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だらり異世界生活記  作者: 国後要
またもやおしかけ女房編
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死して屍拾う者なし

 黒髪の女の子が一体誰なのか……?

 そのことで一時騒然となる食卓。

 混沌としはじめた食卓! そこに鋼の……じゃなかった。

 黒髪の女の子が口を開く。

 

「唐突に訪ねてすまない。しかし、火急の用であったため時泥棒となろうことは承知の上で参った」


「共通語でオーケー」


「共通語だ」

 

 なんだ共通語か。けど意味が分からなかったぞ?

 共通語に見せかけた別言語じゃないのか?

 

「一文字孝也。どうか私の願いを聞き入れてはくれないか」


「その前にお前は誰だ」


「何!? 私が誰だか本気で分からぬと言うのか!?」


「分かってたら最初から困ってない」

 

「むう……いや、お前とは顔を隠しての付き合いだった故、仕方ないとも言えよう。私だ、秋月蓮だ」

 

 秋月蓮……蓮……レン?

 

「え、レン? お前レンなん? うっそだぁ」

 

「何が嘘なものか」

 

 レンと言えば、オレの仲間の一人にそう言う名前の奴が居た。

 なんでもこっから東の国の出身で、故郷からの密命を受けて云々。

 紆余曲折あって仲間になり、一緒に旅をした間柄だ。

 確かにレンの身長はかなり小さくて、目の前の子と同じくらいだった。

 きっと、禁術とかで身長の代わりに何か得たのだろうと思っていたのだが。

 けど、声は明らかに男のものだった。この子みたいな声ではなかった。

 

「だってほら、声が違うじゃん?」


「ふむ、これだ」

 

 そう言うと女の子が懐からマスクを取り出す。あ、レンの使ってたマスクだ。

 そして、女の子がそのマスクをつける。

 

「あー、あー。どうだ、これでお前の聞き覚えのある声になったろう」


 聞こえて来た声は、確かに聞き覚えのある低い声。

 さぞや覆面の下はイケメンなんだろうな、と思わせてくれるような声だった。


「……うん」

 

 顔を隠すためのマスクかと思ったら声を変える為の、ボイスチェンジャーだったのか……。

 

「え、ていうかなにそれほしい。宴会芸とかに使えそう」

 

「馬鹿者。これは密命を受けた者のみが受け取る事を許される品だぞ」

 

 ちぇっ、ケチンボ。

 

「まぁ、場合によっては譲ってもよいが」


「え、マジで? あ、いや、待てよ。声を変えてたのは分かったけど、なんで顔やらなんやらまで隠してたんだ?」


 確かにマスクは欲しい。

 しかし、今はレンを問い詰めるのが先だ。色々と気になる。


「そう言う約定だ。密命を帯びた者は氏素性の一切を漏らす事が許されぬ。故に全てを隠していたわけだ。名はありふれたものだったのでそのまま使っていたが」

 

「密命ってなに?」


「無論、魔王討伐」

 

「お前の国の人はお前ひとりにそれ託してたの? え、馬鹿なの? 死ぬの?」


 こんな小さい子に託すには厳しすぎるだろ。

 どう考えても辿り着く前に野垂れ死にしそう。

 いや、レンなら何とかなりそうな感じはするけど。


「私だけではない。他にも数々の者が密命を帯びて旅立った。私はその一人に過ぎない」


「支援とかは無かったみたいだけど」


「最初に武器等を頂いた。それがすべてだ」


「えー……」


 それ酷くね?

 

「そんな感じだと、もしかして死んだりしたときは……」


「我が命、我が物と思わずして、御下命の一切尽くを果たす事こそ我らが本懐。死して屍拾う者無し」

 

「共通語で頼む」


「共通語だ」


「誰か通訳出来るか?」

 

 シエルちゃんとアリシアちゃんに視線を送る。

 レンの言葉は分かるのに、意味が理解出来ない話を通訳してくれないかと。

 

「わ、わかりませんよう! なんだか難しい事を言ってるなーって思ったくらいで……」


「わ、私、全然わかんなかった。タカヤはわかったの?」


「分からん」

 

 なんてこった。言葉は通じるのに会話が出来ないとは……。

 人と人とのコミュニケーションって難しいな……。

 

「むう……何故わからんのだ?」


「何を言ってるか難しすぎた。もうちょっと簡単に頼む、簡単に」


「む、簡単にだな。では、噛み砕いて言うと……自分の命を自分のものと思わず、下された命令の全てを果たすことが使命。例え死のうが、その屍を拾ってくれる者は居ない、と言うことだ」

 

「なるほど……な、なんだってーっ!?」

 

「そ、そんな悲壮な覚悟で……」


「す、すごい……まねできないや……」

 

 レンの魔王討伐とやらへの決意が悲壮過ぎて怖い。

 いや、もう魔王討伐とか終わってるけど。

 

「まぁ、魔王を討伐した事で死した者は全て蘇り続々と帰って来ている。例え死んでいたとしても、私もそうなっていただけだろう」


「はぁ、そんなもんか……」


 うーん、レンの考えが凄いな……これがカルチャーギャップって奴か?


「ちなみに、帰って来た者の中には私の父上も居る」


「そうなのか。それはよかったな」


「いや、よくない」


「え、なんで」

 

 死んだのかどうかは分からんが、父親が帰って来たのは喜ぶ事だろうに。

 よっぽど仲が悪かったのか?

 

「私がこうして訪ねて来たのも、父上が帰って来た事に絡む話なのだ。どうしてもお前に頼みごとがしたくてな」


「何さ」


「うむ……何も言わず、私と結婚してくれ」


「は?」


 え、なんて?

 

「うむ、結婚してくれ」


 オレの耳は腐ったようだ……。

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