3章 王城編 3話 解放から日常へ
「おいおい・・冒険者、なに勝手に俺の所有物を連れ出そうとしてんだ」
部屋の出口を阻むように立つ勇者が苛立っている。
「もう、用が済んだから帰るよ」
「帰るなら、1人で帰れよ!慰謝料で、そこの少女2人を置いて行きな」
勇者がリルとクウコを舐め回すようみ見ている。
「ハル・・あいつ消していい?」
リルが不満な顔で聞いてくる。
「ん〜一応、召喚勇者様だからな。消すのは流石にマズいと思うぞ、リル」
リルがため息をついて諦める。
「別れの挨拶は済んだか?」
どうやら勇者様はリル達4人と楽しみたい様子だ。
「このまま平和に帰らせてもらえませんか?」
「そうだな・・・・その女を全員置いて、お前1人で帰れよ・・これ以上言わせるな」
勇者の提案にリサとカラが全力で嫌がっている。
「勇者様・・どんだけゲスいのですか・・・・」
「決裂だな冒険者。リサ、カラ・・この冒険者を殺した後に遊んでやるか・・ぐふぇ」
勇者の体が突然宙を舞い、床に叩きつけられ首元を締め付けられている。
「ハルを殺すだって?」
クウコが勇者を蹴り飛ばし、床に叩きつけられたところにリルが勇者の首元を締め付けて問いただしている。
「ぐるじぃ・・」
「ハルを殺すって言った?」
「言ったよね?」
仰向けに倒され身動きが取れない勇者を、リルとクウコが殺気を放ち迫っている。
「があ゛・・」
「「死にたいの??・・ねぇ??」」
「・・い゛ってません・・い゛てませんがら・・」
その言葉を聞いて、リルとクウコは勇者を解放する。
「リル・・クウコ・・その辺にして、帰ろう」
勇者オキタは、リルとクウコの殺気に怯えきってしまい、倒れたまま震えている。
「さぁ、みんなで帰ろう。クウコ、幻惑スキルお願いできるかな?」
「は〜い!まかせて〜!・・はぁい、オッケーだよ」
クウコの頭を撫でてやり5人一緒に部屋を出る。俺達は、歩いて来た経路を戻り無事に王城から離脱する。このまま大通りに出ると騎士1人が出歩く光景が不自然に見えるため、裏路地に移動し幻惑スキルを解除する。
このまま、俺達はルーシーの店に向かい商店裏の住居側のドアを叩く。
ドンドン・・ドンドン
「ルーシー!ルーシー!」
「・・・・誰だい?こんな夜更けに」
「遅くにゴメン、俺だ!ハルだ」
ゆっくりとドアが開き、短剣を片手に出て来た。
「・・家の中に入りな・・」
そのままルーシーの家に入り、ドアを閉める。
「ルーシー、今夜はリサとカラを匿って欲しい」
「・・仕方ないね」
リサとカラをルーシーに預け、俺たちは宿に戻ることにした。
それから平穏な時間が一ヶ月程過ぎた頃に、ギルドの商人護衛の依頼のため西の都市ニシバル往復の長期護衛依頼に出発した。数日後、西の都市から王都へ戻って来た俺は、王都西門に並ぶ人間の多さに驚く。
数時間並びやっと俺達の順番になった頃には、リルとクウコは抱かれたまま寝てしまっている。門兵に3人のギルドカードを提示し、点検が終わって門を通る前に門兵に聞いてみた。
「今日は、なんでこんなに人が多いんだ?」
「あぁ、今日は召喚者様達の披露パレードが開催されるんだよ!・・勤務じゃなきゃ見に行ったのによ〜」
「そ・・そうなんだ。教えてくれてありがとう」
ギルドに向かうため、大通りを歩いて行くと噴水広場に近づくほど出店の数が増えて行く。ごったがえした大通りを2人を起こさないよう慎重に歩きギルドへと向かった。
無事にギルドに入ると、暇そうな受付嬢がポツンと1人居座っている。
「アメリア、暇そうだな?」
「あ・・ハル、お帰りなさい」
「他の冒険者達は?」
「今日は、召喚者様の披露パレードがあるから依頼そっちのけで観に行ったわよ」
少しご不満なアメリアは、肘をつきながら愚痴をこぼしている。
少しだけ、アメリアの愚痴を聞いた俺は、なんとか依頼報酬をもらいアメリアから解放されギルドを出る。次は、リサとカラがいるルーシーの商店へ。
「おかえり〜」
店に入るとカウンター越しにリサが肘をついて店番をしている姿は、ギルド受付嬢の頃と変わらない。
