表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらり異世界生活記  作者: 国後要
遠い未来
128/128

遠い未来

 ウェディングチャペルが聞こえる。

 祝福を告げる鐘の音が、風に乗って僕の耳にまで届いている。


 風が強い。


 ビル風が僕の衣服をはためかせ、髪の毛を棚引かせる。

 跳ね回る髪を手で梳いて、横へと流し、僕は眼下を見下ろす。


 ビルの下の小さな教会では、一人の女性が今まさに新婦になろうとしている。

 亜麻色の髪をヴェールで覆った、小柄で可愛らしい女性。

 隣に立つ新郎の男性は緊張しながらも、その女性へと優しく微笑みかけている。


 とても幸せそうな、新郎新婦の姿。


 その二人を見ていると、僕まで笑顔になってしまう。

 お幸せに、と、二人の未来を祈らずにはいられない。


 見覚えのあるウェディングドレス。

 あの結婚式の日、シエルちゃんが身に着けていたとびっきりのドレス。

 そのドレスを着ている彼女は、シエルちゃんの直系の子孫だと言う事。


 あれからどれほど経っただろうか。


 数えていないので、よく覚えていない。

 けれど、シエルちゃんが年老いて、子孫にドレスを譲った事は間違いが無い。

 そうでなくては、あそこにあるドレスは何かの間違いになってしまう。


 それでいい。


 人の営みとは、そう言うこと。

 次代へとまた新たな命を繋いでいく。それが人間というもの。


 いつまでもいつまでも、可能性を紡いでいく。

 人は、立ち止まらない限りどこまでだって行けるのだから。

 そして、いずれは、世界の終焉にだって抗えるはずだから。


「じゃあ、そろそろ、行こうか」


「ええ、いきましょうか。あたしも見たいものは見れましたし」


 僕の今代のパートナーである彼女に呼びかけて、僕は立ち上がる。

 彼女も名残惜しげに教会を見つめていたけれど、すぐに視線を逸らした。


「さあ、また新たな可能性を探しに行こう。開け、鏡の扉よ。夢幻にして無限の旅路へと誘え」


 僕の言葉に呼応するように、目の前に鏡で出来た扉が現れる。

 この世界ではないどこか別の世界へと繋がる扉。

 何処に跳ぶかは僕ですら分からない。


 可能性を探し出すと言うのは、砂漠の中から芥子粒を探すに等しい行い。

 こうして不確実性に頼って繰り返すのがいちばん妥当なのだ。


「けれど、必ず見つかるよ。人が物語を紡ぐ限りはね」


 この世界線で可能性を持つ彼女……いや、彼を見つけ出したように。

 人が物語を紡ぐ限りは、きっと。


 僕は今一度意思を確認すると、鏡の扉を開いてその中へと踏み出す。




――――そして、その扉が閉じられた時、そこにはもう誰も居なかった。

http://ncode.syosetu.com/n9079bs/

続編、だらり現代生活記もどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