episode3
(・・・レパードの最大の戦闘方法は、膨大な推力に任せた3次元近接格闘。俺向きと言えばそうだが、射撃兵装が貧弱すぎるだろ・・・)
輸送機の中で、機体の最終確認をしながら、セツナは溜息を吐いた。元々、格闘戦闘の試作機だから射撃兵装に期待はしていなかったにしろこれは、些か酷すぎた唯一の射撃兵装が20mm機銃だけときたこれじゃ、ADと銃撃戦は事実上不可能だ。
「・・・まぁ、予想してた範疇だがな・・・っと」
そう小さく呟いて管制室からキャットウォークに出る。眼下では、整備兵たちの怒声やらが飛び交っていた。
「おーい、セツナ。おやっさんが、呼んでるぜ」
眼下で働いていた一人の整備兵が、彼に声をかける。
「?ローウェル班長がなんで」
「なんでも、今回の武装について聞きたいらしいぜ?」
「・・・おう、了解」
俺は、そう答えて班長のもとへと向かった。
「少尉、今回の装備だが36mm突撃砲を2門、持っていけ。あの装備じゃ今日の作戦はきついだろうからな?」
「・・・班長。了解した」
俺がそう答えると班長は踵を返し整備ガントリーへと走って行った。
『リンクス0より、各機へこれより作戦領域に入る。全機、カタパルトへと移動してください』
戦術管制官からのオペレートに従って、俺はレパードをカタパルトに接続させる。カタパルトに機体が接続されたことを確認すると、上部の武装ハンガーから36mm突撃砲の銃架が降りてきて機体の背部に接続された。
『リンクス0より6へ。発進どうぞ』
「セツナ=アマギ。レパード発艦する」
カタパルトのロックが外れ膨大な加速力によって、機体が船外に放り出された。
『こちらリンクス8より各機へ、後衛組全機配備完了。いつでもいけます』
『リンクス1了解。リンクス2.6,7聞こえたな?」
アルベールからの通信が聞こえ、それにクレアが答え俺たちに尋ねる。
「「「了解っ!」」」
俺たちは、寸分の狂いもなく同時に復唱する。その瞬間、後方から砲撃音が届いた後衛組の砲撃が始まったのだ。俺は、もう1度、操縦桿を握り直す。
『全機兵装自由、我々の力をシュトゥルハイアに見せ付けろ』
彼女の号令と共に3機のホークと1機のレパードが、腰部の跳躍ユニットを大きく展開させ加速した。
轟音が響きわたる基地内を一人の男が駆けていた。黒色のオールバックという帝国では珍しい髪の男、服にはウィングマークが付いている為、一目でADパイロットであることが分かる。
男は、全力疾走して向かった先はハンガーだった。
「-くそっ!夜襲とは、やってくれるじゃねぇか・・・ファーレンフェルト」
男は、毒づくと同時にボレアスに似た機体の管制室に体を滑り込ませステータスチェックを強制省略する。
(・・・データリンクは生きちゃいるが、当てにはできねぇな。だが、こいつの実戦証明済のデータを取るにはもってこいだ)
「ユウマ=ブレーメル、トルナード・・・出撃する」
男ことユウマは、そう叫び黒煙上がる基地へと機体を向けた。
「遅ぇんだよ、ウスノロ!」
俺は、目の前に出現したボレアスの正面装甲に膝蹴りを叩きこみ地面に倒す。そのまま、銃架を展開し歪んだ正面装甲に押付けトリガーを引く。36mm弾が容赦なく搭乗者の命を刈り取る機能停止した機体から一足飛びで下がり、もう1機の敵機に腕部に仕込んだブレードを叩きこみ破壊する。
『リンクス8より、前線各機へ。所属不明機が突っ込んできます、警戒を』
「アル、支援砲撃できるか?」
『無理です。こちらからそちらのポイントに届く射撃兵装もありません、独力で対処を』
