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だらり異世界生活記  作者: 国後要
修業編
110/128

銀河がオレを呼んでいる?

 さて、やってまいりましたピクニックの時間。

 いや本当は修業だが、他の皆にとってはピクニックだ。

 だから何の問題も無い。そう、これはピクニックである。


「山よ! 銀河よ! オレの歌を聴けぇぇぇ!」


 叫んでみれば、遥か遠くに見える山に声が反響し、やまびこが帰ってくる。

 遠き山に日は落ちるぜ……。

 なんて感慨に耽っていると、なぜかシエルちゃんがオレの服の裾を引く。


「タカヤさん、歌わないんですか?」


「え?」


「だって、今、オレの歌を聴けって」


「ノリで言っただけだから別に歌わないけど」


「そうですか……残念です」


 え、もしかして歌わなくちゃいけない流れ?

 かといって下手に歌うと、悪鬼・邪栖羅苦が現れる可能性があるからな。


「ヘェーラロロォールノォーノナーァオオォー」


 けどオレは気にしないで歌います。

 まぁ、これはそら耳歌詞だから問題ないし。


「タカヤン、よくそれ歌えるね」


「練習したからな」


 そもそもこれは歌ではないんだがな。


「ところでタカヤ、ここってどこなの?」


「アルベンダゾール山脈の山の一つだよ」


 めっちゃ広い山脈で、周囲数百キロにわたって人が住んでないので、多少ぶっ壊しても問題ない。

 更には海もあり、山もあり、湖もあり……。

 レジャーにはピッタリだ。

 まぁ、前人未到の極限地点だから、誰もレジャーになんか来ないけど。


「ここらへんのキャンプ地点からはあんまり離れないようにね。野生動物に襲われたら普通に死ねるから」


「野生動物くらいならなんてこないよ。やっつけちゃうんだから」


「へー……」


 なかなか勇ましい事を言うアリシアちゃん。

 実際、そこらの野生動物くらいならアリシアちゃんは余裕で倒せるだろう。

 けど、ここは生憎とそこらではないのだ。


「アリシアちゃん、あそこに山があるね」


 指差した先には三百メートルほどの大きさの山がある。


「うん、あるね」


「あれはドラゴンです」


「え?」


 アイテムボックスから弓を取り出して矢をつがえる。

 それを限界まで引き絞り、山へと向けて放った。

 矢は音速を超えた速度で射出され、山に直撃。

 山の表面の岩が吹き飛ばされ、その下に紅い鱗が見える。


「ほら、ドラゴン」


 自分の体表の上に積もっていた岩が吹き飛んだ事で、眠っていたドラゴンが目を覚ます。

 尋常ではない巨体を誇る地竜だ。今のオレでも苦戦必至だろう。

 あのドラゴンの体躯からすると、四千年は生きてるな。


「ここに住んでるドラゴンは生きる事に疲れて、眠り続ける事を選択した奴ばっかりだから危険はほとんど無いけどね」


 そういった時にはもう、ドラゴンは再び眠りに就き始めた。

 ここに住むドラゴンたちは自衛以外の事は殆どしない。

 自然に朽ちる事に任せて、いずれ自然死するのを待っているのだ。

 自然に帰る事がドラゴンたちの最期の望みだそうで、自分の体の素材を取られる事は最悪の汚名らしい。

 だから殺されないように自衛はするらしい。

 逆に言えば、殺さない程度ならちょっかい出しても問題ないってことだ。


「まぁ、そんなドラゴンが腐るほど住んでるわけで。この山の野生動物はドラゴンに匹敵するくらい強いです」


「う、うん。私、大人しくしてる……でも、ここから離れなければ平気なの?」


「この辺りは平気だよ。正確に言うと、あの石像のある辺りはね」


 親指で指示した先には、オレの言葉通り、石像がある。

 五人の女性を象った石像で、この世界の創世記神話に登場する人たちだ。

 神が世界を創造した後、異世界から現れた戦士たちで、この山脈で何かと戦ったらしい。

 その何かの死体はこの世界に残され、清浄な部分から人間や動物が、不浄な部分から魔物や魔族が生まれたとか。


「この石像の周辺は、この戦士たちの血の匂いが残ってる。だから野生動物たちはそれを恐れて近づいて来ない」


「血の匂いだけで?」


「血の匂いだけで自分より遥かに強いって分かるくらい強かったんだってさ」


 そもそも、数千年以上昔なのに、血の匂いが未だに残ってる時点でおかしい。

 それくらい常軌を逸した存在だったんだろう。

 実際、本能的にこの血の持ち主たちは相当ヤバイと分かる。

 最低でも魔王の全盛期より強かったのだろう。

 魔族たちの素となった存在より強かったんだから、当然と言えば当然だが。


「まぁ、血の匂いが届く距離は半径二キロくらいあるからね。そこから出なきゃ何しても平気だよ」


 この安全地帯があるからこそ、ここに来たと言ってもいいし。

 なにやってもよくて、かつピクニックも出来て、他に人が居ないような場所。

 そんな条件を満たすのがここしかなかったってのもあるが。


「さて、んじゃ、さっそく修業を始めるか。まずはオレの修業をやろう。レッドスネーク! カモーン!」


 大きな声で叫び、謎の身振り。


「私はレッドスネークではありませんが」


「細かい事は気にせんでください。とにかく、ご指導ご鞭撻のほどお願いいたします」


 そういって古本屋の店主さんに頭を下げる。

 今まで全く喋ってなかったが、最初からこの人はついて来てたりする。


「まぁいいでしょう。では、講義を始めます」


 どこからともなく取り出した黒板を前に、店主さんが銀縁眼鏡を光らせる。


「ですよね、魔法だから体動かす修業なんてありませんよね」


「そうですね。まぁ、この山脈に来たのも気分転換にはなるでしょう」


「ソウデスネ……」


 分かっては居たんだ。どうせ勉強になるだろうとは……。

 まぁ、レンと体動かす修業もするつもりだから、ここに来たのは間違いじゃないさ……。

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