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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
六、驚天動地! キグルミオン!
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六、驚天動地! キグルミオン! 11

「須藤くん! 状況確認!」

「了解……」

 緊張の走る地下格納庫。坂東の指示に(こた)えた美佳がそのコンクリートの冷たい床を蹴り、くるりと軽やかに身を反転させた。

 その背中に間髪(かんはつ)を入れず事務用イスががらがらと音を立てて寄せられる。ウサギのヌイグルミが殊更(ことさら)背伸びするようにイスの背中を押し、車輪付きのそのイスを美佳の後ろまで運んで来ていた。

 その横からは別の情報端末を手にチーターのヌイグルミが駆け寄ってくる。

「ご苦労様、リンゴスキー……カケルスキー……端末お願い……」

 美佳がイスに腰を落としながらにこっと笑う。車輪がコンクリートを()く派手な音はしていたが、美佳自身は後ろにイスがあることを確認した様子を見せてはいなかった。それでも美佳はウサギが支えるイスに躊躇(ちゅうちょ)なく座ると、チーターのヌイグルミオン――カケルスキーが持って来た情報端末に右手を乗せた。

 その間にウサギのヌイグルミオン――リンゴスキーがイスの後ろから前に回り込んできた。リンゴスキーは美佳の左手から元々持っていた方の情報端末をそのまま受け取る。

 二体は両手でそれぞれの情報端末を支え、美佳がその上に両手を()えた。

「ふふん……宇宙怪獣対策機構の全ての権限と、ありとあらゆるコネを使う……」

 美佳が不敵に笑うと、リンゴスキーが小首を(かし)げてその様子に目を向ける。

「ぐふふ……リンゴスキー、カケルスキー……しっかり持ってて……」

 美佳はそうとだけ()げると、両の手の平を鍵盤(けんばん)でも(はじ)くかのようにモニタの上で(おど)らせた。美佳が情報端末を(あやつ)(たび)に、そこには数字の羅列(られつ)と宇宙の状況らしき映像が現れては消えて行く。

「ほう……(すご)いですね……特務隊に来ませんか?」

 その美佳の手元を刑部が頼もしげに見下(みおろ)ろす。その刑部は先程から携帯端末を耳元にあてたままだ。時折話しかけてはその返事に耳を()ませている。

「刑部。スカウトは後でしろ」

 心底感心したようにアゴに手をやってまでのぞき込む刑部に、坂東が苦々(にがにが)しげな視線を向けた。

「了解です。後ならいいんですね?」

「む……それは言葉の(あや)だ」

「ふふん……この子達をまとめて(やと)う余裕があるなら、考えておく……」

「あはは。そりゃ、(きび)しい」

「美佳ちゃん。実際どう? 大気圏外で起爆させるつもりなら、そろそろ爆発してもおかしくないわ……」

 久遠が後ろから美佳の端末をのぞき見た。少し緊迫の雰囲気が(ゆる)んだ美佳と刑部と違い、久遠はどこまでも深刻な表情を(くず)していない。

「ぐふふ……どこも情報は錯綜(さくそう)中……」

「そう……」

「博士はどう見る?」

 同じく緊張を()かない坂東が()く。

「宇宙怪獣の到達時間そのものがまだはっきりしていません。それでも迎撃の為にミサイルを()ってます。我々以上に正確な情報を持っているのかもしれませんが……」

「ああ……数を射つつもりかもしれんがな……」

「……」

 坂東の(こた)えに久遠が無言で(こぶし)を固く握る。

「美佳。どうなの? こっからだとよく分かんないだけど?」

 美佳の手元に集中する久遠達の向こうから、キグルミオンの中の人――仲埜瞳のくぐもった声が聞こえてくる。ビル一つ分は高さがあるキグルミオン。その巨大な着ぐるみが、ポツンと昇降口で立ち尽くしていた。

「ダメ、ヒトミ……まともな情報源じゃ、どこもミサイル発射まで追うのが限界……これ以上は特別な情報源で迫らないと……」

 美佳はそこまでヒトミに答えると、せわしなく動かしていた両手をピタリと止める。

 そしてチラリと視線を斜め上に上げるや、その眠たげな瞳で刑部を見上げる。

 刑部はずっと携帯端末に耳をあてたままだった。

「なるほど。『特別な情報源』が必要ですね。確かに」

 刑部はやれやれと肩をすくめてその長身の体を折り曲げる。刑部はそれでも耳から携帯を離さずに手を美佳の端末に伸ばした。

「いいのか、刑部?」

「ええ。実際私の耳にはもう入ってますし」

 刑部は坂東に向かって耳にあてている携帯を軽く振ってみせた。

「ふん……食えない奴だ……」

「生体認証できますか? 外部端末でログインする以上、履歴を悪用されたくない」

「網膜認証で良ければ……」

「了解です。カメラは?」

 刑部がモニタの上に右手を走らせた。

「こっち……」

 美佳がモニタから手を離して指を指す。

「ん? 外部カメラですか?」

 情報端末から離れた美佳の手の先を、刑部が顔ごと向けて視線で追う。

 だがカメラを探して目を左右に走らせた刑部の視線の先に待っていたのは、

「う、ウサギ……」

 ウサギのヌイグルミの(つぶ)らな瞳だった。ボタンでできたその瞳――そのボタンの穴の奥からカメラらしきモノのガラスが光る。

 刑部の動きがしばし止まる。

 ウサギのヌイグルミオン――リンゴスキーが刑部の視線を受け止めんとか、または驚かれたことを不思議に思ったかのように小首を(かし)げた。

「ふふん……高解像度のカメラは、ヌイグルミオンのを使うのが一番……」

「りょ、了解です……」

 大男がウサギのヌイグルミとしばらく見つめ合うと、その手元の情報端末が警告音とともに明滅を繰り返し出した。

「たった今、爆発しました……」

「何!」

 皆を代表した坂東の驚きの声が地下格納庫中に響き渡る。

「ただし、予定よりやや早い……それに爆発規模が小さ過ぎる……」

「……」

 久遠が刑部の言葉にぐっと力を入れて目をつむった。

「おそらく。核弾頭は爆発していません。予定起爆地点よりも先に、宇宙怪獣によって破壊されたのでしょう。これが意味するところは――」

 久遠がゆっくりと目と口を開く。

「宇宙怪獣が――遠距離攻撃をしたということです……」

 久遠は分厚い天井に阻まれて見えるはずもない空を見上げた。

改訂 2025.08.13

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