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だらり異世界生活記  作者: 国後要
修業編
114/128

最後の手段

「助けろー! 我を助けろー! 呪うぞー!」


「そしてですが、このコランダムがこの魔法の肝になります。非常に重要ですが、今までの授業で概要はつかめましたね?」


「くぉらー! 我を助けんかー!」


「だいたいは」


「あだだだだっ! 噛むなぁぁぁ! ひぎぃっ!」


「あちきもだいたいは覚えてるッス」


「らめぇっ! 胴体千切れちゃう!」


 魔王がうるさい。


「しゃあない。助けてやるか」


「えー……助けんの?」


「しょうがないだろ。助けなきゃ静かにならないんだから」


「遮音魔法使えばいいんじゃないの?」


「ああ、それがあったか」


 というわけで遮音魔法を周囲にかける。

 うん、これで静かになったな。

 そう思った直後、飛んできた火球で遮音魔法が吹っ飛ぶ。

 遮音魔法は元々破綻し易い魔法なので、魔法を喰らったら簡単に壊れてしまうのだ。


「コラー! 我を無視するなぁ! ウボァッ! ど、胴体がちぎれる! 本当にちぎれてしまう!」


 どうやら魔王がやったらしい。


「あーもう……しょうがない、助けるぞ」


「しょうがないね」


 そう言うわけで、魔王救出作戦の開始である。

 あのドラゴン、オレ一人では苦戦するだろう。

 恐らくだが、戦力的に見ても五分と言ったところか。


「じゃ、まずはあちきが思いっ切りやって、その後タカヤンが全力で叩く。んで、店主さんがトドメって感じでオナシャス」


「おっけー」


「分かりました」


 まぁ、ここにはオレに匹敵するくらい強いジルと、強さは未知数だが間違いなく凄腕の魔法使いの店主さんがいる。

 一人で五分なんだから、二人や三人でかかればよゆうのよっちゃんである。


「よっしゃ、んじゃ……行くぜよ! 美少女の財宝を見せてやる!」


 そう言うと、ジルがアイテムボックスから大量の武器類を一気に取り出し、それをサイコキネシスの魔法でぶっ飛ばしていく。

 悪くない手段だ。

 強力な武器ばっかだから、連射しまくれば強いのは確かなのだ。

 無くしたり壊したりしたら痛いけど。


 ちなみに、オレの場合は直接ぶった切った方が強いからやらない。

 それに武器は無くしたくない。


「タカヤン! ほら、突っ込んで!」


「武器の雨の中に突っ込めと申すか」


 死にますよね、下手したら。いや、下手しなくても。


「そこで取りだしたるはこの石柱」


「なんでそんなもん入ってんだよ」


 マジで石柱である。

 白い大理石で出来た、五メートルほどの代物だ。


「いや、ほら……ぴょっ! ってやってみたくね?」


「なるほどなっとく! よーし、乗るぜ!」


 某殺し屋よろしく石柱の上に飛び乗ると、直後にジルが射出してくれる。

 風を肌に感じながらアイテムボックスから適当な剣を取りだす。

 ……ハエ叩き! またお前か!


「くっ……真の剣士は得物を選ばない! 行くぞ名刀ハエ叩き丸!」


 きっとこれでもドラゴンは切れる。

 ドラゴンを斬れたら、屠龍剣ハエ叩きと名付けよう。


「いっくぜーっ! オルァッ!」


 というわけで、さっそくぶった切ってみた。

 ざっくりと鱗をぶった切り、その下の肉を僅かに切り裂く。


「うおっ、斬れた! ハエ叩きってスゲー!」


 とは言っても鱗を数枚切っただけなのだが、これだけの威力があれば屠龍剣を名乗っても問題あるまい。


「よっしゃよっしゃ! どんどん行くぜ!」


 ドラゴンの背中を一直線に走りながら、周囲を切り裂きまくる。

 向かう先は頭。ドラゴンにペロペロ(物理)されてる魔王を助けなくては。


「ゆ、勇者ー! 早くしろー! わ、我の背骨がー!」


「うるせぇ! 今助けるから待ってろ!」


 そう言うと同時に頭へと到着。

 そしてハエ叩きを振り上げ、首を切り落としてやろうとした直後、ドラゴンが首をもたげる。


「あづっ! あぢぢぢっ! こ、こやつブレスを吐くつもりじゃ! は、早く助けれー!」


「忠告ありがとう。【ブレスガード】」


 各種のブレス攻撃の威力を削ぐ魔法、ブレスガードを発動させる。

 これで死んだりはしまい。


「あーっ! き、貴様、我を見捨てるつもりかーっ!」


 だってお前死んでも蘇るじゃん。


「あっ、あっ、あっ……! みぎゃあああああああああああ……」


 魔王の悲鳴を聞きながら、吐き出されたブレスを受ける。

 凄い熱量に肌が焦がされるのを感じながら、オレは新たに剣を取りだして振り上げる。


「【ドラゴンセイバー】!」


 龍の鱗をも切り裂く一斬。

 その一撃によって竜の顔面を切り裂いてひるませる。

 その隙に魔王を掴んで離脱!


