どうかKappaと発音して下さい
夜も近づいて来た時刻、職人さんが直してくれた台所でレンが忙しなく動き回っている。
そして、オレも同じく台所にて手伝いをしている。
「米研ぎは終わったか?」
「ああ、終わった。水がキレイになるまでやるんだろ?」
「よし、上出来だ」
米研ぎくらいはいくらなんでも出来る。
洗剤だって入れたりしない。馬鹿にすんなよ。
「では、次は魚の骨を抜いてろ」
「任せろ」
オレのやってる事は主に雑用だが、それでもその分メシが早く出来ると思えばやる価値はある。
こういうのは合理性だからな。
「よし、だいたい抜き終わったぞ」
「では、次はそこで茶でも啜っていろ」
「任せろ」
手渡された湯呑を受け取って茶を啜る。うん、うまい緑茶だ。
買ったはいいけど、今まで一回しか淹れたことないんだよな。
これからは消費されるようだし、無駄にならなかったようだ。
けどこれって手伝いなのか?
「なあ、レン。これって手伝いなのか?」
「ああ、邪魔をしないと言う手伝いだ」
「なるほど。オレはもうお役御免か」
「うむ、これ以上はお前の手に負えん」
「そうか、ならオレは大人しく茶を啜ってる」
うん、お茶がうまい。
でもなんでだろう。少し悲しいんだ。
邪魔をせずにいると言う何故か悲しい手伝いを終えた頃、食堂のテーブルの上にはレンの作った料理が並んでいた。
ふっくらつやつやとしたごはん。
白身魚の塩焼き。
白味噌の油揚げと豆腐の味噌汁。
ホウレンソウのおひたし。
ひややっこ。
きんぴらごぼう。
うん、すごく、和食です。
「さて、では頂くとするか」
「いただきます。ひゃっほう、ひややっこだ」
「みょうがが無かったのが残念だ。季節ではないしな」
「みょうがはイラネ」
あれは何のためにあるんだ? 別にうまくもないし。
春によく出るから、春が来たなぁ、とは思うんだが。
「この白いのはチーズなの?」
「豆腐だ。豆を使った食材だ」
「特に味しねえから醤油かけて食べる」
「この炒め物はなんですか? ……木の根っこ?」
「ごぼうだ。歯応えがあってうまいぞ」
「甘辛くてうまいな。好きな味だ」
「ふへー……東の人って、変わったものを食べるんだね」
「タカヤさんにレンさんも、よく細い棒でごはん食べられますね」
「むしろこっちの方がやりやすいぞ。慣れればな」
「うむ、私はフォークもナイフもうまく使えんしな」
オレはだいぶ慣れたけど、ここらの人には負ける。
やっぱり箸が一番だよな。そう思いつつ、ご飯を食べ進む。
しかし、今日はなんだかすごく有意義な一日を過ごした気がする。
「明日は何しようかなぁ」
なんか仕事するかな?
みんな連れて遊びに行くのもいいかもな。
アリシアちゃんは町に行った事ないって言うし。
シエルちゃんは遊ぶ余裕なんかなかったみたいだし。
レンはどうなんだろ。知らんけど、この町は知らんだろう。案内してやるのもいいかもしれない。
「ええと、とりあえず、台所は壊さないでくださいね?」
「いや、普通に壊さないよ?」
オレのことなんだと思ってるんだ?
「まぁ、明日のことは明日考えろ。明日のことを言うと鬼が笑うぞ」
「レンが笑うのか」
「本当に鬼を連れてきてやろうか」
「居るのか」
「居るに決まっているだろう。何を言っているんだ」
居るんだ。そして常識なんだ。東の国って凄い。
「九尾の狐とか居るの? 長飛丸居る?」
「九尾の狐は昔居たそうだ。長飛丸は知らん。聞いたことも無い」
「なんだ、つまらん」
あの槍があったらコレクションしようと思ったのに。
物騒だし、代償ヤバイしで使う気にはなれないけど。
「酒呑童子とかいるの?」
「大昔に居たそうだが、征伐されたそうだ」
「茨木童子は?」
「それもだ」
「覚は?」
「山野に棲んでいるらしいが、見たことは無い。猿に似ているらしいぞ」
なーんだ、人間っぽい見た目じゃないのか。
「河童はいんの? 発音はkappa?」
「居るらしいぞ。見たことは無いが。発音と言われても河童は河童だろう」
東の国すげえ。超いってみてえ。なんか今から三週間後が楽しみになって来た。
いや、二週間くらいしたら行こう。観光しつつ行こう。
シエルちゃんへのお土産も時間かけて選びたいし。
「あの、さっきからなんとか童子とか、さとりってなんですか?」
「妖怪のことだ」
「妖怪?」
「えーと、幽霊……とはちょっと違うか。悪魔ともちょっと違うし」
「説明が難しいな。妖しげな怪異としか言いようがない」
妖怪ってなんて説明したらいいんだろ。
妖怪は妖怪としか言いようが……うーん……。
「河童をこちら辺りの言い方で言うとなんといえばいいやら……」
「レインコート」
「それは合羽だろう」
「じゃあウォーターインプだな」
「インプですかー。水の中にすんでるんですか?」
「ああ、相撲をして負けると殺されるんだ」
「ええ!?」
「具体的に言うと内臓を引っこ抜かれるんだ。ちなみに抜いた内臓は食うらしいぞ」
「こ、こわいです! そんなのが居るんですか!?」
「いや、孝也の言っている事は全部うそだ。相撲は好むが負けても殺されん。内臓を引っこ抜いたりもせんし、ましてや食ったりもしない」
なんだ、こっちの河童はやらないのか。
「鬼って言うのはどんななんですか?」
「オーガとかデーモンとかその辺り」
「うええっ!? そ、そんなのまでたくさんいるんですか!?」
「いや、孝也の言っている事は……概ね間違っていないな」
「あ、あってるんですか!?」
「だいたいあってる」
「じゃ、じゃあ、覚っていうのは……」
「心を読む」
「そ、それだけなんですか?」
「そして人間を食う」
「う、嘘ですよね?」
「本当らしいぞ。運がよくないと食われる」
「た、食べるんですか!?」
「ああ、食うな。食われない事もあるらしいけど、たいがい食われるらしい」
「まぁ、会ったら運が悪かったと思って諦めろ」
日本の妖怪って改めて考えると怖いな。
そんなこんなで楽しげ(?)に会話をしつつ和やかに夕食は終わり、眠る時間に。
今日は何の遠慮も無しに一人で寝れるな!
「さーて、寝るかー」
ベッドに飛び込んでシーツをひっかぶる。
明日はなにすっかなー?




