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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
六、驚天動地! キグルミオン!
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六、驚天動地! キグルミオン! 9

 中天(ちゅうてん)に差し掛かる眩(まば)いばかりの太陽が、その陽の光を市街地に一直線に降り(そそ)いでいた。雲一つない空からの陽の光だ。まさに天から陽が差していた。今日ばかりは茨状(いばらじょう)発光体の光より太陽の方がその身に感じられる。

 その陽光を迎え撃たんと言わんばかりに、街に配置された軍用車量は各々のミサイル発射口を天に向けていた。大型トラックの荷台を丸まる差し渡して埋める大きさの四角柱の発射筒。その金属製の発射筒(はっしゃとう)が荷台後部から降ろされ天を()くように立てられていた。

 発射筒は八つ。それぞれの中に地対獣ミサイルが格納されている。

 破壊をまぬかれた街区。そうでない地区。それぞれに軍用車両が展開しいてる。

 直接にミサイルを発射する車両。その車両に目標を知らせるレーダ車両に、全体の指揮車。それらの車列が整然と街に展開されていた。

 車両はヒトミ達の擬装(ぎそう)ビルの面する街路にも展開されている。

「キグルミオン! 発進!」

 ヒトミのくぐもった叫びとともに、その擬装出撃用雑居ビルの壁面が二つに割れた。

 暗いビルの内側に外からの陽光が差し込む。中から現れたのは愛くるしい笑顔を浮かべた巨大な猫の着ぐるみだ。

 ビルの壁面からキグルミオンがその巨大な足を一歩踏み出す。

 その壁面の向こう――ビルの中の壁際には下げられた金属のレバーにぶら下がっているユカリスキーの姿が見えた。その下にチーターと馬のヌイグルミもぶら下がっている。どうやらこの擬装出撃用雑居ビルの壁面操作もこの三体に任されたようだ。

「隊長! 足の踏み場がありませんけど!」

 踏み出した足を空中でふらふらと振り、キグルミオンの顔が困ったように上げられた。

「む……」

 キグルミオンが見上げた先――擬装出撃用雑居ビルに相対して建てられている擬装指令用雑居ビルの窓の向こうで、坂東がしかめっ面をこれでもかと浮かべていた。

「刑部!」

「ご勘弁(かんべん)を。一度展開したミサイル部隊。そうおいそれと動かす訳にはいきません」

 キグルミオンのキャラスーツの中に坂東と刑部の声が再生される。

「く……仲埜! 何とか、外に出ろ! そのままそこに居てもらちがあかん!」

「はい! とは言っても……」

 ヒトミは耳元で再生される坂東に(こた)えながらゆっくりと足を降ろす。

「はい。ごめんなさい。ちょっと、着ぐるみヒーローが登場しますよ」

 ヒトミは足の踏み場の少ない街路に、つま先立ちになりながら進み出た。だが無理に次の足場を探して伸ばす足は、ヒトミ自身のバランスを(いちじる)しく(くず)してしまう。

「おととと……バランスが……」

「何て(ざま)だ……」

「隊長。(あき)れているヒマがあるなら、そこら次の足場を指摘して下さいよ。おっと……この……危ない……」

 耳元で再生される音声に対してヒトミは愚痴(ぐち)めいた口調で返す。だがヒトミは実際に見える擬装指令用雑居ビルに顔を向ける余裕はないようだ。必死で(ころ)ぶまいと猫の着ぐるみの姿で腕を振り回してバランスを取っている。

「刑部! やっぱり何とかしろ!」

「無理です。仲埜さん。向こうのビルの角の道。空いてます。そこまで何とか歩いて行ってもらえますか?」

「はい!」

 やはり音声だけの刑部に答え、ヒトミはヨロヨロとよろめきながら前に歩き出す。

 そんなヒトミの姿を指令車から上半身をのぞかせた指揮官が心配そうに見上げた。いかにも半信半疑の視線が苦笑(にが)いの笑みとともに巨大な猫の着ぐるみに向けられている。

「ヒトミ、踏んづけないでね……どの車両も、結構お高いから……踏みつぶしたりなんかしたら、いったいどれだけの国民の税金が無駄になるか……」

 ヒトミの耳元に美佳の声がさも真剣そうな声色で再生される。

「美佳。余計なプレッシャー、わざとかけないでくれる?」

「ぐふふ……」

「隊長! このミサイルってどうなんですか? 飛行機で()ってたヤツと違うんですか?」

 ヒトミが(おのれ)(また)(また)いだミサイルを見下(みお)ろす。ヒトミは大きく股を(ひろ)げてまだ健在なビルの一角に手を止めた。そうでもして己の身を固定しないと、完全にバランスを崩してしまうのだろう。

「空対獣ミサイルと、基本は変わらん。陸送できるのでやや大型なのと、数が(そろ)えられるのが強みだ。」

「ひぃ、ふぅ、みぃ……確かに。見えるだけでも沢山ありますね。期待していいですか? えいっ!」

 次に()いているスペースに足を放り投げるようにして踏み出し、まるで散らかし放題の部屋を渡るようにヒトミは自衛隊車両が埋める道を行く。

「もっと大きな艦対獣ミサイルが無駄に終わってる。期待するだけ無駄だ」

 坂東が音声越しにも分かる不機嫌さで答えた。

「確かに、仲埜さん。諸外国の対宇宙怪獣用ミサイルは艦対獣ミサイルを含めて、全て無駄に終わりました。ただ、我々自衛隊の精密射撃には定評(ていひょう)があります。一点に集中して命中させることができれば、あるいは――と、考えています」

「そうなんですか?」

「そう考えているだけだ。()つ為にな」

「ふふん。そういうことです、仲埜さん」

「はぁ……よっと。何とか、車両のないとこまで来ました!」

 ヒトミが十字路の向こうに空いていた横に交差する道路に辿(たど)り着く。そこには自衛隊車両が展開されておらず、キグルミオンが一人立つだけの充分なスペースが取れた。

「ヒトミ、遊んでるところゴメン……」

 ヒトミの耳元に美佳の声が再生される。

「遊んでないから」

「そう……隊長……」

 美佳の声のトーンが一気に押さえたものに変わった。

「何だ?」

 その空気を読み取ったのか、やはり真剣な様子で応える坂東の声が再生される。

 美佳が一つ息を()んだ。その音がヒトミの耳元で響く。

 皆が美佳のその息を呑む音につられて沈黙した。

 そしてその目に見えない沈黙の闇に向かって、


「今から、五分前……太平洋上から、大陸間弾道ミサイルが発射された模様……状況確認中……」


 美佳は事実だけを淡々(たんたん)と告げた。

改訂 2025.08.13

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