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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
一、鎧袖一触! キグルミオン!
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一、鎧袖一触! キグルミオン! 7

 宇宙怪獣は古代の恐竜を思い起こさせる外見をしていた。

 強靭(きょうじん)四肢(しし)に、凶悪(きょうあく)なアゴ。強大な体躯(たいく)に、凶暴な咆哮(ほうこう)

 それでいて目が赤く(あや)しく光る――

 そのことがこの恐竜をして、地球上の生命体とは一線を()させていた。

 そう、それはやはりこれは宇宙怪獣――そのことを知らしめる、異様な赤だ。

 そしてその赤い目がとらえたのは、こちらも巨大な着ぐるみだ。

 着ぐるみは少々覚束(おぼつか)ない足取りで、それでいて巨大な地響きを立てながら向かってくる。

 宇宙怪獣に向かって行く巨大着ぐるみ。

 その様子を端末でのぞき込んだ須藤美佳が、後ろの桐山久遠に振り返る。

「『エンタングルメント』率……徐々に低下……短期決戦じゃないと無理……」

「分かってるわ。自衛隊のスクランブルが間に合ったら、それも厄介(やっかい)だしね。早めにケリをつけましょう。キグルミオン! 中の人――ユカリスキー! ゴー!」

「ユカリスキー……ゴー……」

 美佳が視線を正面の情報端末に戻し、目にも止まらないような早さで指を走らせる。

 その端末の中――暗い中では、ぼうっと機械の光に照らされたぬいぐるみの顔が写し出されていた。コアラのぬいぐるみだ。目が大きなボタンで。口が()い合わされた×の字。そしての(ほほ)にはわざとらしいペンで書かれた縫い傷が一つつけられている。

「頼むわよ。人類の最後の希望なんだからね。キグルミオンは……」

 普通の事務所としか思えない雑居ビルの一室。二人はその中から、人類最後の希望と呼んだキグルミオンで、宇宙怪獣に立ち向かおうとする。

 久遠と美佳の背後では、まだけたたましく警告灯が明滅(めいめつ)していた。そして(いく)つか(そな)えられたモニターには、発信元『陸上自衛隊』と表示された応答要請が(またた)いている。

「博士……自衛隊がさっきからうるさい……」

「返事しちゃダメよ。応答すると、主導権を持って行かれるわ」

「了解……」

 美佳は不敵(ふてき)に笑って(こた)えると、情報端末の上で一際力強く指を走らせた。

 そのモニターの中では、今正に二つの巨体が激突するところだった。



 空気が揺れる。確かなはずの大地が揺さぶられる。

 巨大な着ぐるみと宇宙怪獣。その二つが正面から衝突した衝撃は、まるで何かが爆発したかのようだった。

 片側四車線ある幹線道路。二つの巨大質量はその交差点で激突した。

 人々が捨てて逃げた車が、その衝撃で弾けとんだ。車が音を立てて転がる。

 車がビルや街灯にぶつかりやっと止まる。全ての車両が転がり切った後のその光景は、まるで遊び()きた後の子供部屋のようだ。

 だが一瞬遅れて方々で爆発を(ともな)った炎が上がり、これが否応無(いやおうな)しに本物の車であることを思い出させる。

 巨大な着ぐるみ――キグルミオンは、宇宙怪獣に正面からぶつかって行った。

 だが宇宙怪獣がその場を両足の踏ん張りで耐え切ったのに対し、キグルミオンは(はじ)き返されよろめいてしまう。

 キグルミオンが体勢を整え直そうとする。

 しかし先に、今度はそのキグルミオンに宇宙怪獣が向かって行く。

 バランスを失っていたキグルミオンは、宙に浮くように弾き()ばされた。

 地響きを上げてキグルミオンが幹線道路の向こう――己がやってきた方向にもんどりうって転がって行く。

 何とか止まった先で、キグルミオンが両手を着いて立ち上がろうした。

 だが今度も先手(せんて)を打ったのは宇宙怪獣の方だ。走り寄ってくるやその凶暴な尻尾を、体ごと一回転して横殴りにキグルミオンに叩き付ける。

 キグルミオンがビルに打ち付けられた。背中からビルに半ばめり込んでしまったキグルミオンが、そのことを不幸中の幸いにしてか、何とかバランスを取って直ぐさま立ち上がる。

 ぐるりと一回転した宇宙怪獣が、ビルにもたれるように立つキグルミオンに赤い目を向けた。

 キグルミオンがやはり少々覚束(おぼつか)ない足取りで、その宇宙怪獣に向かって行く。

 だが――



「ダメです……キグルミオン……宇宙怪獣に歯が立ちません……」

 美佳が情報端末から顔を上げずに、奥歯を噛み締めるようにうなった。

 そのモニターの中ではビルから立ち上がったキグルミオンが、宇宙怪獣の頭突きに弾き返されていた。

 そう。まるで歯が立たず。なす(すべ)もないかのように――

改訂 2025.07.29

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