7章 王国マリア編 15話 不確かな存在と迫る奴ら
暗く無音の世界にいる俺は、ゆっくりと明るさと音を取り戻した世界に戻ってきた。
目を覚ますと、街の広場にあるベンチに1人で座っている。耳に周囲の賑やかな生活音が入り意識を覚醒されていく俺は、なぜか深くフードを被りここにいる。
「なんで、ここにいるんだろう・・」
そう呟いていると、急に空腹感に襲われて腹が鳴る。
「・・腹減ったな」
右腕が本能に急かされているかのよう無意識に動き、アイテムボックスに常備している肉串1本を取り出し、口元へ運ぼうとしている途中で腕が重くなり拘束された。
「あれ?腕が動かない・・」
そう感じた時に、なぜか細く腕が揺れている。
ハムハム・・ハムハム
咀嚼音が一定のリズムで聞こえ、それが繰り返される。
「ん?どういうこと?」
視線を右腕に向けると、俺の右腕を掴んでいる2人の少女が肉串を無我夢中で食べている姿があった。
「おっ?おぉ?」
目にした直後に肉は串から姿を消し、今は串についたタレをペロペロ舐めている2人に串を渡し保護欲が沸いた俺は新たに2本出し右手に金髪少女へ、左手で銀髪少女に手渡すと必死に掴み食べる。
「・・ゆっくり食べろよ」
そう伝え、俺の声に反応したのかビクっと2人が同時に反応し食べるのを止めてしまい、ゆっくりと顔を上げて俺と視線が重なる。
「「・・う・・そ・・」」
2人の少女は、震える小さな手から肉串を落としてしまい、その手を口元に運び少女達は互いの顔を見てまた俺を見た時には涙を流している。
「どうしたんだ?・・2人とも」
クシャクシャになった顔で2人の少女は俺の胸元に飛び込んで強く抱きしめ泣いている。この対応に困り果てた俺は、彼女達の呼ぶ名前に驚愕する。
「「ハルッ!!・・ハルゥ!!」」
突然の出来事に、ただただ2人の頭を撫でて落ち着かせようとしていると、胸元に顔を押しつけていた2人は顔を上げて俺の首元にすり寄せて安心したような表情に変わる。
「大丈夫だから・・な?」
「「 うん!! 」」
2人に抱き寄せられ、クシャクシャになってしまったままの笑顔を見ていると視界がだんだん暗くなり、今まで経験したことのない眠気に襲われるなか俺を呼ぶ2人の声を聞きながら脱力し意識を手放した・・。
「 あっ!!」
自分の発した声で目が覚め、上半身を起こし右腕を天井へ高く伸ばしている状況が視界に入ってくるとともに喉の渇きに襲われる。
「ハル!」
天井へ伸ばしていた右手が掴まれ、俺の名を呼ぶ声の方を見ると金髪少女が心配そうな表情で俺を見つめていた。
「マリ・・ア?」
「よかった・・本当によかった」
「起きたのか?(起きたようじゃな)」
黒髪のアルシアと銀髪のシェルがソファから立ち上がり、側に寄ってくる。
「・・あぁ。なんか変な夢を見たよ」
「ハル、コレ飲んで」
マリアがいつの間にか、水を入れたコップを手渡してくれる。
「ありがとう、マリア」
コップを受け取り一気に飲み干して溜息をつく。
「えっと・・どれくらい寝てた?」
「・・2日だよ」
マリアが下を向いてから答える。それはもう、期日までに王都へ辿り着けることが不可能な日数だと理解しているからだ。そのマリアの悲しそうな表情を見て、俺の心はギュッと締め付けられた。
「ゴメンなマリア・・アルシアとシェルに俺を残してでも、マリアを王都へ連れて行かせるよう事前に決めておくべきだった」
今の取返しのつかない状況になったことに対して、頭を下げてマリアに謝罪するとマリアが俺に抱き付き告げてくれる。
「ハル、謝らないで・・ハルが生きていてくれたら、それでいいの。王女じゃなくなっちゃう私を・・どうか見捨てないで」
「マリアはマリアだよ。だから、見捨てるなんて絶対にないから」
「うん・・」
マリアは、俺の言葉に安心したのかゆっくりと離れ元の場所に戻る。
「ハル・・これからどうするのだ?このまま王都へ向かうか?」
「・・・・そうだな・・そういえば、勇者一行がいたよな?」
「うん。勇者様達も、このニシバルに滞在してるみたい」
「そっか・・なら間に合う可能性があるかも」
「「「どういうこと???」」」
マリア達は、理解できない表情で俺に聞いてくる。
