1章 はじまり 10話 新人騎士団の初陣②
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散々な結果となった女騎士の初陣からリーダー役のリンを騎士団宿営地に運び終えて自分達のテントに戻って来たハル達は、昼飯を摂り戦力回復のため一緒に寝ていた。
ハル達のテントに一人の人物が近づいて行く・・。
・・・・ろ。
・・て・・お・・くれ。
・・・・・の・・む・・きてくれ。
上半身を強く揺さぶられ・・ぼんやりした意識が覚醒してくる・・誰かが呼んでいる。
ゆっくりと目を開けると、目の前の人物が両肩を掴み揺らしている。
暗闇の中で顔がよく見えないが・・聞いたことのある声だ。
「ん・・君はだれだ・・どうした?」
「起きたか・・わたしだ・・アイナだ・・」
「ふ・・副団長?・・どうしてここに?」
「不測事態だ・・手を貸して欲しい」
「・・ご主人様?」
落ち着きのない口調の副団長が装備を付けたまま目の前にいる。ミオも何かを感じ起きたようだ。
「何があった?」
「護衛を頼んでいた冒険者達のほとんどが姿を消したんだ」
「・・・・はい?・・ほとんどって、どれくらいなんだ? とりあえず落ち着こうな」
俺は、魔法ランプに灯りを灯しテント内を明るくする。そこには、突然の事態に不安な面持ちでいるアイナ副団長が両膝をついた姿勢でいた。
「すまない・・この副団長のわたしが・・・・」
「とりあえず・・わかっている範囲でいいから状況を教えてくれ」
俺とアイナ副団長がやり取りをしている間に、ミオは立ち上がりネコ耳をピコピコさせながら周囲の音を聞き分けているようだ。
「あぁ、君達を見送った後に他の新人騎士達も帰って来たのだが、大多数の騎士が負傷していたのだ。初陣だから仕方ないと思っていたが、異様に数が多いんだ。護衛の冒険者は出発前と変わってない容姿なのに」
「まぁ、確かにな。だが・・冒険者も帰って来たんだろ?」
「帰っては来たんだ・・だが陽が落ちると宿営地が急に静かになり気になって巡回した時には、数えるほどの者しか確認できなかったんだ・・・・しかも確認できたのは皆、女冒険者達だけだ」
「なんか嫌な予感がする・・ミオ準備をして行くぞ」
「いつでもオッケーですが・・複数の気配があちらの方から近付いて来ます」
テントから勢いよく飛び出して、宿営地の中心に着くと女冒険者達10人が一カ所に集まって来たの方を見ている姿を視認し近くまで行く。
「みなさん、ここに集まり何をしているのですか?」
近くの女冒険者が、さっと振り向く。彼女は茶髪を腰まで伸ばし白いローブを着て魔法杖を持っているから魔法師なのだろう。
「え・・男がなぜ・・・・」
茶髪の魔法師が不安な表情を浮かべ、構えながら後退る。
「待て・・彼は大丈夫だ・・・・」
俺の背後から、アイナ副団長が言って彼女達に近づく。
「そ・・そうですか・・アイナ副団長様が言うのであれば・・・・」
彼女達の俺に対する警戒が薄まった頃合いを見て近付くと、茶髪の彼女以外は丸腰だ。慌てた俺は聞いてしまう。
「み・・皆さん、どうして武器を持ってないのですか?」
俺の問いに茶髪の魔導師の子が答えてくれた。
「森から戻った後に短めの仮眠から目覚めたら、武器が無くなっていることに気付いたんです。それで・・唯一持っている私のところへ集まってもらったのです」
「なんてことだ・・いったい誰が・・何の目的でこんなことを・・・・」
アイナ副団長が俯いて悔しがっている。
「ご主人さま・・先程の気配が、さらに近付いて来ます」
ミオに指摘されたことで思い出し、すぐさま気配探知スキルを発動すると宿営地から北の森に多数の気配を感じた。きっと男冒険者達だろう。彼女達の武器を奪い去った事と新人騎士達の負傷を関連づけると答が見えてきた。
「アイナ副団長、彼女たちはどこに?」
「・・彼女達?」
ふと周囲の女冒険者達を見渡して、ここにいないことに気付く。大切な部下である新人女騎士達を。
