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クロエのかくれんぼ  作者: bbbcat
7/14

僕は彼女と猫のためにカメラを買う(後編)

――春野少年のググレカスな日々が過ぎ、いよいよ水瀬とカメラを買いに行く日曜日になったのだった――



今回のカメラを買いに行くデート(仮)にあたって問題は三つあった。



 まず一つは、お金は工面出来たのかという話。


 それについてはまず問題はなかった。

日頃のお小遣いやお年玉で、何とかある程度のカメラは買う位は貯金がある。

 僕はやりたいことがない帰宅部で、友達もいないわけじゃないけど、高校になってからはほとんど、放課後は河内に付き合って喋るばかりだったし、月に一回有るか無いかで中学の時の友達と、土日にカラオケかボーリングに行くか程度が僕にとっての遊びだったので、少しずつ溜まっていっていた。



なんなら服も買えた。



 そう、二つ目の問題は、デートに着ていく服だ。


 先ほど言ったように僕は対して外に遊びに行かないので、そんなに服を持っていない。

 しかし、大好きな水瀬とのデートだ。恥ずかしい事にはなりたくない。

 すぐググった。


 出てきた!高校生鉄板初デートコーデ‼

 パーカーにシャツ、そしてチノパン。靴はバンズで買った。全部で一万円。

 おそらくはこれで大丈夫だろう。



 そして3つ目の問題。どのカメラを買うのか。


 めちゃくちゃググった中では、EOS KissX7というカメラが一番良いらしい。まず動くものは、一眼レフが良くて、さらにこのカメラは、キッズ機能という動くものを撮るためのモードがあるみたいだった。

 これでどこまでクロエを捉えられるかは分からないけど、これにしてみようと思っている。貯金全部でギリギリ足りる。



 そういうことで、問題は全てさらえてある。

 あとは今日を上手くやるのみだ。



 水瀬との初デート(仮)。




 必ず成功させる!そんな気持ちで、待ち合わせ場所に向かった。




――デートは5分前が基本である。早すぎても期待している感が出ていけない。遅すぎても、だらしない男感が出ていけない。



 僕は13時55分ピッタリに着いた。

 既に水瀬は着いていた。



「やっほー‼ここだよ!」

 僕に気付いた水瀬が手を振っていた。

 その勢いで無造作に結ばれた、後れ毛ポニーテールが揺れている。

 服装は、透き通った白いワンピースに、春らしいパステルピンクのカーディガンを羽織っていた。

とても似合っていて、正直めちゃくちゃ可愛かった。



「やぁ、水瀬、待たせたね!」

 僕も手を挙げて応えた。



「そんなに待ってないよ!

今日のカメラでクロエが撮れるかどうか決まるんだからね!

良い奴探そうね!」

 初めて休みの日に水瀬と会ったけど、水瀬の笑顔はいつも通り可愛かった。

 僕は任せろと、胸を叩いた。もちろん河内みたいにボヨンとはならない。



 待ち合わせは京戸という駅で、僕と水瀬の最寄りの駅であり、そして、中坂から帰る電車通学組がいつも登下校に使っている駅だ。


 僕達は切符を買って、電車を待っていた。


 そうしているうちに、待っていた電車がやって来た。

 最初は凄い速度で、中は見えないが、速度が落ちてくると中が見えてくる。もう止まるかな?というタイミングで、坂の上高校の陸上部のジャージを着た女子が見えた。



 火村亜貴だった。



 水瀬も同じように横で見ていたので、火村と気づいたのだろう。


 僕のパーカーの袖を引っ張って、隣の扉に促すのだ。

 これは「もし女子と付き合ったらされてみたい憧れのシチュエーションランキング5位の袖引っ張り」だ。

 まぁ正確には袖を引っ張って後ろからついてくるが正解だけど。

 僕は何も言わず隣の扉に引っ張られた。



「プシュ」っと扉が開いた。



 逃げ隠れるように、僕達は電車に乗り込んでそしてすぐに入って来た側の椅子に並んで座った。



 火村が僕達に気付いたかどうかは分からなかったが、彼女は振り返らず改札を抜けて恐らく坂の上高校のグラウンドへ向かって行った。



 

 僕は今の一連の流れには触れないようにした。出来るだけ何にも無かった感じで振る舞おうと思った。

代わりに僕はこの三日間ほどの猛勉強の成果を披露した。


 一眼レフと、ミラーレスの違いとか、今のデジカメの進歩の話だとか。

 水瀬は最初少しだけ俯いていたが、「ふー」っと息を吐いて顔を上げたら、いつもの可愛い笑顔で、僕の話をうんうんと聞いてくれていた。




――20分ほど電車に揺られたら目的の駅へ着いた。




 僕達の住む町から一番近いカメラを売っている店。

 それは高の丘という駅にある、「高の丘イコン」である。

 イコンは日本全国に勢力を拡大し、今や日本一ともなった、大型デパートの名前である。様々なお店が建ち並び、ちょっと田舎なこの辺りで、若者達が集まる一番ホットなスポットであった。



