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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
七、電光石火! キグルミオン!
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七、電光石火! キグルミオン 2

「ヒトミちゃん! いい? よく聞いて!」

 久遠の声がスピーカー越しに再生された。

「はい!」

 ヒトミはその声にキグルミオンの中で(こた)える。ほの暗いキャラスーツの中でヒトミは耳を久遠の声に傾けながらも、視線は足下遥か下をとらえていた。

「今の情報を整理するわ! 宇宙怪獣は南大西洋上で大型通信情報衛星を捕獲! この大きさの衛星なら、地上に投げ入れられたら相応(そうおう)の被害が出るはずよ!」

「……」

 ヒトミが目を向けていたのは青い海だ。キグルミオンから落とされた影が海の波に不安げにゆらゆらと、それでいて移動の速度のままに一つ一つの形を追う間もなく()れる。

「捕獲してすぐ地球に落とさなかったのは、やはりキグルミオンを狙って落としてくるからだと思われるわ! いい、ここからはタイミングが重要よ!」

「はい!」

「悪いけど、海上空港に着いても休むヒマはなさそうよ! 着地してそのまま迎撃の準備に入って。空港見学はその後で」

「大丈夫ですよ。前も来ましたし」

「そうね。スペース・スパイラル・スプリング8は、もう上空に来てもらっているわ。『エキゾチック・ハドロン』の方は任せて」

 緊張と高揚(こうよう)の入り()じった久遠の声。それは皆の心境を代表しているようだ。久遠の言葉にヒトミが一つ息を()む。

「迎撃したら、そのまま宇宙に行く準備。いい? こっから先も、休む間はないわよ」

「了解です」

「仲埜。時間がないのは聞いての通りだ。海上空港に着いたら、()ぐさま迎撃態勢に入れ。それとその前に――うまく着地しろよ」

 続いて再生されたのは坂東の声だ。場の雰囲気を(やわ)らげようとしたのか、その声はどこか軽口めいている。

「大丈夫ですよ。放り投げられる訳じゃあるまいし」

「はは、そうだな」

「それに、着ぐるみアクションはお手の物ですって」

「そうか。任せたぞ」

「いい、ヒトミちゃん? さっきと一緒よ。最後は(かん)で打ち返してもらわないといけないから――」

 乾くノドにえん下するツバの音まで聞こえそうな久遠の緊迫した声。だが坂東の軽口で少し緊張が(やわ)らいだのか、その声の調子は先程と比べてやや(おだ)やかになっていた。

「博士、緊急警報あり! 宇宙怪獣! 衛星投下!」

 しかしその久遠の声は唐突に割り込んで来た美佳の急を()げる声に(さえぎ)られる。

「何ですって? いくら何でも早いわよ!」

「複数の情報源が警告を発してます! 間違いありません!」

「着陸準備! 急げ!」

 美佳が珍しく声を荒げたまま続け、坂東の短くも鋭い指示が飛ぶ。

「来るの?」

 ヒトミは空を見上げる。海上の空の青はまさに群青色(ぐんじょういろ)と言うべき青を集めた深い色合いを一面に(ひろ)げていた。今まさに衛星が落とされてるとは思えない(おだ)やかな青だ。

 二機のティルトローター機につるされたキグルミオンは、その空と海の青の間を飛んでいる。ようやく見えて来た海上空港の矩形(くけい)の人工の大地が、その青を大きく切り取っているのが見える。

「間に合うの、美佳?」

「ギリギリっぽい……でも着地直後のヒトミを狙い撃ちのコース……あり得ない……」

「着地直後か……それでは、輸送機の退避が間に合わん……」

「ええ!」

 坂東の指摘にヒトミは思わず上空を見上げる。キグルミオンをつるす二機のティルトローター機は、ヒトミの頭上を覆うように飛んでいる。

「降ろしてもらって、それからロープ切り離してたら、間に合わないですよ!」

「うろたえるな、仲埜!」

「だって、また人が……」

 ヒトミが左右のティルトローター機を交互に見上げる。

「弱気になるな! お前は着ぐるみヒーローだろ!」

「――ッ!」

「それに最悪の場合、キグルミオンをつるしたまま一度回避させれば……」

「隊長――それだと空港に被害が……それこそ最悪の場合、宇宙に飛び立てなくなります……それだと宇宙怪獣本体の迎撃が……」

「待ったなしか……仲埜――」

「はい!」

 ヒトミが坂東に(こた)えると同時に前を見据(みす)え直す。海上空港はもう目の前だった。空港全体が閉鎖されているのか滑走路には一台の航空機もない。代わりに真っ直ぐと伸びる滑走路がヒトミを迎えるように無人のアスファルトを陽光にさらしていた。

「『着ぐるみアクションはお手の物』――だな?」

「もちろん――です……」

 坂東の意志を(さっ)したのか、ヒトミは静かに(こた)えながら距離を(はか)るように空港に目を落とす。

「着弾まで、後――一分切りました……」

「よし! ティルトローター機、緊急上昇! 仲埜――!」

「はい!」

 二機のティルトローター機の昇降舵が時を合わせて上がる。息をも合わせたかのように輸送機の機首が鋭く上空に向けられた。

 キグルミオンの体がその動きにつられてぐんと上に引き上げられる。急激な加速に身を任せたヒトミの奥歯から、ぎりりっと歯を噛み鳴らす音がした。

 そして――

「放り投げるぞ! うまく着地しろよ!」

 坂東のその言葉とともにヒトミの体は宙に投げ出された。

改訂 2025.08.16

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