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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
七、電光石火! キグルミオン!
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七、電光石火! キグルミオン 4

 クォーク・グルーオン・プラズマの閃光が晴れ上がる。そのハレーションを起こした光の向こうに、こつ然と現れたのは赤い火の玉だ。

 それは残骸(ざんがい)を周囲にまき散らしながら落ちてくる衛星だった。周囲にはがれ落ちた部品をまき散らしながら、衛星は重力に引かれるままに急速に地表に落ちてくる。

「仲埜!」

 坂東達を乗せた人員輸送用の大型ヘリコプターが、警告もなしに急激に機首を振り機体を斜めに(かた)けた。

 (かさ)状に広がり落下してくる衛星の残骸を回避する為に急旋回をするヘリ。振り飛ばされそうになるその激しい制動の中で、坂東が両手で窓枠にしがみつき窓ガラスに顔を()きつけた。

 ヘリは突如現れた二機目の衛星のコースから距離をとりつつも、その様子を視界にとらえんとテールロータ部を横滑りさせるように旋回する。

 坂東は手だけはどうにもならずに、右足を大きく伸ばして床に踏ん張った。反面、左足はバランスを取る為か、床からやや浮かすようにして何度かその位置を変える。ブーツにつけられた拍車がその動きでカチャカチャと派手な音を鳴らした。

「キャーッ!」

 久遠はその制動に耐えられず、悲鳴を上げながらイスのベルトにしがみついた。

「ユカリスキー!」

 美佳は歯を食いしばって情報端末を握り締める。

 ヒザの上に抱かれていたユカリスキーが、(おのれ)の名を呼ばれて両手をばっと突き出した。端末に手を伸ばすや美佳に加勢するように、がっしりとその両端をつかまえる。

「この……」

 上半身と下半身をベルトを境に別々に振り回されながら、美佳はそれでも情報を集めんと急制動で()れる視界で端末に目を()らす。

「やっぱり……直撃コース……」

 美佳は情報端末のモニタに表示される衛星の落下軌道(きどう)を、実際にその衛星が作り出す光に()らされながら確認する。

「くそ……見えん!」

「隊長! 直撃コース、変わらず! ヒトミは?」

「見えた! ――ッ! 仲埜――」

 坂東は窓ガラスを突き破る勢いで窓の外をのぞき込む。その(はる)か下には空港の滑走路で仁王立ちをする猫の着ぐるみの姿があった。

「逃げない気か?」

 キグルミオンは空をにらみつけるように見上げている。

 窓ガラスから差し込む光が更に増した。

 キグルミオンを海上空港へと放り投げた二機のティルトローター機は、左右に分かれて一目散に衛星の落下コース下から離れていく。ヘリは地表との距離を取ろうとしてか、機首を海上空港に向けながらも高度をぐんと上げていった。

「何ですって! ヒトミちゃん! 逃げないの? SSS8から照射――間に合わないのよ!」

 ようやく急制動から解放された久遠が(かた)い表情で顔を上げる。体にベルトが食い込んでいるが、(おのれ)のことには構っていられないようだ。久遠はベルトを(さら)に食い込ませながらも窓の外を見ようと必死で身をひねる。

「逃げません……」

 ざわつく機内の中にヒトミの声が機内スピーカから再生された。それはパニック(おちい)ったような機内とは対照的な落ち着いた声だった。

「仲埜!」

「衛星の落下ぐらい、キグルミオンの脅威じゃないんでしょ? 久遠さん?」

「それは、質量にもよるわ!」

 久遠は窓の下を必死に首を伸ばしてのぞき込もうとする。

「なら尚更です! 大質量で、空港に被害が出たら――宇宙に行けません!」

「仲埜!」

 急激に小さくなっていく地表のキグルミオンの姿。ヘリが窓にしがみつく坂東達を、まるでヒトミから引きはがす為のように高度を上げて行く。

「もう! 間に合いません! 衛星の地表落下まで……後、五、四――」

 美佳が窓の外と端末に交互に目をやりながら秒読みを開始する。

「三、二――」

 その窓の向こうを巨大な火の玉が一瞬で通り過ぎた。機内全体が燃え上がったかのように真っ赤に()まる。

「一! ヒトミ!」

「ヒトミちゃん!」

 美佳達が悲鳴まじりにヒトミの名を呼ぶ。

「仲埜!」

 坂東の呼びかけを合図にしたかのように、地上がまばゆいばかりの閃光に包まれた。続いて機体をも()らす衝撃音がヘリを襲う。

「この――」

 そして同時にヒトミの声が――

「……」

 大きな破壊音を最後に機内スピーカから途絶えた。

改訂 2025.08.16

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