1章 はじまり 17話 南の森で遭遇
目が覚めた俺は、テントの天井を見つめる。静寂なテント内は、二人の小さな寝息がよく聞こえる。ゆっくりと毛布から抜け出し、二人の頭を撫でると手に絡むことを知らないのではと思うくらいサラサラしている。
「今から飯作るからな・・」
寝ている二人に小さく呟き、テントを出る。寝る前に置いていた大きめの薪は、その使命を終えようとしている。
残していた薪を積んで、風魔法と火魔法の併用で焚き火の火力を上げてやる。
アイテムボックスから、昨夜作った鍋を取り出し温めながらパンに挟む肉が焼きあがったら出来上がりだ。
朝飯に準備を夢中になっていると背後から視線を感じ振り向く。
テントの幕をめくり、顔だけヒョッコリ出すリルとクウコと目が合う。
「「・・・・できた?」」
「・・ん?」
「「ごはん・・」」
二人の頭が、カクっとかたむく。
「あぁ、もうできるよ」
「「やったぁーー!!」」
テントの幕を勢いよくめくって、二人が飛び出してくる。
朝陽を全身に浴びながら、トテテテっと走り寄って来る姿は美少女の可愛さがあり、自慢の銀髪と金髪がキラキラ輝きを放つ姿は絶世の美女にも見える。
だが・・・・・・
ダブルで、フリースタイルだ!
「ちょっと、まてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃ!!
リルとクウコは、キャッキャしながら俺の元へダイブしてくる。勢いに負けないよう踏ん張り、両腕で抱き上げると両手に柔らかい感触を感じる。
「「ぃや・・ん」」
自然体の二人を抱き抱えたため、柔らかく無垢なオシリを掴んでしまった。
「わりぃ・・」
そっと下ろして、イスに置いていた毛布で包んで座らせる。
「誰かに見られたら、どーすんだよ」
「誰もいないよ〜! ねークウコ」
「ね〜リル〜」
とりあえず、できあがっていた朝食を二人に渡し食べている隙に、脱ぎ散らかしてあろう2人の物をテントまで回収に行き戻ってくると、おかわりをせがまれてしまい俺のを分けて与えた。
「「食べたー!!」
食べ終わった二人の支度を済ませて、野営セットの撤収をする。二人には、周囲に設置していた魔物避け魔法具の回収をしてもらう。
「ハル〜持ってきたよ〜」
回収を先に終わらせたのはリルだった。
「ありがとう、リル。クウコは?」
「もう少ししたら、戻ると思うよ」
「終わったよ〜」
リルが帰ってきた反対の方向からクウコの姿が見えた。
「おかえり、クウコ・・ありがとな」
「うん。がんばった」
クウコが頭を出して、ケモ耳をピコピコしている。頭を撫でて欲しい仕草だから、撫でてやるとリルもやって欲しいと言ってリルも頭を出してくる。
「わかったよ」
リルのケモ耳もピコピコしている。二人ともカワイイ子たちだ。
「そろそろ、薬草採取に出発するぞ?」
「「は〜〜い!!」」
宿営地に人間が居た痕跡が残ってないか十分確かめて出発した。森の南にある採取地域に向かって。
気配探知スキルを発動してるから、周囲の状況がよくわかる。さっきから、二人のケモ耳も活発的に動いている。
森の中を東へ進んでいるが、魔物が一切近づいて来ない。
「そだね〜みんな寝ているのかな?」
俺の前を歩くリルが振り向きながら言ってくる。後ろ歩きになっても転けそうな気配がない。
「リル、転ぶなよー」
「へいき、へいき〜〜たのしいね〜」
「そうだな、このまま目的の場所に着けばいいな」
俺の右で並んで歩いていたクウコが、急に立ち止まり歩いて来た方を凝視する。
「どうしたクウコ?・・・・クウコ?」
「あっ・・なんでもないよ。いこ」
「そう?」
俺はクウコが見た方向に集中したが、気配探知には何も反応は感じられなかったため、再び歩き出す。
『リル・・気付いた?』
『うん・・強者の存在をたくさん感じた。その近くにも集団がいる』
『人族の気配だけど敵かな?それと、何か違和感を感じる』
『クウコ、今は悟られないようにしよう』
『わかったよ、リル。でも、何かあったら動くからね』
『わかってるよ、クウコ』