俺は、ギルドで見た情報で北のダンジョン攻略後に王都へ辿り着く日数が通常より短期間だったことを伝えた。なにより、俺達より王都から遠い北の位置にいたはずなのに先に王都へ着いていたからだ。
「そんなことありえるの?」
マリアが言い終えた直後に口を開いた。
「あぁ、ギルドの情報が間違えじゃなければだけど」
すると、何かを思い出したような顔をするシェルが手を叩き口を開いた。
「そうか、転移魔法じゃな」
「「「転移魔法???」」」
シェルが転移魔法を知らないとみて、自慢げな顔つきになり説明しはじめる。
「コホン・・よいか?転移魔法とは・・その、つまりじゃな・・行きたい場所へあっという間に移動できる魔法じゃ」
「「「・・・・」」」
「てめぇ、ふざけんなよ!そのレベルなら子供でも知ってるぞ!」
さすがにイラッとした俺は、強めの口調でシェルに文句を言うとシェルがシュンとしてソファに座るが放置して話を続ける。
「とりあえず、ギルドに行って勇者の居場所を調べるしか道はないか・・」
「ハル、それって・・私を勇者のところへ行かせるってこと?」
「そう・・なるかな。期日内にマリアを王都へ着かせるには、この方法しか残ってないと思うんだ。俺も同伴できたらいいんだけど、きっと拒まれる」
「・・・・」
「マリア?」
「ヤダよ・・そんなの」
俯き髪で顔が隠れたマリアは小さく呟き黙ってしまい部屋が静まると、アルシアが俺に告げた。
「ハル、王都にマリアを辿り着かせるのが大事なのは十分理解できる。だがな、マリアの気持ちも考えてみてはどうだ?」
「あっ・・」
俺は、期日内に王都へ辿り着かせることがマリアのためだと考えていて、勇者にマリアを押しつけてでも王都へ送ることになっても、マリアのためになると思い込んでいた。
今までのマリアと築き上げた絆を無下にして、ただ自分の送り届けてやると言う自己満足にしか考えていなかったことに気付かされる。
俺は、ベッドから出て隣のベッドに腰掛けていたマリアと対面する。
「マリア・・。このまま俺と一緒に王都へついて来てくれないか?」
俯いていたマリアがゆっくりと顔を上げて俺を見つめる。
「いいの?・・私がいても?」
「もちろんだよ、マリア」
笑顔を取り戻し、ギュッと抱きしめた後にマリアはベッドから立ち上がりソファに座り、拗ねているシェルを宥めている。
コンコン・・コンコン・・
部屋のドアをノックする音が部屋に鳴り響き、その音に反応したマリアが返事をしてソファから立ち上がりドアへ向かい移動し、ドアノブを掴もうとした直前にシェルが警戒するような声でマリアを制止する。
『マリア待て!・・そのままドアから離れるんだ!早く!』
シェルの突然の念話により、マリアはビクッと伸ばした右手を引っ込んでソファまで戻る。
その場から動かないシェルは戦闘態勢になり警戒している。
『シェル、どうしたんだ?』
俺の問いに答えず、ソファの位置まで移動したマリアを隠すかのように自分の背後に立たせる状況になるほどの異変に遅れて気付き、気配探知スキルを発動すると強大な気配を複数捉え叫んだ。
『マリア!隠密スキル使え!』
俺の念話と同時に部屋のドアが蹴破られ武装した兵士が突入し俺達と対峙する。
「なんなんだ!お前らは!」
抜剣し構えている兵士達は睨むだけで、一言も喋らない。すると下の階から階段をゆっくりと上がってくる強大な気配の持ち主達が俺達の部屋の階の廊下を歩き部屋に近づいてくる。
『みんな、応戦できるよう準備してくれ。マリアは、シェルから離れないように』
『『『 わかった 』』』
そして、俺たちを取り囲んだ兵士たちの後ろからその気配を纏った奴らが部屋に入り姿を現し口を開く。
「君たちが、帝国の冒険者《犯罪者》かな?」
ベッドに腰掛けていた俺を見た後に、ゆっくりとアルシアとシェルを見て一瞬ニヤついた後に真顔に戻り俺を威圧するように見ている。
「あぁ。それがどうしたんだ?王国での冒険者活動は両国間の取り決めで合意されているから、何も問題ないぞ。そんで、あんた誰だ?」
「ふっ・・そんな初めて会うような話しかたなんかしやがって・・まぁ、いいだろう。僕は、王国の勇者様さ・・それで、王国での活動は全く問題ないよ。けどさ、君達何か隠しているでしょ?」
「隠す?王国の勇者様に俺達がいったい何を隠すんだ?」
「僕にじゃなくてさ・・この王国に対してだっ!」
ドゴンッ!
