オムレツはとろふわ
もしかしてオレ、魔王復活の引き金引いちゃった?
もしかしてオレが魔王倒しに行く事になるの?
なにそれ、完全無欠にマッチポンプじゃん。
やっべー……マジどうしよう。
マジで魔王が復活してたりしたらどうしよう。
いや、家帰ったら、オレの家に魔王が居るとかありそうだな。
……やべえ、家に帰りたくなくなってきた。
「どうしたんですか?」
「……なんか家に帰りたくなくなってきた」
「え? どうしちゃったんですか?」
このままシエルちゃんと駆け落ちしてしまおうか。
……何の解決にもならねえな。色んな意味で逃避にはなるけど。
「まぁ、帰らなきゃいけないけどさ……」
やれやれ……帰るか……。
とは言っても今は夕暮れ時だし、適当な宿を取ってだな。
明日は早めに起きないとだし、早く寝ないとな。
「とりあえず、町まで降りて宿を探そうか?」
「そーですね」
二人でてくてくと階段を歩いて降りて行き、町へ。
しかし、あいも変わらずこの階段は長い。
この階段でうさぎ跳びをしている奴とか居ないんだろうか。
柔道部とかやってそうだよね。この世界に柔道あるのか知らんけど。
そんな事を考えつつ、今日の夕飯は何を食べようか? という話をしつつ町に。
そして、巡礼者用の宿を一泊とって、夕食を取るために再び町に出る。
今日の昼は途中立ち寄った町で、適当に屋台のもの食って終わりにしたからなー。
夜はちゃんとしたものが食べたい。
「シエルちゃんは何が食べたい?」
「んー、そうですねー。お昼はお肉を食べましたし、夜はあっさりしたものがいいですねー」
「大丈夫、この町は基本的にあっさりとしたものしか置いてないから」
清貧が貴いとか言われるのはどの宗教でも同じなのか、アリなんとか教徒の食事はショボい。
巡礼者の町であるこの町もそれに倣っており、あっさりとした質素なものが多い。
観光客向けのこってりした店もあるんだけど高いんだよね。足元みやがって。
「まぁ、適当な店に入ろうか?」
「そーですね。早く食べて、早く寝ませんとね」
そう言うわけで、近くにあった食堂に。
なかなかの年季がありそうな店構えだ。
店主のおばちゃんも年季がありそうな雰囲気だ。
「おばちゃーん、おいしいもんちょうだい。おいしいもん」
「うちの店のもんは全部おいしいよ! 全部食ってくかい?」
「いやー、それはキツイわー」
まさかの全部とは。
「いやー、けど、中々年季の入った店構えだね。こういう店こそ長く続いてる事が分かるってもんだよね」
「そうだろ? うちの店はあたしが生まれた頃に出来た店なんだよ」
「築八十年か。道理で古いわけだ」
「追い出すよ?」
「築二十年か。見た目より新しいんだね」
「あらやだね、うまいこと言っちゃって」
おばちゃんと世間話を交わしつつ適当なカウンター席に。
シエルちゃんはオレの隣に。
「で、何にする? うちのもんはなんでもおいしいから、なんでも言っとくれよ」
「牛丼ツユダク、ネギ多めで。生卵つけてくれる?」
「そんなもんは無いよ」
そりゃそうだ。
「おすすめはなに?」
「あたし特製のオムレツさ。ふわふわでおいしいんだよ」
「んじゃ、オレはそれで。シエルちゃんは?」
「オムレツですかー。私もオムレツでおねがいしますー」
「はいよ。じゃあ、今作っちまうからちょいと待ってておくれよ」
威勢よく返事を返したおばちゃんが、さっそく卵を割ってオムレツを作り始める。
おー、なかなかの手際。うちでもふわふわのオムレツ作ってみたいな。
まぁ、オレは目玉焼きすら作れないけどな。
「にしても、かわいい子だね。あんま似てないけど、妹さんかい?」
「ああ、いや、シエ」
「私、タカヤさんのお嫁さんです! 未来のお嫁さんです!」
オレはシエルちゃんにも拳骨をするべきなんだろうか。
「あっはっは! そりゃいいねえ! 若いお嫁さんがもらえて幸せじゃないか?」
「いやあ、ちょっと若すぎやしませんかね……」
というか、若いって言うより、これは幼いの領域だろ?
ロリかペドか迷うレベルだろ?
「それにタカヤだって? 魔王を倒した勇者様と同じ名前じゃないか! いい名前をつけて貰ったんだね」
「いやあ、ハハハハ。ホントホント、勇者様と同じ名前でラッキーって感じ」
同じ名前なのは当たり前だけどな。だってそれオレだし。
そう思っていると、シエルちゃんの前にオムレツが置かれる。
「おまたせ! そこの兄ちゃんはちょいと待ってておくれ」
「はいはいよー。待つのは得意だよ。ほら、シエルちゃん、冷めないうちに食べちゃいなよ」
「はい。いただきまーす」
シエルちゃんがスプーンをオムレツに差し込むと、とろふわのオムレツが崩れて行く。
おお、本当にうまそうだな。こりゃ期待できそうな感じだ。
「二人は巡礼かい? 若いのに偉いんだねえ」
「まぁそんなもんです。やっぱり正神殿は迫力が違いますね」
地下墳墓のゾンビにも貫禄がありそうな感じがするし。
まさに歴史の重みって奴だろう。
自称アリなんとか教開祖とかいう骸骨も居たし。バラバラにしちゃったけど。
「うちの息子はアリシュテア様のお膝元に生まれたってのに、ちっともお参りなんかしやがらないんだから。二人を見習わせたいよ、ほんと」
あー、オレのこと見習ったらもっとひどくなるんじゃね?
「はいよ、お待たせ! あ、パンは別料金だかんね」
「しっかりしてるなぁ……二人分のパンもくださいよ」
オムレツを受け取りつつそういって、オレとシエルちゃんはとろとろふわふわのオムレツをおいしくいただいたのだった。