森の中で足を止めたのは、クウコが振り返ったときだけだった。そのためずっと歩いたため、予想より早い時間に着きそうだ。
途中に、生い茂った場所を抜けると目の前が急に視界が開ける。ところどころに、何らかの力で吹き飛ばされた痕跡がある。
「ここだけは、何かあったみたいだねー」
リルが開けた場所で走り回る。それにクウコも続いて走り、二人の追いかけっこが始まる。その様子を近くにあった倒木に座り眺める。
しばらく終わりの見えない二人の追いかけっこを眺めていると、二人が空き地の真ん中あたりで座り込み動かなくなった。俺は気になって立ち上がり、二人の側へ行く。
「おーい。追いかけっこは終わったのか?」
「「・・・・・・」」
俺の問いかけに反応しない二人の横にしゃがみ込み、何をしているのか見ると地面が一部黒ずんでいた。
リルが顔を上げると笑顔で言った。
「ここから、ハルと同じ魔力の匂いを感じる」
クウコも顔を上げて言う。
「ハルを感じるよ〜」
「そ・・そうか?いつも一緒にいるから気のせいだよ・・ほら、薬草採取に行くよ」
二人を抱き抱えて、目的地の方へしばらく歩くと、チラホラと薬草があるが依頼された種類ではないため採らない。
目の前の小高い場所に行くと、そこには目当ての薬草が生い茂っていた。二人を下ろして採取する薬草を教える。
「リル・・クウコ・・コレ見て。薄緑色の小さな花を咲かせている、この薬草をたくさん集めて欲しいんだ」
二人は、薬草にグッと顔を近づけてみている。心なしかクンクン嗅いでいるようにも見える。
「わかったよ、ハル。この草をたくさん集めたらいいんだね?」
リルに聞かれて、たくさん採ってとお願いするとクウコもたくさん採ると言って、二人が俺の側から離れていき森の中へと姿を消した。
3人一緒で採ろうと思っていた俺は一人になり、溜息をついて近場にある薬草を丁寧に採取し始める。どれくらい経ったのだろうか、見える範囲の薬草を集めた俺は倒木に座り二人の帰りを待つ。
すると二つの気配が近付いてくるのが気配探知に反応する。
ガサガサ・・ガサガサガサ・・ガサガサガサ・・
目の前にノソノソと動く草の山二つがやって来る。真っ直ぐこっちに向かって。
「「とーれーたーよー!!」」
無造作に置かれた草の山を飛び越えて、リルとクウコが飛び込んできた。不意を突かれた俺は、二人を抱き抱えたが、勢いを殺すことができず座っていた倒木に尻餅をつく・
「イタタタ・・おかえり。怪我はないかい?」
「「だいじょうぶだよ〜」」
すっとおりた二人を褒めて、集めてくれた薬草を100束に分けてアイテムボックスへ収納する。
「疲れてない?」
「「のど渇いた〜」」
二人に果実水の入った瓶を渡すと、ゴクゴク飲んでいく。
「「プハー!!」」
空になった瓶を受け取り、アイテムボックスに入れてた。
「思ったよりかなり早く終わったから、街に帰って通りの出店で肉串を買おう」
二人は満面の笑顔になり、急ぎ足で通って来た道を進む。流石に朝食抜きの俺は疲労が溜まっていたため、歩きながら体力回復ポーションを一気に飲み干す。
徐々に全身に活力が湧いてきて、疲れが吹き飛んだ。
しばらく帰る方向へ向かい森を進むと、急に二人の足取りが悪くなる。追いついた俺は、二人に話しかける。
「リル・・クウコ・・どうした?」
振り向いたクウコが小さな声で告げる。
「このちょっと先にたくさんの人が戦っているの」
「冒険者パーティーじゃないかな?大丈夫だよ」
クウコを抱き抱えて、少し先にいるリルの元へ向かう。
「リル?・・先に行かないのかい?」
「ハル・・人と魔物が戦ってるみたい」
「そうか・・邪魔しないように行こう」
「でも・・」
不安そうな顔をするリルを抱き抱えて、俺はこのまま歩き続けながら気配探知で様子を伺うが何も反応は無い。
そのまま歩き続けると、俺を掴んでいる二人の手に僅かながら力がこもっている。
きっと怖いのだろうと思い頬擦りをすると、二人は俺の肩に頭を置き身を委ねて目を瞑る。しばらくすると、歩くリズムが良かったのか、二人はいつの間にか寝息をたてている。
・・・・ヒュン!
・・ダダン!
