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ダンジョンぐらし!

作者: クレヨン

某がっこうぐらし!とは何ら関係がありません。ご容赦ください。

 私は、ダンジョンが好きだ!


 第六階層――ちょっと暑いけど、おいしい物がたくさんあるんだよ。

 焼き鳥に焼きトカゲ、焼きドラゴン……食べ過ぎてちょっと太ったかもしれない。

 あの手と足があって、スマートなお肉は食べさせてくれない。みんながおいしいおいしいと言って食べてるのに、私にだけ食べさせてくれないなんて不公平だ!

 友達にそれを言ったら、難しい顔をして「お前は食べちゃダメだ」と言われた。なぜだ。

 

 第五階層――暖かくて砂がたくさん。頭の良い先生が私にいろんなことを教えてくれる。

 砂のお城を作ったり、アリジゴクでサーフィンができるのが最高に楽しい。

 先生の授業も楽しいよ。この前の授業で居眠りしてたら怒られたっけ。「眠ってない」って言ったらもっと怒られた。先生は嘘が嫌いなのだ。

 先生が美人なのにモテないのは、きっと怒りっぽいからだよ。あと四足歩行もやめた方がいいと思うな。


 第四階層――この階には私の友達がいる。ペットとも言うのかな。

 私の愛すべき友達――ポチだ!

 ポチはかわいい。

 私を見つけるとすぐに寄って来るし、体をすりすりさせてくるのがたまらなくかわいい。

 みんなにそう聞くとなんだか困ってような顔をされるのだけど、私ってちょっと変なのかな。

 確かにポチはちょっと体が大きいし、目つきも鋭い。でも撫でれば嬉しそうに鳴くし、毛並だって良いんだから!

 他の人が撫でると吠えるけど、それはポチの扱いが下手だからだよ。

 三つの首をバランスよく撫でてあげなかったら、不機嫌になるのは当然だよねえ?


 第三階層――私がこの階に来る時はポチも一緒だ。私を守るためについて来ているつもりなのかな。だとしたらかわいいなあ。

 ポチは時々ハッとすると、私を置いてどこかに行ってしまう。遠くから「ギャー」という声が聞こえてしばらくすると帰ってくるんだけど、その時はちょっと変な臭いがして嫌い。

 昔から思ってたんだけど、地面から槍が出てくる仕掛けとかは何の意味があるんだろう。

 私は変な仕掛けのある場所は全部覚えちゃったから何てことないけど、お客さんが来たら危ないよねえ。

 先生に「危ないからやめた方がいいと思うよ」って言ったら黙り込んじゃった。「考えておくわ」って言ってくれたけど、本当かなあ。


 そして第二階層――今日の目的はここだ!


「みーくん、お疲れ様!」


 私は友達――いや、親友に声を掛ける。

 みーくんはずんぐりむっくりした体を傾けて、私を見下ろした。


「なんだ、もう来たのか」


 みーくんは少し呆れ顔だ。

 私は頬を膨らませてみーくんを睨む。


「もう! ご飯の時間を教えてあげに来たのに!」


 そう言うとみーくんは困ったような顔になって目を逸らした。

 あ、これは何か隠している顔だ。


「いやー、しかしなあ……」

「もうご飯の時間なんだよ! ほら、早く行こう!」


 私はみーくんの太い腕を掴んで、引き摺ろうとする。もちろん動かない。

 重いなあ。みーくんもダイエットした方がいいよ。


 私がみーくんと目を合わせようと移動すると、みーくんはまた目を逸らした。

 そうやって何度も合わせる、逸らすを繰り返しているうちにみーくんの目の動きが止まる。


「……ポチさん」


 みーくんはポチをジッと見ている。それより、なんでさん付けなんだろう。私以外の人はだいだいポチをさん付けで呼ぶ。


「ワン!」


 ポチは犬らしく鳴いた。そして首をクイッ、クイッと下の階層に行く階段の方に向けて動かす。

 三つの首が準備に動く様子はなんだかおかしかった。少し笑ってしまいそうになる。


「ほら、ポチも行けって言ってるよ」


 私がそう言うとポチは頷いた。みーくんはそれを見て観念したのか、ガックリと肩を落とす。

 そしてポチに近づくと小さい声で何か話しかけた。ポチは頭が良いから、人の言葉がわかるのだ。

 私も時々「背中に乗せて」とか「ちんちん!」って言うもん。そしたらちゃんとやってくれるから、ポチは賢くて偉い。


「……ではお願いします」

「わかっ……ワン!」


 話し合いは終わったようで、みーくんが私に近づいてくる。

 みーくんは私の目の前に跪くと、大きな手で私を掴んだ。


「うわっ!」

「ほら、肩に乗せてやる。急ぐぞ!」


 みーくんはそう言うと、第三階層に降りる階段をダッシュで駆け降りた。

 早い早い!