「イコン着いたね!」

 そう言って入り口となっているエスカレーターに水瀬が走る。

「コツコツ」とブーティが歌い、可愛らしいくるぶしが覗いていた。



 イコンの名前の由来は、聖画像から来ており、イエスキリストや、マリア様といった聖なる人がデザインの随所に組み込まれている。

 この高の丘イコンでも、もちろんそうで、僕達はエスカレーターを上がると大きく口をあけたヒゲのおじさんに飲み込まれて店内に入ることとなる。



 4階建てのデパートで一階は食品売り場やフードコートがある。

 口から入る入り口は2階となっており、様々な服のお店が入っていて、僕はいつもこの階はスルーする。


「カメラ屋は三階だよ。」

 僕は今日のデート(仮)にあたって当然入った事のないカメラ屋も事前に調べてきた。

 そこはデバガメ堂という何故デパートに入っているのかよく分からない個人経営のお店だった。

 噂では、イコンが出来る前にその土地に昔からあったお店で、土地買収や地域改革の流れでイコンに飲み込まれたようだ。土地を売る代わりにテナントとして出しているとのこと。



 お店のホームぺージで、お目当てのカメラ売っていることは確認できて、さらに口コミがわりと良い感じだったので、このお店にした。



「デバガメ堂?だっけ?私は入ったこともないよ。春野君は常連さんなの?」

 水瀬の悪意の無い、ナンちゃってカメラ少年に対する言葉のパンチが入る。

 


 かなり際どいパンチだ。

 カメラについて三日ほど前までなんの興味もなかった僕だ。もちろん入った事がない店に決まっている。

 常連と答えたら、お店で店員と仲良さそうに喋らないと不自然だろうし、入った事が無いとなると、カメラ好きであることが嘘になってしまう。



「2~3回来た事あるよ。

 店長さんが、ハンチングをかぶった、白髪のひげを蓄えたおじいさんなんだ。」

 結局、僕は事前に調べた口コミの知識を頼りに、中途半端な避け方をした。


 そんな感じで、ダラダラと喋りながら僕達は、デバガメ堂に着いたのだった。




 店は、三階の一番隅にあり、デバガメとカタカナで書いたネオンが入り口で待ち構えていた。

 中に入るとそこはカメラ屋、たくさんの黒い四角い機械があり、それらは均整のとれた並び方で丁寧に並らべてあって、新しいのから古そうなものまで、全てがピカピカに輝いていた。



 僕は事前に調べてきた「EOS KissX7」を探した。


 しっかり形を覚えてきたつもりだったが、正直、同じような形のものばかりでなかなかお目当てのものが見つけられない。

 どうしても見つからない場合は店員に聞かねばならないが、それはできるだけ避けたかった。

 最悪は奥のレジ横にハンチングをかぶって座っている、白い髭を蓄えたおじいさんに聞くしかない。



 「欲しい奴見つかった?」

 クルクルと店内のカメラを見て回っていた水瀬が、またもや悪意の無いパンチをかましてくる。



「いっぱいあって見つけられないから、店員さんに聞いてくるよ。」

 僕は覚悟を決めるしかなかった。


 

「EOS KissX7を探しているんですが、どこにありますか?」

 ハンチングの店長に問いかけた。場所を確認して、事をさささと済ませたい僕。



「お前さん初めて見る顔じゃな?何を撮るんじゃ?」

 店長は僕に、聞いて欲しくもない質問を投げかける。

 幸いにも水瀬は会話が聞こえなさそうな位置にいる。今のうちに、全てを終わらせたい。



「えっ、えっと~、めちゃくちゃ素早い猫を撮ろうと思っているんです。なので、EOS KissX7が欲しくて……。

どこにありますか?」

 正直に話した。とにかく早く目当てのカメラの場所を聞き出して会計をしたい。



「ほー素早い猫の~。なんでEOS KissX7がいいんじゃ?」

 ハンチングの店長は白髪のひげを「サスサス」と撫でながら、いまだ質問をして来て、場所を教えてくれない。

 水瀬がこちらに向かって来ている。



「いろいろ調べまして、動く被写体にはこれがいいと書いてあったんです。」

 水瀬がこちらに来る前に会話を終わらしたい僕。



「お前さん、写真撮ったことないじゃろ?」

 核心を突かれた。

 僕は後ろから向かってくる水瀬をちらりと振り返って見た。

 もう会話が聞こえてそうなところまで来ている。しかし、首を縦に振るしかなかった。



「なら、これがええ。」

 店長が差し出してくれたカメラは、D3200というモデルだった。



「最初はどれ使っても、一緒じゃ。安くて使いやすいのがええ。

 これでまず彼女の笑顔の写真でも上手くとりんしゃい。」

 店長はそう僕に耳元で話した。



「春野君どうだった?」

 水瀬が肩を叩いて聞いてきた。



「そっ、そうだね。店長と色々話していたらこれにしようかなと思ってきたよ。」

 店長に進められたカメラを持っていた。

 僕のこの3日程のググレカスな日々はほとんど意味が無くなったが、カメラ屋の店長が言うんだから間違いない!……と思いたい。



「いいね、なんか持ってる感じがしっくりくるね!

似合ってる!