突然、2本の矢が同時に俺の左右を通過し、背後の木に突き刺さる。俺は素早く木の陰に隠れて様子を伺っていると、男の声が響き渡る。
「我が騎士団を邪魔をする者よ!・・・・大人しく姿を見せろ!」
気配探知に反応が無い。きっと高レベルの阻害魔法が使われているのだろう。男の声に応じることなく動かないでいると、火魔法ファイヤーアローが数発俺の周囲に着弾する。
どうやら直接攻撃する意思はないようだ。意図を持って着弾させている。20発ほどのファイヤーアローが着弾した場所は黒く焼け焦げている。
「これが、最後通告だ!・・姿を見せよ!」
寝ている二人を庇いながら逃げるのは困難のようだ。無属性魔法シールドを展開し隠れていた木から出ることにした。
「・・・・そのまま歩き続けよ!」
しばらく歩き続けるが、男の姿が見えない。歩くのをやめて周囲を見渡すが監視されている様子もない。
・・ヒュン
・・ドドン
足元に2本の矢が突き刺さる。完全に居場所がバレているようだ。
「貴様!命令なく止まるな!・・歩き続けろ!!」
俺は、見えない男に従い歩き続けると、リルとクウコが追いかけっこしていた広場にたどり着きそのまま広場の中心で足を止める。
瞬間、気配探知に凄まじい反応が出て周囲を見渡すと、四方から盾を身構えた騎士が姿を見せ詰め寄って来る。
鎧に描かれた紋章が見えて、王国騎士団だと認識した。
前方に騎士二人が隊列から離れると、肩に赤い線が入った騎士と青い線が入った騎士が俺に近づいてくる。その背後からは、見たことない服を身に纏った黒髮黒目の少年少女達も。
俺達に近付いてくる騎士は兜を被っているため顔は見えない。今の俺は、武器をアイテムボックスに収納しているため丸腰でいる。しかも少女を二人抱いているから、とても冒険者には見えないだろう。
肩に赤い線が入った騎士が兜を脱ぎ近付いている。
「王国騎士団団長ハイドである。貴様は、この森の南側は、王国が立ち入りを禁じている場所だということを知っているのか?」
思いがけない出会いに驚きを隠せない俺は、騎士団長が俺のことに気付いていないことに安堵する。
「騎士団長様・・申し訳ありません。冒険者の探索活動は解禁されていると、ギルドから聞いていたものですから」
周囲からざわめきが起きる。
「フン・・・・聞く必要もないが・・聞いてやろう。貴様のランクは?」
この男は見下した顔で見てくる。
「・・はい。恐れながら、ランクFの冒険者です」
騎士団長は、顔を真っ赤にして目を見開き、俺に指をさして笑う。
「ガッハッハッハッハッハ。ランクFだとー!」
周囲の騎士も聞こえたようで、鎧をガシャガシャ鳴らし大笑いをする。大勢の大人が笑い、鎧がぶつかりあう音で二人は起きたようだ。
「ん・・うるさいな・・」
「ん〜ねむたいよ〜」
「ごめんな、起こしちゃったね・・リル・・クウコ」
起きた二人は、俺から下りて周囲を見渡していると肩に青い線が入った騎士が近づいてしゃがみ込んで、リルとクウコに話しかける。
「お嬢ちゃん達、こんなFランク冒険者といるより王国騎士団といた方が安全だ」
「「あなた、だれ??」」
リルとクウコに何者か聞かれた騎士は、慌てて兜を脱ぐと、パサっと長い金髪をなびかせる。その光景に俺は胸がギュッと強く締め付けられてしまい呼吸がうまくできなくなるが、なんとか整えることができた。
「お嬢ちゃん達、ごめんなさいね。初めまして、私は王国騎士団副団長のアイナ=スクート」
リルとクウコは、アイナに近づき順番にハグをして、俺の元へ戻ってくる。そして立ち上がった姿を見るアイナは、とても大人びている。
「副団長様、このこ達の世話をするのは俺の運命だと思っていますので、申し訳ございません」
「Fランク冒険者のあなたでは力不足よ。か弱気子供達を守るのは、王国騎士団の使命です」
このままでは、何も状況が変わらない。いっそのこと、俺の名を伝えようと思ったが不利になると思っていると騎士団長がアイナの隣に立つ。
「貴様、王国副団長の指示に反抗するのか?」
「はい?・・反抗も何も、この子達の話も聞かずに連れて行く気ですか?」
「よくわかった・・ついて来い」
騎士団長が何をわかったのかがわからず、3人でついて行く。Fランク冒険者の俺は警戒するほどの価値も無いようだ。囲んでいた騎士達も隊形を崩しバラバラだ。
