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だらり異世界生活記  作者: 国後要
修業編
117/128

そうなんです

「……さみぃ」


「うん……すごいさむい……」


「……遭難ですかね」


「そうなんです……」


「……なんでオレたち遭難してんの」


「……タカヤンが悪いんでしょ」


 うん、実はそうなのだ。

 宝石を使った転移魔法の実験していたら、失敗してここに吹っ飛んでしまったのである。

 転移事故のせいで、元の座標も完全に失認してしまった。

 帰るに帰れない。

 幸い、洞窟を見つけられたので風は凌げるのだが。


 しかし、この大豪雪の降りしきる山は一体どこなのか。

 山脈の一部なのは分かるが、山脈のどこなのか。


「ヤバい、ねむくなって来た……」


「……あちきも」


「寝たら死ぬよな……」


「冬眠とか、出来ないかな……」


 出来たらいいな……。


「……あかん、ほんま眠い」


「寝たら死ぬ」


「つってもなぁ……眠いんだもんよ……」


「山往かば草生す屍ならぬ凍り付く屍か……」


「シャレにならんことを言うな」


「でもこのままじゃそうなるよね」


「まぁな……」


 火炎魔法で暖を取るにも、燃やすものが無い。

 火炎魔法単体だと炎は全く持続しないのだ。

 基本的に戦闘用なので、そう言う使い方は想定されていない。


「あのさー、割とヤバイ状況だし、もしかすれば最後かもしれないし……マジな話するけどいい?」


「あー、いいよ。意識保てんならなんでも。オレもうちょいで寝そうな感じだし」


「そっか。んじゃ、言うよ。タカヤ、好きです」


「あーはいはい、ワロスワロス」


「あのさ、これ、真面目な話なんだけど」


「…………ジル、お前は極限状況でテンパってるだけなんだよ」


「タカヤ、これ、真面目な話。ちゃんと聞いて」


 やばい、こいつ本当に真面目に言ってる。

 というか、雰囲気が変わった。いつもと違う。


「……あー、分かった。とりあえず、そこらへんは理解した。んで……いきなりどう言う事だ? お前、オレに恋愛感情なんて皆無だったんじゃねえの?」


「そうでも言っておかないと、みんなが遠慮する。女の子は、そこらへん敏感」


「よく分からん」


「私は大公家の人間。地位的に一番上。シエルちゃんはそうでもないけど、アリシアちゃんやレンちゃんは貴族の子。だから、どうしてもそこで遠慮する」


 面倒な話だ。上の立場の人間だから譲らないといけないと、そう思ってしまう訳か。

 レンは格式を重んじるタイプだし、アリシアちゃんは余り気が強い方ではない。

 確かに、ジルに対して遠慮するかもしれない。


「でも、レンちゃんは変わった。恥ずかしがらなくなったし、真剣になった。恋する女の子は強い、って奴だね」


「アリシアちゃんは?」


「アリシアちゃんも触発されてる。芯は強い子。もう大丈夫。私も、そろそろ遠慮するのはやめる」


「そうか。……ところでジル、お前雰囲気変わり過ぎて怖い」


 まるで別人だ。仕草や態度すらも変わるとは。

 元々、ジルは相当な美少女なのだ。自称するだけの事はある程度には。

 ただ、それを言動や仕草で完全に台無しにしていたのだが……。


「ん、だめ? こっちの方が楽。あれ、演技だから」


「いいえ、全然ダメではありません」


 していたのだから、言動や仕草を治せば魅力的に映る。

 正直に言おう。凄く可愛いです。


「分かった。このまま。タカヤ、あらためて言せて欲しい」


 膝を抱えて座っていたジルがこちらに向き直り、真剣な表情で言う。

 それに対しオレは、頷いて続きを促す。


「好きです。タカヤのことが、好きです。ずっとずっと好きでした。こうして喋っていると、すっごく胸がどきどきしています」


「はい。オレもかなりドキドキしてます」


「どれくらい好きなのか、うまく言葉に出来ません。でも、タカヤのことを好きな気持ちは嘘じゃありません」


「は、はい。それはよく分かりました」


 あかん、オレもやばいくらいドキドキしてる。

 なんだよこれ、反則だろ。


「私は、つまらない人間です。演技していないと、タカヤとうまく話せないような人間です」


「あ、いえ、そう言うのは余り気にしないので大丈夫です」


「我儘な人間です。タカヤにずっと傍に居て欲しい、私だけを愛して欲しいなんて思ってしまうような人間です」


「いえ、それだけ真剣に想ってくれていると思うと嬉しいです」


「嫉妬深い人間です。タカヤが他の女の子と話していると泣きたくなります。タカヤが私に構ってくれないと、悲しくなってしまう面倒な女です」