「いかん・・テントで寝かしつけているままだ」
おいおい・・普通は部下を優先するのじゃないか?と心で思いながら、ミオとアイナ副団長に指示を出す。
「ミオ・・すまないが、ここで彼女達の見張りを頼む。アイナ副団長は、直ちに彼女達がいるテントへ案内して」
「「わか(りました)った」」
俺は先導するアイナ副団長に追従し、新人女騎士達がいるテントへと急ぐが思っていたより遠いようだ。
「アイナ・・テントはどこにあるんだ?」
アイナ副団長は一瞬振り向くが、すぐさま直り走り続ける。
「ん?・・この私を呼び捨てだと?」
(だが・・なぜか悪くないな・・この感じも・・まぁ。彼に呼ばれても悪くない)
「宿営地の北側に設営してある。当初の計画では、南側だったのだが冒険者達の助言で変更した」
「最初っから、その計画だったのか・・対多数の戦いになるな・・」
「あともう少しで着くぞ・・あそこのテントだ」
まずい・・もう何人かがテントに侵入している。このままだと手遅れになる。
「アイナ・・侵入されてるから先に行くぞ!」
「な・・なな・・・・」
隠密スキル作動し一気に加速する。巷では縮地スキルと言うらしいが、俺は持っていない。生まれながらの素質だと自負している。
テントの周辺から若い女性の悲鳴が響き渡る。
「くそ・・間に合わなかったのか・・」
テントの周囲に4人の女騎士が仰向けにさせられているのが、周囲に集まる男達の足の隙間から見えた。武器を奪われ、必死に抗おうとしている。
「くそ・・なんてことを!・・・・これでも、くらえや!」
風魔法ウィンドカッターを扇状に一波2波と叩き出す。高さは数十人いる男達の下腹部あたりに。動線上に設営されたテントを切り裂き、群がっている男達の腹を中心に身体を分断させる。
ドサドサッと上半身が地面へと倒れ込んで、下半身は大量の血飛沫をあげてゆっくりと倒れこむ。囲まれていた女騎士は、気付くことなく絶命した男達の血で全身を赤く染めて震えている。
「ごめんな怖い思いさせて・・この方法じゃなきゃ間に合わなかった・・」
そう呟いた俺は、バッサリと切れて中が丸見えの女騎士達がいるテントへ入った。先程までテントとして建っていた中には、伏せていた残りの女騎士達と血だらけになった男連中が居る。
「怪我はないか?」
俺の問いかけに無言で頷く女騎士達。床に落ちていた魔法ランプが彼女達を優しく照らしているが、みんな大粒の涙を流し震えている。
「みんな・・ごめんな・・・・守りきれなくて」
どうしようもない怒りが込み上げてくる。所詮一人の力では・・こんなものなのかと。
昼間見ていた時の彼女達の目は希望と使命感の目をしていたが、今は完全たる絶望を宿していた。未来あるこれからの少女達になんてことを・・・。
背後から男の声がした。
「く・・そぅ・・コレからってとこに・・てめぇ殺して」
「せぃあ!」
「あ゛ぁ」
俺は、見ることなく男の眉間に剣を全力で突き刺す。切先が後頭部から突き出るほどの威力で。
男は一瞬で絶命し、そのまま剣を上に振り上げ男の頭部を分断する。
しばらくして、息を切らしているアイネが到着した。彼女は息を整えて部下達の元へ行く。一人一人をこの惨状の地から遠ざけて。
不意に俺は体に違和感を感じる。この感じはスキルレベル上昇が起きた感覚だ。ゆっくりとその場から離れて暗闇に紛れ込んでからステータスを確認した。
ステータス
名 ハル (男)
種族 人族 16才
職業 冒険者 Cランク
HP 900/1000
MP 1200/1500
魔法 全属性
スキル 剣術Lv5→6 隠密Lv3→5 気配探知Lv3→5 鑑定Lv4 奪取Lv3
召喚術Lv2(新) 念話Lv2(新)
称号 偽装者
隷属 ミオ(猫人族)
隠密と気配探知が2も上がったのか・・って召喚術?殺した男達の中に召喚術士が紛れ込んでいたんだろう。きっと奪取スキルが発動して奪ったのが念話と召喚術スキルか。