しばらく歩き続けると、道に出て、馬車が数台待機していた。その奥に豪華なテントが立ち並び、入り口を騎士達が警備している。
立ち並ぶテントに入ると、中で繋がっていて広い空間が確保されている。その中央に長いテーブルと椅子が配置され、一番奥の椅子に騎士団長が座り、その右斜め手前にアイナが座る。
俺たち3人はテント入り口横で立たされていると、黒髪黒目の少年少女達がテントに入ってきて空いている椅子に座り、俺たちが座れる椅子は無かった。
くぅ・・
クウコのお腹が小さく鳴く。
アイテムボックスから、干し肉を2枚出してクウコとリルに手渡す。二人は、小さな口で一生懸命食べている。
黒髪黒目の少年少女達が怪訝そうな目で俺達を見ている。小声で何かを話しているようだが聞き取れない。
遠く離れたいちに座る騎士団長が、話を始める。
「皆さんの訓練を止めてしまい、本当に申し訳ない。また日を改めて実施したいと思います」
騎士団長から、こんな言葉が出るとは思わなかった。いったい、この子達は何者なんだろう。すると、騎士団長に近い席に座っている少女が言う。
「ハイドさん、気にしないで下さい。それよりも、あの人達は?」
「あぁ、彼は冒険者ギルドに所属する冒険者です。Fランクなので駆け出し冒険者なので、皆さんより実力もステータスも下ですよ」
どうやら、見た目弱そうなこの集団は、Fランク冒険者より強いようだ。
「「・・・・おかわり」」
「ごめん、お腹すいちゃったね」
干し肉を3枚づつ手渡してやり、残りすくない果実水入りの瓶を渡す。
アムアム・・モグモグ・・
どうやら俺たちは放置されているようだ。全くもって声を掛けられない。いつの間にか干し肉を食べ終わった二人の手を繋ぎテントの外へ出ようとしたら、若い声の男に声を掛けられた。
「ちょっと、勝手に帰らないでくれますか?」
「あの・・この子達の昼飯がまだなんで帰ります」
飯を理由に帰ろうとしたが、ダメだった。くそぉ・・。
「なんですか・・その態度は?」
「すいません。この子達を優先にしているので・・」
奥で立ち上がる少年は、感情を表し強い口調で声を発する。
「Fランクごときの冒険者が・・・・俺の言うことを聞け!」
テント内が一気に静まり返る。俺は、苦笑いしながら振り返り少年と対面する。距離は少し離れているが・・。
一歩踏み出したところで。
「なんだその顔は!・・このオレを舐めるなー!」
黒髪黒目の少年が帯剣していた両手直剣を抜き構えたと同時に一気に間合いを詰めたオレは、剣を弾きとばし、右手で彼の喉元を締める。
ガハッ・・・・
「調子に乗るなよ、少年」
ザクッ
弾きとばした彼の剣が地面に突き刺さる前に、少年の喉を解放し二人がいる位置へ一気に戻る。
ゴホゴホッ・・ゴホッ・・
不意に喉を締められ呼吸を止められた黒髪黒目の少年は、膝をついて咳込み呼吸をする事で精一杯の様子で誰も反応出来ていないようだ。
この二人には全て見えていたよっと言いそうな顔をして出迎えてくれる。
「さぁ、帰ろう」
「「うん」」
「まて・・貴様!なんなんだ、さっきの動きは!答えろ!」
騎士団長が立ち上がり吠えている。
「な・・何者なんだ貴様は!
アイナも並んで吠えている。
オレは溜息をついて、打ち明けることにする。あの二人が覚えていくても関係ない。
「・・アイナ、久しぶりだな。新人騎士護衛のとき以来だ・・いや、独房で会ったのが最後か・・」
アイナの目がだんだん見開いて行く。テーブルについていた腕を震わせていき、だんだん全身を震わせていく。
「そうか、やっぱ忘れて・・違うか・・存在していた事さえ消していたから気付かなかったのか・・ゴメンな、アイナ」
すると、アイナの目から涙が溢れ出しテーブルに伏せた。アイナの変わり様に驚いた黒髪少女が数人程駆け寄る。
その隣にいた騎士団長もアイナの行動に驚愕していたが、オレの一言で警戒心を剥き出しにする。
「騎士団長様・・ダグラスから受け取った、リサとカラは良かったか?」
「だまれ!黙れ!・・きっ・・貴様は!・・・・Cランク冒険者ハル!」
騎士団長は大声を発しながら、オレに指を差す。
「・・元Cランクな。今はFラン冒険者、ハルだ!」




