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チーポンの大冒険(仮)  作者: 橘 竜の介
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野良猫のチーポン

 オイラの名前は、犬飼チーポン、猫である。


 産まれた日は覚えていないので、拾われて犬飼家に来てから1年と7ヶ月と8日経っている。


 家に遊びに来る人間どもは、オイラに向かって『犬飼なのに猫かい?』と聞いてくるが、つまらない冗談には無視することにしている。


 オイラは血統種といいたいところだけど、基本白地に黒い耳と黒縞模様の尻尾は、どう見ても雑種以外の何者でもない。


 それでも旦那さんは、『お前は、ビロードのような毛並みだ』といって体を撫でながらいつも褒めてくれる。だけど、ビロードっていう物が何であるかオイラは知らない。それにビロードのような毛と褒められる割には、夏場にごっそりと毛が抜けると、犬飼家の住人はとても嫌がる。それを考えると、ビロードなる物が大した物ではないのではと思ってしまう。


 そんなオイラが拾われたのは、たしか7月に入ってすぐのときだったと思う。


 まだ梅雨の時期で、しとしとと降る雨の中を、産まれて間もないオイラは鳴きながら歩いていたのを薄っすら覚えている。お母ちゃんとはぐれて、すぶ濡れになって歩いていたオイラを見兼ねた通りすがりの人間が、オイラの首根っこを掴んでダンボールに入れて商店の軒下に置いた。


 その日は7月に入っているのに肌寒くて、お母ちゃんのおっぱいを飲んでないからひもじくて、ダンボールに入れられたまま独りで放置されていたから寂しくって、そのうち辺りが暗くなっていってオイラは怖くてずっと鳴いていた。


 どのくらいの時間鳴いていたのだろう……。


 オイラの前を何人もの人間が素通りしていくのが、ダンボールの中から聞いた足音でわかった。でも、あの時のオイラは、人間の足音を聞くたびに鳴き続けるしかなかった。


 周囲が真っ暗になっていくと、ガラガラガラっていう商店のシャッターを閉める音が聞こえてきて、オイラはその時は何の音かわからず怖くて思わずチビってしまった。


 もう体力も限界になって、雨でびろびろにふやけたダンボールの片隅で縮こまっていると、突然頭の上から声が聞こえてきたのを覚えている。


「お前、捨てられちゃったのか?」


 と、そう言って、オイラの頭を指で掻くようにして撫でる人間がいた。


 オイラが『にゃ……』っと、か細い声で鳴いて答えたら、『そうか……』といってつまみ上げられた。


 オイラはすぐにハンカチでくるまれ、スーツのポケットに入れられてた。その時は何が何だかわからなかったけど、あとになってから自分は助けられたんだってことがわかった。


 これが、犬飼家の旦那である犬飼純一郎との出会いだった。


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