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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
五、一騎当千! キグルミオン!
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五、一騎当千! キグルミオン! 2

「ただいま」

 久遠は静かに自身の帰りを告げた。宇宙怪獣対策機構のどこにでもあるような事務所のドアが、帰ってきた女性科学者の手で静かに開けられる。

「お帰りなさい」

 久遠が開けたドアの向こう――ヒトミが席に座りながらも、すっと背を伸ばして待っていた。

 久遠はその正面のイスに向かって後は黙って入っていく。徹夜で車を運転していたせいか、そのつり目の瞳はいつにも増して(けん)が増しているように見えた。

「ふふん、ただいまヒトミ……ユカリスキー、留守番ご苦労様……」

 美佳が久遠の後から部屋に顔を出した。いつもの眠たげな半目をドアの向こうから陽光にさらす。いつも眠たそうだが、今日は本当に眠気を感じさせるクマがその下に浮いていた。その手には携帯用の情報端末が握られている。

 ヒトミの脇に寄り添うように立っていたコアラのヌイグルミが、その半目を眠たげに開けた少女に振り返る。ユカリスキーは一度ヒトミの顔色をうかがうように見ると、そのままくるりと身をひるがえして美佳の(もと)に駆けていった。

「お帰り、美佳。ヒルネスキーはどうするの?」

「ヒルネスキーのお出迎えには、ニジンスキーが向かってくれてる……あの子はキックスクーターが大好き……」

 美佳は飛びついてきたユカリスキーを抱き締めた。

 ユカリスキーは正面から美佳に抱きつくと、くるりと身をひるがえしてその手の中に収まる。

「キックスクーター?」

「ローラーボードにハンドルが付いてるやつ……ヌイグルミオン二人ぐらい余裕……」

「ああ、アレ? 楽しそうなお出迎えね」

 ヒトミがようやく少し笑う。ヒトミは二人が入ってきてから、ずっと固い表情のままだった。

「ふふん……」

 美佳はヒトミの笑みに(こた)えるように鼻を鳴らすと、まだ少し表情の硬い友人の隣に座った。抱き締めたままの美佳に代わってか、ユカリスキーが机の上にその両手を着き楽しげに足を()らした。

「ヒトミちゃん」

 久遠が静かに口を開く。

「はい」

「状況を整理するわね。先ず隊長は無事。怪我はしてるけど、命に別状はないとのことよ。ここは相手の言うことを信じるしかないわ。実際信じたいしね」

「……」

「ヒルネスキーが追跡してくれた結果からも、治療としてはきちんとできる施設に収容されている……そこは心配ない……」

 美佳が両手を投げ出していたユカリスキーの前に情報端末を置いた。情報端末には地図が表示されており、広い敷地に赤い光点が表示され(またた)いていた。

「ここが、自衛隊の駐屯地……確かに自衛隊の病院があるところだけど、見ての通りこの街から随分と遠い……近くの病院をすっ飛ばして、自分達の管理下に置ける病院に連れていったと考えて間違いない……」

「隊長は無事なんですか?」

「ヒトミちゃん。尋問(じんもん)拷問(ごうもん)(たぐい)いを心配してるのなら、さすがにそこまで心配する必要はないわ。宇宙怪獣に対するキグルミオンの有用性――」

「……」

 ヒトミがもどかしげに指を組んだ。

「それがこの十日足らずの間に、あっという間に証明されてしまった。彼らは急転する事態に、何とか自分達でも情報が欲しいのよ」

 久遠が席を立つ。そして窓際まで歩いて行くと、その前に置かれた坂東の席を一瞥(いちべつ)する。

「キグルミオンは元より宇宙怪獣に有用だから、こうして組織があって実際に出られるようにしてあったんですよね? 今更遅くないですか? 情報収集なんて?」

「そうね。表向きはね。有用だとしていただけだからね」

 久遠が窓の向こうからビルの下をのぞき見た。

 陸上自衛隊の隊員がビルを取り囲んでいる。多くの隊員がビルを背に警備に付くように立っているが、幾つかの隊員は軍用の双眼鏡で久遠達の居る部屋を見上げている。

「表向きは私達を守ってくれてるわね。自衛隊の皆さんも。まあ、彼らを恨むのもお門違(かどちが)いなんだけね。さて、私達のキグルミオンだけど、正直政府には扱いかねていたのよ。だから特殊行政法人(あず)かりにして、居るのか居ないのか、要るのか要らないのか、曖昧(あいまい)な状態で放っておいたのよ」

「どうしてですか?」

「あまりに異質な力だからよ。〝グルーミオン〟に〝ダークワター〟。いくら謎だらけの宇宙怪獣に対抗する手段だとしても、こっちも謎だらけのモノに頼った着ぐるみヒーローなんて……」

「でも、その着ぐるみヒーローは……十年前にも――現れましたよね?」

 ヒトミが久遠の背中に問いかける。

「……アレは私にも分からないわ……公式には居なかったことになってるしね……」

「でも、私はあの日あの時、あの場所に居ました。そしてあの人に助けられました。『居なかった』なんてあり得ません」

 ヒトミの組んだ指が更に固く締められる。

「『あの人』ね……」

 久遠が窓際に身を残したまま顔だけ振り返る。もどかしげに指を組み合わせているヒトミと目が合った。

「『あの人』……ふふん……」

 その隣では美佳が情報端末に指を走らせ、その一角に画素の荒い映像を表示させる。

 荒い映像の中には、

「あの人に……あの子――ふふん……」

 巨大な足の陰で身構えている五歳ぐらいの少女が写し出されていた。

改訂 2025.08.07

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