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現代山賊。2  作者: 山狩楚歌
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第一話「希望的観測」

僕はフードコートでラーメンの食券機の列に並んでいる。

テーブルの陣取りはしていない。

空いてたらいいなぁと希望的観測ありきでラーメンの食券を購入し店員に渡す。


「硬めで。」


空いてなかったら空くまで立ち食いするしかないか。


この連休の人混みなのに出歩くなんて僕らしく無い。良く出歩くな俺。

淳二が「話があるならフードコートでうどんが食べたい。」と、

昨日交換条件を言い渡され待ち合わせとしたし、席がなくても許してくれるだろう。

テーブルは4人掛けなのに1人で座っている人がかなり多くいる。

こうして人の陣地というものが決まり、友達や家族が居なければ必要な陣地も奪われるということだな。


案の定このお昼時に席など空いていない。

店員に渡された出来たら呼び出される機械を胸ポケットに入れて壁にもたれて淳二を待つ。


しかし本当に死神なんているのだろうか。

かっぱや龍とかと同じ神話に出てくるなにかに違いない。

昨日アパートの玄関の壊れたポストで大きな音を立てて投函されたこの本は、

"ソシャゲガチャのSSRは運営で操作されている"というネットニュース以上の衝撃を与えた。

物静かな僕は、その物音にまぁ固まったよね……

封筒を定規で開けて恐る恐る半分まで取り出すなり、

「死神」という文字が見え、びっくりして一旦ベットに放り投げてしまったぐらい。


ベットに放り投げてしまった僕は、「死神の」という文字が見えてなにかに安心できて……


「あ、席が空いた。」


友達が居て良かったな淳二。席が空いたぞ。


というわけで、こうして家族連れが困ってキョロキョロしている中、嫌でも席を取らなければいけない訳だ。


僕はリュックを下ろし反対側の席に置いた。

この平和な日本で席を奪われない様に淳二が来るまで守り続けている。


「浩ちゃーん」


僕は目を合わせない。周りを気にしない淳二が恥ずかしい気持ちになるからだ。


淳二は席に付くとマックのビックマックのセットを置いてすぐさま足を椅子に乗せ妙な格好でポテトをむしゃむしゃ食べる。


「それで?用って何なの?」むしゃむしゃ


「淳二、うどんはいいの?」


「まぁね、気が変わった。」


いつも淳二はそうだ。無計画だ。


淳二の無計画さは今に始まったことでは無い。

遊園地に行きたいと言うから付いて行ったら山手線の途中下車の旅をして帰ったり、

服を買いに行こうとチャリンコで一緒に行ったら着いた先の中古バイクショップで2万の原付きを買ったりする。

結局淳二はその時服は買っていない。それぐらいの気まぐれ今に始まったことでは無い。


「浩ちゃ~ん。おーい生きてるかぁ?鳴ってるよ」


「お、おう。すまん。」


僕はすぐにラーメンを取りに行くと胡椒を振りかけ家族連れの間をすり抜け席に付く。


「浩ちゃん、それで?用って何なのさ?2回目だよ」


ラーメンを一口すすり切ると、次の麺を持ち上げ冷ましながら話した。


「あぁ、すまん。俺の家に本が届いたんだけどさ。」


「本?なんの本?」


「死神の本。」


「死神!?」ズズーズズ


「シー…声がデカイよ…‥」フーフー


思わず淳二はコーラを名一杯啜った。


「で、誰から届いたの?」


「わからないんだよ。書いてないんだよ」ズルズル~


「なんだよそれ。本は持ってきてるよな?」


「持ってるけどここで見るの?誰かに見られたりしないかな?こんなに大勢の前で本を見せるのはちょっと気が引けるよ」


それもそうだと思わないかい?誰が見てるかもわからない。


「そうか。じゃあすぐ近くの公園に移動しよう。それでいいだろ?」


「了解。それならいいよ。でも本当にびっくりするなよな?」


「ただ興味があるだけだよ。」


淳二が心躍らせている。この淳二の浮き足はもう誰にも止められない。


食器を片付けると僕たちは廃れた公園に行った。


1年前にUMAが出るとされていた海に行き望遠鏡で眺めて居た時に淳二は同じ様に心踊らせていた。

すぐにテントをはり雨の中5日焚き火が尽きるまで魚を釣り望遠鏡を覗き込むのをやめなかった。

僕は魚をさばき僕らの篝火が消えない様にずっと守っていた。

マッチも湿気、ライターのガスもなくなった篝火は僕らがキャンプができ、UMAを探すための理由だった。



-小さな公園-



僕たちはこの歳になって錆びついた音のするシーソーを漕いでいる。

淳二は本をパラパラめくりながら僕に問いかける。


「浩市、死神になれると思う?」


「わからない。死神ってただの殺人鬼じゃないの?」


「殺人鬼?またそれは物騒だな。殺人鬼ならナイフを持つだけですぐになれるでしょ。」


「じゃあ淳二、死神と殺人鬼の違いってなんだと思う?」


「それは知能的な犯行か道徳的な犯行なんじゃない?

 だってそうだろ?完全犯罪のトリックは知能で溢れている。はたまた、

 首相の暗殺はある国にとっちゃ国を動かす行為で英雄ものなんだよな。」


「知能的な犯行でも殺人鬼は殺人鬼だと思うよ?殺人を犯したという事実が存在するだけで、

 死神や神みたいになにか偶像なんかじゃないと思う。」



沈黙が続く。淳二は本をパラパラめくりながらシーソーを交互に漕ぐ錆びた音だけが公園を響かす。


また、死神の意味が腑に落ちないまま僕も黙っていた。

そして淳二が本をポンと閉じこっちを目線を向けた。


「じゃあ浩ちゃん、俺ら死神になってみない?」


「え?殺人をするの?やめよう。それだけは今後の人生に差支えるからやめてくれよ。」


「大丈夫大丈夫、この本によると殺人をしないで死神になる方法があるという都市伝説の体験ができるんだ。」


「どういうこと?」


「西洋呪術の一種さ。その過程で死神になる方法があるんだって。ワクワクしない?」


「えー、なんか怖いな」


「まぁいい、ついてきて。」


シーソーを飛び降りると淳二は海に向かうという。


「浩市、ルネサンスだよ、ルネサンスが見たいだろ?」


「ルネサンス?何だそれ」


人間は1つの居場所を奪い合う。地位、名誉、存在意義。

混沌の時代の狭間の平成最後に、この大学生2人によって

死神を導く希望的観測による儀式が遂行される。

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