その2
「ただいま」
オイラをスーツのポケットに隠し入れた旦那さんが帰ると、
「パパ、おかえりなさい!」
元気な声で少女が玄関まで出迎えてくれた。
「詩織。今日は、お土産があるぞー」
「やったー! で、お土産って何? 何?」
詩織と呼ばれた少女は、お土産があると思ってパパさんの持つ鞄をひったくると、急いで中身を物色し始めた。
「鞄にお土産は入ってないよ。お土産は、これ。―-はい!」
パパさんは、徐にポケットからハンカチに包まれたオイラを出し、詩織ちゃんに差し出した。
「あっ! 猫だ! ママー、パパが猫を拾ってきたー!」
詩織ちゃんは、オイラを受け取ると、キッチンにいるママさんのとこへ見せに行った。
「ママー、ほら子猫!」
喜びながら見せると、ママさんはオイラを一瞥して、
「詩織。うちは、動物は飼えませんよ」
と、無常な一言……。
「えー! いいじゃない、飼おうよ! こんなに可愛いんだよ!」
ママさんは、抗議する詩織ちゃんを無視して、
「あなた、おかえりなさい。――で、どうするの、これ? うちの社宅は、ペット禁止なのは知ってるでしょう?」
後からやってきたパパさんに、ママさんはオイラを指差しながら非難の視線を向けた。
「まぁ、いいじゃないか。ペット禁止なんて規則、有ってないようなものだろ? この社宅でも結構な数の家が犬や猫を飼ってるじゃないか」
「うちはうち、よそはよそです。最低限の規則ぐらいは守りましょうよ、あなた」
ママさんは、頑固にオイラを飼うことを拒否する。
困った顔をしたパパさんは、詩織ちゃんに言った。
「詩織~、その子猫をママが飼っちゃダメって言うんだよ……。子猫、どこかに捨ててこないといけない。そうしたら死んじゃうかも……」
パパさんが、『死んじゃうかも』と言ったとき、オイラは訳も分からずドキリとした。
当然、詩織ちゃんも驚いて、
「ママ、酷い! 猫ちゃんを殺さないでー!」
詩織ちゃんが大声で泣き出したので、ママさんはもの凄く慌て出した。
「あなた! 私一人を悪者扱いにするって酷いじゃない! ――わかりました! 詩織、その猫を飼ってもいいけど、あなたがちゃんと世話をするんですよ!」
詩織ちゃんを見ると、いま泣いたカラスがもう笑っていた。パパさんもママさんに見えないように親指を立てて『グッ!』とやっていた。
「じゃあ、まず、この子に名前をつけないとね。パパ、いい名前ある?」
「この子の名前はもう決まってるんだ。名前は、チーポン。この子猫を拾った場所にあったお店の名前だよ」
パパさんの言うお店は、オイラが入ってた段ボールが置いてあった商店の名前じゃなく、その2階にある雀荘の立て看板に書かれていた名前だ。そのことを、パパさんは全く気づいてないみたい……。
「チーポン……チーポン……。うん! いい名前! よろしくね、チーポン!」
満面の笑みでオイラを見つめる詩織ちゃん。だけど、雀荘の名前なんだよ……。