episode2
大陸暦12月13日ヴォルペル市内
自宅の前に帰ってきて、セツナはドアベルを鳴らすと、すぐに「はーい」という声が聞こえてガチャリと、ロックの開く音がしてドアが開く。
「ただいま、アヤセ」
そう言うと、彼と同じ茶色の髪と紺色の瞳をもった車椅子に座った少女がにこりと笑う。
「おかえり、セツ兄」
その声を聞いてから、彼は家の中に入った。
リビングへと向かうと、藍色の女性がお茶の準備をしており直ぐにこちらに気がついて顔をこちらに向けた。
「おかえりなさいませ、セツナ様」
女性は、そう言って頭を下げる。
「リノさん。いい加減、”様”って、つけるのやめてくれない?」
「いいえ。やめません。私、リノ=アイベルンは先代よりアマギ家の侍女ですので」
彼がそう言っても、リノにやめるつもりはないようだ。
「セツ兄も、リノさんもお茶にしようよ」
アヤセが、いつの間にかテーブルについて待っているのを見て二人で声を揃えて笑った。
「・・・そう言えば、アヤセは来年ミドルスクールだっけ?」
「うん。そうだけど、・・・どうしたの急に?」
セツナは、お茶を飲みながらアヤセに質問すると彼女は、目を丸くして驚いていた。
「いや、ほらなんて言うかさ。お祝いとかしなきゃいけないかな―・・・・って、思ってさ」
彼も、多少恥ずかしいのか頬を掻いて答える。
「・・・じゃあ、セツ兄と同じペンダントが欲しいな。ダメ?」
「これか」
彼女の言ったことを理解して、彼は自分の首にかかっている狼を模ったそれを摘み上げる。
「・・・リノさん、木の板あります?小さい奴で、いいんで」
「えっ?木板ですか。多分ありますけど…何故でしょうか?」
彼は、傍らに控えているリノに、尋ねると彼女は少し困惑した表情で尋ねた。
「いえ、・・・ちょっとした事ですよ」
そう言って、彼は懐からデザインナイフを取り出す。
彼の、特技は二つあって、一つは近接格闘術。もう一つは、ペンダント作りだ。
セツナ自身、元々軍人にならずこういう職人になるのが夢だったが八年前のシュトゥルハイア帝国によるあの事件で、セツナは帝国に並々ならぬ憎しみを持ちミドルスクールに行かずそのまま士官学校に行ってしまった。だが、このペンダント作りは基地で暇な時によく作っている全部、自室に飾りっぱなしだが。
「セツナ様、木板です」
「ああ、ありがとう」
そう言って、板を受け取ると板に薄く溝を掘って下書きをしその後、ナイフでそれを削ってゆく。その手付きは慣れたもので、ものの一時間で完成してしまった。
「ほい、できた」
「ありがとう、セツ兄」
アヤセにペンダントを渡すと彼女は、すごく喜んだ。
その時、不意にポケットに入れておいたケータイが鳴る。着信画面には、緊急招集と表示されていた。
「・・・ごめん。アヤセ、呼び出し喰らっちまった」
「・・・」
彼女は、無言だった。そりゃそうだ、久しぶりに帰ってきた肉親が直ぐ出て行くんだからな。
俺は、バイクに跨るとアクセルを全開で回し基地に向かった。
「セツナ、いいんですか?帰ってきて」
更衣室でパイロットスーツに着替えているとアルベールがそう尋ねてくる。
彼も、セツナと同じく家族を戦争で亡くしている人間の一人だからよく心配してくれるし、話もする。
しかし、いつも心配してくれるがこっちを一切頼ってくれないので前に聞いたら、笑顔で「僕は、もう割り切っていますし・・・待っていてくれる家族もいませんので」そう言って、逃げられてしまった。
「・・・待っていてくれる家族がいるから、俺は戦えるんだ。アル、今回も援護頼む」
そう答えて、ヘッドギアを被って更衣室を出ようとすると彼が「・・・はい」と、いつもと同じように答えた。