「あっ」


 魔王のマントの裾を掴んだら、燃えていたせいで千切れてしまった。

 しかし、今更戻る事は出来ない。


 オレは落下していきながら、店主さんが放った魔法なのだろう、巨大な手がドラゴンをぐしゃぐしゃに握り潰すのを眺めていた。





「ミンチよりひでぇよ」


「なぜ殺した」


「それでもオレはやってない」


 実行犯は店主さんです。

 でも助けられなかったのはオレのせいだ。

 そう言うわけで、責任を取ろうと思います。


「ささやき、えいしょう、いのり、ねんじろ!」


 手を組んで祈る。気分はブラザー! でも祈る相手は魔王。これって邪神信仰なんですかね?

 なんて考えていると、ミンチがもぞもぞと蠢き、そこから魔王が顔を出す。

 今度は十二歳くらいか? 年齢の安定しない奴だな。


「魔王! 無事だったんだな!」


「無事……? いや、我は生きておるから無事……なのか? しかし、我は確かに潰されたような……?」


「無事だったんだよ」


「そうか?」


「無事だったんだよ!」


「そ、そうか……」


 いやはや、蘇ってよかったよかった。

 まぁ、蘇らなきゃそれでもよかったんだけど。


「ところで魔王」


「む、なんだ」


「お前、なんかちょっとずつ大きくなってね?」


 眼に見える速度で大きくなってきてるのが分かるんだが。

 一分で二センチくらいのペースでデカくなってる。


「ふっふっふ……この地は我ら魔族の生誕の地! ここで過ごせば力の回復は早くなるのだ」


「ふーん……」


 道理でこんな辺鄙なところにいるわけだ。

 なんでここに城立てなかったんだろ?

 いや、あの城は人間から奪ったもんなんだっけ?

 なんでもいいや。


「さて、魔王」


「うむ、なんだ」


「オレは勇者ですね」


「そうだな。我は魔王だ」


「魔王と勇者は?」


「殺し合うもの……ま、待て」


「悲しいけど、これ戦争なのよね」


 オレが蘇らせておいて、なんで始末するんだ、とか突っ込まれそうだが……。

 割と真剣にこいつは悪い奴なので、殺さないにしてもお仕置きは必要だ。


「ま、待てーっ! せ、せめて我が力が全盛期の半分……いや、四分の一程度まで復活してから……!」


「お前、オレがパワーアップするからそれまで待ってくれって言って待つか?」


「待たん!」


「つまりそう言うことだ」


「お、お、おのれぇ……! そ、そうだ、勇者!」


「なんだ?」


 この期に及んで往生際が悪い。


「わ、我が体、好きにしても構わんぞ? 今はこの通り幼い姿だが、我が本来の姿、知っていよう? しばし待てば、貴様の伽を……」


 魔王最後の手段が色仕掛け……。


「なんつうか、こう……悲しくなってきた」


 全盛期はカリスマバリバリの、まさに魔王! って感じだったのに。

 オレ、シリアスやって魔王を頑張って倒したのに……。

 その相手が今やこんな感じって……。


「……魔王、お前、名前は?」


「む? 名前? 名前ならば魔王だ」


「いや、それ肩書きだろ」


「我は魔王としか呼ばれた事が無い。故にそれが名前だ」


 名前ないんかい。


「んじゃオレが名前をつけてやろう。そうだな……フーミンか、げろしゃぶだな……」


「妙な名前をつけるな」


「じゃあ、メキシコに吹く熱風……は、もう使ってるか」


 はて、思いつかんな。なんて名前にするか……。


「もうめんどいからお前、村娘Aな」


「適当過ぎるわ!」


「んじゃ、ヴィレッタ・ジャーズ」


 ヴィレジャーズ=村人。


「なんだ、まともな名前も考えられるではないか」


「気に入ったか? それならいいんだ」


「で? 我に名前をつけてどうしようというのだ?」


「ヴィレッタ・ジャーズ。お前はオレのメイドになれ。それで命は助けてやろう」


「なに!? 我を小間使いにするつもりか!?」


「なんだ、死にたいのか。そんならアリシュテアに祈ってやろう」


「い、いや、別に嫌だとは言っとらん。うむ、小間使いというのも悪くない経験のはずだ……」


 うん、よろしい。


「考えて見りゃ最初からこうすりゃよかったんだな。お前をどれ……もとい、メイドにして扱き使いながら監視すれば。もう悪さは出来んだろ」


「ふ、ふん。貴様の寿命が来た後はどうするのだ。どうにも出来まい」


「オレの息子ならオレと同じくらい非常識なはずだから大丈夫だろ」


 たぶん、オレの息子も勇者くらいやれるって。たぶん。

 オレが一生涯かけて魔王を監視するから、そのあとは次世代の奴らが頑張ってくれ。

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