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クロエのかくれんぼ  作者: bbbcat
10/14

僕は彼女と彼女の親友と喧嘩の理由を知る (後編)


 

坂の上高校の中庭。


踊り場となっていて、見上げれば、二階、三階を突き抜けて、ぽっかりと正方形の空が見える。

正方形の空間には、入り口が二つあって、一つは靴箱のある校舎の玄関の正面。

もう一つは、その真逆にあり、渡り廊下を挟んで部活棟へ、そのままグラウンドへと続いている。


二つの入り口を繋ぐ道はタイル張りとなっていて、それは道というか正方形に丸々収まる円となっていた。

円の外側には芝生や木、花壇なんかが敷き詰められていて、丁度そこを背にしてベンチが4つずつ設置されている。


その踊り場のベンチの横辺りで二人の女子が神妙な面持ちで向かい合っている。

水瀬凛子と、火村亜貴の二人であった。



僕は二人の会話がギリギリ聞こえそうな踊り場の窓を少し開けて会話を聞き取ろうとしている。


これはやましい気持ちでの事ではない!

どうにかして水瀬を陸上部に戻してあげたいという気持ちからである!

断じて、盗み聞きとかそういう他意があることではない!




――ここからは僕が聞き取れた二人の会話である。




「凛子‼なんで来ないの!?いい加減にしなよ!もう三週間以上だよ!」

火村の声だ。


これは全部聞き取れた。

水瀬と僕のクロエ探しは三週間と何日かだ。

これは部活に行ってないことに対する叱責だ。



「…………」

水瀬の声だ。


しかし何も聞き取れない。部活に行けない言い訳とかをしているのか……?



「戸出茂先輩でしょ!?私に気を使っているの!?……。」

火村から戸出茂先輩というワードが出た。



戸出茂とは、掲示板によく張り出されている高跳びの記録1位の人だ。


私に気を使う……? 

戸出茂佳恵先輩に気を使うならば、例えば、水瀬は本来、戸出茂先輩を抜く記録が出せるが気を使って手を抜いているとかなら考えられるかも知れない。

……優しい水瀬のことだが、僕が見ていたあの水瀬は手を抜いているとは思えないけど。


火村に気を使う……?

戸出茂先輩に秘伝の技を教えてもらえるチャンスを、火村に気を使って辞退したとか?

……まぁ、無いか。よく分からない。



「そうじゃないよ!でも…………。」

水瀬が否定をしたことは分かった。



「約束したでしょ‼

あの丘で!……青春の光って……。」



青春の光!?

凄い言葉が火村の口から飛び出した。



約束した丘で、青春の光……。

……?


……もうこれわかんねぇな。



「もちろん!……」

水瀬が青春の光を肯定したことは分かった。



「もういい‼

練習に来ないなら、私、凛子が追い付けないくらい高く飛べるようになるから!」

火村はそう言って、グラウンド側の、踊り場の出口へ歩き出した。



水瀬もしばらく立ち尽くしていた。

そして、少し俯いて、「ふー」っと、息を吐いて、玄関の方の踊り場出口へ歩き出した。



僕はこのタイミングで水瀬に声をかけることは出来なかった……。



二人の会話はほとんど聞き取れなかった。


しかし、火村の表情や、声に怒気がある感じから、水瀬が初デート(仮)の時に言っていた、人間関係が上手く行っていないっていう相手は火村だと確信した。


ほとんどの言葉が聞き取れなかったが、

それでも、いくつか印象に残る言葉もあった。



戸出茂先輩、青春の光……



……正直ほとんど分からない。



青春……。

少年漫画的に言えば、ライバルとか友情とかだ。


戸出茂先輩という大きな壁に対して、ライバルである火村と立ち向かう水瀬。

戸出茂先輩に高跳びの記録でグングンと近づいていく水瀬に対し、伸び悩む火村。

それに気を使って、部活に出ない水瀬……。

……優しい水瀬の事だ、この学校の記録掲示板に常に火村より上にいる事なんかも気にしていたのかもしれない……。

あそこまで詳細に優劣を全校生徒に見せつけるあの掲示板は、恐ろしいと思う。

僕が部活に入らなかった一つの要因でもあった。


そして、青春の光……。


光、キラキラ……。

これはもうあれしかないだろう。





……汗だ。



青春の光とは、スポーツという神聖なる戦いの中で、純粋な心を持つ若者だけに許される、お互いがお互いを高めあって、その過程で生まれる、尊い光のような雫の勲章……。


つまり汗だ。



あの丘と言っていたが、恐らく、どこかの丘に二人だけの秘密の特訓場があって、そこでお互い汗を流しながら、一緒に頑張ろうと約束をしたのだろう。

 一緒に頑張るはずなのに、差が生まれてきている事に水瀬は、火村が傷付いているなどと感じ取ったのであろう。

そこに水瀬の好奇心が相まって、クロエという不思議生物に心が惹かれて、足踏みをするという選択が生まれたのだ。 


それならば、合点が行く。


 


……これが答えならば、僕が水瀬に出来る事は……。




 クロエを写真にばっちりと収めることだ。

水瀬の好奇心が、もう十分、スーパー不思議体験が出来た‼

これで、クロエに思い残すことはない‼

大満足‼

……と思うくらい、完膚なきまでにパーフェクトな写真を……。


 


――そうすれば――

……僕達の放課後は終わる。終わってしまう。



大好きな女の子。



「僕のクラスの僕のために毎日おいしいみそ汁を作ってくださいって言いたくなる可愛い女子ランキング」があるなら確実に1位の水瀬凛子。


僕が人生で一番好きになった女の子との奇跡の日々。



……この手で終わらせようではないか。水瀬のために。



クロエの写真をばっちり撮って、最後に、水瀬の本当の笑顔を撮ろう。

それで終わり。


そして、全部終わって、この恋心は、胸の奥の奥にしまおう。



そう決心した。



――僕は、その日、

首にかけたD君を右手でギュッと握りしめて中坂を下って行くのだった。


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