これでクロエ、バッチリ撮れるね!」

 水瀬はグッと親指を立ててこちらを見た。



 同じ様にグッと親指を立てた店長が、

「これじゃったら、値引きしてあげられるし、一階にクレープ屋さんがあるから、お嬢ちゃんこいつに奢ってもらんなさい。」

そして店長は僕の方見て、ナイスパスだろ!と言うようなドヤ顔をしてきた。でも確かにナイスパスだ。


「そうだね、せっかくだしクレープ食べようよ!」

 僕は「高校生のデートと言えばランキング2位」くらいにつけている、一緒にクレープを食べるを行ないたい。



 結局店長はクレープ代のつもりか、1500円安くして、僕にカメラを渡してくれた。

「カメラを上手くなるには、自分が撮りたいものをいっぱいとるこった。

いっぱいこいつで撮るんじゃぞ。」

 最後に僕等に決め台詞の様にそんなことを言って送り出してくれた。




 僕がヴィレバン系カメラ少年では無いことが、水瀬にバレたかどうかは、ぎりぎりだった。


しかし、これからそういう風になるっていう手もあると思う。




 僕は初めて自分のカメラを買った。

 なんだか凄く良いものな気がしてくる。名前とか付けたいくらいにW

 

 ちなみに、僕は今後この店長のとこにあしげく通う様になる。

 なんなら、この店のバイトなんかして、ドンドンとカメラの世界にのめり込んでいくことになるのだが、それはまた別のお話。



 今は大好きな水瀬との初デート(仮)なのだ。



 カメラを購入後、僕達はクレープを買った。

 イコングループが経営しているクレープ屋さんで、好みの味を頼もうにも、クレープ自体の写真が無く、ヤコブ味とか、ウリエル味とかいう風に、聖人とか天使をモチーフにした味と、その肖像画が並んでいるだけであった。

 僕達は似たような気まずそうな顔でこちらを見ているおじさんやおじいさん達とにらめっこして直感で選ぶしかなかった。



 水瀬はガブリエル味、僕はルシフェル味を頼んだ。――




 ――水瀬はメロンアイスとチョコミントソースが絡んだクレープをほおばっている。ガブリエル味はなんか緑っぽい感じだった。

 カメラも買って、今日の目標は無事完遂。

 恐らくこのクレープを食べ終わったら。デート(仮)は終了する。

 僕が初めて買ったカメラの初撮りは、水瀬にしたいと思っている。

 出来れば笑顔のやつ。

 なので、ぜひ今横でクレープを食べる水瀬を撮りたいのだが、「写真撮らして!」といきなり言うには気恥ずかしい。

 どうにか上手い具合に写真を撮らしてもらう流れに持っていこうと模索していた。

 


「今日は楽しかったね。カメラも買えたし。

どうせなら試し撮りとかしてみよーかなぁ。」

 ……とコーラ味のアイスにコーヒーフレバ―がかかったような味のクレープを食べながら、僕は水瀬に振ってみた。



「そうだね。

今日はほんとに楽しかった……」

 ガブリエル味のクレープを食べ終わった水瀬が、少し何かを貯めた感じで応える。



 何か水瀬が考えているみたいだ……。

 おそらく行きの電車の女子の事だろう。




 笑顔の写真を撮りたかった僕はつい、




「どうしたの?なんか元気ないね?

メロンとチョコミント合わなかった?」

 と何か面白い感じになりそうな話題を振った。




 そしたら……。




「私ここ最近ずっと千太君と帰っているでしょ?

実は部活であんまり上手く行ってないんだ~……。」

 水瀬は僕が触れることの出来なかった、疑問に思っていた、部活に行ってない事について話だした。



「そうだよね……。

僕も何となくは気になっていたよ。」

 



 僕は、水瀬が高跳びを大好きだと知っている。




「ちょっとね~、人間関係っていうのかなぁ……。

あんまり上手く行ってないんだよね、ちょっと逃げたくなっちゃって……。

そしたらクロエと出会っちゃうでしょ?

これはもうあの娘がなんなのかって突き止めなくっちゃって思ってさ……。」

 



 水瀬が少し悲しそうな顔をして応えるものだから、僕は……。




「そうなんだ……。

たまには逃げちゃいたい時もあるよね。良いんじゃないかな?

そのタイミングであんな猫に出会ったら追いかけたくなっちゃうよ。水瀬とクロエ追いかけるの楽しいしね。」




 なんて肯定するんだ。高跳びが大好きな水瀬と一緒にいたいから。




「うん。千太君とクロエを追っかけるの、楽しいよ!

何とか突き止めたいよね!」

 水瀬も僕と同じ気持ちでいると言ってくれた。



 僕達はあと少し談笑して高の丘イコンから出て、また京戸に帰っていった。

 でも結局、水瀬の笑顔は撮れなかった。

 話している時にそりゃたびたび笑ってたけど……。



 僕は水瀬のほんとの笑顔を知っているから。

 やっぱり僕が写真に撮りたいのは、この顔じゃないってなんか思ったんだ。




 僕は、彼女のほんとの笑顔が撮りたいと思った。




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