ニンジャ!? ニンジャナンデ!?
「魔王ー、遊びに来たぞー」
グワッシャア、と扉をノックで破壊して魔王の部屋にはいる。
直後、顔面に向けて拳を象ったブロンズ像が飛来して直撃した。
「ギャアアアアアッ! オレの顔がぁぁぁ!」
激痛に悶えて転げ回りつつ、転がったブロンズ像を拾い上げる。
なんなんだこれ。こんな調度うちにあったか?
まず間違いなくオレのものではない。元の世界の自室だって、パソコンがある以外は苦学生の部屋って言われてたくらいだ。
とすると、魔王の私物か。
「魔王、これお前の私物か?」
言いつつ部屋に入ると、今度は足を象ったブロンズ像が飛んでくる。
それをキャッチしつつ部屋に入り込むと、そこには半裸の魔王が!
「入ってくるなぁ!」
「着替え中だったか。失礼したな」
後頭部にブロンズ製の胸像の直撃を喰らいつつ退室。
やれやれ、ノック(物理)した時に着替え中って言えばいいものを。
さて、数分ほど待ってから再び魔王の部屋に入ると、趣味の悪い私服に着替えた魔王が出迎える。
「クックック、よくぞ来たな、勇者よ……」
おお、外見だけは全盛期なだけあるな。
なんとも言えないカリスマがあるような気がしてくるぜ……。
「あれ、お前って今朝までは十歳くらいの見た目してたよな?」
「ふん、シエルが私に祈りを捧げてくれたのだ。そのおかげで、こうして見た目だけは全盛期に戻る事が出来た」
なるほど。そう言う方法か。
「そうかそうか。じゃあ、オレも祈ってやろう」
「ほう、よい心がけだな、勇者よ」
「じゃあ、さっそく。女神アリシュ……」
「そっちに祈るな!」
カッ飛んできたクリスタルガラスのライオンを受け止めつつ、祈るのは中止する。
「まったく……改めて、勇者よ。よくぞ来たな、何用だ……」
カリスマたっぷりの態度で魔王が問いかけてくる。
さすがは魔王……態度だけで偉そうに見えてくるぜ。
「ああ、少し懸念事項があってな」
「なんだ? 言うてみよ」
「オレが居なくなったら、夜一人でトイレ行けるか? 頭一人で洗えるか? 一人でお留守番できるか? お使い行けるか?」
「舐めるな!」
おや、怒った。まぁ、怒るか。
「そもそも我に排泄など不要! 風呂に入らずとも身を清める魔法だとてある! 留守番やガキの使いなど、この魔王に出来ぬと思うてか!」
「そっち方面で舐めるなって言ったのかよ!」
コイツ頭悪くなってねえか? 間違いなく悪くなってるよな。
「まぁ、そう言うふざけた話はとりあえず置いておくぞ」
「ふざけ始めたのは貴様であろう」
それもそうだが、それを言っちゃあお終いよ。
「さて、割と真面目な話になるが、オレはもうちょいとしたら一度元の世界に帰ります」
「元の世界?」
「ああ、元の世界。オレ、異世界から来たんだよ」
「ほう、そうであったか」
あんま驚いた様子はないな。まあ、異世界から来たって人間、割と居るらしいしな。
とは言っても百年に一人とかそう言うレベルらしいが。
「でも、そうするとオレは暫く留守にせざるを得ません」
「そうか。それで?」
「その間になんか悪さされたら溜まったもんじゃないので、お前も連れて行きます」
後顧の憂いが断てないなら、憂いの原因を持っていけばいいじゃない、というわけだ。
人数増えると負担増すが、仕方ないのだ。
「ほー、異世界にか。なるほど……よかろう。我を連れて行くがよい」
「異世界を侵略しようとか考えるなよ」
「そんな事はせぬわ」
侵略する気満々です、と言わんばかりの顔。
コイツ隠し事へったくそだなぁ……。
「お前は日本人の恐ろしさを知らないからそんな考えに至れるんだ」
「侵略する気はないと言っておろう。しかし参考までに聞いておこう。どんな国だ」
「神様が八百万人います」
「……え? なに? 今なんて言った? 八百……柱?」
「八百万です」
「え、本当に?」
「はい、本当です」
八百万の神とかって言うし。
まぁ、八百万って数値的な意味ではないんだけどさ。
沢山いるっていう表現の事だし。
「しかも、ネットに画像をアップロードするだけで神になれるんだ」
「は? 人間がか?」
「ああ。オレも神って言われた事が何回もあるぜ」
「な、なるほど……それ故にあれほどの強さを……」
なんか素敵な誤解をし始めてるけど、面白いからそのままでいいや。
「しかも日本人は、ハラキリナイフを常に隠し持ってるんだ」
いっそのこと、もっと誤解させよう。そう思います。
というわけで、嘘っぱちを教え込みます。
「は、ハラキリナイフ?」
「ああ。自分が過ちを冒した時に、自分の腹を掻っ捌いて詫びるんだ」
「腹を掻っ捌くのか!? 死ぬぞ!?」
「ああ。死んで誠意を見せるんだ」
「く、狂っている……!」
「そして、世間の闇にはニンジャと言われる奴が潜んでいる。ニンジャは強力な暗殺者だ」
「暗殺者がそんなに沢山いるのか?」
「ああ。イガとコウガと言われるニンジャの養成機関があって、そこでニンジャはカラテやジュードーを修得するんだ」
「カラテに、ジュードー。一体どんな技なのだ?」
「カラテは飛んできた矢も鉄砲もマワシウケで掻き消し、ジュードーはドラゴンだって投げ飛ばせる力を秘めてる。ユウダンシャと言われる奴は、戦争の勝敗をひっくり返す程の強さがあるとか……」
「そんな技があるのか! 魔法も使わずにそんなことが出来るとは……!」
「もちろん、ニンジャは魔法だって使える。だが、それはニンジャにしか使えないニンジャ魔法なんだ。魔力を殆ど使わずに分身の術を使い、何百人にも増える事が出来る。スイトンの術やカトンの術は、普通の魔法より強力なんだ」
「つまり、魔法戦士の集団という事か……」
「ああ。しかも、ニンジャは服を脱げば脱ぐほど強くなるらしい……」
「なっ、では、全裸こそが一番強いという事か!?」
「ああ。全裸のニンジャのアーマークラスは、戦車の正面装甲にも匹敵するとか……。恐らく、ドラゴンの鱗並みに強靭なんだろう」
「そんな怪物が何百人も居るのか……」
「そうだ。しかも奴らは、常に一般人の中に隠れている……迂闊な行動をすれば、お前もすぐに消されるぞ……」
「だ、だが、私とて魔王だ! 人間に遅れは……!」
「やめるんだ! ニンジャだけが敵だと思うな。ニンジャの他にも、ニンジャ以上のサムライブレードのワザマエを持つサムライという奴も居るんだ。迂闊な行動は慎め……」
「くっ、ニッポンという国はなんと恐ろしいのだ……!」
外人に嘘を教える日本人の心境ってこんな感じなんだろうか。
なんというか、凄く……楽しいです……。
「さて、そう言うわけで、日本に行っても馬鹿な事は考えるなよ?」
「わ、わかった……」
よし、これで魔王の問題は解決。
さて、次はタカネに話してこないとな……。