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春風吹き抜けて  作者: alice
春の魔女
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1,春の魔女

 エマは小さな村のはずれに母親のマリーと二人で暮らしている9歳の女の子です。父親のアランはエマが小さい時に亡くなってしまっていて、生活に必要な食べ物やお金はマリーと二人で育てているわずかな作物でなんとかやり取りしています。2人が暮らしている家は部屋が一つあるだけの質素な家で、小さな水場に食事をするテーブル、寒い時には欠かせない暖炉、そして奥に2人が眠るベッドが置いてあるだけのシンプルなものでした。


「エマ、桶の水が少なくなっているわ。汲みに行ってきてくれないかしら?」


 マリーはエマにお願いをします。マリーはアランが死んでしまった直後はとても落ち込んでいましたが、今では一人娘のエマの為に一生懸命頑張っています。もちろんエマのこが大好きなマリーでしたが、悪いことをすれば叱ります。でも良いことをしたときはとっておきの笑顔で褒めてくれるのです。エマはそんなマリーのことが大好きだったし、マリーもエマのことを心から愛していました。


「わかったわママ。それじゃあうんと暖かい恰好をしなくちゃね。外とっても寒そうだわ。それにあの冷たい川の水を汲むとなれば余計にね。」


 エマは答えます。現在は冬の季節、窓の外を見ると一面白い雪で覆われていて、太陽の反射でとても眩しく、完全に目を開けていられないほどです。


「そうね。上着にマフラー、帽子に手袋。ちゃんとみんな付けていくよの。」


 マリーがエマに念を押して言います。


「うん!」


エマはマリーに言われた通りに着込み、水汲み用のバケツを持つと言いました。


「それじゃあ行ってきます。」


「行ってらっしゃい、気を付けて行くのよ。」


 玄関のドアを開けると冷たい空気がエマの前を通り抜けます。天気は晴れているし、太陽もそれほど空の天辺から離れてはいませんでしたが、風が吹いているせいで、気温はかなり低く感じました


 早く水を汲んで、暖炉の前に座りたいわ。


 息を吐くと白い煙となって目の前を漂います。毎年冬の季節になるとこの地方は雪がよく降るし、気温もうんと下がります。帽子とマフラーを忘れて外に出ると1分もしないうちに耳と頬が赤くなるほどです。エマは地面に積もる雪を踏みつけ道を作りながら川へと向かいました。


 冬の水汲みは外に出るだけよりもっと辛いお仕事です。冬の川は本当に冷たく、前日の夜の気温がかなり低いと、表面が凍ってしまうときもあります。そんなときは、そのへんに落ちている木の枝で氷を突いて割らなくてはならなくなってしまうので、作業が一つ増えてしまいます。もしそうなってしまったら、家の暖炉で暖まる時間がその分後ろにずれてしまいます。エマにとってそれはなるべく避けたいことでした。


 昨日の夜はかなり寒かったし、もしかしたら凍ってるかも。


 しばらく歩いていると川が見えてきました。幸いなことに川は凍ってはおらず、そのままバケツを川に入れるだけで済みました。


 「冷たい!毎日こんな冷たさじゃあかぎれがいつまでたっても治らないわ。冬だからって川の水まで冷たくなることないじゃない。冷たいのは外の空気だけで十分よ。」


 そんな冬に対する不満は今に始まったことではなく、マリーのお手伝いをするようになってから毎年恒例のことでした。


「冬の季節は好きじゃないわ。寒いし、食べ物は少なくなるし、外に出たくなくなっちゃうし。どうして冬は私に厳しいのかしら、ママは私が悪いことをしたら厳しくしかるけど、冬に対して悪いことをしたことないわ。それなのに私に厳しくしてくるなんて理不尽だわ。帰ったらママにどうして冬は私に厳しいのか聞いてみよう。」


 独り言を呟きながらも水汲みを終わらせ、来た道を戻ろうと振り返りました。


「――あそこにあるのって、」


 振り返った右側の木々の間に、いつもは絶対見ることのない桜色の何かがありました。近づいてみるとそれはものではなく、倒れている女性だと分かると、エマは急いで女性の元へ向かいました。


「あ、あの!大丈夫ですか!?もしもし!」


 エマは女性に対し呼びかけましたが反応がありません。でもエマはなんとか女性を助けたいと考えます。


「私ひとりじゃこの人を家まで運べない、そうだわ。ママを呼んでこよう。ママと二人ならきっと運べるはず。」


 エマは上着とマフラー、帽子に手袋を女性に着させました。女性の体はとても冷えていたから、少しでも暖まるようにと思ったのです。そのあと急いで家に戻って玄関のドアを勢いよく開けると、待っていたマリーは少しびっくりして言いました。


「おかえりなさい、エマ。――あなた、上着はどうしたの?それにマフ―」


「ママ!山で倒れている人がいるの!私一人じゃ運べないからママに手伝ってほしくて戻ってきたの。お願い!」


エマはマリーの言葉を遮って喋ります。倒れている女性が寒さで死んでしまうのではないかと思ったのです。


「山に人が!?わかったわエマ、すぐ準備して行きましょう。」


 マリーはすぐに状況を理解します。エマの必死さが伝わってきたのでしょう。こんなに必死そうになったのは、年に一度の誕生日に村へスイーツを買いに行く時と同じくらいだったのですから。


「こっち!」


 エマの案内、というよりもエマが踏みつけて出来上がった道の案内によって二人は女性が倒れている場所まで向かいました。そして女性が倒れている場所にたどり着くとマリーは言いました。


「彼女は私が担ぐわ。エマは後ろから支えてちょうだい。」


「わかったわ!」


 そうして二人で女性を冬の山から運び出し家にたどり着いた時、エマの身体はかなり暑くなっていて、暖炉の火を消してしまいたいとすら思いました。ですが女性の体はまだ冷え切っています。暖炉の火を消してしまったら、女性は寒さで死んでしまうかもしれない、それはだめ!そう自分に言い聞かせエマは暑いのを我慢しました。


 そうしてひとまず看病が終わると、エマは改めて女性を観察しました。顔はモデルのように綺麗で、髪の毛は薄いラベンダー色、着ているものは最初の印象通り全身桜色でした。背中の大きく開いたドレスを着ていて、スカートは立った状態だとさぞ膨らむのだろう、パニエを履いているようです。ドレス全体に桜の花びらの模様が刺繍されており、そして足には濃いピンクの靴を履いていました。色といい模様といい、まさに春を想像してしまう女性です。


 この人、いったい誰なんだろう?こんな寒い冬の季節の、こんな田舎にいるなんて。それにどうしてあそこで倒れていたのかしら。近くにお城なんてないのに。あ、白粉を付けた山はあるけど…、今のなかなか上手いんじゃないかしら私。


 エマはたまにこんなことを言います。でもたまになので気になるほどではありません。そしてエマはベッドで横たわる女性の手を握りました。少しでも暖かくなってほしいというエマの優しさからきた行動でした。自分が病気で弱っているときにマリーに手を握っていてもらうと少し楽になることを思い出していたのです。


 そうしてエマは女性が起きるまでずっと手を握っていてあげました。早く元気になれますように、と願いを込めて。


一読ありがとうございます。

今回のお話はディストピアだとか、絶望だとか、

暗い印象を読者に与えることはありません。

子供のころに読んだ絵本を読むみたいに、気軽に読んでもらいたいと思っております。

これからしばらくエマの冒険は続きます。

どうぞよろしくお願いします。


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