12章 王国離脱編 16話 地方都市ハバール⑤
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第二ラウンドが始まる・・・・。
執事のセバス・・そして
メイド3姉妹の長女セリカは槍を。
次女のライカは双剣を。
ポンコツメイドの三女のミリーは短剣に毒液を添えて・・・・
この4人と毒の影響で一時的に右目の視界を失っている俺が対峙していると、月が雲に隠れたのか暗さが増していく・・・・。
すでに隠密スキルを解除して姿を暴露している俺を囲むようにセバスとメイド3人が動き始めた。それに対応するように俺も立ち位置を変えて不利な状況にならないよう背後の茂みへと後退る。
「・・ただの野良ネズミでは、ないようですね」
「それはどうも・・」
「しかしながら、貴方の考える作戦も対策済なのです・・では!」
ザッ!
槍を持つメイドのセリカが地面を蹴り出し素早い突きで俺を襲って来るその僅かな時間差で短剣を持つメイドのミリーが飛び出す姿が見えた。
茂みの中にある立木を盾代わりに利用し身体を隠し左へと躱すと、俺の回避行動を予測していただろうミリーが俺の首元を狙い斬りかかって来ている。
「なんの!」
左目で捉えたミリーの前に土魔法アースウォールを出現させたはずが、距離感がうまく掴めていなかったため彼女の足元で一気に出現させた結果で速度を乗せたまま大きな衝突音が鳴り響く。
ドゴンッ!
「まだまだ!」
先手で槍を突き出し躱されたセリカは、自らの足を立木に当てて突進力を立木を軸に回転させ突き出された槍を斬撃へと変換させ俺の背中を狙う。
その予想外の行動にギリギリのところでしゃがみ込んで躱すと、槍が頭上を通過し穂先がアースウォールに深く突き刺さり動きを止めた。
「ぬ、抜けないわ!」
長い柄をしならせながら穂先を抜こうと必死になり隙だらけのセリカの鳩尾に立ち上がりながら膝蹴りを深く蹴り込ませ、鈍い声を漏れ腰を掴み投げ飛ばした。
「あがぁっ!」
「セリカお姉様!」
柄から両手が手放し地面を転がり茂みに寝転ぶセリカを庇いながらライカが低い姿勢のまま俺の懐に飛び込んで来た。
「はやっ!」
繰り出される双剣の一撃が軽いとはいえ、距離感が掴み難い状況のため少しずつ腕や肩が浅く斬られ出血するも同時に無詠唱で治癒魔法ヒールで治しているため、最初に受けた傷以降は血を流すことはなかった。
「はぁ・はぁ・・どうして!?・・斬った手応えがあるのに!」
目の前で起きている状況が理解できないライカは動揺しながら一度間合いを取って離れると、その向こうからミリーの声が聞こえた。
「ライカお姉さまぁ〜! ミリーもいきます・・うりゃー!」
アースウォールに激しく衝突したミリーは復活したらしく、あの短剣を持ち全力疾走している。
「ミ、ミリー!その剣は・・」
「ま、まちたまえ!ミリー君!!」
ライカとセバスの制止する声を無視して派手に短剣を振るメイドのミリーは周囲に毒液を撒き散らしながら疾走する。
「きゃぁ!」
「ぬぉっ!」
ミリーの瞳は俺を捉えたまま周囲にいるセバス達を気にすることなく走る。牽制を込めて、片手剣を薙ぎ払い切っ先から風魔法ウインドカッターを放つ。
風圧で斬り飛ばされていく草木の範囲が自分に迫ることに気付いたミリーは、ウインドカッターの範囲から逃げるため高く跳躍し木々を蹴って高く上がり木々の影に隠れ姿を晦ます。
「どこいった?」
視界から消えたミリーの行方を気配探知スキルで補い彼女の位置を捉え視線を動かし反撃の体勢を取ると、突然ミリーが急停止して動きを止める。
ぅげぇ・・
何か声が聞こえたような気がした・・。
ボサ・・。
数メートル先の地面に何かが落ちてきて視線を落とすと、短剣が転がっている。
「・・短剣?」
見覚えのある短剣を見て数歩足を動かし、ふと見上げると枝に絡みつくように手足を力なくぶら下がるメイドのミリーがいた。
どうやら、あの枝に激突して気絶し短剣を落としたのだろう。そのまま短剣を拾い上げてアイテムボックスに収納し武器を取り上げ無力化し、セバスとライカに目を向ける。
2人は、自身についた毒液を白い布で拭っているところで俺から視線を外している。
(いまだ!)
