3章 王城編 2話 2人との再会
「さぁ、行こう」
リルとクウコは頷いて、両手を広げて待っている。
「・・・・え?・・抱っこ??」
「「ん」」
はやまる気持ちを何度も落ち着かせ、精神を安定させることができた俺に2人の仕草に何も緊張感は皆無だそうで、1人狼狽えてしまう。
「・・ちょ・・いやいや、マジで?」
「「・・・・抱っこ!」」
「お・・仰せのままに」
まるで王女様のようなオーラを出す2人に負けて、思わず片膝をついて了承してしまう俺がいた。そのまま2人を抱き抱えて、隠密スキルと気配探知スキルを発動させて準備完了だ。
これでしばらくは、俺達の不法侵入はしばらくバレないだろう。さすがに高位スキル保持者がいれば看破されてしまうだろうが。
「クウコ・・わたしたちもスキル使うよ」
「準備オッケーだよ、リル」
2人も何かのスキルを発動したのだろう。いつもと違う感覚が全身を纏っているようだ。
「2人とも、なんのスキル使ったの?」
笑いながら2人は答える。
「リルは気配探知だよ〜!もう、2人の居場所が分かっちゃった」
「クウコは幻惑だよ〜!わたしたちは騎士になりました〜!」
言っている意味がわからない。もう2人とのレベルが違い過ぎて、俺のスキルが霞んでいく。
「・・あはは。俺のスキルは無用だったね」
「ニヒヒ・・そのうちハルも、わたしたちと同じようにできるからね」
クウコが何か言ってるが気にしないでいよう。
「それじゃ、このまま歩いて入ってもバレ無いってことかな?」
「「そだよー!!」」
この緊張感のカケラも無い少女2人を抱き抱えたまま、王城門の通用口から堂々と侵入する。詰め所には守衛が3人いるうちの1人に呼び止められた。
「お疲れさまー。今日は1人で巡回かい?」
「あーお疲れさまです。この時間は1人なんですよー。他は召喚者様達の護衛に行ってますから」
俺は、高鳴る心臓の音を聞かれないか心配しながら、守衛と言葉を交わしこの場を離れる。城内へ無事に入ってからは、リルの誘導に従い最短でリサとカラの部屋へ向かう。
「ハル・・次の角を右ね」
「オッケー」
俺は、キョロキョロ見渡してしながら初めて歩く王城の長い廊下と階段を通り抜けて、目的の部屋へ近づいて行くなか耐えきれず、リルに聞いてしまった。
「リル、あとどれくらいかな?」
「あの角を左に曲がって、少し歩いたら右側にある部屋だよ」
それを聞いて、足早になってしまう。早く会いたい気持ちと、俺を本当に憶えていてくれているかの不安な気持ちが混ざり合っている。
最後の角を曲がり、右前に部屋のドアが視界に入る。この部屋だけ重厚な感じがする。ドアの前で立ち止まり、ドアノブをジッと見つめ・・ドアノブを右手で握った瞬間。
「待って!幻惑スキルを解除するから・・もういいよ」
「あっ伝えるの忘れてたけど・・ハル、中に3人いるから待っ・・」
ガチャッ
ドアをゆっくり全開まで開けると、薄暗い部屋の奥の窓際に寄り添うように立っている2つの人影が見え、それを追い詰めるような位置にもう一つの人影があった。
「おい!誰が勝手に部屋に入っていいと言った!この部屋は勇者専用の部屋と知っているのか!出て行け!!」
この若く、上から目線の口調は最近何処かで聞いたことがある。
「あの・・こんな暗い部屋で何をされているのでしょうか?」
勝手に入ってきた立場で質問するのも変だが、気にしないでおこう。
「はあ?でめぇ、ふざけてんのか!俺の部屋から出て行け!」
俺は男の言葉を無視して、ゆっくり部屋に入るが、リルとクウコは廊下で警戒していてくれるようだ。
