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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

紙飛行機

作者: 西堀仁美



久しぶりに学校に来てみると机の中がプリントだらけになっていた。




それはもうあふれんばかり、友達がプリントを家まで届けてくれるなんてのはドラマやアニメの中だけらしい。

確かに私の友人たちは学校行事のプリントをわざわざ家まで持ってきてくれるようなキャラじゃないんだけど。

夜遊び&二日酔いの私はその机からあふれんばかりのプリントを見た瞬間なんだか授業に出る気がなくなっちゃってこうやってプリントの山を抱えて屋上に来たのだ。

しかし屋上にきたもののだだっぴろくて落ち着かない、さぼりとはもっと狭くて出来れば暗くて人が来てもすぐには気づかれないところが好ましい・・・

そんなことを考えながら辺りを見回す。

目に入ったのは給水塔。

あの上まで上がればさぞ見晴らしが良いだろう。

もしかしたら海が見えたりするかもしれない、どこかうきうきしながらはしごを上っていく。

はしごは随分使われていなかったらしく手が錆と埃で汚れてしまった。

ぱんぱんと手をはたくとその音は澄み切った空に気持ちよく響いた。

給水塔の傍に立つとはるか向こうに海が見えた太陽のひかりを反射してキラキラ光っている。

うん、絶景かな絶景かな。

こんな日に半日机の前に縛り付けられるなんてもったいなさすぎる。

さてと、なにか有意義な過ごし方はないだろうか。

無意識に視線をめぐらすと目に止まったのは持ってきた大量のプリントたち、幸い自分の名前が書いてあるようなプリントじゃないからもし誰かが拾ってもこのプリントの持ち主を私だと断定するのは難しいだろう。

そうご都合主義な結論に達した私はプリントを一枚とって、何年かぶりに紙飛行機をおってみる。

おそらくスタンダードなおりかたであろう紙飛行機。

長方形の紙を短いほうの辺が先端になるようにおっていく。

出来た紙飛行機を海側に向かって勢いよく飛ばす。

手から離れた紙飛行機はロケットのように真っ青な空に向かって飛んでいく

・・・・・・・が海風にあおられた紙飛行機はあっけなくバランスを失ってゆらゆらと風に揺られて落下していく。

ぽてんと軽い音を立てて屋上に落ちた紙飛行機。

うむ、けっこう難しい。

しかし必ず私の飛行機をあの海まで飛ばしてみせるせるせるーーー。

そんな誓いを立てて私は次のプリントに手を伸ばした。






さてどれくらいの数の紙飛行機をおったんだろう。

結構な数をおったきがする。

でもちっとも飛ばない。

何が悪いんだろ?

日ごろの行い?

まさかね。

「沢城さーん、ちょっとそこにいるの沢城さんでしょ?」

下から急に呼ばれて覗き見るとそこには

「大原いいんちょじゃん、なに?」

私の声に大原いいんちょの肩がぴくっと動くのが見えた。

ちなみにあれは驚いてぴくってなったんじゃないよ?

あれは、きっと怒りでだ。

「なに?じゃないわよ。朝見かけたきりいないと思ったらこんなところで何してんのよ?」

さらさらな黒髪を風邪になびかせて仁王立ちしている姿はなんともいえない美しさだ。

こういうのを凛々しいっていうのかもしれない。

「紙飛行機をおってたんだ、あの海まで飛ばしてやろうと思って。」

私は友達から憎めないと評判の笑顔をいいんちょに向けて清々しくいってみた。

ちょうどいいんちょからは私のバックに青空が広がっていて効果は抜群だろう。

とおもったんだけど・・・・・・。

いいんちょはちらっと海のほうを見たあと呆れた顔で私を見つめると

「あのね、海までどれくらいの距離があると思ってるの?三キロはあるわよ。いっぽうあなたが馬鹿みたいにおり続けたやり飛行機の飛距離はせいぜい5~10メートル、屋上から飛ばすことを考慮しても3キロ先の海まで飛ぶなんてありえないわ。」

う~ん、私の笑顔の効果はいいんちょには通じないみたいだ。

「やり飛行機っていうんだその紙飛行機のおりかた。」

私は給水塔から身を乗り出していいんちょの足元にころがっているやり飛行機たちをゆびさした。

「くわしんだね。」

教科書ではならった事のないようなことまで知っているいいんちょがらしくてつい笑ってしまう。

「気持ち悪い顔・・・」

ふいっと目をそらされてしまう。

わずかに赤く染まった頬が可愛い。

「あはは、てれちゃった?」

いいんちょは黙りこんじゃって何も言わない。

怒らしちゃったかな?

