、なんでも金で得ようとする典型的な貴族の習性だ。
「ハルの側が一番だから無理なの」
「無理なの」
拒否するリルの言葉にクウコも同意する。
「はっはっはっは。お嬢さん達には聞いてないんだよ。ハル殿・・金貨500枚でどうだ?不自由なく暮らせるぞ」
俺は苦笑いしながら断る。
「公爵様、2人は大事な家族ですから大金を積まれても、お断りさせていただきます」
「・・・・」
ガチャ
「失礼します」
会話が途切れたタイミングで、部屋のドアが開き2人のメイドが入って来ると、馴れた手つきで人数分のカップをテーブルに置いて素早く部屋を出て行く。
「・・・・まぁ座りたまえ。さて、依頼について話そう」
「はい、お願いします」
俺たちはソファに座り、イノストール公爵本人から依頼の内容を聞く。どうやら、王族の召喚者達への戦闘訓練支援のため、屋敷にいた専属護衛達らが数人招集してしまい、屋敷の警備が手薄になっているらしい。
依頼票には記載がなかったが、住み込みになるようだ。そのため、身元確認を直接したいとのことで3人のギルドカードを提示し、最終的な契約となった。
「それでは、君たちの部屋を案内しよう」
イノストール公爵が呼んだのは、メイド長のようだ。そのまま彼女の後をついて行き、使用する部屋へと案内してもらうが、屋敷から出てしまう。
「あの・・どちらに?」
「はい。冒険者様達のお部屋でございます」
裏口から出た先には、今にも倒壊しそうな小屋が建っている。
「・・あの、あれですか?」
「はい。あの小屋です」
小屋の前で立ち尽くす俺達を見向きもせず、トドメを言い放つ。
「中は一切手入れをされてません、寝床は自己責任で。あと、ただいまの時間を持って許可なく屋敷へ入らぬようお願いします」
「え?警備とかは?」
「敷地内で勝手にとの当主様からの伝言です」
「・・・・」
メイド長は、一度も振り向くことなく屋敷へ戻って行く。空はもう陽が傾きはじめているため、とりあえず小屋の中を見てみよう。
なかなか開かないドアを力任せに開けた俺は、開いた口が塞がらなかった。
「おい・・マジか?」
「ハル?入らないの?」
クウコが背後から聞いて来る。俺は振り向かず答える。
「・・ん?いや・・だってさ・・ゴミ屋敷ですぞ!これは・・足の踏み場もない」
クウコさん、このヤバすぎる小屋で寝泊まりしろと?
「野宿は、イヤ・・・・」
小屋の中を見たリルが俺の服を引っぱり抗議している。
「とりあえず・・入ってみるよ」
何年も使ってないような部屋のようで、空気がカビ臭い。換気したくても窓まで行くまでが大変な道のりだ。家財から衣類やら道具まで、いろんな物が散乱している。
「これは、片付けるよりテントを設営した方が良さそうだな」
いろんなものを踏みながらゆっくりと中にはいると。不意に足を滑らせてしまう。
「おっと・・」
キィン・・。
足元で金属音が鳴り、散らばっているものを退かして行くと鞘に入っていない短剣が2本が出てきた。その短剣を拾い上げてみるとどこかで見たことがあるような気がする短剣だ。
短剣を持ったまま小屋から出ると、外で待っていたリルとクウコが不思議そうな顔で俺を見ている。
「どうした?・・2人とも、そんな顔して」
「ハル・・その短剣って・・ミオのじゃ?」
「ミオの?やっぱそうか・・」
俺は、短剣に魔力を込めてみると、短剣が紅色と青白に染まり輝き出す。
「そうか・・やっぱお前だったのか・・・・」
魔力を抜いて元に戻った短剣の汚れを落とし、リルとクウコに差し出す。
「2人に武器持たせてなかったな。コレ・・使うか?」
「「ハル・・」」
ミオの短剣は、ハルが持っているべきと言われて素直にアイテムボックスへ収納する。
「ちょっと湿っぽい空気になっちまったな。そろそろテント設営するから手伝ってくれるかい?」
「「いいよ〜」」
