静まれー! 静まれー! ここにおわす方を……静まれー!
とりあえず、オレが勝手に裏切られた事についてはさておいて。
今重要なのは、レンがオレに結婚してくれって頼んで来た事だったはずだ。
でも次にアリエルにあったらどんな顔したらいいんだろ……。
ああ、過去のオレにアリエルは男だって教えたい……。
いや、今はそれは置いておこう。あとで考えよう……。
「えーと、で、頼めるのがオレしかいなかったってことか?」
「うむ。それに、お前の異名は故郷にも届いている。この国を襲った竜を一撃で仕留めた竜殺し、魔王軍一万を僅か一人で征伐した殺戮の覇者など……」
「おいやめろ、殺戮の覇者って言うのはやめろ」
オレの中二ソウルがぎゅんぎゅん言い出して、黒歴史がオレの心を痛めるんだ。
「よくわからんがわかった。とにかく、お前なら偽装結婚の相手としてピッタリだろうと言うことなのだ。頼まれてくれるか?」
「……しゃあないな。本当なら頷かないところなんだけど、まぁ、仲間だからな」
レンには色々と世話になったし世話もした。
そのレンが助けてくれというのだから、頷くのが仲間ってもんだろう。
まぁ、この埋め合わせはいずれしてもらうつもりではあるが。
「そ、そうか! 頼まれてくれるか!」
うわ、凄い嬉しそう。
よっぽど結婚したくなかったんだなぁ……。
「ま、まってください! 本妻は私! 私ですよ!? まだ結婚はしてませんけど、本妻は私です! そうですよね、タカヤさん!」
と、シエルちゃん。
「ええ!? それじゃあ私も! 私が本妻! 私と結婚したら、貴族の仲間入りできるよ! それに一生働かないで暮らせるよ!」
と、アリシアちゃん。
「む? よくわからんが私も本妻だ。私とお前は気心の知れた仲だし、私はちゃんと夜の生活についても婆やから教育を受けているぞ」
なに謎の競い合いしてんだよ。
「あーもう! 静まれ! 静まれー!」
とりあえず、落ち着かせなきゃ話にならん。
なので声を張り上げて落ち着かせる事に。
「とりあえず、結婚っていても、偽装結婚だからな? あくまで名目上の結婚なんだぞ?」
「で、でも! そのまま本当に夫婦になったりしたらどうするんですか!? 顔合わせに行くだけとか言ってこの人の家に行って、そのまま拘束されたりしたらどうするんですか!」
「そうだよ! タカヤがこの人のお家に連れていかれて、そのまま帰って来なかったりしたら私達はどうしたらいいの!?」
「そ、そんなことは無い! あくまで、あくまでも偽装結婚だぞ! わ、私は孝也に対して恋愛感情など無い! 本当だ!」
「ええい! 静まれ! 静まれー! 静まれーい! 全員静まれーい!」
もう一度声を張り上げて落ち着かせる事を試みる。
しかし、猛り狂う全員を鎮める事は出来なかった。
「わ、私、タカヤさんが帰って来なかったら連れ戻しにいきますからね! ここがあの女の家ね! って言って連れ戻しに行きますから!」
やめろ、なんかヤンデレ臭くて怖い。
「私だっていくんだから! タカヤに教えてもらった剣でタカヤのことを助けにいくんだから! 立ち塞がる人はみんな斬り捨てるんだから!」
それじゃ辻斬りだ。ヤンデレにもほどがある。
「だからそんなつもりは無い! 家に縛り付けて、孝也が本気になるまで待つなんて考えていない!」
レンだけはまともか……でも声はデカい。
「だから静まれ! 静まれー! 静まれーい!」
これ以上騒いだらご近所さんが怒鳴り込んでくるかもしれん!
近所に悪評が立つのは嫌だ! だから静まれ!
「で、でも! もし本当にそうなったらどうするんですか!? わ、私、タカヤさんのお妾さんでもいいです! だからすてないで!」
いや、捨てるつもりは最初からないよ。
「わ、私も! 私も私も! 私も本妻じゃなくて妾でもいいから! 私がんばるから!」
「む、むぅ! 私も妾でも構わん! お前の妾ならば父上も納得するに違いない! それでもかまわん!」
「だからみんな静まれ! 静まれーい! しず」
「私お料理もお掃除もがんばります! お仕事だってします!」
「私もお裁縫とか編み物なら出来るよ! お針子の内職とかなら出来るもん!」
「わ、私とて裁縫くらいは出来る! 飯炊きもだ! 剣の腕にも自信があるぞ! お前の事を養うくらいは簡単だ!」
「静まれーい! 静まれーい! 静まれーい!」
もうどうしたらいいんだ。
どうやったらこの子たちは静かにしてくれるんだ。
『ゴチャゴチャうるせぇぞ! こっちはメシ食ってんだ! 静かにしろ!』
そして、家の外から怒鳴り声が聞こえて来た。
水を打ったかのように静まり返る食卓。
「……し、静かにしような? な?」
「は、はい……ごめんなさい……」
「うん、私、静かにするね……ごめんね、タカヤ」
「私もいささか興奮し過ぎた……すまぬ……」
ああ、なんか色々と疲れた……。