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春風吹き抜けて  作者: alice
秋~automne~
21/30

21,サンタさんの魔法

「そうしてエマの元へ来ることができたというわけです。」


 スリジエはエマが月へいる間の地上の出来事を話し終えました。


「スー、トム、私の為にサンタさんへお願いしてくれて、どうもありがとう。そしてサンタさん、友達に会わせてくれてありがとう。」


 エマはスリジエとトムへ感謝の言葉を述べ、サンタさんの方を向くとしっかりお辞儀をしました。


「友達が離れ離れになるのは誰にだって辛いことだ。私は自分の出来ることをしただけさ。」とサンタ。


 一連の話を聞いていたリュネが言いました。


「よかったわね!エマ。お友達と会うことができて。これで地上に戻ることができる、旅を続けることができるね。」


 その声はとても嬉しそうなはずなのに、どうしてかエマには寂しそうに聞こえました。


「リュネも、落ち込んでいた私を励ましてくれてありがとう。あなたが居たから私、月でも全然寂しくなかったわ。」


 エマはリュネに対してもしっかりお礼を言います。


「どういたしまして。それを聞けて嬉しいよ。エマが笑顔になってくれると、うちもなんだか嬉しくなってくる。」


 その声を聞き、その表情を見たエマは、リュネが言っている言葉の裏には別の感情があると分かってしまいました。だからこそ言葉では元気に振る舞っているリュネの、心の奥のもやもやの部分を取り除いてあげたいと思います。エマはサンタの方を向き言いました。


「サンタさん。私も少し早いクリスマスプレゼントをお願いしてもいいかしら?」


「ん?しょうがないな。言ってごらん。」とサンタさん。


 エマはリュネの方を一度見つめ、そして言いました。


「私の願いは、リュネをいつでも地上に行けるようにしてほしい。このただ広いだけで一人ぼっちの月に閉じ込められている友達がいるなんて可哀想だもの。」


 それを聞いたリュネは困惑した声で言います。


「そんな、エマ。せっかくのサンタさんへのお願いをうちの為に使うなんてだめだよ。もっと良い願い事にしなきゃ例えば、そう!オレンジタルトの。お城を作ってもらうとか!」


 エマはリュネの方へ向き直ると言いました。


「いいえ、今の私にとって一番の願いは、友達が幸せになることだわ。そのためならクリスマスの嬉しい気持ちを喜んでサンタさんにお返しするわ!ねぇ、サンタさん。どうかしら。」


 サンタは少し考えたような表情を見せると、エマに言いました。


「そうだね、リュネ君を地上へ連れてくるだけではなく、月のお仕事から解放するためにはエマ君だけの対価では足りないかな。私の魔法は、喜びを対価に使うことができる。クリスマスプレゼントは一見、サンタさんが無償でプレゼントを渡しているように見えるが、ちゃんと対価は貰っているのだよ。」


「プレゼントを貰った時の喜びの感情、ですね。」とスリジエ。


「そういうこと、だからエマ君一人分の喜びだけでは、その二つの願いを叶える魔法は使うことができない。」


「そんな!」とエマ。


「でも、リュネ君。」


 サンタさんはリュネの方をまっすぐ見つめると言いました。


「君も私に願うならば、そのプレゼントは君に届けることができる。君を月のお仕事から解放することができる。すべては君の願い次第だよ。」


「私が地上に…。」


 リュネは一瞬喜んだ顔をしましたが、すぐに元の表情に戻ってしまいます。


「やっぱり駄目!うちの願いの為にエマのクリスマスを犠牲にすることなんて出来ない!だって元はと言えば、エマをここまで連れてきてしまったのはうちなんだから。うちがもっと周りに注意していればこんなことにはならなかった。そうすればエマは私に会うこともなかった。毎年のクリスマスを楽しみにすることができたんだ。エマのクリスマスプレゼントをうちの為に使うなんて絶対ダメ!」


 明らかに無理をしているのがエマ以外にも分かりました。それほどまでにリュネは迷っているのです。自分が救われていいのか、エマのクリスマスを楽しみにしている気持ちを犠牲にしてまで、自分の願いを優先させてもいいのか、と。


「リュネ。」


 エマは膨らんだアップルパイをフォークとナイフでで切る時ぐらい優しくリュネに近づきます。そうしてリュネの肩に手を置き言いました。


「私は出会ったみんなが笑顔になれる魔法を持っているってプランタンに言われたわ。でも、梅雨の精霊が泣いているのを見ていて、なんて声をかければいいのかわからなかった。そしてスーの優しさに触れた梅雨の精霊が見せてくれた笑顔を見て思ったの。私の魔法を悲しんでいる人の為に使うことができたらどんなに素敵なんだろうって。まだわからないところも沢山あってうまく言えないのだけど、リュネの悲しそうにしている心を取り除いてあげたいって思ったわ。そのためなら私はどんなことだって出来る。クリスマスプレゼントでリュネの笑顔を見られるなら、私は私の持っている魔法を使いたい。だからお願い、あなたの気持ちを聞かせて。」


 リュネはまだ迷ったような表情をしています。ですがエマの言葉を聞いて、エマの魔法に触れて、勇気をもらったようでした。自分の気持ちを素直に言葉にしてもいい勇気を。


「う、うちも、うちも地上に行きたい。うちはまだエマとお話ししたいこと沢山あるんだ。それに色んなところにも行ってみたい。春も、夏も、冬も、もちろん秋にもまだまだ行きたいところが、ある。」