頭上の脅威は自爆してくれたから、残りはあの執事と双剣メイドの2人を排除すればここから離脱できると判断し一気に終わらせることにする。
再び隠密スキルを発動し姿を眩ませて最短距離を駆け抜ける。僅かに聞こえる足音が2人に聞こえた時には、もう俺の片手剣が2人を斬り倒している時だ。
片手剣の斬撃の軌跡はセバスの胸元を切り裂き、そのままライカの腹部へと襲いかかり倒れた2人を見下ろしながら俺は走り抜ける。
俺の考えが現実となり片手剣がセバスの胸元を深く入り鮮血が吹き出し、そのまま力任せに次のライカの横腹にあと少しで刀身が斬り裂くところで俺は身体の軸を右横へと強制的にズラされると同時に足から崩れ落ち地面にうつ伏せのまま勢いよく倒れ込み口の中に土が入り込んだ・・。
「ぐぁっ・・」
突然倒され、左横腹が急に熱くなり激痛が走る。下半身に力が入らず痛む横腹を左手で触ると何かが俺の腰を貫いている。これを抜かないと治癒魔法が行使できない。
「クソ・・早く抜かないと、血を失い過ぎてしまう」
勢いよく倒れたせいなのか、いつのまにか茂みから出ていた俺は、ゆっくりと痛みを堪えながら貫いているモノを震える左手で抜く。
ザッザッザッ・・
砂利を歩く足音が聞こえ止まると、左手で掴んでいたモノに僅かな振動を感じた直後に一気に差し込まれた。
「ぐぁっ!」
ゴリッと何とも言えない感触と音と激痛で意識が飛びそうになりながらも背後から勝ち誇った声がする。
「もう貴方の完全敗北です。このまま死に行きなさい・・・・セバス!」
深く突き刺されたモノが背後から聞こえた声主からして槍使いのセリカだと分かった。また運が良かったのか、穂先が突き抜け地面に刺さり俺の身体には柄の部分になっている。
「がっ・・ごのまま・・柄えを折れば・・」
瀕死の状態の俺よりも、斬り倒されたセバスの介抱を優先させているメイド達が慌てている声がするも、今の俺はそれどころじゃない。
まだ動く右手でアイテムボックスから解体用ナイフを取り出し風魔法ウインドカッターを切っ先に纏わせ、背中側の柄を切断する。
そのままうつ伏せの状態から仰向けになり横腹から突き出た穂先を掴み抜こうとした時に、視界にセリカが入りそれを阻止する。
「抜かせないわ・・このままよ」
「はっ・・放しやがれぇ・・」
「ふふっ・・ネズミは駆除しなきゃだめなの・・これは、メイドの務め。それに、私の大事な槍が壊されてしまいましたから、その代償よ」
追い込まれてしまう俺は、ここで死ぬのかという思いが頭を過ぎると新たにこの場所に近づく存在を感じ、目の前のセリカも俺から視線を外しその方向に顔を向ける。
「ちょっと!ここの屋敷の使用人は、いつまで客人を放置するのよ!?当主の躾がなってないんじゃないの?おバカなの?」
不意に少女の苛立った声がこの場に響き渡る。とってもご立腹のようだ・・その少女の声を聞いて、なぜか俺は笑ってしまった・・。
「ねぇ、何が可笑しいのそこのメイド?」
ライカは立ち上がり、その少女の問いに答える。
「子供であろうとも、こんな夜更に貴族の敷地に無断で入ることは許されません」
「私の質問の答えになってないんだけど?それに、そこで寝ているのは誰?」
「笑ってもいませんし、これが誰だろうと子供の貴方に関係ありません」
「・・そう。でもね、そこの彼を迎えに来たの」
「不思議なことを言いますね。この野良ネズミは屋敷に侵入したので駆除したところです」
「駆除・・した?」
少女の声が一段と低く冷たさを放った。
「はい。まだ虫の息ですが、もう少しで命が尽きるところですよ」
「ふざけるなよ・・・・小娘の分際で」
「小娘?・・どう見ても貴方の方がお子様ですよ」
俺は、右側にいる少女に助けを求めるように右手をゆっくり伸ばすと、それを邪魔するようにセリカに踏み付けられてしまった。
ドンッ!
