ジャンケンぽん
ご近所さんに怒鳴られて静かになったので、ようやっとまともに話せるようになった。
みんなも落ち着いたみたいだし……。
「えーと……とにかく、偽装結婚はあくまで偽装結婚な? 本妻云々は、そもそも偽装結婚だから本妻も何もないってことで……」
「は、はい」
「うん、わかったよ、タカヤ」
「それで構わん」
なんでこれだけの話を纏めるのにあんな大騒ぎになったんだ……。
「よし、じゃあ、あらためて晩ごはんにしようか。まだローストチキンはギリギリ温かいし」
「あ、よかったらあっためましょうか?」
「いや、オレはいいよ、猫舌だし」
少し冷めてるくらいの方が好きなんだ。
淹れたてのコーヒーとか熱くて飲めねーしな。
さて……んじゃ、あらためていただきます、と。
「お、うまい。トモエさんのローストチキンにそっくりだよ」
「そーですか? トモエさんに教えてもらったからですねっ! 今日のローストチキンは自信作なんです!」
「うむ、確かに美味だ。シエルはいい嫁になれるぞ」
「うん、本当においしいよ。うちのコックとおなじくらい」
そりゃすごい評価だな。
「えへへ、褒めすぎですよー。他にも教えてもらった料理は沢山ありますから、楽しみにしててくださいね!」
「おー、楽しみにしてる。トモエさん直伝だから、期待できるね」
「トモエとは誰だ?」
「近所の喫茶店の店主だよ。料理がうまいんだ」
「ほう、今度行ってみるとしよう。目玉メニューはなんだ?」
「なんでも」
「は? なんでも?」
「大抵なんでも出来るぞ、あの人は」
無茶苦茶な注文されても出来るからすごいんだよな。
ドラゴンのステーキ出せってガラの悪い兄ちゃんが言って来て、本当に出したしな。
ちなみに、その兄ちゃんは20万ゴル請求されて一か月間タダ働きしてた。
ドラゴンの肉って高いからなあ。
「ほほう。では、最高級の茶漬けを出せと言ってみよう」
「100万ゴルの茶漬け出されても知らねえぞ」
「そもそも茶漬けが出るのか?」
「前にお茶漬けが食いたいって言ったら出してくれたぞ。おいどんは鯛が食いたいタイって言っても出してくれた」
後者はギャグで言ってみたら本当に出すんだもんな。
まぁ、食ったけど。
「なんでもありか?」
「食べ物ならなんでもありなんだろう」
むしろオレはあの人の出せないものを知りたいよ。
「では、きんつばを頼んでみるとしよう。この辺りではないからな」
おもっくそ和菓子だな、おい。あそこ喫茶店だぞ?
まぁ、あの人なら余裕で出すんだろうけど。
そんなこんなで夕食は終わり、みんなに我が家の案内をする事に。
「とりあえず、リビングとキッチンは分かってるだろうし、そこは省く。えーと、廊下を挟んだ反対側が客間だ。二室ある」
「広いな。ロクに調度は無いが」
「寝れりゃいいだろ。で、入口から一直線に進んだ突き当りの部屋がトイレだ。二つある。二階にトイレは無いから、使えるのはここだけだ」
トイレ、これからどうしよう。みんな女の子だし、新しく作った方がいいんだろうか。
いや、けどトイレを増築するにしても何処を……うーん……。
まぁいいや、それも後で考えよう。
「で、この階段だけど、見ての通り地下と二階がある。地下室は図書室だけど、本は何もない」
「なんで作ったの?」
「使うかもと思ったから」
でもオレこの世界の本読まないんだよね。あんまり面白くないし。
勉強するための本は完全に面白くないし。
もしかしたら使うかも、と思って作ったけど、遊戯室にでも改築しようかと思ってる。
「次は二階だな。結構段差が急だから気を付けてな」
まぁ、大丈夫だろうとは思いつつも、みんなの後に続いて階段を上る。
転んで落ちそうになったら受け止められるようにだ。
「うおっ!」
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもない」
「前向いて登らないとあぶないよ?」
前向いたらアリシアちゃんのパンツが見えそうなんだよ……。
なんでミニスカートなのさ……。
顔を背けつつ階段を上り、二階へ。
「二階はいずれ使うかもと思って個人用の部屋が五つある。後は物置と、談話室があるくらいだ。みんなが使う部屋はここから選んで貰う事になるな」
「あ、私はタカヤさんと同じ部屋がいいです!」
「じゃあ私も!」
「なら私もだ」
「オレも色々と一人でやりたい事あるからそれは駄目」
「ほう、それは私に任せるがいい。男が一人でやりたい事と言えば相場が決まっている。婚前交渉という奴だな」
「家から追い出すぞ」
「すまん、許せ」
「許す」
全く、この耳年増め。
「一番奥の部屋以外は空き部屋だから、自由に選んでね。ただし、喧嘩はしない事」
それに全員が頷いたので、オレは皆が部屋を選び始めるのを眺める。
全員揃ってオレの隣の部屋かい。
あ、当然争いに。
おっと、ジャンケンで決め始めたな。
ありゃ、レンが負けた。
次はあいこか。
おお、勝ったのはシエルちゃんか、嬉しそうだな。
まぁ、平和裏に部屋割りは決まったからそれでよし、と。