13,森のかくれんぼ
「エマ!エマ起きて!起きて下さい!」
スリジエの焦った声がします。
「…どうしたの?スー。」
エマは眠い目をこすりながら答えます。
「風がどんどん強くなっています。もしかしたら台風が近づいているかもしれません。」
「僕もすごく嫌な感じがするんだ。なんだか全身の毛が逆立つような。」
まさにぬいぐるみだけに。
「それじゃあ夏の城まで戻る?あそこなら海の中だしきっと安全よ。」
エマはみんなに提案します。
「私もそう考えましたが今は朝方、夏の城に入れるのは夕方の時間のみ。それまで待っていたらおそらく台風は私たちを飲み込んでしまうでしょう。」
スリジエが冷静に答えます。
「そんな。なにか良い方法はないのかしら。」
エマとスリジエが腕を組んで悩んでいるとトムは言いました。
「ここの洞窟は固い岩でできているから、台風が過ぎるまでやり過ごすっていうのはどうかな。岩でできている洞窟だから、きっと崩れたりしないさ。」
エマとスリジエはトムの意見に賛成し、この洞窟に留まることにしました。しばらくその場に留まっていると、ますます風は強くなってきました。もう洞窟の外は巻い上がった土や折れた木が舞っていて何も見えません。
「エマ、念のため僕に捕まっていて。大きい僕ならエマよりも風に耐えられると思うから。それに桜の精霊様も。」
「わかった。」「わかりました。」
エマとスリジエはトムにしがみつきます。そして捕まったその時、洞窟の天井がガタガタと揺れ始めました。そしてついに天井の岩が風によって飛ばされてしまいました。これでもうエマ達を守ってくれるものはありません。
トムは踏ん張って何とか地面に留まろうとします。ですが台風の力は大きくなったトムですら飛ばしてしまうほどのものでした。エマ達の体は宙に浮き始めます。
「きゃー!!」
エマは怖くなって叫び声を上げます。それでもトムにしがみついている手は絶対離したりしませんでした。トムと離れてしまったら、小さなエマの体はすぐに大空に舞い上がってしまうでしょう。この台風の中ではスリジエの風の言の葉も意味を成しません。トムが必死に地面に戻ろうともがき続けます。ですがトムの努力むなしく、上空へと飛んで行ってしまいます。
そこでエマの意識は途絶えました。
「うぅん。」
エマは目を覚まします。
「みんな!スー!トム!」
エマは二人を呼びかけますが返事はありません。エマはとりあえずあたりを確認します。
「ここは、どこなのかしら。」
エマはどうやら森の中で倒れていたようでした。辺り一面どこを見渡してもエマの目に森が広がっています。
「私、どうしてこんなところに。台風に飛ばされて、それで…」
エマはそれ以上思い出せませんでした。離れないようにしっかりトムにしがみついていたはずですが、どうしてかトムの姿が、それにスリジエの姿もありません。エマはとりあえず森の中を進むことにしました。もしかしたら2人に会えるかもしれないと信じて。
10分くらい歩いたでしょうか。エマの耳に不思議な音が聞こえてきました。
シャンシャンシャン。
「これって鈴の音?」
エマは辺りを見渡します。ですが誰もいません。ですが鈴の音は徐々に近づいてきます。そして目の前に5人の精霊が現れました。
「私たちと遊んでおくれ。」
「退屈で仕方ないの。」
「君はどんな遊びが好きかな?」
「僕たちが好きなのはかくれんぼ。」
「遊んでくれたらみんなの所に返してあげる!」
5人の精霊はそれぞれエマに言いました。
「あなたたちは?」
「「私たちは森の精霊のフォレ。どうぞよろしく。」」
フォレ達は声をそろえて言います。
「私はエマ、ねぇどうしても遊ばないといけないの?スーとトムは無事なの?」
エマが質問します。
「もちろん。台風に吹き飛ばされたけれどね。」
「僕たちが助けてあげたのさ。」
「でもただ助けただけじゃあつまらないだろう?」
「そんなのただの骨折り損さ。」
「だからエマをここに招待したんだ。」
このまま何もしなかったら、スリジエ達の元へ返してくれないだろうと考えたエマは彼らの言う通りにすることにしました。
「わかったわ。私が鬼役?それとも隠れる役?どちらをすればいいの?」
「エマは鬼役をしてくれよ!」
「範囲はこの森の中!」
「100数えたらスタートだ!」
「ズルしたらもう一回やり直しだからね!」
「それじゃあみんな逃げろー!」
フォレたちは一斉に逃げ出します。エマは焦る気持ちを抑えながらもしっかり100数え始めます。エマは時々お小言を言いますが、基本的には真面目なのです。今回もジャガイモがしっかり茹で上がるのを待つみたいに、辛抱強く数えます。
「―99、100!さぁ行くわよ!」
エマは早速5人の精霊を探し始めます。まずエマは木の根元などを探し始めます。すると木の根元に隠れている精霊を見つけました。
「見つかっちゃった!まずは一人目!あと4人!」
精霊はふわりと浮き上がると、くるくる回転して消えてしまいました。また探し始めます。ですがもう根元にはいないようです。次は木の幹を探し始めます。すると木の幹に開けられた鳥の巣の中に精霊を見つけました。
「残りはあと3人!どんどん難しくなっていくよ!」
精霊は巣から出てくると、同じように消えてしまいました。一本一本確認しましたが、もう木の幹にはいないようです。次にエマは木の葉を探し始めます。すると、葉の裏側に精霊が隠れているのを発見しました。
「あーあ!あと2人!」
そのあとエマは木の葉を注意深く探していましたが、一向に見つかりません。
「一体どこにいるの?もしかしてズルしてるんじゃないでしょうね?」
エマがそう言うと声が聞こえてきました。
「そんなことないよ!僕らはちゃんと隠れてるよ!」
エマは良いことを思いつきます。
そうだわ、この声を辿っていけばきっと隠れている場所が分かる!
