蟄居三百億年
「と言うか父上。私は孝也に謝罪をしろと言ったのですが。やはり人としてあなたは最低だ」
おお、レン、今度こそ言ってやれ。
と言うか、やはり?
「む……まぁ、許せ?」
「誠意ってものを少しは見せて見ろ」
ふんぞりかえって疑問形で謝罪とか舐めとんのか。
「あなた、いい加減にしないと、剥がしますわよ?」
「あ、秋穂たん。何を剥がすと言うのだ?」
「皮膚五割」
秋穂さんの発言が恐ろしい。
「孝也さん、皮膚五割を剥がしても生きていたら許してあげてくださいませんか?」
「いや、恐ろしすぎるんでやめてください」
そんなもん見たくない。
「とは言え、それ以外で謝意を示すとなると、私にはとんと思いつきませんで……」
秋穂さんって、レンを温和にしたような感じに見えるけど、レンより遥かに過激だな……。
「では、孝也。私が謝意を示す方法を考える。切腹、打ち首獄門、釜茹で、牛裂き、どれがいい?」
どうしてそんなにも死に至らしめたいんだ。
「レ、レンたん? 気のせいでなくば、それは全部死刑では……?」
気のせいじゃなくて、間違いなく全部死刑だな。
「では、鋸引き、石抱き、駿河問い、どれがいいと思う?」
今度は拷問じゃねえか。しかも最初の奴は余裕で死に至るし。
「うーん……」
「ちょ、ちょっと待て。一文字孝也。わ、わしが悪かった。この通りだ。許せ」
「そうだな……可哀想だし……」
「お、おお!」
「蟄居で許してやろう」
「あ、ありがたやありがたや……お主は優しい奴じゃ……」
蟄居とはまぁ、簡単に言うと家の一室に監禁すると言うことだ。
「期間はどれくらいだ? 百年か?」
「そうだな……ロリコンの半減期がどれくらいか分からないし、大事を取って三百億年くらいにしとくか」
いちばん半減期の長い放射性物質が百五十億年だったはずだ。
その倍の三百億年も経てば、ロリコンも治ってるだろう。
「三百億って待てぇ! 百年でもわし死んどるわ!」
「魂だけで生き延びるだろ。魂が擦り切れるの待つんだよ」
「鬼か貴様!?」
「勇者です」
ニッコリと勇者スマイル。
「まぁ、とにかく蟄居だな」
「しょうがありませんね。下手をすれば孝也さんが死んでいらっしゃったんですもの」
「ああ、しょうがないな。父上、これもあなたの招いた事です」
あれ、なんで止めないの? と言うか、どうしてこんなにノリノリなんだろう、この人たちは。
「へたに番人に甘言を聞かせるのも拙いですから、歯を抜いて喉を潰しましょう」
「そうなると食事は粥だけだが、まぁ、土粥で十分だろう。死にはせん」
「外に音が聞こえると人の迷惑になりますし、壁は全て漆喰で覆いましょう」
「外部に通じる穴は食事の渡し口だけでいいな」
「そうなると足は要りませんわね。切り落としましょう」
「耳と鼻も要らんな。削ぎ落とそう」
「いちばん無用なのは悪趣味な一物ですね。そちらも切り落としましょう」
「ああ、明りが差し込まんのでは目も要らんな。そちらは抉ろう」
寒気がしてきた。この人たちは一体何を考えてるんだ……。
「レン? 仮にも父親だろ?」
「そうだな、仮にも父親だ。だが、これは罰なのだ。罰に肉親の情は要らんだろう?」
どうしてそんなに綺麗な笑みを浮かべるんだ。
「あ、秋穂さん? 長年連れ添った夫でしょう?」
「こんな外道死んでとうぜ……いえ、夫の間違いを正すのも妻の役目ですから」
……レンの親父さんはいったい何をしたんだ。
「おお、そうだ。恨まれて生霊などが出ても迷惑だ。食事にはアヘンを混ぜておこう」
「名案ですね、レン。死んだ後は、死体は医者に差し上げましょう。死体の解剖は医学の発達に重要だと言いますし」
「流石は母上。世間の事も考えていらっしゃいますな。そうだ、蟄居させる前に、腹を開いてもらってはどうでしょう?」
「ああ、それはいい考えです。幾らか臓腑をとっても死にはしないでしょう」
話がとんでもない方向に向かっている!
「お、落ち着け。みんな落ち着くんだ。何もそこまですることは無いだろ? 蟄居だって三百億年ってのは冗談だ。一年くらいで十分だろ?」
「しょうがないな。では一年間食事なしで蟄居を……」
「死んじゃうから。死んじゃうから食事は食わせてやれ」
「では人糞を……」
「いや、普通に人間の食うものをですね……」
あれ? どうしてオレが止める側に回ってるんだ?
「あのな、肉親の縁って言うのは大事なものなんだ。自分を愛し、育ててくれた親を大事に出来ない奴は最低の奴だと思う」
「私は実の娘を性的な目で見る父親は最低だと思う」
「そりゃ最低だな。変なことされなかったろうな?」
「ああ、殴って逃げた」
それなら確かに仕方ない。
「秋穂さん。夫婦と言うのは……」
「この外道は、私の父の城に押し入り父を殺しました。戦国の世ですから仕方ない事ではあります。しかし、私に毒を盛って二度と成長できぬようにしたような男です。挙句の果てに、私を無理やり娶ったのです」
「それなら確かに仕方ない」
ほんとうに最低の人間じゃねーか。
「あれ、もしかしてこいつが魔王退治に出されたのって……」
「これは幕府の鼻抓みものだ。体のいい処刑だった」
なるほどな。
「帰って来てさぞや苦労したろう……」
「まぁな。嫁に行けるならそっちの方が楽だったくらいだ。しかし相手が男色家だと言うから、下手をすれば私は弟か妹を孕む事になった可能性が……」
最低過ぎる。
「ちなみに、私がこれに娶られてから12年間の間の苦労をお話しましょうか? かなり暗い話になりますが……」
「……具体的には?」
「私は鬼灯を中々手放せず、乳飲み子だったレンを何度始末しようかと……」
「やめて。もうやめて」
暗過ぎるぞ。
「ですが、私に無垢な笑顔を向けるレンを絞殺す事など到底できず……」
「いーやー! やーめーてー!」
「私はこの外道の仕打ちに耐えながら……」
「ひぃぃぃぃっ!」
どうしてこんなことになってしまったんだ……!




