1章 はじまり 16話 二人の力と愛
リルとクウコ Side
『クウコ・・クウコおきてる?』
『んぅ〜起きてるよ〜』
『クウコ、きのうルーシーがハルに話していたこと覚えてる?』
『ん・・たしか、リサとカラと・・あと一人誰だっけ?』
『ミオよ。猫人族のミ・・オ』
『あ〜そうだったね。どうしたの?』
『ハルの感情読み取れてた?』
『もちろん。大好きなハルのことは何でもお見通しだよ!このクウコちゃんは』
『それならわかっているわね?私たちがすること・・』
『当然だよリル。あいつらをこの世から絶滅させることをね』
『そうよ!そしてハルの側にいて、守り続けるの』
『わかっているわ。リル、そろそろハルが起きるわ』
そして、二人は念話を終えて寝たふりをする。
ハル Side
「ん・・・・朝か」
左を見るとリルとクウコが大人しく寝ている。昨日は、俺に戯れていたのに。上半身を起こしベッドから出ようとしたら、リルとクウコが起きてきた。布団から出てきた二人は下着姿だ。おかしいぞ、ちゃんと寝間着を着せたはずだ。
「また寝間着脱いだのか?』
「「にひひ」」
二人は笑うだけでいたため、そのまま立たせて今日は動きやすい服を着せて、濡らしたタオルで二人の顔を拭いてやる。まるで親代わりみたいだが嫌いじゃない。
「それじゃ、朝飯に行こうな」
「「ごっはん〜♪♪」」
上機嫌な二人と手を繋いで部屋を出て食堂に向かう。今日は冒険者ギルドへ行って魔物討伐をする予定だ。
「たくさん朝食を食べなよ。今日は森に行くからな」
「「はーい。いっぱい食べるね」」
二人はいつもの倍以上食べてしまい、追加料金を払うことになった。これじゃ、依頼報酬をもらっても二人の食事代で赤字だな。
朝食を食べ終わり、恒例の口拭きをして宿屋を出る。あと4日は泊まれることを確認して。
ギルドに入り依頼掲示板の前に立つ。もちろん、途中で二人を抱っこしたままで。
「どれにしようかな〜?」
「ハル・・これは?」
リルがとある依頼票を指差す。それは、フォレストベア討伐で冒険者ランクD以上が受けることができる。
「リルごめんな・・前の俺ならできたんだけど、今のランクはFランクだから受けれないんだよ」
「そうなんだ・・ごめんね、ハル」
ションボリしたリルの頬に軽く頬擦りをしてやると、リルに笑顔が戻る。
「これはー?ハル」
クウコが見つけたのは、商人の護衛だった。もちろんランクC以上の指名で。
「ごめんな・・これも無理なんだ」
クウコもションボリしてしまったので、軽く頬に頬擦りしてやると喜んでくれて、俺の頬に頬擦りしてきた。
「「これは?」」
二人が同時に指を指したものは、薬草採取だった。ランクフリーの依頼だ。
「おっ?これなら受けれるな。ありがとう、クウコ、リル」
リルに依頼票を剥がしてもらい受付に持っていく。今日は、窓口にアメリアはいないようだ。面識のない受付嬢に依頼票と3人のギルドカードを渡す。
受付嬢は、マニュアル通りの言葉以外は喋らない。そのまま依頼受理の手続きが終わギルドカードを受け取る。
「さぁ、3人で初めての冒険だ。気合い入れていくぞ!」
「「「おーーー!」」」
二人を抱っこしたままギルドを出ようとした時、見知らぬ男冒険者たちが出入り口に陣取っている。
「すいません、外に出たいので通らせてくれませんか?」
男冒険者たちは、俺の問いかけを無視する。
「あの〜お願いします」
すると、背後から聞きたくなかった声がギルド内に響く。
「おい!! 俺の許可なくどこに行くんだ!答えろハル!」
抑えてた俺の感情が一気に暴発しそうになる。でも、両腕にある二つの小さな命を危険に晒したくないため、グッと堪える。すぐにでも殺してやりたい気持ちも何もかも。
ゆっくりと振り返る俺は、呼んだ男の方を見る。
「ご・・ご無沙汰にしてますギルドマスター様。いったい何事でしょうか?」
「なんだその態度は・・気に入らねぇな!俺のお陰で自由になったんだぞ!」
