1章 はじまり 2話 出会った二人
カラと別れギルドから帰って来たハルは玄関を開けて中に入る。
「ただいまー」
「・・・・・・」
相変わらず家は暗く静かだ。一人暮らしだから当然か。
まぁ、いつものようにリビングにある魔法ランプに灯りをつけてソファに座り、アイテムボックスから帰りに買った肉串とコップを取り出すと生活魔法で水を注ぎ夕食を食べ終える。
「久しぶりにアレでも見るか・・ステータス」
目の前にステータス情報が浮き上がってくる。
ステータス
名 ハル (男)
種族 人族 16才
職業 冒険者 Cランク
HP 990/1000
MP 1400/1500
魔法 全属性
スキル 剣術Lv5 隠密Lv3 気配探知Lv3 鑑定Lv4 奪取Lv3
称号 偽装者
「相変わらず、よくわからんステータスだな」
一人呟いてステータスを閉じた俺は、ソファから立ち上がり生活魔法クリーンで全身を綺麗にし寝間着に着替え寝室のベッドに入りこむと一気に眠気に襲われて深い眠りについた。
目が覚めると見覚えのない大広間に立っている。周りには騎士や魔法師達が皆同じ方向を見ている。
気になった俺もその方向に視線を向けると、黒髪黒目の少年が俯いて立っている。
年齢と背丈は俺と同じくらいなのだろう、物凄く脅えているようだ。
すると、窓側にいる王族の少女が少年に近寄る。
「召喚者よ。あなたのステータスをもう一度、わたくしに見せなさい」
「・・え?」
少女は威圧的に少年に話しかけているが、少年の反応にイラついているようだ。
「右手を前にかざし、わたくしの言う通りステータスと唱えなさい!」
「は・・はい。ステータス」
黒髪黒目の彼の前にステータスが浮き上がる。
少年に近づく少女を目で追い様子を伺っていると、少年のステータスを見た少女は眉間にシワを寄せて不機嫌な表情になる。
「こ・・この貧弱なステータスは召喚者に値しないわ・・騎士団長!この少年は例の森でお願いします」
騎士団長の男が少女に近づき一礼をすると、騎士数名を呼び寄せて少年を拘束し大広間から強制的に連れ出して行く様子を見送る。
少年が何か叫んでいるが雑音が酷くなり聞き取れないまま扉が閉められて行くところで頭痛で目を瞑ると意識を手放した。
「ん・・もう朝か。あの少年の夢はしばらく見てなかったのにな」
天井を見つめたまま、自然と右手を天井へ伸ばすと、ふと右手首に巻き付けている赤い布状を見つめる。
「たしか・・ミサンガ・・だったかな?」
誰がくれたか覚えてないし、ミサンガという名前もホントなのかわからないけど、大切な物だということだけは覚えているからずっとつけている。
ベッドから立ち上がり支度を済ませて家を出て冒険者ギルドへ向かった。
途中の大通りにある出店で朝食の魚サンドを二つ購入しアイテムボックスにしまう。
ギルドに入ると朝早いためか、依頼掲示板を見る冒険者も数人しかいない。
昼間と違い静かなギルドの1階ので俺は休憩所奥の席に座り朝食の魚サンドを食べてるとギルドの扉が勢いよく開いてリサが滑りこんできた。
バターン!
「セーーーーフ!!」
「アウトだ!バカヤローーー!!」
リサの飛び込みに間髪入れず、換金窓口に居たカラが激怒し机を飛び越え、鬼の形相でリサを捕えて引きずりながら事務所の奥へと消えていく。
たまたま居合わせた俺と他の冒険者はカラの変貌ぶりに驚愕し、これからは絶対にカラを怒らせないようにしようと心に誓い互いに肯く。
しばらくして、赤い目をしたリサが受付窓口に座って業務をこなしているが凹んでいるようでいつもの笑顔がなくたまに溜め息をついているが、遅刻したのが悪いよなと思いつつ掲示板へ移動し今日の依頼を探すことにした。
「薬草採取依頼が無い・・久しぶりに魔物討伐にするか」
掲示板からウォーウルフ討伐票を手に取りリサのいる受付に向かう。
「おはようリサ。依頼手続きよろしく」
「おはようハル。って薬草採取じゃないの?」
「あぁ。久しぶりに討伐依頼しようと思ってね」
リサに依頼票とギルドカードを渡し受理手続きを済ませてカードを受け取り、ギルドを出て依頼場所へ向かうことにした。
「ハル気を付けてね」
「あぁ」
ギルドの扉を閉める直前に視線を感じ振り向くと、リサが不安そうな顔で俺を見ていたから笑顔で手を振り扉を閉める。
依頼場所は、王都の西に広がる森の近くを通る街道だ。
大通りを歩き噴水広場を西へ曲がり西門へ向かうと見慣れた奴が立っていた。
「よう、トニー」
「おぉ、ハルが西側にくるなんて珍しいな」
「そうか。今日はウォーウルフ討伐なんだ」
「薬草採取のプロが魔物討伐?お前死ぬ気か?」
トニーが俺をバカにしてくるが、確かにここ1年近くは薬草採取しかしてないことを思い出す。
雑談をしながらギルドカードを提示し、相変わらずちゃんと確認するトニーに苦笑いしながら胸元にカードをしまう。
「それじゃ行ってくる」
「暗くなる前に帰らないと野宿だからなー」
「わかってるよ。サクッとこなしてくるよ」
トニーと別れ街道を歩き西の森へ向かう。途中に知り合いの冒険者パーティーとすれ違い、報酬の分け前の話で盛り上がっているようだ。
ソロの俺には縁のないことだけどなと思いつつも羨ましい気持ちもあった。
森に入る前に水分補給を済ませて、気配探知スキルを発動させると右前方に魔物の存在を捉える。
風の方向を確認し風下からの経路を選び近づいて行く。
もちろん隠密スキルを忘れず発動し存在を認識し難くさせる。
ある程度近づき茂みから視認すると、痩せたウォーウルフ五匹が何かを貪っていて周囲の警戒が疎かになっている。
今が絶好のチャンスと判断し飛び出そうとした瞬間!
