最後の手段
「助けろー! 我を助けろー! 呪うぞー!」
「そしてですが、このコランダムがこの魔法の肝になります。非常に重要ですが、今までの授業で概要はつかめましたね?」
「くぉらー! 我を助けんかー!」
「だいたいは」
「あだだだだっ! 噛むなぁぁぁ! ひぎぃっ!」
「あちきもだいたいは覚えてるッス」
「らめぇっ! 胴体千切れちゃう!」
魔王がうるさい。
「しゃあない。助けてやるか」
「えー……助けんの?」
「しょうがないだろ。助けなきゃ静かにならないんだから」
「遮音魔法使えばいいんじゃないの?」
「ああ、それがあったか」
というわけで遮音魔法を周囲にかける。
うん、これで静かになったな。
そう思った直後、飛んできた火球で遮音魔法が吹っ飛ぶ。
遮音魔法は元々破綻し易い魔法なので、魔法を喰らったら簡単に壊れてしまうのだ。
「コラー! 我を無視するなぁ! ウボァッ! ど、胴体がちぎれる! 本当にちぎれてしまう!」
どうやら魔王がやったらしい。
「あーもう……しょうがない、助けるぞ」
「しょうがないね」
そう言うわけで、魔王救出作戦の開始である。
あのドラゴン、オレ一人では苦戦するだろう。
恐らくだが、戦力的に見ても五分と言ったところか。
「じゃ、まずはあちきが思いっ切りやって、その後タカヤンが全力で叩く。んで、店主さんがトドメって感じでオナシャス」
「おっけー」
「分かりました」
まぁ、ここにはオレに匹敵するくらい強いジルと、強さは未知数だが間違いなく凄腕の魔法使いの店主さんがいる。
一人で五分なんだから、二人や三人でかかればよゆうのよっちゃんである。
「よっしゃ、んじゃ……行くぜよ! 美少女の財宝を見せてやる!」
そう言うと、ジルがアイテムボックスから大量の武器類を一気に取り出し、それをサイコキネシスの魔法でぶっ飛ばしていく。
悪くない手段だ。
強力な武器ばっかだから、連射しまくれば強いのは確かなのだ。
無くしたり壊したりしたら痛いけど。
ちなみに、オレの場合は直接ぶった切った方が強いからやらない。
それに武器は無くしたくない。
「タカヤン! ほら、突っ込んで!」
「武器の雨の中に突っ込めと申すか」
死にますよね、下手したら。いや、下手しなくても。
「そこで取りだしたるはこの石柱」
「なんでそんなもん入ってんだよ」
マジで石柱である。
白い大理石で出来た、五メートルほどの代物だ。
「いや、ほら……ぴょっ! ってやってみたくね?」
「なるほどなっとく! よーし、乗るぜ!」
某殺し屋よろしく石柱の上に飛び乗ると、直後にジルが射出してくれる。
風を肌に感じながらアイテムボックスから適当な剣を取りだす。
……ハエ叩き! またお前か!
「くっ……真の剣士は得物を選ばない! 行くぞ名刀ハエ叩き丸!」
きっとこれでもドラゴンは切れる。
ドラゴンを斬れたら、屠龍剣ハエ叩きと名付けよう。
「いっくぜーっ! オルァッ!」
というわけで、さっそくぶった切ってみた。
ざっくりと鱗をぶった切り、その下の肉を僅かに切り裂く。
「うおっ、斬れた! ハエ叩きってスゲー!」
とは言っても鱗を数枚切っただけなのだが、これだけの威力があれば屠龍剣を名乗っても問題あるまい。
「よっしゃよっしゃ! どんどん行くぜ!」
ドラゴンの背中を一直線に走りながら、周囲を切り裂きまくる。
向かう先は頭。ドラゴンにペロペロ(物理)されてる魔王を助けなくては。
「ゆ、勇者ー! 早くしろー! わ、我の背骨がー!」
「うるせぇ! 今助けるから待ってろ!」
そう言うと同時に頭へと到着。
そしてハエ叩きを振り上げ、首を切り落としてやろうとした直後、ドラゴンが首をもたげる。
「あづっ! あぢぢぢっ! こ、こやつブレスを吐くつもりじゃ! は、早く助けれー!」
「忠告ありがとう。【ブレスガード】」
各種のブレス攻撃の威力を削ぐ魔法、ブレスガードを発動させる。
これで死んだりはしまい。
「あーっ! き、貴様、我を見捨てるつもりかーっ!」
だってお前死んでも蘇るじゃん。
「あっ、あっ、あっ……! みぎゃあああああああああああ……」
魔王の悲鳴を聞きながら、吐き出されたブレスを受ける。
凄い熱量に肌が焦がされるのを感じながら、オレは新たに剣を取りだして振り上げる。
「【ドラゴンセイバー】!」
龍の鱗をも切り裂く一斬。
その一撃によって竜の顔面を切り裂いてひるませる。
その隙に魔王を掴んで離脱!