「んぎゃ!」
突然セリカは吹き飛ばされ姿を消した代わりに、目の前に黒髪黒目のアリスの顔があった。
「アリス・・か?」
「うん。遅くなってごめんなさい」
アリスが俺の横腹から突き出ていた穂先に触れると粒子となって消えていき、出血する傷口を小さな手で優しく触れる。
「・・綺麗な手が・・血で汚れるぞ・・」
「汚くないよ、ハルの血だから、それに右目は見えてるの?」」
アリスの長い黒髪が垂れて、毛先が俺の頬に触れて少しくすぐったい。
「今は何も見えてないよ。左目だけ・・」
「次は右目ね、ハル」
いつのまにか激痛だった横腹の傷の痛みは消えて、優しく押さえられていた圧迫感が無くなり両手で頬を包まれている。
「・・アリス?」
「ダメ・・このまま・・動いちゃダメ」
アリスの顔が近づき黒く大きな瞳が目の前にあり見つめていると、スッとアリスの顔が動き彼女の口が俺の右目を覆うと暖かい温もりを感じ離れると右目もアリスの顔を見ることができた。
「・・見えるよ、アリス。ありがとう」
「うん。もう解毒できたから大丈夫だよ。それに、あと少しであの2人もここに来るから・・立てる?」
「あぁ、立てるよ」
アリスに右手を掴まれ引っ張られながら俺は立ち上がると、倒れたままのセバスの前にメイド3姉妹が立ち並んでいる。
アリスは俺の右手を握ったまま1歩前に出てメイド達に告げる。
「このまま戦闘は続ける?命が欲しければ、このまま執事を連れて早く屋敷に戻った方が得策よ。これは、私からの最初で最後の優しさよ・・どうするの?」
「「・・・・」」
ライカとミリーは口を閉じたままでいると、セリカが口を開く。
「このまま見逃すわけにはいきません。主人の命令は絶対なのですから」
「「 セリカお姉様・・ 」」
「そう・・その判断がその2人の命を犠牲になることを忘れないでね・・ほら、もう来ちゃったわ」
アリスが左の方を指差し、握っていた手を離す。
「・・いったい、何が来るのでしょうか?そうやって、ここから逃げるための時間稼ぎでは?」
そして僅かな時間の後に俺の気配探知にあの2人の気配を捉えた。
「「 ハルッ!! 」」
月夜に照らされ輝く長い銀髪と金髪の2人が俺の名を呼び飛び込んで来た。
「リル・・クウコ・・」
「怪我ない?大丈夫?」
「リル、ギリギリのところでアリスに助けてもらったよ。アリスが来てくれなかったら、マジで危なかった」
「そうなんだ・・ありがとね、アリス」
「う、うん。いいよ別に・・間に合ったことだし」
抱き付いていたリルは顔をアリスに向けて珍しく礼を伝え、クウコは血だらけで破れたシャツを触れて呟く。
「・・ハル、もう痛くない?」
「ん?・・あぁ、もう大丈夫だよ」
「そっか・・」
クウコは俺から離れセリカの前に立ちリルはクウコの横に立つと、突然現れた2人に戸惑うセリカが聞く。
「あ、貴方達はいったい・・」
「ハルを傷付けたのは?」
クウコが聞くもセリカ達は答えない。
「ハルのお腹を刺したの誰?」
リルの殺気を込めた問い掛けにセリカ達が座り込み俯く。
「・・クウコ、とりあえずあの転がってる執事を消して」
「いいよ、リル」
クウコが右手を伸ばし広げていた手を握る。
ブシュッ!
セバスの全身から血が飛び散り全身が握り潰されていき、傍にいたライカとミリーはセバスの血で全身が赤く染まる。
「ありがと、クウコ」
「うん」
突然の出来事でセリカはセバスの血で真っ赤に染まった2人を見つめたまま固まり、リルはゆっくり歩きセリカの傍に立つと彼女のスカートに触れる。
「・・な・・なに?」
震える声を絞り出すセリカに、リルが問う。
「ねぇ・・この血は、さっきの男の血じゃないよね?」
「えっ?・・これは・・」
セリカは、リルから視線を外し俺の方を見てから再びリルを見た。
「やっぱり・・この血はハルのなんだ・・」
リルは触れていたスカートから手を離し、クウコの横に戻ると2人が俺のところへと帰ってくる。
「ハル、このまま3人も消していい?」
「リル、そうだね・・3人よりもあの屋敷を消した方がいいかも」
俺は貴族の大きな屋敷を指差す。
「おうちを?」
「あぁ、あれが悪の根源が住んでいるから」
「わかったよ、ハルがそう言うなら。クウコもそれでいい?」
「いいよ、そうしよう」
「「 ん〜!! 」」
するとリルとクウコが両手を上げて抱っこを所望する。よく見たらいつもの寝間着の格好の2人だったから急いで来てくれたのだろう。そのまま2を抱き抱え屋敷の方向を向く。
リルとクウコは両手を伸ばし同時に一気に下へと振り下ろした。
「「 せ〜の〜えいっ!! 」」
ズガァーン!!!!
爆音と共に屋敷が崩壊し巻き上がる砂埃の中へと姿を消していったのだった・・・・。