ステータス表示を消してアイナ副団長の元へ行く。どうやら、新人女騎士達を別のテントへ移動させて入り口前で見張りをしているようだ。
「アイナ副団長、みんなの様子は?」
「あぁ、少しは落ち着いたようだが返り血を浴びたままだからな・・」
「そうですか・・中に入っても?一応、生活魔法使えるのですが」
「なんと・・それは助かる。私の後から入ってくれ」
テント内に入ると血生臭い匂いが漂っている。この中じゃ休めるものも休めないな。俺は、素早く生活魔法クリーン重ね掛けして彼女達の汚れを落とし、血生臭いテント内の空気も浄化する。
全身を生活魔法の光に優しく包まれて解放された彼女達の表情は少し良くなったように見えた。心の傷は残ったままだろうけど。
「ご主人さま、ここにいらしたのですね」
女冒険者達の見張りをさせていたミオがテントに入ってきた。
「あぁ、ミオ一人で任せてすまない」
「大丈夫ですよ。待ってる間皆さんと、お話しさせていただきましたから」
ニコっと笑う、ミオを撫でてやると目を細めて身体を寄せてくる。すっと俺を見上げてきたミオが、テントの外に女冒険者達を待たせてると告げた。
「そうか・・ありがとう」
ミオとテントを出て女冒険者達の前に立つと茶髪の魔法師が話しかけてきた。
「あの・・私はレイラと言います。これからどうしたら?」
「レイラさん、俺はハル・・この子はミオってもう知ってるかな」
テントにいるアイナ副団長を読んで今後の方針を決めることにした。
「宿営地の北側は知ってると思うけど、男冒険者達の亡き骸がある。顔馴染みを殺してしまったこと申し訳ないけど仕方のない状況だった」
「ハルさん、最初に裏切ったのは彼ら達です。気に病むことはありません」
レイラが女冒険者代表として話し、後ろにいる女冒険者達は肯定するかのように頷いてくれる。
「ありがとうレイラさん」
「ハル殿、これからなんだが、今夜はこの宿営地で過ごすことでいいか?」
初めて名前で呼ばれたぞ・・そうか、アイナ副団長に名乗っていなかったな。
「そうですね。アイナ副団長様、呼び捨てでいいですよ。ただの平民の俺ですから」
「そうか・・・・なら私の事も呼び捨てで呼ぶことを許すぞ・・ハ・・ハリュ」
(はじめて呼び捨てで名前を噛むなんて、恥ずかしすぎる)
俺の名前を噛んだアイナをスルーして、泊まるテントの振り分けと負傷して相手にされていない新人男騎士達の無事を確認すると散らかっている男冒険者達の亡骸を火魔法ファイヤーストームで一気に焼き尽くす。周囲のテントも灰と化したが、血糊の付いたテントは誰も使いたくないよなと言い聞かせて。
「なんて火力だ・・・・」
隣にいたアイナが呆然と見つめている。俺は、すべて燃やし尽くされたことを確認し、アイナとこの場所を離れてミオ達がいるテントへ向かう。
今夜はミオと二人で見張りをすることにして、みんなには寝てもらうことにした。それぞれが残っていたテントに入り床に就く。その中心となる場所で焚き火をして暖を取りながら過ごす。
「なぁ、ミオ・・こっち向いて」
「はい、ご主人さま・・」
肩を寄せ合い座るミオをこっちに向かせると、満面の笑みで俺を見つめてくる。無言で俺は彼女の顔に顔を寄せるとスッと眼を閉じてくれた。そのまま軽く唇を合わせたあと、おでこ同士をくっつけてから頭の中でミオを呼ぶ。
『ミオ・・聞こえるかい?』
「んにゃ・・頭の中でご主人さまの声が・・気のせいかにゃ」
『あってるよミオ。頭の中で俺を呼んでみて』
「頭の中でかにゃ・・んんん」
『んんん、ご主人さま・・聞こえますか』
『あぁ、はっきりとミオの声が聞こえるよ』
スっとくっつけていた、おでこを離しもう一度ミオを呼ぶ。
『これでも聞こえるかな?』
『はい。聞こえます』
これで念話ができるようになったことをミオに説明し、離れている時や聞かれたくない話は念話でやり取りすることに決めた。これでもっとミオとの距離が近づいたような感じになり話が途切れることがなく無事に朝を迎えた。