「ただいま、リサ・・ちゃんと店番してたかい?」
「む〜してたよ〜」
リサが眠そうに答えていると。
「ハル、おかえりなさい。リサったら開店からずっとあの状態なのよ」
陳列された商品の埃を落としているカラが俺の側まで歩み寄ってくる。リルとクウコは、いつの間にかルーシーの元へ行ったようだ。
「ただいま、カラ。店の方は慣れて来たかな?」
カラが答える前にリサが呟く。
「ここに来るお客さんは、数える程だしベテラン冒険者だから余裕だよね〜」
側に立っていたカラが、リル達のように俺の左腕に自分の腕を絡ませて体を寄せて委ねてくる。
「まぁ、この店は好き者しか来ないような品揃えだしな〜」
笑いながら3人で話していると、店の奥からルーシーの声がして姿を現す。
「好き者しか寄り付かない店で悪かったね!」
「なんだ、ルーシー聞こえてたのかよ・・地獄耳だな」
「それよりも、さっき王都に帰って来たって?この子らから聞いたよ」
ルーシーの側でリルとクウコがパンパンに口を膨らませて、モグモグ何か食べている。2人の両手にはお菓子を持てるだけ持っているから、一気に口に入れたのだろう。あとで口を拭いてやらないと・・。
「あぁ、ギルドに立ち寄って依頼報酬もらってから来たんだ」
カウンター前の回転椅子にリルとクウコは座り、両手に持ったお菓子を夢中になって食べている。ああ・・食べカスが床にポロポロと・・。そして、リサの横に立ったルーシーがカウンターに肘をつき口を開く。
「そしたら、召喚者披露パレードの事は耳に挟んだね?」
「聞いたよ」
俺の左腕に抱きついていたカラの指先に力が入る。
「私とリサは、今日は外に出たくないの」
カラの言葉にリサが頷く。
それから、ルーシーの店でゆっくりと過ごし今は昼過ぎだ。披露パレードの始まる音が鳴り響く。ルーシーによると、パレードの経路は王城を出て噴水広場を周り王城に戻るらしい。
なんとなく観たい気持ちが湧いて来て、リルとクウコを誘ってパレードを観に行くことにした。
案の定、たくさんの出店が立ち並ぶ大通りに2人は興奮して、あれやこれや買ってとせがまれてしまい、可愛さのあまり買ってしまった。
大通りの隅で、とりあえず出店で買った肉串を2人に渡し食べさせていると右手から大きな歓声が沸き起こる。
その方向を見ると、銀色の鎧を身に纏った騎士団が先導し、屋根の無い馬車が数台列を成してゆっくりとやってくる。
先頭の馬車には、ハイド騎士団長とアイナ副団長、そして勇者と言われるあの黒髪少年が一緒に乗り、民衆に手を振っている。
俺たちは、隠密スキルを発動し勇者達から気付かれないよう対策をとった。2台目には、一度話したことがある黒髪少女のコトネ様とミオ様が笑顔で手をブンブン振っている。その他に2人の黒髪少女も乗っているが控えめに手を振っているようだ。
3台目には、黒髪少年達が大手を振っているだけなので、興味が薄れその場を後にしてギルドへ向かいアメリアからランク昇格の話を聞かされる。
「ハル、次の依頼達成でDランクになるよ」
「え?もう、Dランクに昇格できるの?」
「そうよ。ずっと1つ上のランクをこなして来た成果よ」
「そうか・・次も上のランクにしなきゃな」
依頼掲示板を眺めながら、左右に二つある頭を撫でようとした両手が空を切ってしまい下を見ると2人の姿がない。
「あれ?リル・・クウコ?」
周囲を見渡し2人を探すと、リルとクウコはアメリアにお菓子をもらって雑談をしているようだから、そのまま依頼掲示板に視線を戻す。
しばらく見ていると、一つの依頼票に目が止まる・・依頼内容は屋敷警備の割には悪くない報酬だ。
だけど、依頼主の名前を見た途端・・俺の時間が止まったように感じる。
ギルド依頼票 受付番号 貴0020
依頼・・屋敷警備(日数は3日程度)
・・時期 (ギルド経由で通達)
・・報酬 (金貨10枚)
・・備考 (細部は当日示す)
依頼主・・スパイル王国 公爵 イノストール
「・・・・こいつか。こいつがミオを・・」
この依頼票を力任せに剥ぎ取り、窓口にいるアメリアの元へ向かう。