「むしろご褒美です」


「そんな私でも……好きになってくれますか?」


「……その前に、オレの告白を聞いてくれ」


 オレも、真剣に答えなくちゃいけない。


「オレはつまらない人間だ。本当は人と話しているよりも、一人でずっと本を読んで過ごせれば幸せだと思うような人間だ」


「知ってる。タカヤは、猫みたいな人。郡の中に在りながら、独りで生き、独りで死んでいく」


「そのくせ、ずっと一人でいるのは嫌だとたまに思う我儘な奴だ。自分から望んで一人で居るのに、誰かと話したい、誰かと触れ合いたいと思う」


「猫は孤高に生きながら、人に甘える事がある。それは温もりだけが欲しくなるから。本当に猫みたいな人」


「そしてオレは、お前だけを愛するわけにはいかない。みんなの気持ちに応えなくちゃいけない。そう思う、八方美人な奴だ」


「みんな、真剣だから。みんなが受容しているなら、タカヤがみんなの気持ちに応えてあげるのはやさしさだと思う」


「そんな男でも、お前は好きになって欲しいと思うのか?」


「うん……私は、タカヤが好き。タカヤに好きになって貰いたい」


「そっか……」


 それならもう、何も言う事は無い。

 互いが互いを受け入れるのなら、それでいいだろう。


「タカヤ、私を、お嫁さんにしてくれる?」


「そりゃこっちのセリフだろうに。オレの嫁さんになってくれるか?」


「はい……なります」


 そういって、ジルが微笑んだ。

 今までにないくらい綺麗な笑顔で。


「帰ったら、また結婚式だな」


「そうだね。帰れるか、ちょっとわからないけど」


「だな……」


 そこで会話が途切れる。

 それが少し気まずくなって、頬を掻きながら尋ねる。


「あのさ、なんで演技なんかしてたんだ? 恋愛感情が無いフリをするなら、別に演技なんかしなくてもよかったんじゃ」


「最初……タカヤと初めて会った時は、恥ずかしくて、怖くて、ずっと演技してた」


「あのふざけた言動やら、安定しない喋り口はそれか」


「うん。そっちに意識を向かせれば、私の態度には気付かないと思った。タカヤの家に来てからも似たようなもの。でも、タカヤとの関係を明確に示すためのものでもあった」


「オレとの関係を?」


「ただの馬鹿話をする友人って言う関係。恋愛感情なんて欠片も無いような。そんな関係なら、みんなも少しは安心出来ただろうから。自分たちより年上で、タカヤとの関係がよく分からない子が現れたら、みんな警戒するでしょ」


「そう言うことか……なんか、色々と苦労かけたみたいだな」


 聞けば聞くほどジルはみんなを優先していたのが分かる。

 そこらへんに気付いてやれなかった自分が恥ずかしい。

 いや、気付いてたら拙かったのか……。


「いいの。タカヤ、みんなが仲悪くなったら嫌でしょ。タカヤがうれしいなら、私もうれしいから」


「……ああもう! 可愛いなお前!」


 なんだよこのギャップは。

 可愛いやつめ、可愛いやつめ、可愛いやつめ!


「このっ、お前なんかこうしてやるっ。撫でて抱き締めて頬にキスしてやる!」


「唇にしても、いいよ?」


「それはダメ。というかこの状況でやるこっちゃない」


 割と真剣に遭難の危機……というか、既に遭難済みだ。

 その状況で唇にキスなんかしたら、色々と抑えきれないかも知れない。

 ほら……極限状況だと、なんか、こう……色々とムラムラ来るものがあるだろう。


「でも、でも、君と飲みたいロイヤルミルクティィィーッ!」


「アールグレイ」


「あ、ちゃんと乗ってくれるんだ」


「ん。前世はちょっと、オタクだったから」


「……ちょっと?」


「……ごめん、見栄張った。かなりオタクだった」


「というか割りと気になってたんだけど、お前前世でなにやってたの? というか、歳いくつだった?」


「ん、普通の大学生だったよ。友達は全然居なかったから、オタクになっちゃったけど。歳は20歳だった」


「ふーん……ってことは前世込みでさ」


「それ以上いったら怒る」


「ごめんなさい! 許してください!」


 と、叫んだところで、オレ達の居る洞窟に店主さんが入り込んで来た。


「かなり元気ですね。なにやら込み入っているようですし、私は失礼します。では、おじゃましました」


 そういって店主さんが外へと……。


「待ってぇぇぇ! 救助隊カムバーック!」


「お、置いてかないで。結婚式を挙げるまで、絶対に死ねない」


 オレとジルは歩き去って行く店主さんを追いかけて走り出すのだった。

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