 大きくて太ってるみーくんなのに、足はもの凄く早い。私なんかじゃ敵いっこないくらいに。


「あ!」


 私は後ろを振り向いて気づいてしまった。

 ポチがついて来てない。


「待ってみーくん! ポチが来てないよ!」

「大丈夫だ。後から来るそうだから」


 むう、犬のポチの言葉がわかっているような言い方だなあ。みんなそうだけど、動物と心を通わすのが上手でずるい。


「むぅ……」

「何を膨れているんだ」


 みーくんは私がちょっと不機嫌になっているのがわかったようで、顔をこちらに向けてきた。

 こういう気配りができるみーくんは素敵だと思う――


「って、危ない! 余所見しちゃダメ!」

「え――うわっ!!」


 みーくんの巨体は、前方にあった障害物を轢いてしまった。

 障害物はバラバラになって地面に転がってしまう。ああ、なんてことを……


「スケさん!」


 バラバラになった障害物は、私たちの知り合いだった。

 あちこちに飛び散る骨っ子が哀れみを誘う。こんなところに散らかしたら、ポチが間違って噛みついてしまうかもしれない。


「ああっ! 申し訳ありません!」


 みーくんは私よりも慌てている。むしろ、青ざめていると言った方がいいかな。

 でも、心配はいらない。


「……カタカタ」


 スケさんはすぐに元通りになる。

 ぶつかると骨が飛び散るのがたまに傷だけど、あっという間に元のスタイルの良い体を取り戻すのだ!

 スケさんは白骨病という病にかかっていて、昔から骨だけだった。いっぱい勉強してその病気を治してあげるのが私の密かな夢である。


「あ、スケさん。これ忘れているよ」

「カタカタ」


 このカタカタという音はスケさんの歯が鳴る音で、彼はこれしか喋れない。

 いまのはきっとお礼のカタカタだ。彼が大切な剣を手渡してあげたんだからきっとそうだ。

 病気にかかる前のスケさんは有名は剣士だったらしく、もの凄く剣技が上手なんだよ!


「……すみません」


 みーくんはスケさんに頭を下げる。

 確かにぶつかっちゃったのは悪いけど、そんなに気にすることないのに。みーくんは昔から気が小さいんだから!


「カタカタ」


 いまのは「今度から気をつけなさい」というカタカタかな。スケさんは紳士だから、怒ったりしないのだ。

 スケさんは会釈をして去っていった。やっぱり紳士的でかっこいいなあ。

 対するみーくんはちょっと震えている。まったく、体は大きいのに気が小さいんだから!


「ほらみーくん、行くよ」

「あ、ああ……お前が一緒にいて助かったよ」

「うん?」


 ちょっと何を言っているのかわからない。

 たまにみーくんは変なことを言う。











 ようやくご飯のあるところ、第七階層に辿り着いた。

 もうお腹がペコペコだよ。


「ご飯だー!」


 私はみーくんの上で叫ぶ。

 ちょっとうるさかったのか、みーくんは耳を伏せて私をジロッと睨んだ。


「あ、ごめんごめん」

「……構わない。それより、あの方を呼んでくれ」


 みーくんが「あの方」の部分だけ小さく言う。

 私はすぐにわかったので「はいはい」と返事をしてからみーくんの肩を降りて、第七階層の隠し階段に向かった。


「アリス様ー! アリス様いるー?」


 私は大きな声を上げながら階段を降りる。

 アリス様――みーくんが言っていた「あの方」の名前だ。昔から様をつけて呼んでいるのは、なんでだっけ。忘れちゃった。


「なんじゃ? ああ、お主か」


 アリス様は私の声に反応してひょっこり顔を出した。

 アリス様はものすごい綺麗な人だ。ジッと顔を見ていると頬が暖かくなってくるし、視線を落とすと完璧なスタイルが目に入って自分のお腹のたるみを憎みたくなる。

 くそう、悔しさすら感じないのが悔しい。


 そんなことより、いまはご飯が先決だ。


「アリス様ご飯だよ!」

「うむ、わかった。今日も元気だなお主は」


 アリス様が私に向かって微笑みかける。

 ちょっと恥ずかしくなったので目を逸らします。美人過ぎるよアリス様。

 恥ずかしさを誤魔化すため、私はてきとーな話題を振った。


「そ、そうかな……あ、アリス様のお部屋って綺麗だね! 豪華だし!」


 そう、アリス様自身に負けず劣らず、アリス様のお部屋は綺麗で豪華だ。

 部屋を明るくするキラキラのピカピカが天井には飾ってあるし、いつもアリス様が座っている椅子は私が三人は座れるくらい大きい。

 大きいだけじゃなくて、宝石がたくさんついていてキラキラのピカピカなんだから!