紙飛行機でもおっていいんちょに飛ばそうかな、プリントを手にとってきづく、

「あ、最後の一枚だ・・・」

私のつぶやきが届いたのかいいんちょがこっちを見た。

そして何を思ったのかずんずんこっちへ向かってくる、迷いもなくはしごを上ってくる。

「・・・・・・手、よごれちゃうよ?」

「・・・・・・遅いわよ、言うの」

汚れた手をげんなりしながらはたくいいんちょを見てるとこらえ切れなくて笑い出してしまった。

いいんちょは笑いが止まらない私をひとにらみすると私の手からプリントを奪い取ってなにやらおりだした。

なんか変な形。

みたことない。

紙飛行機なのかな?

「なにそれ?」

「いか飛行機」

「いか??」

私が首を傾げてたずねるといいんちょはもってた、いか紙飛行機の角度を変えて私に見せた。

確かにいかだ。

むしろするめ?

「するめだね?」

「ま、薄いしね・・・」

・・・・・・もしかして今のってぼけた?

いいんちょを見つめ返すと気まずそうに目をそらされた。

「どんまい、いいんちょ、私はそういういいんちょもすき・・・」

「るっさいっ」

フォローしようとしたのにぶったぎられちゃった。

「とばすからみてて。」

いいんちょの静かな声がして、それからゆっくりと紙飛行機を放した。

そんなんじゃすぐ落ちちゃう。

でも絶妙なバランスでいか紙飛行機はとんでる。

ふわりふわりと風を受けていか紙飛行機はゆっくりと海へ向かって飛んでいく。

ゆっくりと。

そのとき追い風が強くふいていか紙飛行機をいっきに上空高くまで運んでいった。

「さっすがいいんちょ・・・」

もうほとんど見えなくなったいか紙飛行機をみつめながらつぶやくといいんちょは得意げに笑った。

そのまま何も言わずにはしごを降りていってしまう。

「ねぇねぇ、今から海行ってみようよ、いか紙飛行機探しにさ!」

私はへんな焦燥感に駆られて興奮気味に言った。

「いくらなんでもそんな遠くまでは飛ばないわよ。」

屋上に降り立ったいいんちょは手をはたきながら呆れた声を出す・・・・・・けど。

「わかんないじゃない、もしかしたらあるかもしれないでしょ?」

食い下がる私をじっとみたあと、呆れたのか首をかしげてため息を漏らした。

「授業を受けてからならつきあってあげる」

「ほんと!?」

きっと今の私の笑顔はここ数年で一番の笑顔だろう、鏡を見なくてもそう確信できる。

「あと・・・」

少し強められたいいんちょの声に首をかしげる私をみたあと目を閉じて静かにでも良く通る声で言った。

「沢城さんが飛ばした紙飛行機を全部回収したらね。」

・・・・・・ぜんぶ??

無理無理。

相当な数投げたよ?

プールに着水したのがあるのもしってるし、グランドに落ちていったのも一つや二つじゃないはずだ。

青くなってぷるぷる首を横に振る。

私の表情がおかしかったのかいいんちょは力が抜けたようにふわりと笑った。

それは初めて見る表情で私は一気に顔が赤くなっていくのがわかった。

な、なにこれ!?

あっついよ!?

心臓ばくばくいってるし。

というか、いいんちょ・・・・・・かわいい・・・。

ってかわいいってなに??

どうしちゃったんだろ、私!?

そろそろと私は給水タンクの陰に隠れる。

「ちょっと?沢城さん??なにしてるの?早く降りてきてよー。」

「う、うんわかってるよ!!もうちょいまって、すぐ降りるからー。」

ちっとも収まってくれない心臓の鼓動に戸惑う。

早く降りてって言われてもこんな顔みせらんないよ。

どうしよう!?

どうしよう!?

「どうしよーーーーーー!!」

「えっ!?どうかしたの!?沢城さん!?」

「ど、どうもこうもなーーーーいいっ!!」

私の叫びは青空にとけていった・・・・・・ような気がする。




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