そう考えたエマは何とか会話を持たせて居場所を探り当てようとします。
「ねぇどうしてあなたたちはかくれんぼをしたがるの?」
精霊は答えます。
「森は何年も何十年も何百年も動かないでそこにあるものだ。君は森が自由気ままに移動しているのを見たことがあるかい?もしあるなら教えてほしいくらいだ。森は退屈なんだよ。だから僕らは集まってかくれんぼをするんだ。」
「私がどうして私が鬼なのかしら?」
「最近はすっかりお互いの手の内が分かってしまってね。すぐにみんな見つけられるんだ。すぐ終わるかくれんぼなんて、上を向かないヒマワリくらいつまらないと思わないかい?」
「それはよくわかるわ。それで私を呼んだのね?」
「その通りさ!エマと一緒にかくれんぼをしたらきっと面白いと思ってね!」
そうやって会話をし続けていると、エマはついに声の主の場所を見つけました。その場所はなんと、森の中にある小川の中に隠れていたのです。
「見つけたわ!」
エマはフォレを掬いあげます。
「あぁ!ばれちゃった!でもどうしてわかったんだい?」
「あなたの隠れた場所は完ぺきだったわ。でもあなたの声ははっきりとこの川から聞こえてきたわ。それじゃあバレバレよ。」
「そうだったのか!それじゃああと一人!」
その後エマは声をかけたり、川の中を探したりとしましたが、一向に見つかりません。エマは疲れてしまったので、木に寄りかかって休むことにしました。
「むぎゅ!」
背中から声がしました。
「あら?何の声かしら。」
エマは後ろを振り向きます。すると目を回しているフォレが倒れていました。
「大丈夫?どうしてあなた、こんなところで目を回しているの?」
フォレは答えます。
「君の背中に隠れていたんだ。僕の得意技でね、見えている景色がすべてじゃない。見えない所にも気を配れ、っていうのが僕の隠れ方なんだ。それで今回は絶対に見えない背中に隠れていたわけ。でも君が木に背を預けてしまうんだもの。そりゃあ僕はつぶされてしまうよね。いやぁ失敗失敗。」
そして見つけた4人のフォレがエマの前に現れました。
「おめでとう!エマの勝ちだよ。」
「約束通り、桜の精霊とクマのぬいぐるみは返してあげる。」
「目が覚めたら傍にいるはずだ。」
「また遊んでくれると嬉しいな。」
そして目を回していたフォレもエマの前に飛んでいくと言いました。
「それと遊んでくれたお礼にこれをあげる!」
エマの手に一枚の葉を乗せてくれます。
「これがあれば台風が来るのがすぐ分かるようになるよ!もう吹き飛ばされないようにね!」
「ありがとう。フォレのみんな。」
エマがそういうと、視界がどんどん歪んでいきました。そしてついに真っ暗になります。
「うぅん。」
エマは森の中で目覚めました。傍にはスリジエと小さくなったトムがいます。
「スー!トム!大丈夫?」
エマが声をかけると、スリジエとトムは目を覚ましました。
「よかった!みんな無事で。きっと最後までトムの体にしがみついていたのが良かったのね。トム、ありがとう。もしトムが大きくなれなかったら私たち今頃離れ離れになっていたかもしれないわ。」
「そうですね。トムには助けられました。ありがとうございます。」
「いやー、大したことはしてないさ。大きくなることは僕の小さな取柄みたいなものだからね。」
ひとまずみんなが無事だったことを喜びました。そして辺りを確認します。
「随分飛ばされてしまったようですね。ここはどこなのでしょう。」
スリジエが言います。エマもトムもここがどこなのかわかりません。エマ達がこれからどうしたらいいのか悩んでいると、木の枝から枝をとても早く移動している動物を見つけました。
「あぁまずい!一年に一回の花火を見逃してしまう!」
そこには急いで南の方へ向かうモモンガの姿がありました。