勇者は、一気に俺に詰め寄り胸ぐらを掴み背後の壁に背中を叩きつかれる。
「ぐはっ!」
『『『 ハル!!! 』』』
『大丈夫!・・そのまま動かないで』
「ゴホッ・・この部屋に勇者様の探し物があると?」
「いいのか探して?」
もう、詰んだと思っている勇者はニヤついている。
「・・どうぞどうぞ」
勇者の指示により、兵士達が部屋の隅々まで捜索しマリアの居所を探す。俺直伝の隠密スキル効果は完璧で完全に気配と姿を消しているため、並の兵士ごときに看破されることはない。
「ゆ、勇者沖田様・・探索魔法を使っていくら探しても、第3王女マリア様はこの部屋にいません」
「なっ・・兵士長!あの貴族の話に間違いはないんだよな?」
「はい。信頼できる貴族様ですので虚偽の報告は有り得ません」
マリアが見つからない事に初めて焦りの表情を見せる勇者を見つめる俺は、このまま早く帰ってくれと願っていると勇者は短剣を抜刀し、俺の首元に強く当ててきたため痛みとともに少し流血する。
「そろそろ自白しないと、この短剣で女を傷つけるぞ・・椎名」
勇者は、俺の耳元で囁くように告げる。
「くっ・・知らないな」
「そうか・・この状況でも素直にならないのか・・なら仕方ない」
カーン!カーン!カーン!・・カーン!カーン!カーン!・・カーン!カーン!カーン!
突然、窓の外から鳴り響く鐘の音が一定のリズムで繰り返される。この鐘の音を聞いた兵士達が一気に騒めきだし兵士長が落ち着かせようと必死になっていると、廊下の方から少女が勇者に問いかける声が聞こえる。
「沖田くん!この音は・・早くギルドに行かないと!」
「マリア様が見つかっていない!」
「でも、この鐘の音は・・・・」
「ちっ・・琴音、美音は先に行ってくれ!俺は、コイツを始末してから行く!」
「なっ・・その呼び方は、おにぃだけって言ったよね?」
「そうだよ!にぃにだけなんだから!」
勇者は俺の首元に短剣を強く当てたまま振り向き廊下にいる少女達を制止する。
「部屋に入ってくるな!そのまま兵士を連れてギルドに行け!勇者命令だ!」
「ふざけないで!勇者だからと言っても、なんでも言う事聞かないんだから」
「兵士長!そこの琴音と美音をギルドに連れて行け!」
兵士長は、勇者の命令を従順に従い琴音と美音という少女をギルドへ連れて行ったらしい。俺は、勇者が故意に少女達に俺の姿を見せないようにしていた行為が不思議だった。
「さて、邪魔者はいなくなった」
カーン!カーン!・・カンカンカン!・・カンカンカン!・・カンカンカン!
「なぁ、鐘の音が変わったぞ・・いいのか?」
「クソッ・・おい!椎名、この街から逃げるなよ!」
「ぐふっ」
勇者は、当てつけるかのように俺の腹を1発殴り急いで部屋を出ていく。最後まで残っていた兵士1人が勇者の後を追いかけるように動き出した瞬間にシェルが兵士の頭を掴み取り押さえた。
「おい!この鐘の音はなんじゃ?」
「イタタタ・・はなせ!・・」
「答えろ!」
ミシミシ・・
「はぅ〜言いますから離して・・」
シェルは、兵士の頭を掴んでいた手を解放すると涙ながら兵士が告げる。
「こ・・この鐘の音は、街に魔物の大群が押し寄せて来たことを知らせる警告だ。2回目の連打は、もう魔物が近くまで来ているという最終通告だ・・もうこの街も終わりだ」
「なんだと・・魔物の襲撃だと!」
シェルがそう言った後に、兵士は逃げるかのように部屋から出て行く。
「ハル、避難しようよ」
大量の魔物襲撃と聞いたマリアが、いつの間にか隠密スキルを解除して俺に寄り添っている。
「マリア・・魔物襲撃か・・」
俺は、この街を捨てて避難するか、この街のために討伐に参加するか考えていると、マリアは傷付けられた喉元に治癒魔法ヒールをかけて治してくれている。
「ありがとう」
そのマリアの頭を撫でながら、俺は決心した。
「みんな、この街を守ろう!」
そう宣言し、気配探知スキルを発動し近く魔物達の位置を把握して作戦を考える事にしたのだった。




