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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
六、驚天動地! キグルミオン!
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六、驚天動地! キグルミオン! 16

 天空を稲光(いなびかり)りめいたプラズマの閃光が駆け抜けた。真昼の陽光の(もと)でもまばゆく感じるその光は、大地から空へと向かって(はな)たれる。

 続いて起こったのはその閃光に(つらぬ)かれた人工衛星の爆発だ。目にも()まらぬ速度で落ちてきたそれは、プラズマの光に焼かれて瞬時に蒸発した。その爆発の煙だけが後に残される。

「やったわ、ヒトミちゃん……」

 軍用車両が音を立ててタイヤを横滑りさせるや、左右に激しく()れて()まった。ゴムをアスファルトにこすりつけた車両の下から、鼻孔をくすぐる不快な(にお)いと小さな煙を立ち上がる。

 久遠は急ハンドルを切って止まる助手席に大きく体を()られながらも、目だけはまぶしげに細めてキグルミオンの方をとらえようとする。

「地球から宇宙へ(はな)たれる発光――まるで、人工のスプライトね……」

「むぎゅう……スプライト……何?」

 後部座席の美佳はユカリスキーをクッションに(おのれ)の身を支えたようだ。シートベルトに(しば)られた体が前に(かたむ)き、その胸の中でコアラのヌイグルミがこれでもかと押しつぶされている。

雷光(らいこう)ととにも天に昇る妖精さんのことよ、美佳ちゃん。隊長」

 久遠はひとしきりプラズマの残光に目を向けると、隣の運転席でギアをニュートラルに入れる坂東に振り返る。

「ああ……衛星は完全に破壊……破片も見当たらん……さすがだな……」

 坂東は久遠に(こた)えながらダッシュボードから双眼鏡を取り出す。

 (そら)の一点。プラズマが通った(あと)に白煙の(かたまり)があった。

 坂東はそのまま空に双眼鏡を向ける。坂東は宇宙怪獣そのもの姿も見ようとしたようだ。双眼鏡を何かを探すように左右に振る。

「宇宙怪獣は、健在――だろうな」

「あの移動する点がそうですわ。ひとまず次の周回軌道に入ったということですわね」

「あれか?」

「双眼鏡だと、太陽ごと見てしまうと危険です。肉眼で気をつけてご覧下さい」

「そうか。しかしあれだな。この空から衛星軌道上の物体を瞬時に見つけるとは。大したものだな、博士」

 坂東は双眼鏡を()ろし久遠が指差した方角を見上げる。

「ええ。子どもの頃から空ばかり見上げてましたから。低軌道の人工衛星とか、来ると分かっていれば()ぐに見つけてみせますわ。それで、美佳ちゃん。どう?」

「はい……衛星落下軌道(きどう)観測結果――ふふん、来た……やっぱり真っ()ぐキグルミオンを狙った軌道……」

 (すで)に身を起こしていた美佳が情報端末の一角を指し示しながら、後部座席から前の座席に上半身を乗り出した。

「そう、ありがと。隊長」

「分かった。仲埜!」

 坂東は空から目を地面に戻した。道路の先の破壊されたビルの谷間に、こちらも空を見上げていたキグルミオンの姿が見える。坂東はその姿を目に入れながら、耳に付けたインカムに向かって呼びかけた。

「はい!」

 ヒトミの声が坂東の耳元で再生される。

「よくやった!」

「はい。あれが宇宙怪獣ですか?」

 キグルミオンが空を指差す。小さな光の点が空を横切るように移動して行く。

「そうよ、ヒトミちゃん。宇宙怪獣は目下、次の周回軌道を旋回中。およそ九十分後に、もう一度この上空を通過するわ。その時間を利用して、この(あいだ)の海上空港まで行くわよ」

「はい!」

「よし! 宇宙怪獣の第二撃迎撃作戦――状況終了! これよりキグルミオン輸送作戦に状況を移行する! 近くの学校のグラウンドに移動! そこで空自のティルトローター機に拾ってもらうぞ!」

 坂東がギアを戻した。ヒトミに指示を出しながら坂東は一度踏み込んだクラッチを浮かせアクセルを踏み込んだ。(まめ)らかにクラッチが(つな)がるのが、その急発進でありながら自然な加速を始める車体の振動で知れる。

「はい! 近くの学校――って、ひょっとして私の高校ですか?」

「ああ、そうらしいな」

「はは、何かテレる……」

 猫の着ぐるみが街中で頬を()いた。その姿が徐々に大きくなって行く。

「何を言ってる。どうせ夏休み中だろ? それにここら辺の住民は皆避難中だ。学校に誰か居る訳でもないだろ?」

「人に見られるのは本望ですよ! 着ぐるみアクター冥利(みょうり)()きます! でも隊長達に私の学校を見られるのが、何か照れるんですって!」

「そんなものか? まあ、いい。行くぞ!」

 坂東は最後の言葉とともにキグルミオンの足下まで寄せた車両のハンドルを切る。今度も音を立ててタイヤを地面にこすりつけさせた坂東は、やはり(なめ)らかな運転で交差点を曲がって行く。

「あ、待って下さいよ!」

 キグルミオンがその姿を(あわ)てて追おうとする。

「……」

 だが駆け出し始めたヒトミは一度立ち止まり後ろを振り返った。

 そこには先と変わらず白煙を上げる一角がある。状況を確認していたのか幾人かの自衛隊員がその近くの交差点で空を見上げていた。

 その隊員の内の一人がヒトミの様子に気づき空から少し顔を()ろした。隊員はそのままヒトミに向かって敬礼をする。他の隊員も後に続いた。

 隊員達は黙ってヒトミに敬礼を向ける。

「はい……」

 ヒトミは隊員達に向かって大きくうなずくと、その上げる動きのままに空を見上げる。

「宇宙怪獣……宇宙……行くんだ……私、宇宙に……」

 ヒトミは己の瞳に晴天の(そら)を写し込む。その瞳の奥には(そら)の青さを()き抜けて宇宙そのものが目に映っているかのような輝きが見えた。


「よし! 待ってなさい! 宇宙! 着ぐるみヒーローの故郷!」


 ヒトミはそう宇宙に向かって叫び上げると再び坂東達の後を追って駆け出した。


(『天空和音! キグルミオン!』六、驚天動地! キグルミオン! 終わり)

改訂 2025.08.15

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