「だ・・誰ですか?」
この声は間違いなく、リサの声だ。
「ここは、私達の部屋ですよ」
次にカラの声が耳に入ってくる。ものすごく懐かしい2人の声だ。
「そうだ・・俺達の部屋だ!夜伽の邪魔をするな!」
懐かしんでいたところに、男の雑音が耳に入り苛立ってしまう。
「よ・・これから夜伽をするような風には見えないのですが・・勇者様!」
部屋にある魔法ランプに明かりを灯し、部屋が明るくなると、全身が透けて見える程の薄い生地の服を着ているリサとカラが視界に入り、2人が俺に気付く。
「「ハル!!」」
リサとカラが俺の名を呼び、胸元まで飛び込んできた。
「リサ、カラ迎えに来たよ・・遅くなってゴメン」
2人は号泣し落ち着くまで頭を優しく撫でてやった。するとリサが顔をあげる。
「ハル・・探したんだよ・・いったいどこにいたの?」
カラも顔を上げて、俺の答えを待っている。
「すまない。ずっと探してくれてたのはルーシーから聞いたよ。しばらく、監禁されていたんだ」
「そんな・・・・見つけようが無いじゃん」
リサとの会話に勇者が割り込んで来る。
「監禁されていたのに、よく釈放されたもんだな!」
「あぁ。運良く監禁中に勇者召喚が成功した記念に釈放されたらしい・・」
カラがギュッと抱きしめて、落ち着いたのか話せるようになった。
「生きてる・・また会えてよかったよ・・ハル」
「詳しい話は帰ってから話そう」
勇者が笑いながら、2人を連れて帰れないような言い方をする。
「それはムリな話だ!その女2人は国王から勇者への贈り物だ。俺専用のメスなんだよ!諦めて帰れ!」
勇者の言葉を肯定するように、リサが泣きながら告げる。
「ハル、迎えに来てくれてありがとう。でも・・・・もう遅いの」
そして、カラも勇者を肯定するように・・。
「ハル・・私とリサは勇者様に・・み・・身も心も献げると国王様の前で誓ったの」
カラが自分たちの状況を俺に告げた後、泣き崩れてしまった。
「リサ・・カラ・・」
泣き崩れてしまった2人にどうしていいかわからないでいると・・。
「は!・・泣く女を相手にしながらヤルのも悪く無いかもな。 冒険者さんよ・・本人も認めてんだ。諦めて帰れ」
勇者の男は勝ち誇った様に言い放ち、ベッドに腰をかけている。
「リサ、カラ・・そうなんだ。もう・・もう俺は必要ない存在なのかな?」
リサとカラは、俯いたまま俺の問いに答えてくれる事はなかった。
リサとカラから必要だと言う言葉を聞きたかった俺は、聞けなかった現実に動揺を隠せず、ゆっくりと触れていた両手を2人から離し離れて力無く立ち上がり勇者を見る。
「くっくっくっ・・残念だったなぁ冒険者。もう2人はな・・今夜は朝まで2人のカラダは、いや全てのアナは俺様、勇者様専用だ!タップリと楽しませてもらうよ」
勇者がリサとカラを使い捨てのモノの様な扱いで、弄ぼうとする言葉に俺の心の中にある何かがブッツリと切れそうになる。もう何もかも消してしまえと囁く心の奥底にいるちっぽけな黒い存在が・・・・。
そのちっぽけな黒い存在が心の底から俺の頭の中へと侵食しようとしていることに自覚がない。ただただ、リサとカラを目の前にして連れ戻せない現実に悔やみ、勇者の言葉を憎む。
そうだった・・もう俺に帰る場所と待っている人は居ないんだった・・・・。
目を開けているのに、視界が周辺から中心に向かってだんだん暗くなって視界が奪われていく。
視界が奪われていくと、意識も何者かに奪われていく・・・・。
ドドン!