「ここで何してるの?」
ドキッ!!
不意急襲的に尋ねられた俺は、その者の接近に気づかなった衝撃に微動だにできずにいた。
「ねぇ?」
「・・・・・・」
「おーい」
ペシ!!
「あぅ」
右頬を軽く叩かれた俺は、ゆっくり振り向くとそこに猫人族の少女がいた。
見た目は14才くらいで幼く、綺麗な黒髮を肩まで伸ばし彼女の目は、右目が緑色で左目は碧色のオッドアイだ。
ペシペシ!!
「ね・・ねこパンチ」
「はい?・・・・ネコじゃなーい!」
「でも・・ねこ耳がピコピコって」
俺は、初めて見た猫人族の頭の上でピコピコ動くねこ耳に指を指して言う。
「だ〜か〜ら〜ネコじゃないの!!」
少し強めのねこパンチを一発もらい、落ち着きを取り戻し彼女に謝った。
「ところで、アレ倒さないの?」
「いや・・行こうと思ったら君が声をかけてきたからさ」
「そっか、ゴメンね」
そう言いながら彼女は俺に近づき、すぐ隣でしゃがみこむと茂みの隙間からウォーウルフを見ている。
目の前でねこ耳がピコピコ動き、手の届く距離に細長い尻尾が左右にゆっくり揺れている。
物凄く触りたい衝動に駆られるが、ギリギリのところで我慢していると。
「ねぇ、キミの名前は?」
少女は振り向き顔がとても近いく、俺の感情が見透かされそうな距離だ。
「ハル・・。君は?」
「ミオ。猫人族の村のミオだよ」
「よろしくな、ミオ」
「うん。よろしくハル。そろそろアレ倒さないの?」
「あぁ。一緒に倒そう」
二人は目で合図すると、同時に茂みから飛び出してウォーウルフへ仕掛ける。
俺は風魔法ウィンドカッターで中央に陣取るリーダーらしきウォーウルフの体を二等分し絶命させ、剣を抜き左端のウォーウルフに狙いをつける。
同時に飛び出したミオは、低い姿勢で駆け抜け高くジャンプし双剣を抜き右側のウォーウルフ2匹の首を同時に切り落とす。
2匹を絶命させたミオは、直ちに横へ移動し残り1匹の横腹に双剣を突き刺して立ち木で押さえつけている。
一呼吸遅れて、俺はミオに押さえつけられたウォーウルフの首を切り落とし最後の1匹を絶命させ討伐は終わった。
「お疲れさま。ミオは双剣使いなんだね」
「そだよ〜双剣なんだ。かっこいいでしょ?」
互いに刃に付着した血を拭き取りながら会話を続ける。
「かっこいいね。俺は片手剣だから双剣相手は苦手なかもな」
「にひひ〜褒められちゃった」
俺はウォーウルフの討伐部位をもらい、ミオは解体をして村に持って帰る肉を確保しお互いの利益が一致する。
「依頼達成したから俺は王都に帰るけど、ミオはどうする?」
「わたしは村に帰るよ。予想外に肉の量が確保できたしね」
「そうか。気をつけてな」
「うん。ハルもね。またどこかで」
「あぁ、またどこかで」
ミオと別れる際に握手を交わした。ミオの視線が俺の右手をジッと見ていたけど特に聞かなかった。
ミオは笑顔で手を振り歩いて行く。時々振り向いて手を振るから、なかなか俺は帰れない。
しばらくしてミオの背中が遠く見えなくなったから、森を抜け早足で移動し王都へ帰り着いた。
ハルが王都へ帰り着く頃、ミオは猫人族の村まで山2つ手前のところまで歩いていた。
「ちょっと休憩しようかな〜」
少し先にある倒木には、陽が差し込み休憩には丁度良さそうな場所だった。ミオは軽くジャンプし倒木に座り背伸びをしてゆっくりと過ごすことにした。
「ん〜陽射しが気持ちいいな・・・・」
ポカポカ陽気がミオを包み込み全身を優しく暖められていくのを感じていると、幸福感に満たされると共に眠気が襲ってきた。
ゆっくりと目を閉じてゆっくりと流れる時間を過ごしているミオは、とても幸せそうな顔をしている。
「・・・・・・」
ズシュッ!!
「あぅ・・」
ドサ!
突然、横腹に衝撃と激痛に襲われたミオは倒木から地面へ受け身が取れないまま落下した。
「痛い痛い痛いよ・・どうしてどうして。はやく逃げなきゃ」
ミオは上半身を起こして立とうしたが、体が痺れて思うように動けない。
右横腹に矢が深く刺さっていて抜くこともできない。すると、周囲から何者かが近づいてくる気配を感じ気持ちが焦るが、全身が痺れに支配され動けず意識が朦朧としてくる。
視野はだんだん狭くなり呼吸も浅く早くなり周囲の音も遠くなっていく。
死という恐怖に襲われていると、人族の会話を聞いたのを最後に意識を手放した。
「ガウス。薬が効いたみたいだぞ」
「あぁ。しかも猫人族の女は高く売れるぞ」
意識を失ったミオを人族は、持っていた大きな麻袋に手際よくミオを入れて担ぎ森を出て行った。
そして、ハルとミオが出会い別れた日から1年の月日が流れていった・・・・・・。