「まあ、な。そんなことより、ご飯はいいのかの?」

「あ、そうだった!! 早く行こう、アリス様!」


 私はアリス様の手を引いて走り出す。アリス様には「これこれ、急ぐ出ない」と言われたけど、私は早くご飯が食べたいのだ。


「みーくん! アリス様連れて来たよ!」

「おお、早かったな……」


 みーくんは私に向けて苦笑いを浮かべた後、アリス様を見て膝をついた。

 物語に出てくる騎士のようなポーズだ。

 そんなみーくんを見て私とアリス様は溜息を吐く。


「よい」

「……ハッ! 失礼いたします」


 まったく、みーくんはアリス様を見るといつもこうだ。アリス様が綺麗だからって持ち上げているんだろうけど、それならなんで私の時にはしないのさ!

 私だって見た目には気を使ってるんだからね!


「まったくみーくんは」

「うん? どうした?」

「なんでもないよっ!」


 みーくんは首を傾げるが、私は舌を出して応戦した。答えてなんてあげないんだからっ。

 アリス様が私たちのやり取りを見て笑っている。


「お主らは本当に愉快じゃな……余も見ていて飽きぬわ」

「勿体なきお言葉ッ」


 みーくんが頭を下げる。もう、調子が良いんだから。


 私がむくれていると、良い匂いが私の鼻に届いた。


「あ、ご飯!」

「はいはい、お待たせ……」


 コック帽を被ったおばさんが私たちのところに料理を持ってきた。

 このおばさんは気の良い人で、みんな尊敬してるんだ。だって料理がとてもおいしいから、尊敬もするよね?


「待ってました! 早く食べようよー」

「これこれ、行儀が悪いぞ」


 テーブルに顎を乗っけていたら、アリス様に怒られてしまった。


「今日は良い魚介類がダンジョンの隅っこで取れたからね。東方の料理を再現してみたよ」

「うわあ、凄い! これ生魚?」


 お皿に乗っている切られたお魚はちょっとかわいい。それが白いお米の上に乗っているんだけど、これ生だよねえ。


「大丈夫。さっき食べたけど味は保証するよ」

「なら大丈夫! おばさんの舌は神様の舌だもんね」

「調子の良いこと言って……ま、あながち間違ってもないけどね」


 おばさんは笑って厨房に引き返していった。

 楽しみだなあ。


「生、か……」


 アリス様は微妙な顔をしている。せっかくの美人が台無しだ。

 うーん……


 台無しでも美人だった。









「うわー、おいしかった!」


 みんなが夕食を食べ終わり、食器を置く。私は二度おかわりしてしまった。くそう、また太ってしまうかもしれない。

 いや、自分を信じるんだ私!


「よく食べるのう……少し丸くなったのではないか?」

「はう!」


 すいません。アリス様に比べると断然丸いです。勝てません。

 私の心中を察したのか、アリス様は露骨な咳払いで話を変えてくれた。


「こほん。ほれ、夕食も取ったし、お主は寝る時間じゃろ?」

「えー、まだ起きていたいよう……」


 そう、私は夕食を取るといつも眠るように言われる。

 昔からそうだった。でも仕方ない。ご飯を食べると眠くなってしまうのだから。


「ほら、我儘を言うでない。眠くなってきたであろう?」

「えーそんな眠くなんて……あれ?」


 アリス様が私のおでこに真っ白で冷たい手をピタッとつける。ひんやりして気持ちよくて、なんだか私は眠くなってしまった。


「うーん、うーん……まだ、起きて……んん」

「ほれ、眠れ。眠ってしまうのがよい」


 アリス様が優しい、穏やかな声でそう言うと、私の瞼はすっかり重くなってしまった。

 ああ、この瞼の重さは私が絶叫した体重に匹敵す――










「……眠ったか」


 アリス――ダンジョンの魔王アリストル・テレシスはホッと息を吐いた。

 そして“彼女”の体を優しく抱き上げる。



「魔王様、私が――」

「よい。急いでシュナイゼル……いまはポチだったか。奴の下へ向かってやれ」

「ハッ!」


 アリスがそう言うとみーくん――ミノタウロスは昇りの階段へと駆けて行った。

 その後ろ姿を見送り、アリスは少女の体を軽々と持ち運ぶ。


「まったく、人間どもが恐れ戦く魔王の前で安らかに眠りおって」


 眠らせたのはアリスなのだが、この寝顔の前にはそんな軽口も飛び出してしまう。

 アリスの前では人間など塵芥に過ぎないのだが、この少女だけは違った。


「……魔王を殺すのは勇者でも天使でも神でもなく、昔戯れで拾った赤子なのかもしれんな」


 アリスは笑う。

 懐かしさと思い出を胸に秘めて。


読了、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ほのぼのとした、ゆるい雰囲気がとても良かったと思います。楽しい作品でした。
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