不意に背後から衝撃を2回受ける。
「「ハル!!戻って!!」」
リルとクウコの声で、侵食されかけていた頭が解放され視界も元に戻っていく。足元を見ると、リルとクウコが抱き付いて見上げている顔が見える。
「リル、クウコ・・そっか、また俺・・ありがと」
「「よかった・・間に合った」」
俺はまたリルとクウコに救われた。誰にも奪われたくない。そして、幼馴染のリサとカラも。だから、もう一度聞く。
「リサ、カラ・・2人の本心を教えて欲しい。いろんなしがらみを抜きにして」
「「・・・・・・」」
「・・・・・・」
俺の問いに答えない2人を見て、ベッドで嘲笑う勇者の声が部屋に響き渡る。
リサとカラの無言に俺の胸はグッと握り潰されそうな感覚が染み渡り、深く深く深呼吸をして落ち着かせる様にする。2人の答えはもう決まっているようだった。この空白の2年間は長過ぎた・・・・。
これ以上、幼馴染の俺がこの場に居座り、断る言葉を言わせるのは苦になると察して、本当に最後なる言葉を探す。
「リサ・・カラ・・俺が居なくなって、猫人族のミオが捜索を手伝って欲しいと頼まれてからは、貴重な休暇と貯蓄を浪費して王都中を探してくれてたんだね。商店のルーシーから聞かされたよ。本当に・・本当にありがとう。あのとき俺は、ダグラスに呼ばれギルドで騎士団に拘束されて、この王城の地下独房に2年間監禁されていたんだ」
俺と視線を重ねたリサとカラは、初めて聞いたような顔をしている。きっとギルド職員には、違う話をダグラスが流していたのだろう。
「そんな・・そんなのないよ・・こんな近くに」
リサが小さく呟いている。
「だって・・ギルドマスターが・・マスターが」
俺にくっ付いているリルが自然と会話に入ってくる。
「そのギルドマスターなら、リルが消したよ」
「え?・・ギルドマスターを消した?」
カラが理解できない表情でリルに聞いてくる。
「そう、この世界からね」
「ほ・・本当に?」
この部屋の空気が凍るような冷気に支配され。
「ハルの敵は、わたしとクウコの敵でもあるの。だから消した」
リサとカラは驚いている。ギルドマスターのダグラスは、現役を退いたとはいえSランクまで登り詰めた男だ。その強大な存在をこの世界から消したと言うのだから。
「本当なんだ。・・リサ、カラ一緒に帰ろう」
リサとカラは互いの顔を見て頷いている。そして立ち上がり、俺と視線を重ねて口を開く。
「「・・ゴメンなさい!!・・ハル!!」」
俺に駆け寄る2人を話さないよう、強く抱きしめた。
「ほんとうは・・本当はすぐにハルの元へ行きたかったの。でも。。でもね、ハルに迷惑がかかるんじゃないかと思って・・」
リサが隠していた想いを打ち明けてくれる。
「本当なの。ギルドと騎士団の存在が恐くて・・国王様の前で、あんなことを言わされるなんて思っていなかった
。ハルの側にずっとずっと居たい気持ちはあの時から一度も変わってないの」
カラも同じように打ち明けてくれる。本音を心の奥に隠し国家に尽くそうとしていたことがわかった。
「ありがとう。これからは、ちゃんと2人を守り抜くから一緒に帰ろう」
「「うん。お家に帰ろう・・」」
今の俺にはリサカラが抱き付いているため、リルとクウコは少し離れた場所に立っている。その2人の顔を見ると満足そうな表情になっていて安心する。
「さぁ帰ろう。リル、クウコこっちにおいで」
リルとクウコが側に寄ってきて、足元にピタっとくっ付く。そして部屋を出ようとしたら、勇者が部屋のドアの前で抜剣し立ち行き場を阻んでいる。
「そうだ・・勇者いるの忘れてた・・」