「あっ」
魔王のマントの裾を掴んだら、燃えていたせいで千切れてしまった。
しかし、今更戻る事は出来ない。
オレは落下していきながら、店主さんが放った魔法なのだろう、巨大な手がドラゴンをぐしゃぐしゃに握り潰すのを眺めていた。
「ミンチよりひでぇよ」
「なぜ殺した」
「それでもオレはやってない」
実行犯は店主さんです。
でも助けられなかったのはオレのせいだ。
そう言うわけで、責任を取ろうと思います。
「ささやき、えいしょう、いのり、ねんじろ!」
手を組んで祈る。気分はブラザー! でも祈る相手は魔王。これって邪神信仰なんですかね?
なんて考えていると、ミンチがもぞもぞと蠢き、そこから魔王が顔を出す。
今度は十二歳くらいか? 年齢の安定しない奴だな。
「魔王! 無事だったんだな!」
「無事……? いや、我は生きておるから無事……なのか? しかし、我は確かに潰されたような……?」
「無事だったんだよ」
「そうか?」
「無事だったんだよ!」
「そ、そうか……」
いやはや、蘇ってよかったよかった。
まぁ、蘇らなきゃそれでもよかったんだけど。
「ところで魔王」
「む、なんだ」
「お前、なんかちょっとずつ大きくなってね?」
眼に見える速度で大きくなってきてるのが分かるんだが。
一分で二センチくらいのペースでデカくなってる。
「ふっふっふ……この地は我ら魔族の生誕の地! ここで過ごせば力の回復は早くなるのだ」
「ふーん……」
道理でこんな辺鄙なところにいるわけだ。
なんでここに城立てなかったんだろ?
いや、あの城は人間から奪ったもんなんだっけ?
なんでもいいや。
「さて、魔王」
「うむ、なんだ」
「オレは勇者ですね」
「そうだな。我は魔王だ」
「魔王と勇者は?」
「殺し合うもの……ま、待て」
「悲しいけど、これ戦争なのよね」
オレが蘇らせておいて、なんで始末するんだ、とか突っ込まれそうだが……。
割と真剣にこいつは悪い奴なので、殺さないにしてもお仕置きは必要だ。
「ま、待てーっ! せ、せめて我が力が全盛期の半分……いや、四分の一程度まで復活してから……!」
「お前、オレがパワーアップするからそれまで待ってくれって言って待つか?」
「待たん!」
「つまりそう言うことだ」
「お、お、おのれぇ……! そ、そうだ、勇者!」
「なんだ?」
この期に及んで往生際が悪い。
「わ、我が体、好きにしても構わんぞ? 今はこの通り幼い姿だが、我が本来の姿、知っていよう? しばし待てば、貴様の伽を……」
魔王最後の手段が色仕掛け……。
「なんつうか、こう……悲しくなってきた」
全盛期はカリスマバリバリの、まさに魔王! って感じだったのに。
オレ、シリアスやって魔王を頑張って倒したのに……。
その相手が今やこんな感じって……。
「……魔王、お前、名前は?」
「む? 名前? 名前ならば魔王だ」
「いや、それ肩書きだろ」
「我は魔王としか呼ばれた事が無い。故にそれが名前だ」
名前ないんかい。
「んじゃオレが名前をつけてやろう。そうだな……フーミンか、げろしゃぶだな……」
「妙な名前をつけるな」
「じゃあ、メキシコに吹く熱風……は、もう使ってるか」
はて、思いつかんな。なんて名前にするか……。
「もうめんどいからお前、村娘Aな」
「適当過ぎるわ!」
「んじゃ、ヴィレッタ・ジャーズ」
ヴィレジャーズ=村人。
「なんだ、まともな名前も考えられるではないか」
「気に入ったか? それならいいんだ」
「で? 我に名前をつけてどうしようというのだ?」
「ヴィレッタ・ジャーズ。お前はオレのメイドになれ。それで命は助けてやろう」
「なに!? 我を小間使いにするつもりか!?」
「なんだ、死にたいのか。そんならアリシュテアに祈ってやろう」
「い、いや、別に嫌だとは言っとらん。うむ、小間使いというのも悪くない経験のはずだ……」
うん、よろしい。
「考えて見りゃ最初からこうすりゃよかったんだな。お前をどれ……もとい、メイドにして扱き使いながら監視すれば。もう悪さは出来んだろ」
「ふ、ふん。貴様の寿命が来た後はどうするのだ。どうにも出来まい」
「オレの息子ならオレと同じくらい非常識なはずだから大丈夫だろ」
たぶん、オレの息子も勇者くらいやれるって。たぶん。
オレが一生涯かけて魔王を監視するから、そのあとは次世代の奴らが頑張ってくれ。