後衛組からの返答は絶望的だったが、彼女はそれを予想していたかのような顔をしていた。
『リンクス1より、フロントメンバー全員に告ぐ。先程敵基地より投降信号が発せられた。これより、撤退と言いたいところだが・・・面倒なお客様が来たようだ』
そう呟いた彼女の眼の前に漆黒の機体が悠然と着地した。
「・・・貴様、先程基地司令から投降命令が出たはずだが?」
クレアが、漆黒の機体に応答を求めるが返答はなく応答の代わりに示されたものは
「-!?」
背部兵装担架の基部が、起動し同時に左腕マニュピレーターがその柄へと伸びると、装備されたロングブレードがしっかりと保持された。刀身部分を収納していた鞘に合計6ヵ所あるロッキングボルトが、小爆発によって強制パージされる。そのまま漆黒の機体は、その切っ先をこちらに向けた。
『ーへぇ、投降する気はねぇ・・・やろうってか!』
イーウェンが、膝部武装ラックを展開しその両腕に短刀を装備する。
『待て、リンクス7まだ戦意は確定していないっ!!』
『-先に抜いたのはあちらさんだぜッ!!』
瞬間、イーウェンは加速移動でロングブレードの間合いよりも内側にホークで飛び込んだ。
「-やってやるよ!黒鶏冠さんよぉ!!」
スラスターを左右交互に吹かし、どちらから攻撃を仕掛けるか判断させぬようにイーウェンは近付くが正体不明機は、微動だにしない。
『よせっ!リンクス2。敵に不用意に近づくな』
「当たんなきゃ、問題ねぇだろー」
空中で、今迄装備していた突撃銃を銃架ごとパージして最終加速を掛けた。
「-もらったぜ。鶏冠頭!」
彼が確信を持って叫び、ホークの両腕を繰り出した瞬間ー。
正体不明機はロングブレードの向きを反転させその切っ先を地面に突き立てた。その反応と動作のスピードはイーウェンの予想をはるかに上回っていた。
「-こなくそっ!!」
短刀は、ロングブレードによって弾かれる。耳障りな擦過音が響き、短刀は空を切った。
「-なかなか、やるじゃねぇか!!流石、単騎で出てきただけはあるぜぇ!」
イーウェンは、急制動を掛けるとそのまま上昇すると見せかけて背後に廻りそのまま短刀を突き立てようとしていた。それは、彼の操縦技術が優秀であることを現わしていたのだが・・・。
「なっ、嘘だろ!!」
正体不明機は、まるでその挙動をするだろうと読んでいたかのように銃架を展開背後へと向けて斉射した。36mm弾が、雨のように撃ち出されイーウェンの機体をずたずたに引き裂いていく。そして、止めと言わんばかりにその管制室に120mm徹甲榴弾を撃ちこんだ。ノイズが一瞬走りイーウェンのモニターが消え失せた。
「イーウェェェェェン!」
その瞬間、セツナは跳躍ユニットを除く全ての外部装備を投棄腕部に内蔵されたブレードを展開して突っ込んだ。
「このやろぉぉぉぉー」
『-ふっ、懐かしい声だな。さっきのホークの機動といい今日は、士官学校の頃を思い出すよ』
刃と刃がぶつかり合って生まれる耳障りな音の中、正体不明機から接触通信してきた。
「-ま、まさか・・・ユ、ユウマ=ブレーメル」
『よぉ、久しぶりだな。・・・セツナ=アマギ。あのときのー・・・続きと、いきてぇがそうもいかねぇからよ。じゃあな』
ユウマは、ロングブレードをなぎ払いレパードを振り払い地面へと叩きつける。叩きつけられた衝撃でレパードの両腕は吹き飛びフレームは歪む。
(くそっ、・・・なんであいつがー
レッドアラームが鳴り響く管制室内で、セツナはそう思いながら彼の意識はブラックアウトした。