「今回も、我々の本来の任務外作戦となる。・・・我々”616AD中隊”は、412中隊及び963中隊と共に、シュトゥルハイア帝国ヴォルペル方面軍基地へと夜襲を掛ける。なお、この作戦は隠密性を重視するため特技研(特殊技術研究所の略称)で開発された。AD用大容量バッテリーを使用する。・・・開発主任であるソウイチ=カグラ博士から説明がある」
そうクレアから作戦内容が伝えられ、それに使う新兵器について説明があることを言われると今まで会議室の壁に寄りかかっていた黒髪メガネの男が壇上に立った。
「あー・・・先程紹介にあずかったカグラだ。自己紹介は、これくらいにして本題に入ろうか。今回、君たちに使ってもらうAD用大容量バッテリーは、作戦時間延長用のものではない!ADは、従来ガスタービンエンジンで動いている為、いくら静粛性を高めても音は出てしまう。だが、この大容量バッテリーはある一定時間内なら、無音で行動できる。私の予想なら、戦闘機動でも約10分は持つはずだ」
そう言って、カグラは壇上から降りて行った。
(・・・大容量バッテリーねぇ。もうちょっと小型化できなかったのか?これじゃ、武装がほとんど搭載めねぇ。俺やイーウェン、それに隊長は大丈夫だろうが・・・な)
そう思いながら彼は、手元の資料を流し見る。このバッテリーユニットの装備場所は、ADに装備する空挺ユニットとの兼ね合いの為、装備する場所が背部ハードポイントか後腰部ハードポイントに限定されてしまう。セツナは、基本短刀による戦闘なので問題はないが問題は、アルベールなどの後衛組だ。彼らは、セツナ達つまり、前衛組の援護だ。
だから、必然的に火力重視になる為多量の弾薬が必要になるがこの装備をつけてしまうといつもの装備を付けて作戦に出られない。
「何か、質問のある者はいるか?」
壇上で、恐らく別部隊の隊長が質問があるか聞いている。
「・・・はっ!この装備を付けた際に生じる問題点について質問があります」
隣に座っていたアルベールが手を挙げた。流石、士官学校を第3席で卒業しただけはある。
「なんだ?」
「はっ、・・・この装備を付けた際、我々後衛組は、携行できる武器に制限が出てしまうがそこについての解決策はあるのでしょうか?」
「・・・ふん。後衛組は、作戦の囮になってもらうことが決まっている。せいぜー「ふざけんじゃねぇッ!いくら、戦争だからって味方を犠牲にできるかよっ!?」」
「・・・君は、一人の人間を救う為に大勢の人間が犠牲になっていいのか?戦争というものに、犠牲はつきものだ。この都市の住民、31,235人の命を救えるならたった、6人の命など安いものだろう?」
「・・・イーウェン、落ち着け。囮といっても、陽動砲撃だから心配いらん」
激昂した彼を同僚が必死に宥めていた。
「では、解散。・・・おっと、セツナ少尉は残れ」
クレアの号令と共に会議は終了し解散し、セツナが部屋を出ようとしたところ彼女に呼び止められた。
「・・・少尉、今回君には、ホークではなく近接格闘試験機であるXE-17、識別名・・・レパードで、出撃してもらう」
「了解」
そう言って、彼は部屋を出て行った。
(こいつが、レパード。隊長のイーグルとは、違った外見だな。)
そうセツナは、整備ガントリーに固定された漆黒に塗装された機体を見上げる。外見は、ほとんどホークと変更点はないが肩や膝に打突用のスパイクが付いている為、刺々しい印象になっている。
塗装も恐らく夜襲用に急遽塗装されたものであることも分かる。
『司令部から各部隊へ、これより出撃準備にかかるADパイロットは、搭乗機に搭乗し待機せよ』
格納庫内に、基地司令部の管制官の声が響く。
(・・・あと少しで、生と死の境界線上に立たされる・・・)
そう思いながら彼は、レパードの固定されたガントリーに近付いて行った。