ダグラスの言っている意味がわからない。
「それは・・それはどう言うことでしょうか?」
「はっ・・知らねぇのか?」
「はい・・すいません」
ここは低姿勢でやり過ごすと決めたんだ。あいつの挑発には乗らない。絶対に。
「仕方ねぇな、だったら教えてやるよ!お前の女はな・・勇者に様に身を捧げたのさ!」
ダグラスの言葉で瞬時に心が絶望に支配される。本能が外界を拒否する。視覚も聴覚も要らない。ただ、あいつの言葉を認めたくない。だが、あいつは聞いてもいないことを喋り続ける。
「だからな、召喚された勇者様の夜伽をさせるために、俺様が騎士団長様にお願いしてやったのさ。リサとカラをぜひ勇者様の夜伽の女としてな!その見返りとして、お前の釈放をさせるようにな!」
カラとリサは、オレのせいで・・オレのせいで召喚勇者の相手を・・。全身の力が抜けて膝間付いて俯いてしまう。だが、この二人だけは怪我をさせないよう、ゆっくり床に下ろすことは忘れずに。
「それとな・・もう一ついい情報がある」
「・・・・」
「おい!聞いてんのか?」
ズカズカと音を立ててダグラスが近づいてくる。オレはゆっくりと顔を上げて、ダグラスと目が合うと奴がニヤつく。
「あのな・・ハル。お前の奴隷でいた猫人族なんだが、いい値段で売れたぞ!お前を見つけたと言ったら馬鹿正直に付いてくるんだぜ。貴族様の屋敷にな」
こいつだけは許さない。ふつふつと殺意が湧いてくる。とめどなく涙が溢れてくるが、視界は一切霞まない。
アイテムボックスから愛剣を取り出すが、まだ抜刀はしていない。
「おい!ギルド内での抜刀は規定違反で、即投獄だと言うの忘れたのか?あっはっはっはっはっは」
剣を握る手が震えている。体と心が乖離している。目の前にいる男に復讐したい体と、この先の生活に支障が出ることを懸念する心が、オレの中で戦っている。
すると、クウコがオレの震える右手にそっと触れて、顔を横に振る。
「なんだ?クソガキに宥められているのか?滑稽だな!なぁ、お前たち」
周囲の男冒険者が一斉に笑っている。一部の人間は笑っていない。オレとの付き合いが長い奴ら達だ。さすがにギルドマスターに抗議する者はいない。それは当然だ。みんな生活がかかっている。
すると、オレとダグラスの間に一人の少女が入りこむ。
「おい、人間・・言い遺す言葉は終わったか?」
リルが一人でダグラスと向き合っている。
「ん?なんなんだお嬢ちゃん?大人の会話を邪魔しないで、お家に帰りなちゃい」
また男冒険者達が笑う。指を指して笑う者やイスから転げ落ちて笑う者。
「人間・・聞こえぬか? もう言い遺す言葉はないんだな」
リルがダグラスの方に右手をかざす。
「おい!なんだその手は。ギルド内は魔法阻止の魔法具があるから魔法は発動しな・・」
リルがかざしていた右手を握るとダグラスの姿が一瞬で消滅し、その場から1人の存在が消えた。
リルは右手を下げると、踵を返し俺の方へ歩いてくる。思わず俺は両手を広げリルを迎え入れ抱きしめる。
「ありがとうリル。俺のためにしてくれたんだろう?」
「ん・・」
「なな・・なんだありゃー!ギルドマスターが一瞬で消えたぞ」
さっきまで笑っていた男冒険者達が驚愕の表情で狼狽えている。
「クウコ・・お願い」
「うん、任せて」
クウコが俺の側から離れて、男冒険者達の方に一歩詰め寄る。
「こんな感じかな?・・えいっ」
クウコがリルと同じように右手を水平に上げた後、男冒険者がいる範囲を横に軽く振った。そこに居た男冒険者達は何かに引っ張られるかのように横へ飛ばされ、壁際に集められた途端に音もなく消え去る。
「クウコ、ありがとう」
パタパタと戻ってきたクウコも抱きしめて、そのままギルドを出る。
「お腹空いてないかい?」
「「空いたよ〜」」
「何食べたい?」
「「NIKU」」
「肉好きだね〜!よし、行こう」
