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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
七、電光石火! キグルミオン!
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七、電光石火! キグルミオン! 9

「仲埜! 気分はどうだ?」

 機器類がびっしりと詰められた航空機のコックピッド。それらを操作するパイロットの後ろからその巨体を突き出し、坂東は正面につけられたモニタに向かって呼びかける。

 坂東は格納庫に停められた航空機の操縦席にいるようだ。小さな窓から人工の照明がその坂東の顔を照らしていた。

 モニタには暗い何か機内のような空間が写っていた。その中で何か(やわ)らかな物が空間ギリギリに横たわっている。

「ぐにゅー……です……」

 コックピッド内にヒトミの声が再生される。その声にはどこか抗議めいたふて(くさ)れたような響きがあった。そしてその声に合わせてモニタの中の(やわ)らかな物が身じろぎするように動いた。

「何だ? テンション低いな?」

 その声に坂東が苦笑した。パイロットもつられて苦笑する。

「だって! せっかく宇宙に行くんですよ?」

「そうだ」

「何か、胴体が三つついてる飛行機みたいな宇宙船――美佳に見せてもらった時は、めっちゃワクワクしたんですよ!」

 ヒトミの口調はだだをこねる子どものようだ。

「カッコいいだろ? 実際は親機が双胴機(そうどうき)で、その二つの胴体の真ん中に宇宙往還機(おうかんき)をぶら下げている」

 坂東がそう(こた)えながら窓から機体の外を左右に見回した。コックピッドの窓の向こうには細長い鼻を突き出した機首が左右ともに並んでいる。一見すると坂東は三機並んだ航空機の真ん中に居るように見える。

「知ってます! さっき説明を受けました! 親機でばーんと途中まで運んでもらって、真ん中の宇宙船を空中でびしっと切り離し! 後は宇宙船が垂直にズキューンと宇宙まで飛んでってくれるんでしょ? 形も内容も、カッコいいと思いました!」

「じゃあ、何が不満なんだ?」

「暗い……」

「まあ、そうだな」

 坂東の頬が一瞬膨らんだ。吹き出る笑みを我慢したようだ。

(せま)い……」

「それも、そうだろうな」

 坂東はこらえ切れずもう一度苦笑する。

「カッコ悪い!」

 ヒトミの最後の台詞(せりふ)とともにコックピッドが機体が軽く()れた。

「こら! 暴れるな!」

「だって……」

 ヒトミのしぶしぶといった声とともに機体の()れが()ぐに収まる。

「仕方があるまい。宇宙に行くのに余分な体積は不要。コンパクトにまとめる必要があるのは分かるだろう」

「だからって! キグルミオンが〝ぐにゅー〟ってなってますよ! 〝ぐにゅー〟ですよ!」

「そうだな……」

 コックピッドに響くヒトミの抗議の声に(あき)れたように鼻から息を抜き、坂東は計器類の一角に目を落とした。そこには小さなシャトルのような航空機の概要図が写し出されている。

 その中心部は大きな空間が取られていた。筒状の空間が大きく取られており、大型の貨物を収容する格納庫のようだ。

 パイロットがモニタの一角を操作した。気を()かせたつもりかそこに実物の格納庫の様子が映し出される。

 記録映像のようだ。

 上部の扉を開けた格納庫。そこに手足と大きな顔の頬をはみ出させたキグルミオンが横たわっている。格納庫の大きさはキグルミオンよりやや小さい。ぎりぎり一杯といった感じだ。

 キグルミオンが手足を折り曲げなるべく格納庫の中で小さく収まろうとするかのように身を縮こませると、格納庫の扉が左右から閉じていく。最後はキグルミオンの巨大な頭が、その扉で無理矢理狭い空間に押し込まれていく様子が写し出された。

「格納庫に押し込まれたんですよ! 無理矢理〝ぐにゅー〟って! あのカッコ可愛いキグルミオンが! 不細工(ぶさいく)ちゃんになっちゃってます!」

「仕方がない。本来は低軌道(きどう)衛星を投入する目的のスペースだ。それを無理矢理キグルミオンように改造してあるからな」

「暗い! (せま)い! カッコ悪い!」

「我慢しろ。出るぞ」

「ああ、しかも冷たい!」

 ヒトミの抗議の声を余所(よそ)に坂東の顔が明るく照らされた。それは先程までの人工の光ではなく、外の陽光のようだ。

 巨大な扉が音を立てて開いていく。旅客機をも収納する海上空港の格納庫。その鋼鉄製の大きく重い扉が油圧の力で開いていく。

 一条(いちじょう)()の光を受けて坂東の乗る航空機が姿を現した。

 まずその中から現れたのは、(するど)く突き出た航空機のノーズ部分だった。

 だがその機体は他の航空機と随分と違う外観をしている。ノーズが一見すると三つ機体から突き出ており、他の航空機よりも細く長い翼が三つの胴体の上に橋のように()かっている。

 実際には真ん中の胴体は別の機体だった。坂東の言葉通り双胴機の中央に独立した宇宙往還機をぶら下げている。宇宙往還機そのものにも翼があり個別に空を飛ぶことができることをうかがわせる。

 その独特の機体が格納庫から海上空港に姿を現した。機体全てに晴れ渡った陽光が降り注ぐ。

「仲埜。宇宙は――特別なところだ。正直怖くもある。実際危険もある」

 その光に目を細めて坂東があらたまってヒトミに呼びかける。

「……」

「だが、頼んだぞ」

 坂東の真剣な呼びかけに、

「はい!」

 (こた)えたヒトミの決意に呼応するかのように、双胴機はその機首をぐいっと滑走路に向けた。

改訂 2025.08.18

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