「リュネ!」


 エマはリュネに抱き着きます。そして顔いっぱいの笑顔をリュネに届けます。その笑顔の魔法はとうとうリュネにも届いたようです。


「でも、本当に良いの?うちの為にクリスマスの楽しみを諦めちゃっても。だって一年に一度の特別な日なのに…。」


 リュネの言葉を聞いたエマは、得意げに言います。


「あら?私、いつクリスマスの楽しい気持ちを諦めるなんて言ったかしら?」


「えっ、でもうちの為にサンタさんに願うって。」


「えぇ言ったわ。でも諦めたなんて言ってないわよ。」


 エマの顔が笑顔から徐々に、にやり顔になっていきます。


「私、サンタさんの話を聞いて思いついちゃったの!私がサンタさんと同じことをクリスマスにすれば、それってプレゼントの貰えない私にとっても楽しい時間になるってことでしょう!?」


 それを聞いたトムは驚いた声で言います。


「なるほど!サンタさんは喜びをみんなから貰ってプレゼントを渡して周っているんだから、それと同じことをエマがやれば、エマも喜びを貰えるはずだもんね!そうなればエマのクリスマスはこれからも楽しい特別な日になる!エマ、頭良い!」


「でしょ!」


 エマはかがんでトムと笑顔でハイタッチをします。エマは何も諦めたりはしません。それは大人になるためにトムを海辺へ捨ててしまったエリーゼと約束です。


「ほっほっほ、私のお仕事がエマ君に取られてしまうね。」


 言葉とは裏腹にサンタさんも笑顔です。そのうちサンタクロースがエマクローズになっても同じ表情をしていられるでしょうか?エマクローズ、見てみたいですね。


「エマらしい、素敵なアイディアですね。」


 スリジエも微笑みで応えてくれます。


「…うふふ、本当にエマらしいわ。ありがとう、エマ。」


 そう言うと、リュネは本心から来る、曇りのない笑顔をエマに見せてくれました。




「さぁそれじゃあ、そろそろ戻ろうかね。ソリの後ろに乗るといい。」


 みんなに向かってサンタさんが言います。エマ、スリジエ、トム、そしてリュネはみんなでソリに乗り込みます。


「これがソリなのね。それにトナカイも。」


 リュネは目の前の初めてに興味津々の様です。


「これからもっと新しいことがリュネを待っているわ!まずは冬ね!」


「えっ?それって」


 エマの言葉を聞いてリュネはポカンとしています。


「あら、リュネ、あなた自分で言ったじゃない、私ともっとお話ししたいって。みんな、いいわよね?」


「かまいませんよ。リュネ、私は桜の精霊のスリジエと申します。よろしくお願いしますね。」とスリジエ。


「もちろんさ。僕はトム!クマのぬいぐるみのトムさ。特技は大きくなったり小さくなったり、あとはぬいぐるみだから疲れないしご飯を食べなくても元気。でも体の綿は弱点なの。よろしくね!」とトム。


「エマ!それに桜の精霊様にトム。ありがとう。よろしくね!」


「もちろん別の場所での手紙のやり取りも悪くないとは思うんだけど、でもやっぱり一緒に居ながらお話しするのが一番よね。紅茶を飲みながらリュネとお話とか…なんだが前に読んだ絵本を思い出してしまうわね。私くらいの子が不思議な国へ行くお話。」


「それ聞きたい!」


 エマはリュネにその絵本について話し始めようとした時、スリジエが言いました。


「ねぇトム、それにリュネも。前から思っていたのですが、桜の精霊様と呼ばれるのは、なんだか寂しい気持ちになります。私だけ仲間外れの様です。」


 スリジエは少し照れながら言います。


「スーが照れてる!」


 さすがエマ。今回ばかりは本の話を一時中断させ、スリジエの照れ顔を見逃しませんでした。


「照れていません!」


 これは完全に照れている反応ですね。微笑ましいです。


「いいんですか?僕なんかが精霊様を名前で呼んでも。」とトム。


 スリジエはなるべくエマの顔を見ないようにしながら言います。今のエマの顔見てはまた顔が赤くなってしまいますから。


「もちろんです。せっかくこれだけ一緒にいるのですから。リュネも私のことはどうかスリジエと、もしくはスーと呼んでください。」


「うちもいいんですか?それじゃあスー、よろしくね。」とリュネ。


「スー!あぁなんだか背中がムズムズする。」とトム。


「トム!あなたのそのムズムズはきっと照れだわ。前にスーに教えてもらったから覚えているわ。」


 エマ達は皆一様に笑顔です。これからこの2人と1匹と1羽で冬の魔女の元へ行く旅が始まります。


サンタがトナカイに繋がれている手綱を一回叩くと、トナカイは四季の国へ向けて空を走り始めました。行きと違い、ソリは月の周りをグルグルし始めます。


「さぁそれじゃあ私の魔法の出番だ。」


 サンタは脇に置いてあった白い袋からキラキラな粉を取りだします。


「それがサンタさんの魔法なの?」とトム。


 サンタはトムににっこりと笑いかけると、それを月に向かって撒き始めます。すると、ウサギの模様をしていた輪郭が光り輝き始めました。


「「うわぁ!!」」


 一同が驚きの声を挙げます。


「でっかいリュネだわ!」


「本当!あの鼻の形なんかうちそっくり。こんなに間近で月のウサギ模様を見るの、実は初めてなの。いつもはうち、月の表面にいるから分からなくて。」


「それでは自分の月の姿をはっきり見るのも初めてですね。」とスリジエ。


「そうなの!」


 そうしてみんなを乗せたソリは四季の世界の地上へ向けて走っていきました。


秋の主題は「実践」です。

何事も覚えたり、経験しただけではその力を本当に発揮できるかわからないものです。

リュネとの出会いによってエマはまた一回り成長することができました。


月ウサギのリュネという名前は

Lune lapin

フランス語で月ウサギという言葉からとっています。


新たな旅の仲間を迎えたエマ。このあとリュネはどのような活躍を見せてくれるのか。

それでは。

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