いつものように抱っこをして肉料理屋に向かった。そこで金貨2枚分の肉を食べて、お腹がパンパンになり幼児体形になった二人を指差して笑うと、顔を赤くし、ホッペ膨らませる二人は愛嬌のある表情だ。
「ごめんごめん」
二人の頭を撫で続けて、なんとか機嫌をなおしてくれた。
「お腹も満たされたし、薬草採取に行こう」
「「おー!!」」
肉料理屋を出て、王都南門へ向かう。道中はもちろん二人を抱っこして。流石に南門を通過するときは降りてもらい歩いてもらった。
門を出たら、すかさず振り向き抱っこを要求してくる。両手を上に伸ばし、抱っこって言う時の二人の顔がかわいくて抱っこを断ることは出来ない。
街道を歩き南の森へ向かう。道中に優しい風に吹かれ二人の髪がなびく度に顔に当たり擽ったい。けど、二人の髪が風でフワッとなびく度に甘い香りが鼻腔を刺激される。
3人で談笑しながら森へ向かう。途中、空を飛ぶ鳥を見つけてはしゃいだり、道沿いにある川を覗いては川魚を見つけてよオロ混んでいる姿は、ただの子供にしか見えない。
そんなこんなで南の森にたどり着いた頃には日没が近づいていた。
「今日は野宿なの?」
クウコが心配する声で聞いてきた。
「大丈夫だよ、野営キットあるから」
「野営キット?」
リルが背中に乗って来て、右から覗き込んできた。
「あぁ、折り畳めて運べる小さなお家だよ」
まずは魔物避け魔法具を設置して、煙を宿営地周囲に広がるようにし危険性を低減させる。もちろん気配探知スキルは常時発動にする。そして、アイテムボックスから野営セットを出してテントを素早く設営し毛布を広げて寝床の準備を終わらせた。
「次は夕飯の準備だ」
テントの前にイスを三つ出して座り、焚火を作り、その上に大きな鍋を置いて、定番の肉野菜スープ
作り始める。アイテムボックスに収納されている食材は時間が経過しないため、いつでも新鮮だ。
「よし、出来たよ」
大きめのお椀二つに肉野菜スープを入れて二人に渡し、俺用の椀にも入れて3人で一緒に食べ終えた頃は辺りは闇に包まれていた。
寝る前に大木を伐採し、焚き火の所に置く。この大きさなら明け方まで持つだろう。
テントに入ると、リルとクウコのテンションがいつもより高い。毛布に包まりテント内をゴロゴロ周りケラケラ笑っている。俺には理解できない遊びだ。
「そろそろ寝ないかー?」
それぞれに専用の毛布を振り分けていたので、俺の毛布はゴロゴロ被害を受けていない。毛布に入ると、二人が寝間着を脱ぎ始める。
「宿屋ならまだしも、テントでもか?」
「「そだよー!!自然がいちばん!!」」
そういって俺の毛布に潜り込んでくる。もちろん俺は服を着て寝ている。
「あったかいねーハルの体温が気持ちいいよ」
リルが左胸に顔を乗せて、スリスリしている。
「やっぱ落ち着くよね〜。あれ?この匂い初めて。リルは?」
「クウコ・・」
クウコが微かに残っていた匂いに気付いたようだ。リルは気付いていたが気付いてないふりをしてくれていたようだ。こういう場面でのリルはカンが鋭い。
「あはは・・やっぱ気付いたか。きっと猫人族ミオの匂いだよ。嫌じゃなかったら憶えていて欲しい。俺にはもう二度とわからないから。思い出を二人と共有したいな」
左にいるリルがそっと、俺の右頬に手を触れ顔を左に向けさせられた。リルと視線が重なりジッと見つめていると不意に顔が近づき唇が重なる。
「ん・・」
驚きのあまり声が出ると、すっとリルとの唇が離れる。
「ハル・・見た目は子供だけど私たちを頼ってね・・大好きよ」
そういったリルは、もう一度顔を近付けて来て唇が重なる。リルのペースで口を開けさせられると、リルの舌が滑り込んできて素直に受け入れた。
リルとスキンシップが終わり離れると、今度はクウコが同じようなことをしてくる。そしてクウコのことも受け入れてスキンシップが終わると、二人は寝息をたてて寝てしまう。
「二人にこんなに愛されているんだな・・・・」
俺は二人の愛に包まれた感覚になり、ゆっくりと意識を手放していくのだった・・・・・・。




