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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
六、驚天動地! キグルミオン!
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六、驚天動地! キグルミオン! 4

 ローターの旋回音を響かせ、街中の交差点に風を巻き上げながらヘリコプターが降りてきた。

 人影のほとんど見当たらない市街地。もちろんヘリの着陸を邪魔するような車両も見当たらない。ヘリは邪魔する者もいない街のビルの窓ガラスに、その姿を映し込みながら着陸する。

 ビルの窓ガラスは所々は歯抜けになっている。キグルミオンと宇宙怪獣の戦闘による直接の被害は(まぬ)れたが、振動か何かで窓が割れたのだろう。

「帰ってきたわよ」

 久遠が首だけ(ひね)って窓の外を見た。

 ヘリの窓越しに見てもまともなビルは数える程しかない。多くのビルが窓のガラスを失い穴を穿(うが)たれている。見る方向を限れば宇宙怪獣との直接戦場になった場所だけが目に入る。そこは多少片付けられているとはいえ、見渡す限りガレキの山だった。

 そして一部には巨大なシートが掛けられている。宇宙怪獣の肉片を(おお)い隠しているのだろう。その前だけは制服に身を固めた自衛隊員達が、背中を向けて輪を作り人の囲いを作り出している。

「ユカリスキー、見て……擬装(ぎそう)ビルが見える……帰ってきた……」

 美佳が久遠の横から顔を突き出し窓を覗いた。その腕に抱いたコアラのヌイグルミオン――ユカリスキーを少し持ち上げて一緒に窓の外を見せようとする。

 だが久遠と美佳の二人の顔で(すで)に埋まってしまっていた窓枠。美佳は(おのれ)のアゴの下にわずかに()いたスペースに、ユカリスキーのヌイグルミ然とした顔を強引に押し込める。

 ユカリスキーのフワフワでモコモコの顔がむにゅっと(ゆが)んだ。わざとやったのだろう。美佳はその様子に満足げな笑みを浮かべる。

「うぐ、こっちは見えない……」

 ウサギの着ぐるみを身にまとうヒトミは、座ったまま首だけ(ひね)って窓の外をのぞこうとした。だがその巨大なチャッピーの頭部では、座ったままでは窓をのぞけなかったようだ。

「よいしょっと。でも、ホントだ! 帰ってきた! 私達の街だ!」

 ヒトミはイスから立ち上がり、正面に向き直って久遠と同じように窓の外を見る。

「当たり前だ。何をそんなに喜んでいる?」

 坂東がその横で同じくイスから立ち上がった。こちらは窓の外には興味がないのか、座りっぱなしだった体をほぐすように左右に軽く体を()らした。

「だって、隊長! ようやく帰って来たんですよ! 隊長が!」

「いや、まあそうだが……」

「はは、いいじゃありませんか。喜ばれてるんですから、素直に受け止めておけば」

 同じく窓の外をのぞくこともなく、同時に立ち上がっていた刑部がドアへと向かいながら振り返る。

「そうか……」

 照れを隠そうとしたのか、坂東が刑部の背中を小さくつぶやきながら追う。

 刑部が慣れた様子でドアを開けた。いまだ旋回の続く回転よくが巻き起こす風が、一気にドアから機内に入って来る。その荒々しい風が刑部の短い髪と、坂東の手入れの行き届いていない髪を同時に巻き上げた。

「あっ! ダメですよ隊長!」

 ヒトミがそんな坂東の背中に慌てて駆け寄る。

「何だ?」

「一人で降りるなんて、危ないです」

「ヘリぐらい、いくらでも乗った。タラップから地上に降りられるだけマシだ。訓練でどれだけ危険な――」

「隊長は怪我してるんですよ! 自覚して下さい!」

「分かった分かった」

 坂東はそうヒトミに答えながらも、気にした素振(そぶ)りも見せずにヘリの外に出て行こうとする。

「もう!」

 ヒトミが苛立(いらだ)ったように声を上げる。ウサギの着ぐるみを着たままでその苛立ちを表そうとしたのか、着ぐるみキャラクターらしい大げさな動きで抗議に腕まで振ってみせる。

「あはは。ヒトミちゃん、やっぱ心配?」

 出口の前で大げさな身振りを示すヒトミに、久遠がゆっくりと近づいて来た。

「当たり前です。結構な怪我なんでしょ? 隊長は自分の体なのに無頓着(むとんちゃく)過ぎます」

「その人に心配なんて言葉、なかなか届かないわよ」

「ぐふふ……そうそう……」

 刑部と坂東が順にヘリを降り、その後ろを女性陣三人が続いた。

「では、私はここで」

 最初に降りた刑部が宇宙怪獣対策機構の面々に振り返る。

「手間を取らせたな」

「いえ。元よりこちらから取りに行った手間です」

 坂東が右手を差し出すと刑部がその手を握って迎える。

「ふふ、そうだったな」

「ええ。それにこちらも手間を取らせてますしね」

 刑部はそう()げると、今度は坂東の後ろに続いていたヒトミに手を差し出す。

「どうもです」

 ヒトミがチャッピーの姿でその刑部の腕を両手でとる。その仕草はまるで子ども相手に、着ぐるみが握手で(こた)えるかのようだ。相手が誰であろうとヒトミの着ぐるみでの振る舞いは変わらないようだ。

「では、また――」

「と、言いたいところ……」

 刑部が最後の挨拶(あいさつ)を口にすると、久遠の後ろから美佳がそれを(さえぎ)った。

 美佳は皆に見せるように情報端末を持ち上げてそのモニタを向ける。

 そこには――


「ウソから出た何とやら……宇宙怪獣、本当に来た……」

 

 宇宙怪獣襲撃の危機を()げる『警告』の赤い文字が、不快な明滅を繰り返して(またた)いていた。

改訂 2025.08.11

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