リルとクウコが抱き付いてきて甘えて来る。そんな2人を抱き抱えて設営する場所を探すが、小屋の横が一番マシのようだ。
「よし。ここにしよう」
アイテムボックスから野営キットを取り出し、リルとクウコにテントを運んでもらっているうちにイスや調理グッズを並べる。
「ハル〜!ここで、い〜い〜?」
リルに呼ばれ振り向くと、畳まれたままのテントの上で、キャッキャ言いながら飛び跳ねて遊んでいる2人がいた。
「そこでいいよ〜!ってか遊ばずに広げてくれよー」
「「やだ〜〜」」
未だ遊んでいる2人の元へ行き、飛び跳ねたところで抱き抱える。
「「きゃ〜捕まえられた〜!!」」
「早くテントたてないと、野宿になっちゃうぞ〜!!」
野宿と聞いた2人は、大人しくなり素直にテントをたてる準備を手伝い始める。何回か経験しているため、2人の手際は良い。きっと俺がいないときでも2人でたてられるだろう。
テントをたて終えた頃に陽が沈んでしまったため、テントの中で夕食をとることにした。2人にはパンに肉串の肉と野菜をサンドして渡し、後から果実水が入った瓶を置いてあげる。
2人が食べ終わった後は、汚れた口を湿らしたタオルでキレイに拭いてやると、自ら服を脱ぎ下着姿になる。
「お前らな・・・・」
生活魔法クリーンで今日の汚れを落としてやり、寝巻き着を着せ終わると敷いてあった毛布の上でゴロゴロ遊び始める。本当に中のいい姉妹のようだ。
最近の夜は、肌寒く感じるようになった。森だともっと冷えるだろうな。それまでに防寒着とかを買い揃えないといけないなと思いながら、自分の寝る支度を済ませて毛布に潜り込む。
「おーい、先に寝るからなー」
「「はーい。おやすみー」」
「おやすみー」
未だ、はしゃぐリルとクウコを尻目に眠りにつく。
しばらくして、2人が静かになったと思っていたら、モソモソと俺の毛布に2人が忍び込んでくる。仰向けに寝ている俺を挟み込むように足元から忍び込んできて左腕にリルが、右腕にクウコが抱き締めて寝るような姿勢になる。
ここからの時間は、俺の腕に自由は無い。なぜなら、俺の両手は2人が腕に絡ませているからだった。
深い眠りについているど、俺は不意に起こされる。
「・・ハル、誰か来たよ・・起きて」
「・・ん。そうか、ありがとう」
リルの声で目が覚めて、毛布から出てテントの外に出ると、昨日案内してくれたメイド長が待ち構えていた。
「当主様がお呼びです。急いで支度を済ませてください」
メイド長に言われるがまま、俺達は支度を済ませテントを出てメイド長の背中を追いかける。
屋敷に入り昨日、案内された部屋に通されソファに座り、イノストール公爵を待つ。待たされるのはいつも平民だと思いながら仕方なく待つことにした。
ガチャ
「冒険者殿、急に済まないね。昨夜は寝れたかな?」
「はい。素晴らしい部屋を準備していただいたのですが、寝床が出来なかったので外で一夜を過ごしました」
「・・そうか。まぁ、いいだろう」
イノストール公爵は、どうやらご不満のようだ。よっぽどあの小屋に寝泊まりさせたかったのだろう。
「今日の護衛の任務は昼からですが、突然どうしたのですか?」
「それなんだが、王城に派遣していた護衛が勇者様との訓練中に負傷してしまい。急遽補充要員を差し出せと通告があってな」
「まさか、その役目を?」
イノストール公爵は、ニヤつき頷く。
「そうだ。本当に仕方ないのだが、その子達としばらく離れ離れになってしまうが報酬を上乗せするから、今から王城へ向かってくれ」
なんか、イノストール公爵の発言に違和感を感じ始める。
「お言葉ですが、私がこの子達と離れることはできません」
「それでは、追加報酬を払えないがいいか?」
「はい。追加報酬より、この子達の安全が第一ですから」
イノストール公爵がため息をつく・・。
「なら仕方ない・・3人で行きたまえ」
俺は了承し、3人で王城へ行くことになる。また、あの黒髪勇者がいる王城へ・・・・。




