天ぷらフライヤー
「とは言え、届けなきゃ神罰とかありそうだしなー……仕方ないし、届けには行くよ」
「旅程は?」
「二日かな。一日で向こうまで行って、その次に一日で帰ってくる」
「二日と言うことは……あれを使うのか?」
「うん、あれ使う」
あれとはあれだ。あれはあれだよ。あれ。
そう言うわけであれだ。
「あれってなんですか?」
「あれだよ」
「ああ、あれだ」
「え?」
「あれはあれだ」
「うむ、あれはあれだ」
あれがゲシュタルト崩壊。
「冗談はさておいて、シエルちゃんも一緒に行く? 二人までなら乗れるし」
「え!? 私もいっしょに行っていいんですか!?」
「うん、一人で行くのは寂しいしねー」
「ええー、私も一緒にいきたいー」
アリシアちゃんがむくれるが、アリシアちゃんを連れてくのはちょっとな。
正神殿は色んな人が来るから、アリシアちゃんの人質としての価値を知ってる奴が居たりするかもしれない。
誘拐させるつもりは無いけど、誘拐される事もあるかもしれない。
それに、手紙を届けに行った云々で拙い事になるかもしれないし。
神からの使者とか言って祭り上げられたりしたらスゲエめんどくせえ事になるんだ。
既に実体験してるからどれだけめんどくさいか分かる。
あのめんどくささは、夏休み最終日の宿題に匹敵するな。
夏休みの友とかいうけど、あんなの友達じゃねえ。
「アリシアちゃんはここでレンとお留守番してて。途中で何かお土産でも買ってくるから」
正神殿で土産物は売ってないとは思うが、正神殿のある霊山の麓には、巡礼者のための町があったはずだ。
そこでなら土産物が幾らでも売ってるだろう。
いつの世も宗教は商売になるからな。絶対に土産物がある。
「ぶーぶー」
「レンの家に行くときには一緒だからさ。その時シエルちゃんは一緒に行けないから、今回はがまんして」
「ぶー……わかった。がまんする」
「よしよし、我慢できて偉いね」
アリシアちゃんをいい子いい子してあげる。
アリシアちゃんの髪もなかなかの撫で心地……。
「さて……そうとなればさっそく出ようか。出来るだけ早く出た方がいいし」
「もういくんですか?」
「ああ。今の時間に出れば、夕暮れまでにはつけるしね」
ちょうど、八時を回ったくらいだろうか、今の時刻は。
正神殿まで十時間もかからないとは思うが、あれやこれやの面倒を考えれば出来るだけ早く出た方がいい。
「レン、アリシアちゃんのこと頼んだぞ。出来るだけ一緒に行動しろよ。ほれ、小遣い」
「10000ゴルか。ケチだな。もっと豪快によこせ」
「御縁がありますように5ゴル追加してやろう」
5ゴル硬貨を追加で手渡す。
「……本当にケチだなお前は」
「しょうがない奴だな……ほら、1番になれるように1ゴル追加してやろう」
さらに1ゴル硬貨を手渡す。
「晩飯と昼飯はそれで賄え。台所は滅んでるからメシ作れないしな」
喫茶店に行った帰りに職人さんに修理は依頼して来たけど、これはさすがに時間がかかるだろう。
それに、屋根と、二階の床も修理を依頼して来たから、台所だけより時間がかかるだろう。
まあ、台所を毎回一晩で直してくれた職人さんたちだからな。
今回もきっと、職人さんたちが一晩でやってくれるだろう。
「じゃあ、シエルちゃん、行こう。寒くないようにちゃんと厚着してね」
「はいっ!」
てててて、と小走りにシエルちゃんが自分の部屋に走って行ったのを尻目に、オレは外で出かける準備を。
アイテムボックスから取り出したるは、バイクのパチモンみたいなもの。
これぞテンプラーフライヤー。
……揚げ物作る機械じゃねーぞ。
優秀な魔科学者のテンプラーとかいう奴が作った空飛ぶ機械だ。
魔王城にあったそいつの研究室にあったのでかっぱらってきた。
既に何回か乗ってるので操縦方法は把握済みだ。
「えーと、こっちのレバーを引いて……」
重低音のエンジンの始動音が響き渡り、フライヤーが宙に浮かび上がる。
よしよし、これで起動した。あとは乗れば動かせる。
そう思っていると、コートを身に着けたシエルちゃんがやってくる。
ナイスタイミングだ。
「うわー、これなんですか? 浮かんでます」
「これはね……昔、ちょっとある城に剣を持って押し入り、その城の住人の一人に殴る蹴るの暴行を加えた上で、無断で持ってきたものだよ」
「強盗!?」
「冗談だよ」
ちょっと言い方を変えただけで本当だけどな。
なんて思いつつ、シエルちゃんをフライヤーに乗せ、オレもその後ろに飛び乗る。
さて、行きますか。
「はい、発進ー」
アクセルっぽいものを回すと、フライヤーがオレのMPを吸収して推進力に変換。
そして、フライヤーはゆっくりと加速して、やがては最高速にまで到達する。
時速200キロよりちょっと下。それくらいが最高速だ。
空飛んでるからか、寒いんだよなぁ、これ。
結界張ると、うっかりぶち当たったりするから風防ぐのも出来ないし。
「速い速ーい! 凄いです! これなんなんですか?」
「天ぷら調理器」
「てんぷら?」
「テンプラーフライヤー。よく知らないけど凄いから使ってる」
「本当にすごいですねー!」
無邪気に笑うシエルちゃんに笑いつつ、オレは正神殿への針路を取って空を飛び続けた。




