動物にだって俗物は居る
ジルが我が家に加わったところで何か変わる事は無く。
日々は平和に過ぎていく……のだが。
生憎と今日だけはそうはいかなかった。
四頭立てのどでかい馬車が、ユニコーンに乗った女騎士に先導されて我が家にやって来たのである。
そーいえば、ジルが後で馬車が来るとか言ってたなぁ……。
「おい、そこの貴様。ここが勇者タカヤ・イチモンジの家か?」
で、そのユニコーンに乗ったピンク髪の女騎士が横柄な口調で問い質してくる。
ジルの護衛騎士かなんかだろうか。
まぁ、ジルに護衛なんかいらないだろうけど。
「え? なに?」
「耳が遠いのか? ここが、勇者、タカヤ・イチモンジの、家か! と聞いている!」
「ええ? なんだってぇ?」
「ここが勇者の家か!?」
「とんでもねぇ、あたしゃ勇者だよ」
「は?」
「耳は遠くなるし、便所は近くなるしで、歳は取りたくねぇなぁ。もうちょっとゆっくり喋ってくれたらわかるから」
ヒマなので庭でゴロゴロしていたのだが、こんな面白いものが来たとあっちゃあ遊ばずにはいられない。
真面目そうな騎士はからかうと面白いのだ。
「で、なんだって?」
「し、失礼した! タ、タカヤ、私だ。覚えているか?」
「え? あんだって?」
「だぁぁぁぁぁぁ! ふざけるのもいい加減にしろ!」
胸倉掴まれてガックンガックンとゆすられる。
おお、痛い痛い。
「分かった。ふざけるのはやめる」
「この妙な付け髭も外せ!」
変装のためにつけたヒゲとヅラも取られてしまった。
「で、あんた誰?」
見たところ年齢は二十代に入ったくらいだが、こんなねーちゃんの知り合いは居ない。
しかし、ユニコーンに乗れると言うことは……まぁ、需要はあるよね。
「私だ。ルミエだ」
「誰?」
「……わ、私だ。ほら、ルミエだぞ? 遊歴中の騎士で……」
「……誰?」
本気で心当たりがない。
ルミエって言う名前にも一切心当たりがない。
遊歴中の騎士とやらにも全く心当たりがない。
「ははは……いいんだ、私なんて……その程度の影の薄ささ……」
「……なんか、ごめん」
どうやら傷つけてしまったらしい。
とりあえず慰めつつ、一応思い出そうと三秒ほど努力をしてみる。
が、やっぱり思い出せないのでジルを呼び出すことに。
「おお、ルミエよ。死んでしまうとは情けない。二度と蘇らぬように、貴様のはらわたを食らい尽くしてくれるわ」
「王様は王様でも魔王とか斬新すぎる。全滅するとガチゲームオーバーとは」
クソゲーすぎるな。
いや、コンピューターRPGの原典に立ち返ってみれば正しいのかも。
あるいは現実なら死んだらそこで終わりだしな。
「で、ジル。このルミエとやらはオレと知り合いらしいが」
「へー。わりとどうでもいい」
「オレもわりとどうでもいい」
二人で妙なポーズをとりつつ言い放つ。
そしてルミエとやらが泣きはじめる。
「あー、いーけないんだーいけないんだー。せーんせーにゆってやろー」
「へっ、オレわるくねーし。ルミエが勝手に泣いたんだし」
「せんせー、タカヤくんがルミエちゃんを泣かしましたー」
「あっ、せんせーにチクったなー」
と、幼稚園児ごっこをするのだが、やっぱりルミエは泣き続ける。
「どーすんの、これ」
「さぁ……?」
しかし、二十過ぎた大人が座り込んでめそめそ泣くって言うのも中々シュールな光景だな。
なんて思っていると、ルミエの乗ってたユニコーンがルミエの頬を舐める。
「コルム……慰めてくれてるのかい?」
心温まる光景じゃないか。
『ブヒヒヒ! めそめそ泣くルミエたんは可愛いのう! 後で慰めてやらんとなぁ! ブヒヒヒ!』
ユニコーンが俗物じゃなければだが。
「ジルさんや、あんた動物の言葉分かるようになるかね」
「余裕」
アイテムボックスからジルが頭巾を取り出してそれを被る。
『ブヒヒヒヒ! ルミエたんのほっぺは柔らかくておいしいのう! 涙も甘露じゃ! ブヒヒヒヒ!』
「うわぁ……」
ユニコーンきめぇ。
「ルミエ、このユニコーン殺していい?」
「え、ええっ!? そ、それはいけません! コルムは私の相棒なのです! 何より、ユニコーンは清らかなる獣! 殺せば神罰が下ります!」
「タカヤ、ユニコーンって清らかな獣なの?」
「ただの処女厨」
「なるほど。なら問題ない。よし、殺そう」
即断即決すね。
ジルがデスサイズをアイテムボックスから取り出す。
「お、お許しくださいお嬢様!」
『そうじゃそうじゃ! ワシを殺せば神罰が下るぞ!』
ふむ、と少し首をひねり……。
「女神アリなんとかー! コイツ殺していいー?」
『了承なのだー』
おお、一秒で了承された。
「今日の晩飯は馬刺しだな」
「桜肉って美味しいよね!」
『め、女神様! なぜワシを見捨てたもうた!』
『だってお前きもちわるいのだー。そろそろユニコーンも代替わりしていい時期なのだー。それに、勇者の助けになるために作ったのに、役立たずだったのだー』
へー、オレのために作られたんだ、コイツ。
……オレ男なのに?
『別にユニコーンは純潔の人間しか載せないわけじゃないのだー。純潔の女性しか載せないのは、ただの趣味なのだー』
「ああ、つまり、コイツはマジモンの処女厨と」
救いようがねーな、ホント。
『ぐぬぬ……だ、だが、ワシとてそう簡単に殺せはせん! 矮小なる人間の身でワシを殺せると思うな!』
「フッ、我輩の辞書に不可能の文字は無い」
「それ落丁本だから取り替えて貰ったほうがいいと思うぞ」
「突っ込むんじゃない。とにかくアチキはお前ぶっ飛ばすくらい余裕で出来るんじゃ。覚悟せい!」
そういってユニコーンに襲い掛かるジル。
逃げ出しつつ、雷を落としたりとかし始めるユニコーン。
「晩ごはんまでには帰ってくるのよー。あと、すぐに始末すると鮮度が落ちるから、生け捕りにしてねー」
「分かったー!」
それを見送りつつ、オレはへたり込んでいるルミエに手を差し出す。
「とりあえず、お茶淹れますんで」
「あ……はぁ……」
ジルも速く帰ってくればいいんだがな。




